婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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19 恐ろしの魔女 (ネル視点)

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真夜中、パチリと目が覚め、ベッドから起き上がる。

微かだけれど、部屋には魔法の痕跡が漂っていた。

窓の向こうでは黒い雲が不吉に広がっている。
雨も降っていないのに、時折ピカリと光った。

「何の用?」

誰もいない空間に話しかける。
 
「流石は、大魔法使い。気配を消した私を見つけるなんてね」

ぬっと暗闇から深紅のドレスを着た女が現れる。
黒い髪に冷たく鋭い青色の瞳。まるで夜そのものが形を成したかのような女。

この世に三人いる恐ろしい魔女の一人、エリザベス・ローゼン。

もしここにリリィがいたのなら、「出たわね!荒れ地の魔女!」と叫んでいただろう。

もしくは、「夜中に男女が二人っきりだなんて!不潔だわ!エタノールで消毒してしまおうかしら!?」と言うか。

彼女がここにいなくて良かった。

「いや、それだけ魔力を垂れ流していたら、バレバレだから」

ゆっくりとベッドから降り、魔女と対峙する。

どうせ、かの国に大金を積まれて、俺を連れ戻すように。とでも言われたのだろう。

しかし、俺はもうあの冷たい部屋にも、国にも帰る気は無い。

「わたくしはあなたとつまらないお喋りをしに来たわけじゃないの」

「俺を連れ戻しに来たんだろ、お断りだ」

かの国は戦争中だ。戻ればきっとまた都合のいい兵器として使い捨てられるだろう。あの日の様に。

俺はもう、人殺しの道具にはならない。

リリィと一緒に畑を耕し、彼女の良く回る毒舌な舌を堪能しながら過ごすのだ。

私が毒舌ですって!失礼ね!と叫ぶリリィの声が耳の奥で反響する。

もう寝ているかもしれない。でも、会いに行こう。この魔女を片付けたら。

俺の心を見透かしたように魔女が笑う。

「はははは、随分とご執心のようね。・・・”番”なんてくそくらえよ」

憎々し気に魔女が吐き捨てる。

数か月前のリリィであれば、魔女とがっちり握手しながら「そうよね、やっぱりそうよね!」とまるで唯一無二の友人を見つけたかのように喜んでいただろう。

今の彼女なら、なんて言うだろう?

『”番も”案外悪くないわ』

頬を赤くさせながらツンと顎を上げる彼女が目に浮かんで思わず微笑んだ。

魔女はそんな俺が気に食わなかったのか、「ふん!」と大きく鼻を鳴らした。

噂によれば、彼女もリリィと同じく”番”絡みで苦労したらしい。俺には一切関係の無い事だけれど。

「そんなに番が大切?」

「番だからじゃない。リリィだからいいんだ」

きっぱりと言い切る。”番”だから。なんてものを理由にしないで欲しい。
俺は心から彼女を愛しているのだから。
 
「ならば、お前のその愛。どれほどのものか試してやろう」

魔女が両手を広げる。

気色の悪い黒い霧がものすごい勢いで部屋を覆っていく。
黒い霧は凍てつくように冷たく、触れば一瞬で氷漬けになってしまいそうだ。

(呪い。か)

それも随分と強い呪いだ。
魔女の呪いは寿命を消費する。
彼女はいったいどれだけの寿命を消費したのだろう。

本当にここにリリィが居なくてよかった。

困ったもんだの大問題!と叫びながら霧から逃げる彼女が思い浮かぶ。
なんて可愛らしいんだろう。俺の”番”は。

「貰った金に見合うといいな」

そう言って部屋の周りに結界を張る。
これでリリィもその家族にも誰にも迷惑はかけないだろう。

朝起きた時、部屋の一室が吹き飛んでいるかもしれないが。

『何があったの!!修理費が!!!』

と真っ先に彼女はお金の心配をするだろう。
それとも、俺の心配をしてくれるだろうか?

「帳尻合わせて、お釣りまで貰ってやるさ。お前を地獄に落として!」

魔女がそう言って再び腕を振り上げる。

迎え撃とうとした際、ポケットからぽろりと百合のブローチが零れ落ちる。
一瞬生まれたその隙を、魔女は見逃さなかった。

「あ」

「くだばれ!魔法使い!!」

魔女の呪いが心臓に届いた瞬間。
百合の花を片手に微笑むリリィの姿が目に浮かんだ。
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