短い物語P&D『50世紀』

環樹リョウ

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短い物語P&D『50世紀』

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ある日、僕は境界線を越えた。
初めて向こう側に両足で立った時、罪悪感というものは無かった。
フェンスの隙間から片手や片足を出して喜んでいたのはもう昔のこと。
普通と言うか、平均的な子供だった僕だが、ついに罪を犯した。
好きなことをして収入を得たいという夢が、脱皮して異形のものとなった。
ルールを自分には見えないように足もとに埋め、印は付けなかった。
僕はためらうこと無く、情報の少ない領域に侵入した。


禁じられた世界に忍び込み、僕はたったひとりで興奮していた。
犬が隠した餌を掘り出すように、僕は夢中になっていた。
欲望に押し切られてスタートしたこの盗掘は、やがて成果を見せる。
廃墟のような現場から発見されたのは、見たことも無い造形物だった。
高さ30cmほどの生物のような姿。
おそらく錆びにくいであろう合金製の物体。
どの国の博物館にも展示されていないし、似たような物を目にした記憶もなかった。



これこそ文献を揺るがす発掘になる。
この遺跡は大当たりだ。
興奮した僕は思わず立ち上がった。
その時だった。
僕は立ちくらみでよろけた。
ふらっと後ろへ崩れ、しりもちをつくような感じに仰向けに転がった。
たいした衝撃がなかったせいか、背中が何かを感知した。
僕は寝返りを打つように地面の方を向いた。
上半身だけ起こし、座ったまま右脇の下辺りの土をはらい除けた。
すると金属製の箱が現れた。
それは古いアタッシュケースだった。
中には片面が虹色に輝く円盤が大量に詰まっていた。
それは数世紀前まで使われていた光ディスクの一種だった。
おそらく百枚近くはあるだろう。
幸いなことに、見た限りほとんどが劣化を免れていた。
どれも中身が分かるような表記は無い。
僕は適当に一枚取り出し、持って来た汎用携帯端末にセットした。
そして知ることになる。


失われたとされていた21世紀の情報が僕に
襲いかかった。
それらは無知な僕を無視して溢れ出した。
テクノロジーの突出が招いた環境破壊。
人類の多くが考えることを怠り、AIに任せた歪んだ社会。
何も生み出していない者たちが繁栄した結果、静かに根を張った生き辛い社会。
太陽から届く光は性質を変え、それに気づくのが遅れた人類の姿は、思うよりも早く変貌した。



再生が終わり、ディスプレイに自分が映った。
それは間違いなく今を生きる人類の姿だった。 ~終わり
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