BL学園の姫になってしまいました!

内田ぴえろ

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21. Don't get cocky!来たる呼び出しイベント!

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「そういや、もうすぐ期末テストだな」

 誰もいない教室で呟かれた凪の言葉に、私は顔を歪めて凪を見る。何だ、その顔は。と凪が言う。

「というか、その顔やめろ。もし誰か入ってきた時に見られても知らないからな」

「こんな顔にもなりますよ…ああ、憂鬱……」

 いつになってもテストは好きになれませんね…と椅子に座って顔を机に伏せる。前世を含め、定期テストというものを15年程やっているのに、未だに慣れない。

「数学が苦手なんですよね……まあ、前世で1回やってるので、赤点は取らないと思いますけど……」

「赤点取らなかったら十分だろ」

「でも、点数低かったら嫌じゃないです?負けた気がして」

「何に負けるんだよ」

「……テストを作った、先生に?」

 何故疑問形なんだ?と凪に言われるも、私にも分かりません。と肩を竦めた私。丁度そこに担任であり、数学教師の真鳥先生がやってきた。

「なんだ、お前らまだ残ってたのか」

「筆箱を忘れたので、取りに来たんです。真鳥先生こそ、どうしてここに?」

「いや、実は蓮に数学を教える予定だったんだが、急に職員会議が入ってな。今日は無理そうだと伝えに来たんだが、肝心の本人がいないんじゃなぁ……」

 先生はチラチラと私達を見る。なんですか、その目は。私達に伝言を頼みたいと言わんばかりの目をされても困る。いやこの後は特に用事など無いけれども。

「あー、丁度いいところに、伝言を頼まれてくれる人いねぇかなぁ……」

「……これって私達のことですかね?」

「絶対そうだろ。ここには俺達しかいないんだから」

「どうします?」

「どうするも何も、引き受けるしかないだろ」

 とヒソヒソ話す私達を、もはやチラ見程度ではなく、じっと見つめ出した真鳥先生。

「……よろしければ、私達が伝えておきましょうか?」

 先生の圧に負け、私は苦笑しながら真鳥先生に訊ねる。その瞬間、真鳥先生はパッと表情を明るくした。

「お、いいのか?いやぁ、助かるな。流石学園の姫と黒騎士!見目もいいのに、性格まで良いんだな!」

「おべっかは大丈夫ですから。桜城くんには教室で数学を教える予定だったのですか?」

「本心なんだがなぁ…まあいいや。蓮には教室で待ってもらって、案内ついでに学習室で教えようと思っていたんだ」

「なるほど、それなら教室で待っていましょうか」

 じゃあ、頼んだぞ。と真鳥先生は手を緩く振って教室から出ていった。

「忘れ物を取りに来ただけなのに、面倒なことになったな」

「そうですね」

 暇を持て余し、私達はどちらともなく窓の外を眺め出した。
 
「あ……凪、あれって…」

「……桜城だな」

 桜城くんは、どこかに向かって歩いていた。どこに向かっているのかは分からないが、靴箱は桜城くんの向かっている方向と反対側なので、教室には向かっていないということは分かった。

「迷っているのか?」

「あ……もしかすると、もしかしますかね?」

「は?」

 ハッと、私は閃いて、ワクワク感を隠すことなく、凪に訊ねる。
 何言ってんだこいつ。と言わんばかりの表情で私を見る凪。

「あれですよ、あれ!呼び出しイベント!」

「呼び出しイベント?」

 ええ!と言って、よく分かってなさそうな凪に説明するため口を開いた。

「呼び出しイベントとは、主人公が生徒会のファンクラブの人達に呼び出されて、調子乗んなよブス!と罵られるイベントです!」

「……変なイベントだな」

「まあ、そこに誰かしらキャラが現れるんですよ。作品によって、誰が現れるとか変わってくるんですけどね」

 私は凪を期待の眼差しで見る。凪は最初無視をしていたが、じっと見つめていたのが功を成したのか、溜息をついて私に目を向ける。私はニコッと笑って言った。

「行ってみましょう!」

「言うと思った……」

 凪は呆れたように頭を抱えた。
 桜城くんに用があるのは嘘では無いですし!と意気揚々と教室を出ていき、桜城くんの後を追う。一瞬見失ったかと思ったが、案外すぐに見つかった。

