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6 君がいい
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「おはよう」
殆ど眠れず、乾燥した目を擦りながらリビングへと向かう。
今日は耕した畑に種を植える日だ。
この仕事だけはネルに譲りたくない。
その一心で今にも閉じそうな目をこじ開け、キッチンへと向かう。
美味しそうな朝食の匂いが私を呼んでいた。
「おはよう。・・・その様子じゃ、昨日は眠れなかったみたいだな」
コーヒーを片手に苦笑する父に、その手に持ったコーヒーを頭からかけてやりたいと本気で思った。
ネルが私の”番”であることは両親ともに周知の事実だ。
二人は、番のせいで婚約破棄された私の事を気遣いつつも、ネルと私の関係を暖かい目で見守る事に決めたらしい。
いっそのこと、問答無用でネルを追い出してくれた方が楽だったのに。
そんな恨み言を吐いていると、ネルがのそりとリビングへやって来る。
「おはよー」
寝ぼけ眼で私の方へ近寄って来たかと思うと、ぎゅうぅともたれかかる様に抱きしめてくる。
寝起きの少し高い体温が体に伝わる。それに、普通に重い。
引きはがそうともがくも、その力は強く、非力な私ではどうにもならなかった。
甘い、百合のシャンプーの香りがする。
また勝手に私のシャンプー使ったのね!
「私のシャンプー使わないでよ!」
結構高いのよ!?あのシャンプー。
文句を垂れるが懲りない様子のネルは「リリィと同じ香りで嬉しい」と耳元で甘く囁く。
「まだ好きじゃない。まだ・・・」
おまじないの様に言葉を呟く。それを聞いたネルはすっと私から離れていき、私の頬に手を添えた。
「俺はすき、大好き」
寝起きのふにゃふにゃした声でそう言って私の頬にすり寄り、再び私に抱き着く。
助けを求める様に父の方を見たが、「私は何も見ていません」とばかりに視線を逸らされる。
父親でしょ!
娘が男に言い寄られていたらもっとこう、嫉妬とかしないの!?
やっぱり、コーヒーをかけてやれば良かったと、後悔しながらはたと気付く。
ネルは番である私に非常に献身的だ。であるのならば、引き離すのも簡単じゃない?
私は、出来る限り苦しそうな声を上げた。
「お、重い・・・」
「悪い」
ゆっくりとネルが離れていく。
よし、この作戦は非常に使えそうだ。
と思ったのもつかの間、額にちゅうと口づけられる。
息が詰まり、心が大きく跳ねる。
「な、な、なにしてるのよー!!」
思い切りグーパンチをお見舞いしたが、あっさりと交わされてしまった。
昨日から、この男と来たら!キス魔か何かかしら!貞操観念ってものが足りないんじゃない!?
ぎりぎりと歯を食いしばりながら睨みつけるが、ネルは素知らぬ顔で「だって好きだから」と言ってのける。
好きだからって、手あたり次第キスしても良いと思ってるの!?
「キスは嫌。私はあなたが好きじゃない」
断固拒否だとはっきりと言う。
この男にはこれ位はっきりと言ってやった方が良いと思った。
「俺はお前が良い。番じゃなくても、リリィが良い」
「好きになって」甘く柔らかな声で囁く。
彼の中では父の存在は遥か彼方にいるのだろう。
実際は同じリビングにいて、新聞を読むふりをしながらチラチラとこちらを窺っているのだけれど。
見ないで頂戴!見世物じゃないのよ!
と父に言いたくなるが、私はそれどころじゃない。
”番じゃなくても私が良い”
その言葉は、番のせいで婚約破棄された私の心に深く刺さった。
本当に?本当に信じても良いの?
なんて感情が心の底から湧き上がって来る。
胸の奥がチクリと痛んだ。
「嫌よ」
ネルに冷たく返しながら、心の中で呟く。
私、ネルが好きかもしれない。と
殆ど眠れず、乾燥した目を擦りながらリビングへと向かう。
今日は耕した畑に種を植える日だ。
この仕事だけはネルに譲りたくない。
その一心で今にも閉じそうな目をこじ開け、キッチンへと向かう。
美味しそうな朝食の匂いが私を呼んでいた。
「おはよう。・・・その様子じゃ、昨日は眠れなかったみたいだな」
コーヒーを片手に苦笑する父に、その手に持ったコーヒーを頭からかけてやりたいと本気で思った。
ネルが私の”番”であることは両親ともに周知の事実だ。
二人は、番のせいで婚約破棄された私の事を気遣いつつも、ネルと私の関係を暖かい目で見守る事に決めたらしい。
いっそのこと、問答無用でネルを追い出してくれた方が楽だったのに。
そんな恨み言を吐いていると、ネルがのそりとリビングへやって来る。
「おはよー」
寝ぼけ眼で私の方へ近寄って来たかと思うと、ぎゅうぅともたれかかる様に抱きしめてくる。
寝起きの少し高い体温が体に伝わる。それに、普通に重い。
引きはがそうともがくも、その力は強く、非力な私ではどうにもならなかった。
甘い、百合のシャンプーの香りがする。
また勝手に私のシャンプー使ったのね!
「私のシャンプー使わないでよ!」
結構高いのよ!?あのシャンプー。
文句を垂れるが懲りない様子のネルは「リリィと同じ香りで嬉しい」と耳元で甘く囁く。
「まだ好きじゃない。まだ・・・」
おまじないの様に言葉を呟く。それを聞いたネルはすっと私から離れていき、私の頬に手を添えた。
「俺はすき、大好き」
寝起きのふにゃふにゃした声でそう言って私の頬にすり寄り、再び私に抱き着く。
助けを求める様に父の方を見たが、「私は何も見ていません」とばかりに視線を逸らされる。
父親でしょ!
娘が男に言い寄られていたらもっとこう、嫉妬とかしないの!?
やっぱり、コーヒーをかけてやれば良かったと、後悔しながらはたと気付く。
ネルは番である私に非常に献身的だ。であるのならば、引き離すのも簡単じゃない?
私は、出来る限り苦しそうな声を上げた。
「お、重い・・・」
「悪い」
ゆっくりとネルが離れていく。
よし、この作戦は非常に使えそうだ。
と思ったのもつかの間、額にちゅうと口づけられる。
息が詰まり、心が大きく跳ねる。
「な、な、なにしてるのよー!!」
思い切りグーパンチをお見舞いしたが、あっさりと交わされてしまった。
昨日から、この男と来たら!キス魔か何かかしら!貞操観念ってものが足りないんじゃない!?
ぎりぎりと歯を食いしばりながら睨みつけるが、ネルは素知らぬ顔で「だって好きだから」と言ってのける。
好きだからって、手あたり次第キスしても良いと思ってるの!?
「キスは嫌。私はあなたが好きじゃない」
断固拒否だとはっきりと言う。
この男にはこれ位はっきりと言ってやった方が良いと思った。
「俺はお前が良い。番じゃなくても、リリィが良い」
「好きになって」甘く柔らかな声で囁く。
彼の中では父の存在は遥か彼方にいるのだろう。
実際は同じリビングにいて、新聞を読むふりをしながらチラチラとこちらを窺っているのだけれど。
見ないで頂戴!見世物じゃないのよ!
と父に言いたくなるが、私はそれどころじゃない。
”番じゃなくても私が良い”
その言葉は、番のせいで婚約破棄された私の心に深く刺さった。
本当に?本当に信じても良いの?
なんて感情が心の底から湧き上がって来る。
胸の奥がチクリと痛んだ。
「嫌よ」
ネルに冷たく返しながら、心の中で呟く。
私、ネルが好きかもしれない。と
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