婚約破棄された男爵令嬢、ボロ雑巾を拾ったと思ったら、大魔法使いでした!~番だと言われて溺愛されたんですが!?~

水中 沈

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26 狩人

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その後、何度か呼び掛けてみたが、父と母からの返答は無かった。

「仕方ない、行こう」
 
少し重い腰を上げたその時____


バサバサッ

頭上で何かが飛び立つ音がして、全身の血が一瞬で凍り付く。

「ひゃっ」
 
飛び上がって驚いた上に、尻もちまでついてしまった。

もう!こういうのはお父さんの担当なのに!

痛むおしりを押さえながら立ち上がると、霧の向こうに一羽のカラスが飛んでいくのが見えた。

人騒がせね!

足元に落ちていた石をつかみ取り、カラスに向かって投げつけるも、私の力では全然届かなかった。

「まったくもう」

そう言って振り返る。がさりと音がした。
少し薄くなった霧の向こうで人影のようなものが揺れる。

「お父さん?」

声をかけようとしたが、強い違和感を感じて言葉が詰まる。

(違う、お父さんじゃない!あれは・・・)

霧で僅かにしか見えないが、軍服を着た男だ。父じゃない。
その手には、弓矢が握りしめられていた。

追っ手かもしれないわ!

息をするのも忘れたまま、じりじりと、少しずつ男から距離を離していく。

男は、きょろきょろとしきりに周囲を気にしており、何かを探しているようだった。

(お願い!気づかないまま通り過ぎて)

 
パキッ

あ____


小枝が割れる音と共に男の視線が勢いよくこちらへと向かう。
金色の、濁った瞳と目があった。

そして男はにんまりと、獲物を見つけた獣のように口元を歪ませる。

(見つかった!!!)

荷物を放り出し、振り返る暇もなく走り出す。

(ちょっと、ちょっと、冗談じゃないわ!何で私だけこんな目に合うのよ!!)
 
「もう、最悪!」

どうか、霧で見失いますようにと願いながら、森を駆け抜けていく。
時折頬を弓矢が掠めていく。

(落ち着いて、女は度胸、女は・・・むりぃぃぃ!)
 
前を見れば木、横も木、後ろは追っ手!!

泣きたくなったが、泣く暇もなく、必死に足を動かす。

「誰か助けてー!通りすがりの勇者様か王子様!大魔法使いならもっといいわーーー!!」

___シーン

(いないわよね。知ってた)

嫌だわ、心なしか弓矢の量が増えた気がする。
足音からして、二人かしら?
私を取り合って喧嘩している声が聞こえた。

(私の為に争わないでーー!!そして、できれば二人共どっか行って!)

息を切らしながら森を駆け抜けていく。
ああ、もう!ワンピースも靴も何もかも泥だらけ。髪だってボサボサだわ!

今日から私、森ガールって名乗ろうかしら!?

軽口を叩きながら走っていると、小石につまずいて転んでしまった。

「いっ!!」

腕にはめていたブレスレットが手から逃げ出す。
ネルから貰った宝物のブレスレットだった。

でも、今では裏切りの証でしかない。
ふわりと香るジャスミンの香りが憎くて憎くて仕方がなかった。

「こんなもの!!」

放り投げようとしたが、ためらう気持ちが私の手を止める。
ギュッと胸の前でブレスレットを握りしめた。

ネルから”番”から貰ったものなのに、捨てられないと心が悲鳴を上げている。
ギリギリと軋む心に背を向け、私はブレスレットを勢いよく投げ捨てた。

そして、二度と帰ってこなかった。

「こっちに逃げたぞ!」

男たちが投げ捨てたブレスレットの方へ走っていく。
良かった。と思うと同時に酷く罪悪感に苛まれた。

捨ててしまった。”番”がくれた、宝物を・・・。

花祭りの楽しい思い出もネルといるだけで幸せだったあの頃も全て砂になって消えていく気がした。

パキリ、パキリと心が壊れていく音がする。
涙が次々と溢れ、前が見えない。

「行かなくちゃ」

泥にまみれた体を起こして、再び走り出す。

遠くの方で「あっちだ!」と声がする。

逃げなくちゃ。今は逃げるの・・・・でも何処へ?

何処まで逃げたって、助けは来ない。
逃げ切る自信だって、無かった。

(怖い…もう無理かも)

心の奥で悲鳴が聞こえる。

大げさに騒ぐ父の声も、優しい母の声も聞こえない。
二人とはぐれてしまた今、私は何処にも頼るあてがなかった。

いくら軽口を叩いてごまかそうとしたって、心の中はずっと恐怖で満ちていた。

あの花占いの時、はじけ飛んだネルの緑の花は、健康運などではなく私だったのかもしれない。

今だって、徐々に崖の方へと追い込まれていた。

(・・・って何凹んでるのよ!私らしくない!)

走る足に力を籠める。崖が目の前まで迫っていた。
崖下では轟々と白い飛沫を立てながら流れている。
跳ね上がる水しぶきがここまで飛んできそうだった。

ここでつかまるよりマシよ!!リリィ、飛びます!!

ぐっと足に力を入れたその時___


銀色の矢がギラリと煌めき、私の右肩に突き刺さる。

「っ!!!!」

悲鳴を上げる暇もなく、私の体は崖へと落ちていく。

(ああ、もう私、駄目かしら・・・)

落ちる直前、誰かが私の名前を呼んだ気がした______



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