3 / 6
胸騒ぎ
しおりを挟む
高らかに響く笛の音。長く伸びるようなこの音は、
『戦闘終了』
の合図だ。
「……終わったのか」
戦闘が始まり、10分強、結局、俺が見張っていた最後尾には、モンスターは1体も来なかった。馬車に乗っている人達も強張っていた顔を緩ませ、戦後の処理を始める。
クレイク達の活躍により、モンスターは全て討伐された。クレイクのパーティにも、深手を負った者はいない。この手際にこの強さ、Bランク冒険者パーティにしてはやはり上手過ぎる。クレイクの言っていた『訳あり』は、確かに本当だったようだ。
後から聞いた話によると、謎の気配の正体は、ハイドゴブリンというBランクモンスターだったそうだ。
ハイドゴブリンは、音や匂い、魔力などの気配を操る能力を持っていて、奇襲を得意とするらしい。しかし、ハイドゴブリンは自身の姿を誤魔化すことは出来ない上、今回は事前に奇襲を警戒していたので、特に問題なく倒せたそうだ。
全ての作業が終わった頃には、空もだいぶ明るくなり、そのまま街に向けて出発することになった。昼前には街へ着くだろう。1週間近くかかった今回のクエストも今日で終わりだ。
俺は、5つある馬車のうち、最後尾の馬車に乗り込んだ。クレイク達は先頭の馬車に乗っている。彼らが前方の索敵をし、万が一後ろから追ってくるモンスターが居た場合、俺が相手をする、という布陣だ。
しかし、この森には好戦的なモンスターが少ないため、俺のこの役割は必要ないと思っていた。
実際、その出番は今回のクエストで1度もなかった。夜の見張りや休憩時の接敵もほとんど無く、戦闘回数は、片手で数えられる程少なかった。
それは安全面においては良いことではある。しかし、個人的な感想としては、今回のクエストはとても暇であった。普段ずっと戦いに身を投じている分、体がソワソワして仕方がない。
だが、それとは別に胸騒ぎがする。
俺は、馬車に揺られながら、さっきの状況を振り返る。
「……………」
奇妙なことになってきた、と思う。偶然とは言い難い。
クエイクの話によれば、ハイドゴブリンは、王都から北にある『死の樹海』の固有種であるという。つまり、ここに居ることは、本来あり得ない。
さらに、モンスターの不可解な集団行動。ゴブリンが2~3体で獲物に襲い掛かることは稀にあるが、普段はゴブリン同士、お互いに対立し合う習性を持つ。その上、別の種族であるゴブリンとオークがこの規模の集団を作り上げることなんて、何か特別な理由がなければ考えられない。
モンスターの生態系の変化?ダンジョンの出現?それとも人為的な何か?
理由はいくつか考えられるが、どれも確定には至らない。
だが、俺を含め、『魔法泉の森』の適正レベルより優秀な人材が居たから良いものの、本来、死人が出てもおかしくはなかった。
何にせよ、街に戻ったら、この異変は冒険者ギルドに伝えなけれ———、
「————————————ッッッ!!!」
突如、森に轟音が響いた。
『戦闘終了』
の合図だ。
「……終わったのか」
戦闘が始まり、10分強、結局、俺が見張っていた最後尾には、モンスターは1体も来なかった。馬車に乗っている人達も強張っていた顔を緩ませ、戦後の処理を始める。
クレイク達の活躍により、モンスターは全て討伐された。クレイクのパーティにも、深手を負った者はいない。この手際にこの強さ、Bランク冒険者パーティにしてはやはり上手過ぎる。クレイクの言っていた『訳あり』は、確かに本当だったようだ。
後から聞いた話によると、謎の気配の正体は、ハイドゴブリンというBランクモンスターだったそうだ。
ハイドゴブリンは、音や匂い、魔力などの気配を操る能力を持っていて、奇襲を得意とするらしい。しかし、ハイドゴブリンは自身の姿を誤魔化すことは出来ない上、今回は事前に奇襲を警戒していたので、特に問題なく倒せたそうだ。
全ての作業が終わった頃には、空もだいぶ明るくなり、そのまま街に向けて出発することになった。昼前には街へ着くだろう。1週間近くかかった今回のクエストも今日で終わりだ。
俺は、5つある馬車のうち、最後尾の馬車に乗り込んだ。クレイク達は先頭の馬車に乗っている。彼らが前方の索敵をし、万が一後ろから追ってくるモンスターが居た場合、俺が相手をする、という布陣だ。
しかし、この森には好戦的なモンスターが少ないため、俺のこの役割は必要ないと思っていた。
実際、その出番は今回のクエストで1度もなかった。夜の見張りや休憩時の接敵もほとんど無く、戦闘回数は、片手で数えられる程少なかった。
それは安全面においては良いことではある。しかし、個人的な感想としては、今回のクエストはとても暇であった。普段ずっと戦いに身を投じている分、体がソワソワして仕方がない。
だが、それとは別に胸騒ぎがする。
俺は、馬車に揺られながら、さっきの状況を振り返る。
「……………」
奇妙なことになってきた、と思う。偶然とは言い難い。
クエイクの話によれば、ハイドゴブリンは、王都から北にある『死の樹海』の固有種であるという。つまり、ここに居ることは、本来あり得ない。
さらに、モンスターの不可解な集団行動。ゴブリンが2~3体で獲物に襲い掛かることは稀にあるが、普段はゴブリン同士、お互いに対立し合う習性を持つ。その上、別の種族であるゴブリンとオークがこの規模の集団を作り上げることなんて、何か特別な理由がなければ考えられない。
モンスターの生態系の変化?ダンジョンの出現?それとも人為的な何か?
理由はいくつか考えられるが、どれも確定には至らない。
だが、俺を含め、『魔法泉の森』の適正レベルより優秀な人材が居たから良いものの、本来、死人が出てもおかしくはなかった。
何にせよ、街に戻ったら、この異変は冒険者ギルドに伝えなけれ———、
「————————————ッッッ!!!」
突如、森に轟音が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
パーティーから追放され、ギルドから追放され、国からも追放された俺は、追放者ギルドをつくってスローライフを送ることにしました。
さら
ファンタジー
勇者パーティーから「お前は役立たずだ」と追放され、冒険者ギルドからも追い出され、最後には国からすら追放されてしまった俺――カイル。
居場所を失った俺が選んだのは、「追放された者だけのギルド」を作ることだった。
仲間に加わったのは、料理しか取り柄のない少女、炎魔法が暴発する魔導士、臆病な戦士、そして落ちこぼれの薬師たち。
周囲から「無駄者」と呼ばれてきた者ばかり。だが、一人一人に光る才能があった。
追放者だけの寄せ集めが、いつの間にか巨大な力を生み出し――勇者や王国をも超える存在となっていく。
自由な農作業、にぎやかな炊き出し、仲間との笑い合い。
“無駄”と呼ばれた俺たちが築くのは、誰も追放されない新しい国と、本物のスローライフだった。
追放者たちが送る、逆転スローライフファンタジー、ここに開幕!
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる