婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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20 凍った心

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翌朝の早朝、再び乱暴に玄関の戸が叩かれた。

こんな朝早くに来るなんて、非常識にも程があるわ!

玄関の戸をあけても、きっと碌な事にならない。
そう思って、寝たふりを続けた所、突然ガコっと音がした。

慌てて玄関を見に行くと、玄関のカギを壊して入って来たのか、あの軍人が無表情で玄関先に立っていた。

そして、「失礼」と言いながらズカズカと家に入って来る。

だから、失礼するなら帰ってってば!

玄関の扉も修理しなさいよ?まさか、このままにしておく気じゃないでしょうね。

ネルはまだ起きて来ない。

今のうちに叩き出してやるんだから!ネルの王子さまは私よ!・・・逆か。

「ネルは渡さないんだから!」

朝食の途中だったので、フォークを振り回しながら言う。
ご飯の時間くらい静かに出来ないのかしら!

「あの方は、ネルでは無くアルヴィスです」

凍えるような声色でそう言って、軍人は私のフォークの先を指先で掴み、軽く捻った。
まるで紙でも折るかのようにフォークが簡単にひしゃげる。

あらいやだ、あなたマジシャンの才能をお持ちで?

少し怯むが、私はその程度の脅しでは引いてなんかあげない。

「違うわ!ネルはネルよ」

とっとと帰って、大国同士の争いを終わらせたらどうなの!
そしたら世界は平和になって、ハッピーハッピーよ!
 
折れたフォークとナイフをクロスさせる。
喰らえ、バリア!

と、軍人を追い出そうと四苦八苦していると、誰かが階段を下りてくる音がした。
感覚的にそれがネルだと分かる。
ちぇっ、ネルが来る前に追い出したかったのに。

階段を下りてくるその足取りは早く、どこか急いでいるようだった。

「ネル、おはよう」

いつもなら、「おはよー」っといつもより低く、柔らかな発音の声が聞こえてくるはずが、それが無い。
昨日、寝起きのハグを断ったから怒っているのかしら?

それどころか、ネルは私を無視して軍人の方へ向かっていく。
何故かネルから月桂樹の香りがした。

ネルが私を無視するだなんて、そんなことある!?いや、無い。・・・筈なんだけどなぁ。

「ネル?」

尋ねるが返答は無かった。

そしてネルは軍人に向かって話しかける。

「帰るぞ」

「はい、お待ちしてました」

恭しく頭を垂れる軍人の口元が半月のように歪む。
まるでそうなる事を”知って”いたかのような反応だ。

帰るって何?ネルのお家はここよ?
あんなに嫌がってたじゃない・・・。今更どうして?

フォークとナイフをクロスさせたまま私は困惑したが、直ぐに切り替え、ネルを引き留める。

ネルの事だ、私が、「社長~、お願い~」と言えば、

「う~ん、通常3万円の所、今なら1万円!!」

「まあ!安いわ!」

となるに違いない。そう、信じていた。

「ネル!行かないで!!」

ネルの袖を強く引きながら縋りつくように引き留める。

しかし____

「は、ネルって誰?」

ネルに鼻で笑われる。
冷たい、氷の様な視線だった。

ネルはそんな目で私を見ない。見る筈がない。
だって私たちは___

心臓がきゅっと締め付けられた感覚がした。

ネル、私を忘れてしまったの?

「私が分からないの?ネル、私よ!あなたの”番”のリリィよ」

仕方ない、最後の切り札、”番”という言葉を使ってみる。

あの軍人にも番であることがバレてしまうけれど、今のネルを引き留めるにはこの言葉しかないと思った。

「お前は”番”じゃない」

冷たい目で私を見ながらネルはそう言った。

心が軋む音がした。

そんな態度を取っていいと思ってるの?、裾をバリバリに引きちぎるわよ!
イケメンだからって容赦しないんだから。

「嘘よ!」

ネルが最初に「番だ」って言ったのよ!
忘れたなんて言わせない。
思い出すまで頭を殴ってあげるわ。何回殴れば思い出すかしらね?試してあげるわ。

「嘘じゃありませんよ。あなたはもう彼の番じゃない」

あの軍人が無表情で私に言う。

眉一つ動かさないなんて気持ち悪いわね!実はロボットだったりして。

いつまでたっても、名前すら名乗らないし。
・・・鉄仮面、あなた鉄仮面って言うのね!これからそう呼ぶわ!

それに、鉄仮面。あんたは引っ込んでなさい。お呼びじゃないのよ!
私はネルと話をしてるの。

ギラリと光る眼光を睨みつけながら心の中で悪態をつく。

それに、”もう番じゃない”ってなによ。

”番”は絶対に離れない深い縁だと言われている。
解消したいと望んでも、できるものじゃない。

世界の常識でしょ?
もしかしてこの鉄仮面、箱入り息子?深窓のご令息?そんな顔には見えないけれど。
あら失礼。不細工って言いたいんじゃないのよ。ただ、ネルと比べると愛嬌も何もかも足りてないだけ。

「さあ、アルヴィス。行きましょう」

鉄仮面がネルの肩に手を置き急かす。
私のネルに触るんじゃないわよ!お金を請求するわよ。

「いつまで掴んでるつもり?」

裾を掴んでいた手が振り払われる。
残念な事に、袖はちぎれなかった。悔しい。

そのまま何も言わずに去ってしまうかと思ったが、ネルは「ああ」と何かを思い出したかのように、振り返った。

何よ、やっぱり名残惜しいんじゃない。
今すぐにでもあの鉄仮面について行くのをやめなさい。ハウス、ハウスよネル。
おかしいわね。犬のネルならすぐに帰って来たのに。

「これ、もういらないから返す」

大切な、百合のブローチとお揃いで買ったブレスレットが投げ捨てられる。
宝物だって言ったのに、ネルが乱暴に投げ捨てたせいでブローチにひびが入る。

「ちょっと、借りたものは丁寧に返すのが筋ってもんでしょ!」

酷い!修理費を要求するわ!慰謝料も込めて、いちご300パックくらいの値段ね。
この借りは高くつくんだから!

私がどれだけ叫んでも、四肢をバタつかせてごねても、結局ネルは鉄仮面と一緒に家を出て行ってしまった。

「もう帰ってきたいって言っても、玄関を開けてあげないんだから!後、玄関直してから帰って!!」

ネルの背中にそう叫ぶ。
まるで負け犬の遠吠えのようだった。
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