婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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18 ネルの過去

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軍隊を追い返し、家の中で一息つく。
窓の向こうでは、軍隊が焚火でもしているのか狼煙が上がっていた。

火事だー!!って叫びながら水バケツ両手に突撃してやろうかしら?
農場にまで手を出したら末代まで呪いをかけてやる。

なんて考えながらネルを見る。

「絶対あんな奴について行っちゃ駄目だから」

きっと碌な目に合わないわ。

底冷えするような軍人たちの瞳を思い出しながら言う。

「お、お父さんも付いてるからな!」

ソファに身を隠し、足を震わせる父の手には健康器具が握りしめられている。

お父さん、無理して格好つけないで。
一体それでどうやって戦うつもりなのよ。

「行かないよ。死んでも行かない。どうせ奴隷のように扱われるだけだから」

不安そうな目でネルが言う。
その表情に違和感を覚えた。

ネルは大魔法使いだ。
そこら辺に落ちてる魔法使い・・・落ちてたのはネルの方ね。間違えたわ。

兎も角、普通の魔法使いとはわけが違う。
扱いだって、それはもう、世界唯一の宝物の様に扱われるのが普通だ。

なのに、彼の瞳には怯えが宿っている。

「ネル、大魔法使いでしょ?なんでそんなに不安そうなの?」

逆らうものがいれば魔法でやっつけてしまえばいい。
ネルにとって、それは赤子の手を捻るようなものだろう。

「俺は・・・特別だから」

小さい声で、目を伏せながらネルが言う。
長いまつ毛がぱちりと瞬きするたびに揺れる。

そのまつ毛、むしって私に植え付けられないかしら?無理?困ったわ。

「特別?」
 
ネルは世界をも征服できる程の力を持った大魔法使い・・・ですが、今回は特別に~?って事?違うか。

などと考えていると、ネルはぽつりぽつりと過去の話を始めた。

「俺は、生まれつき魔力が強かったんだ。だから国は、俺を支配下に置いて徹底的に”教育”することにした」

魔法使いの魔力は年齢と共に膨れ上がるシステムだ。
どれほどのものか知らないけれど、最初からかなりの魔力を持っていたのだとすれば、ネルの魔力はこれからどれほど膨れ上がるのだろう?

きっと、ネルは誰よりも強い魔法使いになるだろう。国一つ、簡単に滅ぼせる程に。

そして、魔法は勿論、服や食べ物、行動すらも国の管理下で支配され、自由に選ぶ事が出来なかった。とネルは言う。

そんなの虐待じゃない!

犬や猫でももっと良い生活をしているわよ。きっと犬のネルもそう言ってるわ。

「逃げなかったの?」

「そんな事、考えたことも無かった。あれが普通だと思ってたから」

なんてこったい大問題!
びっくり、栗の木、どんぐりの木!

だからネルは自我が無かったのね。

「あの国は俺をただの兵器だと思ってる・・・人殺しの兵器だと。」

ある一つの大国が突然周りに宣戦布告を始めたのは、そのせいだったのね。
オラついてて嫌な国だとは思ってたけど。

ネルを犠牲で成り立っていたなんて、許せないわ!
世界地図を引きちぎって、その国の部分だけ燃やしてやろうかしら。
 
「だから、帰りたくないし。名前だって、ネルの方が良い」

私の手を取って、自分の頬にすり寄せながらネルは言う。

「絶対守るわ」

そっと頬にキスを返す。
大国なんかにネルを渡して堪るものですか。

「お父さんも頑張るからなぁ」

ソファから腕だけ出して、小さな声で父が言う。
頑張るって・・・貴方じゃ無理よ!チキンなんだから!

お父さんは黙ってて!
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