 やってきたのは、校舎裏だった。
 やはり、呼び出しイベントだったようで、桜城くんの前には、桜城くんの同じくらいの身長の男子が3人いた。
 私達は、4人から見えない位置にスタンバイして、覗き見ることにした。

「ちゃんと来たんだね、桜城蓮」

「まあ、下駄箱に手紙が入ってたからな。ところで、お前ら誰?」

「僕達は、生徒会のファンクラブ。今日はこの僕がファンクラブの皆を代表して君に忠告しに来た」 

 真ん中に立って、サイドの2人より1歩桜城くんに近い位置にいた男子が話をする。

「へぇ、生徒会ってファンクラブあるんだな。で、忠告って何?」

「はぁ?!しらばっくれないでよ!」

 真ん中の男子がカッとなって、桜城くんに詰め寄ろうとした。それを、お、落ち着いて…と気弱そうに宥める左側の男子。右側の男子は2人を気にしながらも、桜城くんに向かって微笑んだまま話し出す。

「彼のように、突然この学園に現れた君が生徒会と関わるのを良く思っていない人が沢山いるんだ」

「そうそう!僕達はちゃんと規則を守って生徒会のファンクラブとして生徒会の方々を陰ながら支えているのに……桜城蓮!ぽっと出のお前がなんで有栖川様にお近付きになってるんだよ!!」

「なあ、さっきから規則とか陰ながらとか言ってるけど、なんで普通に話かけないんだ?そんなに好きなら、話しかければいいだろ?」

 当然のことのように言うその言葉に、真ん中の男子は顔を真っ赤にして、叫んだ。

「っ!僕達はお前みたいに、自分勝手な人間じゃないんだよ!」

「あ、あのね、桜城蓮くん。ファンクラブがあるっていうのは、それだけ生徒会の方々が人気者だってことなんだけど……」

 叫んだ後、荒く息をする真ん中の男子の背中を擦りながら、左側にいた気弱そうな男子が言葉を引き継いだ。

「だから?人気者だったら、話しかけたらダメなのか?」

 よく分からない、と言わんばかりの言葉に、右側にいた男子が困ったような笑顔を浮かべながら言葉を発する。

「んー、簡単に言うと、生徒会はこの学園のアイドルみたいなものなんだよ。皆の憧れの的。当然皆話したいと思うよね。けど、皆が一斉に話に行っちゃったら生徒会の人達はどうなる?」

「……疲れる?」

「そうだね。生徒会の人達に迷惑がかかるよね。だから俺達は生徒会の人達が心置き無く学生生活が送れるように、ファンクラブの規則を遵守しているんだ」

 分かったかな?と首を傾げる右側の男子に、うーん、と考える素振りを見せる桜城くん。

「生徒会に迷惑がかかるっていうのは分かったんだけど、でも、話しかけないっていうのはやっぱりよく分かんないな。ていうか、向こうから話しかけてくるから、それを無視するのは良くないと思うんだけど……」

 …なんで、と今まで静かだった真ん中の男子が、声を上げた。その目は、嫉妬と羨望が混ざったようにギラギラと不穏に輝いていた。

「なんでお前みたいな陰キャのモブが生徒会に気に入られてるんだ!?僕の方が可愛いし、ずっと、生徒会のことを思っているのに!話しかけられてるからって調子に乗ってんじゃねぇよブス!!」

 キターーー!!!「調子乗んなよブス!」(意訳)頂きました!!
 実際聞くと迫力があるなと思いながら、私の気分は場違いなほど高揚していた。

「んー……俺が気に入られてる理由は分かんないから、直接生徒会の人達に聞いてみてくれ!それなら会話する理由が作れるだろ?」

 桜城くん、話を聞いていなかったのかな?と私は思った。凪を見ると、凪も呆れているのが分かった。
 左側の男子に宥められて落ち着いていた真ん中の男子は、怒りに顔を歪ませ、衝動のままに手を上げた。

