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15. Happening!side 黒瀬 凪
しおりを挟む雨が降ってきた。
生徒達は体育館へ移動し、先生は全員いるかを確認する。
「……白川?」
俺はいつも一緒にいる白川がいないことに気付いた。濡れた髪をタオルで拭きながら体育館の中を見渡すも、一際目立つプラチナブロンドの髪は見当たらなかった。
「なあ黒瀬、蓮見てねぇか?」
辺りを見回していたら、岩水が声をかけてきた。その隣には鮫島もいた。
「いや、見てないな。あと、白川見てないか?さっきから姿が見えないんだ」
「白川か?……見てねぇな、すまん」
「そうか……」
何か嫌な予感がする。心の内がソワソワと落ち着かない。
その時、体育館の扉がバンッと音を立てて開いた。
白川か?と思い、そちらを見るが白川ではなく、生徒会の書記である1年の剣崎だった。
びしょびしょに濡れていて、そのままでいると風邪をひきそうなくらいだった。
焦った様子でキョロキョロと誰かを探している様子だった。生徒会の誰かを探しているのだろうか……生憎だが、会長と副会長は先生と共に先程の鬼ごっこの鬼に付けられていたカウンターの数の集計中でこの場にはいない。
何だか放っておけず、仕方ないと思い、俺は剣崎に声をかける。
「おい、どうした?誰か探しているのか?」
「っ!せ……んぱぃ……が、」
「会長か?それなら……」
「ち、が……」
「違う?じゃあ、なんだ?」
「し……らかわ……せん、ぱ……」
「白川?あいつは今ここにいないんだ」
「ちが……」
「……何があった?」
「せ……んぱぃ、が……落ち、た、山の、下」
「……白川が、落ちた?」
首が取れるかと思うくらい、剣崎は首を縦に振った。
頭が真っ白になった。
白川が、落ちた?山の下に…?
考えるのを拒否しかけた頭を無理やり回転させ、事態を把握するために剣崎に質問する。
「……落ちた、のは、白川だけだったか?」
剣崎は首を横に振った。
「……蓮、も」
「桜城もか……分かった、急いで教師に知らせよう。剣崎も来い」
剣崎は首を縦に振る。俺と剣崎は急いで教師の元に向かった。
すぐ近くにいた教師に事情を説明すると、慌てた様子で、他の先生方に伝えに行った。
俺達はその場で待機を命じられた。
友人が……白川が、大変な目に合っているのに、何も出来ない。ただ、無事を祈ることしか出来ないのが、もどかしい。
「……ご、めん、なさ…………」
「……何故、君が謝るんだ?」
「…も、少し……早く、気付ぃ、て……れ、ば…………」
「……それはどうしようもないことだ。別にお前が悪い訳では無い」
「そ、れで……も………」
「大丈夫だ。あいつは……白川は、殺しても死なないようなやつだ。あいつは見た目に反してそんなヤワじゃないってことを、俺は知っている。桜城も……まあ、大丈夫だろう。白川もついているしな」
だから、大丈夫だ。と言うと、剣崎は小さく頷いたが、それでもどこか落ち込んでいる様子が見られた。
仕方ないか、人が落ちる瞬間を見ているんだもんな。落ち込むのも無理はない。
「それよりも、早く水気を取らないと、風邪ひくぞ」
俺は剣崎に先程から気になっていたことを言う。
「……タ、オル…………なぃ」
「……仕方ないな、少し我慢しろ」
そう言って、俺は自分のタオルで剣崎の頭をガシガシと拭いてやる。
剣崎はびっくりした顔をしていた。
頭を拭いている時に、普段は隠れている目元がチラリと見える。
細い目の奥にある藍色の瞳を見た瞬間、その瞳に引き込まれた。白川と桜城を心配する気持ちと、剣崎をこれ以上落ち込ませないようにするための気遣いの心が一瞬消えて、綺麗だ、ということしか頭に浮かばなかった。
拭き終わってすぐ、体育館の扉がバンッと音を立てて開いた。
デジャブを感じながらもそちらを見ると、副会長が焦った様子でこちらへ一直線に向かってきた。
「剣崎!蓮が、蓮が山の下に落ちたって本当ですか!?」
コク、と頷く剣崎。
副会長は、そんな……っ!と言って、顔を悲しみに歪め、下唇を噛んだ。そして、一度瞬きをした後、覚悟を決めたような声色で尋ねてきた。
「……蓮は、どの辺で落ちたんですか?」
「……行く、の?」
「当たり前じゃないですか!蓮が危険な状態かもしれないんですよ?!早く助けに行かないと!」
焦りで声が大きくなっており、体育館に副会長の声が響き渡る。その声で雑談をしていた人の声が消えた。
「落ち着いてください、副会長」
俺が副会長にそう言うと、副会長はキッと睨みつけるように俺を見た。
「落ち着けですって……?大切な人の身に、危険があるかもしれないんですよ?落ち着けるわけないじゃないですか!あなたには人を心配する気持ちというものがないんですか!?」
「心配する気持ちくらい俺にもありますよ、何言ってるんですか?桜城だけでなく、白川も一緒に落ちたんですよ。今すぐにでも助けに行きたいに決まってるじゃないですか!」
副会長の言葉に、柄にも無く大きな声を出してしまった。
深呼吸をして、自身を昂る気持ちを落ち着ける。そして言葉を続ける。
「でも、俺らが今行って、何になりますか?雨も降っていますし、外も暗くて見える範囲にも限りがあります。携帯も山の奥では通じませんから、発見しても連絡のしようがない。それに、もし助けに行った俺らに何かあったら余計な手間を増やすだけでしょう」
「黒騎士の言う通りだ、藤凪。今はまだ俺らが動く時じゃない」
いつの間にか副会長の後ろに会長がいたのに少し驚いた。
副会長はハッと目を開いた後、少しだけ気まずそうに目線を伏せた。
「っ……すみません、少し取り乱しました。僕はただ、蓮のことが心配で……」
「……心配だという気持ちは分かります。ですが、今は2人が無事に帰ってくるのを待ちましょう」
副会長はクッと表情を歪めた。
「……僕は、グラウンドで帰りを待ちます。すぐに駆け寄ることが出来るように」
そう言って、体育館から出ていってしまった。会長も副会長の後に続くように出ていってしまった。
変に目立ってしまったことに、俺は溜息をついた。そして、隣に剣崎がいた事を思い出し、剣崎の方を見る。
「…………だい、じょ……ぶ?」
「まあ、な。……すまないな、大きな声を出してしまって」
剣崎は首を横にブンブンと振った。
その時、近くに寄ってくる人がいたので、目線を向ける。
その人は白川の推しである獅子戸先輩だった。
「少し、いいか?白川の事なんだが……行方が分からないのか?」
「そう、ですね……」
「そうか……」
「……俺も、グラウンドに行きますので。失礼します」
「俺も行こう。心配なんだ、彼のことが」
「……分かりました。」
剣崎はここに残るらしく、俺は獅子戸先輩と共に体育館を後にした。
雨はまだ降っている
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