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15 ネルの記憶
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記憶が戻ったネルは、べったりと私に張り付いて離れなかった。
まるでコアラの親子のようね。
ネルを後ろにくっつけたまま、家の中を移動する。
私もネルと離れるのは嫌よ。ずっと一緒が良い。でも、
正直言ってめっちゃ邪魔!すんごい邪魔!
「動きづらいわ」
体を捩って振りほどこうにも、抱き着く力は強く、決して放したくないと告げている。
ため息を吐きながら、首筋に顔を埋めているネルに問う。
「ネル、記憶が戻ったんでしょ?」
本当の名前は?帰る場所があるんでしょ?
そう何度も聞いたが、ネルは「言いたくない」「あそこにはもう帰りたくない」と抽象的な返答しかしない。
やっと芽生えた自我が死んでしまったわ!大切に育ててたのに!
「ネルが言いたくないのであれば、これ以上聞くのはよしてやろう」
私の肩に手を置きながら、父がそっと言う。
「そうね」
これ以上聞いてもきっとネルは絶対に口を割らない。
全く、頑固なんだから。
と言いつつもネルのわがままを許してしまう。
「好き?」
縋る様に私の頬に手を添えながら尋ねる。
今日この質問を何回聞いたのか、もう数えていない。
もっと甘いムードで、好きって伝えたかったのに。
ネルったら、全然分かってないんだから。
「はいはい、好きよ。好きだから離してくれると嬉しいんだけど」
「嫌」
嫌ですか。そうですか・・・って納得するか!!
バシッと腰に回った手を叩く。
ネルは嫌そうにそっぽを向いた。
ネルの指先が私の髪をそっと梳かしていく。
「まるで幼い子供の様だ」
「嫌だわ、こんな大きい子供、育てるつもりはないわよ」
勝手に母親にしないでちょうだい。
困ったように笑う父に言い返す。
ソファーに座るからと、向かい合わせになり、トントンと安心させる様にネルの背中を叩く。
「にしても、困ったね」
父が深く椅子に腰かけながら、大きく息を吐いた。
そう、困ったもんだい、大問題なのである。
「大魔法使い・・・よね。ネル」
「ううむ」
苦し気に父が唸った。
大魔法使い。
何億といる人間の中のたった十人だけしかいないと言われる、最上級の魔法使い。
限られた国にしかいない超希少生物。パンダより珍しい。
そんな大魔法使いを、口説き落としちゃいました!なんて言ったら、国が傾くどころか、戦争に発展してもおかしくない。
実際に今、魔法使いを巡って大国同士が争っているのだから、冗談では済まされない。
この国が”番”至上主義とはいえ、他の国が絡んでくるとそうもいかない。勿論、大魔法使いなんて、例外中の例外だ。
「見世物パンダになるのは嫌よ」
もしかしたら、自国の魔法使いかも!なんて希望は、この国に大魔法使いがいないという事実でかき消される。
最悪、私はこのフローレンスの土地から無理やり引き離されるかもしれない。
「リリィ。あなたはどうしたいの?」
優しく母が問う。
分からない。私にとってこの土地から離れるの事はとても寂しい。出来ればここにいたい。
でも、ネルとも一緒にいたい。
相対する現状に頭を悩ませる。
「俺もここにいる」
ギュッと腰に回った手に力が込められる。
うっ、苦しい。朝ごはんが出てきそうだわ。
「それが出来たら困ってないわ」
欲張りさんね。とため息を吐いた。
「・・・よし、じゃあ、みんなで引っ越しするか!」
名案を思い付いたぞ!と言わんばかりに父が立ち上がる。
それ、名案じゃなくて、「迷案」じゃない?
そう呟きながらも、その案が一番いいと私も思った。
「このフローレンスはとても素敵だ。しかし、どうしてもと言うのなら、新しい土地を耕して、開拓していくものまた一興」
まるで乾杯するかのようにコーヒーを掲げながら父は言った。
無理してるの、バレバレよ。
「農業をさせて貰えるかは分からないけれどね」
偉大な大魔法使いを、農機具扱いしているのは私達ぐらいのものだ。
それに、大魔法使いの”番”ともなればおいそれと外に出してもらえないかもしれない。
「その時は、その時だ。部屋に土を蒔けばいい」
お気楽な様子で父が言う。
部屋に土を蒔くって、家具とかどうするつもりなのよ。
泥まみれのベッドなんて嫌よ、私。お父さんが寝てね。
「ようし!そうと決まったら片づけだ!!嵐にやられた畑を整えるぞー!!」
意気揚々と倉庫に向かう父を見送る。
気づいてないのかしら?片付けも、ネルなら一瞬だって。
しかし、それはあくまでもネルは家族の一員であって、その魔法をむやみに使う気は無い。という父の心の表れでもあった。
「手伝えたら、私も行くわ」
これは、きっと行けたら行くーと言って、結局来ないパターンだな。と未だにへばり付くネルを見やる。
不安げな表情で私の髪を弄っている。
嵐はもう過ぎ去ったというのに、窓の外では怪しい黒い雲がもくもくとその領土を広げていた。
まるでコアラの親子のようね。
ネルを後ろにくっつけたまま、家の中を移動する。
私もネルと離れるのは嫌よ。ずっと一緒が良い。でも、
正直言ってめっちゃ邪魔!すんごい邪魔!