 その時、男子の手を掴んだ人がいた。

「言い争いならまだしも、学園内の暴力は見過ごせませんね」

 その人は、風紀委員長の氷川先輩だった。桜城くんの、なんで……という呟きに氷川先輩は答える。

「たまたま通りかかったんです。さて、そこの3人。私も非道ではありませんので、今ならまだ、慈悲の心で見逃してあげますが、どうしますか?」

 グッと言葉に詰まった真ん中の男子は、キッと桜城くんを睨みつけて、去っていった。その男子を追うように気弱そうな男子が去る。

「風紀委員長様の寛大な処置に、感謝します」

 ぺこりと一例して、終始笑みを浮かべていた男子も2人の後を追うように去っていった。

「なんで、助けてくれたん…ですか?」

「勘違いしないでください。助けたわけではありません。私は職務を全うしただけです」

 それに、と氷川先輩は辛辣に言葉を続ける。

「一度忠告しましたよね。騒ぎや問題を起こすなと」

「けど、今回のことは、俺が起こした問題じゃ…!」

「問題の発端は、あなたが生徒会と関わっていたからでしょう?あなたが問題を起こしたと言っても過言ではありませんよ」

「っ!そんなの無茶苦茶だ!こんなのおかしい、仲良くしたい人と仲良くしちゃいけないなんて、普通じゃない!!」

「あなたの普通がどこでも通用すると思わないでください。この学園はただでさえ特殊なのですから、その意識をより一層お持ちください」

 ところで……とメガネの位置を直すように、中指で持ち上げる。
 その瞬間、氷川先輩がこちらを見た。

「そこでコソコソと覗き見るような真似をしているのは、どちら様でしょうか?」

 覗いていたことがバレて、あちゃー……と私は頭を抱える。凪は、だから嫌だったんだ……と面倒くさそうな表情で私を見ていた。
 ここでじっとしているのも、後々面倒臭いだろうなと思い、潔く姿を見せることにした。

 私と凪の姿を見ると、桜城くんと氷川先輩はびっくりしていた。

「雪月と、凪……?」

「意外ですね、白川さんと黒瀬さんだったとは……」

「申し訳ありません。覗き見るつもりは、無かったのですが……」

 私は少し眉を下げて微笑みを浮かべながら、しらっととぼける。
 凪は、すみません。と一言謝った。

「実は、桜城くんに真鳥先生から伝言を頼まれまして。姿を見かけたので追いかけたら、こういう状況だったというわけです」

「俺に伝言?」

「ええ。急な職員会議が入って、本日数学を教えることができないと仰ってました」

「あ、そっか……分かった、ありがとう」

 笑って答えるも、その笑顔はどこか元気がなかった。

「さて、要件も済んだことですし、私達は帰りますね」

 失礼しました。と凪と共にその場を後にする。
 去り際、とにかくこれ以上問題を起こさないでください。と桜城くんに言う氷川先輩の警告の声が聞こえてきた。
 2人にバレないように後ろへ目を向けると、氷川先輩は私達とは反対方向へ去っていき、桜城くんは、その場で拳を握りしめて立ち尽くしていた。


───────────


 伝達も済んだため、寮の部屋に帰っている途中、そういえば…と凪は何かを思い出したように呟いた。私は首を傾げて言葉の続きを待った。

「呼び出しイベントの説明してた時、お前が言ってた「調子乗んなよブス!」ってセリフ、なかなか似合ってたぞ」

「嫌ですね、私はそんな直球に言いませんよ」

「じゃあ、なんて言うんだ?」

 そうですね……と少し考えて、口を開く。

「……随分と自信をお持ちのようにお見受けしますが、鏡というものをご存知で?いやはや、性根の腐敗加減は見目にも関係してくるのでしょうか?…まあ精々、足元をすくわれないよう、お気をつけ下さいませ。といった感じでしょうか?」

 凪は、うっわ……と心の底から引いたような声を上げ、1歩横にずれて私との間に距離を作った。

「なんですか、その反応は……凪がやれと言ったんですよ?」

「まさかそこまで言うとは思わなかったんだ。正直、引いた」

「そんなの酷いです!凪のバカ!あんぽんたん!おたんこなす!!」

「さっきの語彙力どこいった?」

 凪との間にできた距離を詰め、ペシペシと凪の背中を叩きながら歩く。
 凪は、痛い痛いと、全く痛そうに聞こえない声で言いながら、私の隣を歩くのだった。



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