推し活令嬢の偽物聖女譚

水中 沈

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1 憑依

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よく分からない夢を見た。
ある一人の平凡な少女の記憶の様な物が走馬灯の様に次々と頭に流れ込んでくる。

豪華なお屋敷。
重たいドレス。
淑女教育に一言も喋れずに終わった寂しいお茶会。
興味も無い貴族達の噂話。

何処にでもいる平凡な令嬢の記憶。

少女の名前は、エリザベス。

――そう、私はエリザベス

…って、ん???エリザベス!?



パチリ、と目が覚めた。

見上げた先には、白いレースの天蓋。
やけにふかふかな枕と包み込むような低反発のベッド。

ガンガンと叩かれるように頭が痛むがそんな事はどうでも良い。

流れてきた記憶の景色を私は知っている―――。



急いでベッドから飛び起き、窓辺へと向かう。


大きな窓から見える光景に、私は絶句した。

そびえ建つ白亜の城。その隣に立つ神殿。
そのどれもに見覚えがある。



「間違いないわ・・・」


間違える筈も無い。

何時間も、周回して、なめる様に見つめていた画面の向こう側。

最推しオリバーが活躍するスマホゲーム、「聖女と王様」の世界だこれ!!


「え、は、何、夢!?」

思わず声が裏返る。

推死のショックで変な夢でも見ているのだろうか。
目の前に広がる光景と自身の手を交互に見やる。

だっておかしい。

つい先ほどまで、私はスマホ握って、推しの新衣装を取るべくガチャ爆死してた名も無き一般オタク女子

(なんでいきなり3D世界にフルダイブしてんの!!?)

試しに自分の頬を抓る。

(痛い)


床に触れる足の感覚は?

(ある。少し冷たい)

部屋に漂う香油の匂いも、少し冷たい窓や床の感触も手に取る様に分かる。

そして何より―――頭の中にある他人の記憶。

エリザベスという名前。
家族構成。
侍女の名前。
退屈なマナーの授業。


夢じゃない…現実だ。


「もしかしなくても…これって憑依ってやつ―――!!?」



えええええー!!

屋敷中に響き渡る轟音のような声が飛び出る。

ああ、ヤバいやらかしたと思った時には時すでに遅く、その音を聞いた、侍女がバタバタとすっ飛んで来た。



「お嬢様、目を覚まされたのですね!!」

あ、この侍女知ってる。私の専属侍女だ。
知らない筈なのに、知っている。

不思議な気分だ。

「あ、うん…大丈夫…?」

ぎこちなく返事をすると、彼女は涙目で私をベッドに押し戻した。


「三日間も高熱で眠っていたんですよ!まだ安静に!」

三日!!?

(私、三日前ガチャ回すために課金してましたけど!!
食費削って、コンビニ行って、プリペイドカード買ってましたけど!!

めちゃくちゃ元気でしたけど!
三日!!?)

「お嬢様が目を覚まされて本当に良かった…」

お医者様を連れてきます。と言って、侍女が去って行く。

ああ、お待ちになって。ちょっと聞きたい事が。
私って、ゲームに出演してましたっけ????

なんて聞けるはずもなく、侍女が去った後、一人思案する。

エリザベス…。
どこかで聞いた事ある名前なんだけどなあ…。


――――あ、

「…そうだ、モブの侯爵令嬢だ!」


キャラとしては最低ランクの星三3キャラのエリザベス!

余りに弱すぎてパーティーの補欠にすら入れないようなモブキャラの中のモブ、エリザベスだ!!

あーすっきりした。と思うと同時にええっ!!と私は小さく声を荒げた。

「ってことは、推し見放題って事!?」

生オリバー!?
え?推しの吐いた二酸化炭素吸ってるって事!?
推しが私の吐いた空気吸ってるって事!!?
無理無理、尊死不回避。死んじゃう死んじゃう!
ガチャ回さなくても推しが存在してる世界って何!!?

興奮したせいなのか、熱があるのか頭がくらくらしてきた。

ああ、憑依万歳、推し万歳、神様ありがとう!!

興奮のあまり鼻血が出ているが仕方ないだろう。

こんなご褒美、前世でどんな得を積んでも貰えないだろうに。

「生オリバー…ふふっ」

ハンカチで鼻血を吹き上げた瞬間、脳裏に最終章のスチルが流れる。


「そうだ、オリバー…死ぬんだった…」

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