「動きづらいわ」
体を捩って振りほどこうにも、抱き着く力は強く、決して放したくないと告げている。
ため息を吐きながら、首筋に顔を埋めているネルに問う。
「ネル、記憶が戻ったんでしょ?」
本当の名前は?帰る場所があるんでしょ?
そう何度も聞いたが、ネルは「言いたくない」「あそこにはもう帰りたくない」と抽象的な返答しかしない。
やっと芽生えた自我が死んでしまったわ!大切に育ててたのに!
「ネルが言いたくないのであれば、これ以上聞くのはよしてやろう」
私の肩に手を置きながら、父がそっと言う。
「そうね」
これ以上聞いてもきっとネルは絶対に口を割らない。
全く、頑固なんだから。
と言いつつもネルのわがままを許してしまう。
「好き?」
縋る様に私の頬に手を添えながら尋ねる。
今日この質問を何回聞いたのか、もう数えていない。
もっと甘いムードで、好きって伝えたかったのに。
ネルったら、全然分かってないんだから。
「はいはい、好きよ。好きだから離してくれると嬉しいんだけど」
「嫌」
嫌ですか。そうですか・・・って納得するか!!
バシッと腰に回った手を叩く。
ネルは嫌そうにそっぽを向いた。
ネルの指先が私の髪をそっと梳かしていく。
「まるで幼い子供の様だ」
「嫌だわ、こんな大きい子供、育てるつもりはないわよ」
勝手に母親にしないでちょうだい。
困ったように笑う父に言い返す。
ソファーに座るからと、向かい合わせになり、トントンと安心させる様にネルの背中を叩く。
「にしても、困ったね」
父が深く椅子に腰かけながら、大きく息を吐いた。
そう、困ったもんだい、大問題なのである。
「大魔法使い・・・よね。ネル」
「ううむ」
苦し気に父が唸った。
大魔法使い。
何億といる人間の中のたった十人だけしかいないと言われる、最上級の魔法使い。
限られた国にしかいない超希少生物。パンダより珍しい。
そんな大魔法使いを、口説き落としちゃいました!なんて言ったら、国が傾くどころか、戦争に発展してもおかしくない。
実際に今、魔法使いを巡って大国同士が争っているのだから、冗談では済まされない。
この国が”番”至上主義とはいえ、他の国が絡んでくるとそうもいかない。勿論、大魔法使いなんて、例外中の例外だ。
「見世物パンダになるのは嫌よ」
もしかしたら、自国の魔法使いかも!なんて希望は、この国に大魔法使いがいないという事実でかき消される。
最悪、私はこのフローレンスの土地から無理やり引き離されるかもしれない。
「リリィ。あなたはどうしたいの?」
優しく母が問う。
分からない。私にとってこの土地から離れるの事はとても寂しい。出来ればここにいたい。
でも、ネルとも一緒にいたい。
相対する現状に頭を悩ませる。
「俺もここにいる」
ギュッと腰に回った手に力が込められる。
うっ、苦しい。朝ごはんが出てきそうだわ。
「それが出来たら困ってないわ」
欲張りさんね。とため息を吐いた。
「・・・よし、じゃあ、みんなで引っ越しするか!」
名案を思い付いたぞ!と言わんばかりに父が立ち上がる。
それ、名案じゃなくて、「迷案」じゃない?
そう呟きながらも、その案が一番いいと私も思った。
「このフローレンスはとても素敵だ。しかし、どうしてもと言うのなら、新しい土地を耕して、開拓していくものまた一興」
まるで乾杯するかのようにコーヒーを掲げながら父は言った。
無理してるの、バレバレよ。
「農業をさせて貰えるかは分からないけれどね」
偉大な大魔法使いを、農機具扱いしているのは私達ぐらいのものだ。
それに、大魔法使いの”番”ともなればおいそれと外に出してもらえないかもしれない。
「その時は、その時だ。部屋に土を蒔けばいい」
お気楽な様子で父が言う。
部屋に土を蒔くって、家具とかどうするつもりなのよ。
泥まみれのベッドなんて嫌よ、私。お父さんが寝てね。
「ようし!そうと決まったら片づけだ!!嵐にやられた畑を整えるぞー!!」
意気揚々と倉庫に向かう父を見送る。
気づいてないのかしら?片付けも、ネルなら一瞬だって。
しかし、それはあくまでもネルは家族の一員であって、その魔法をむやみに使う気は無い。という父の心の表れでもあった。
「手伝えたら、私も行くわ」
これは、きっと行けたら行くーと言って、結局来ないパターンだな。と未だにへばり付くネルを見やる。
不安げな表情で私の髪を弄っている。
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