雨は藤色の歌

園下三雲

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雪原の紅い風

37.

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レオ

 アダムスは、積もらない雪が降る日が続いているよ。こちらと違い、中央の庭は白く綺麗なのだろうね。

 手紙をありがとう。どれも丁寧に読ませてもらったよ。レオがどのように過ごしているのかよく分かった。まずは、無事に中央教会に着くことができて良かった。バールさんをはじめ商団の皆さんには、私からもお礼を言っておくね。それから、ウィリアムにも無事会えて良かった。彼が試験統括だなんてところまで出世しているとは思わなかった。ウィリアムからも、レオとルイについて手紙を貰ったよ。優秀だと褒めてくれていた。

 そして、ヴィル役に選ばれたと聞いて、とても驚いたよ。おめでとう。と言って良いのかな。レオの知識の深さや考え方は目を見張るものがあるし、そこに裏付けられた歌唱もきっととても美しかったのだろうと推察する。そこを正当に評価して貰えたことはとても嬉しい。だけど、指導という体をとったいじめは辛いね。教典解釈の時間はレオにとって良い時間になっているようで、そこだけは少し安心したけれど。

 レオ。連日の必要以上の鞭も、指導の時間だというのに掃除ばかりさせるのも、どちらも正しいことではないよ。そんなことをしてくる人間のことを先生だとは思わなくていいし、何を責められても、罵られても、聞く耳を持たなくていい。

 レオはそのままで、とてもいい子だよ。誠実で、やわらかい心をもって、周りの人のことを慈しみながら生きている。私はそんなレオをよく知っている。そして、中央教会に行った今でも、そういうレオの良い所がそのままだって、手紙からよく伝わってきたよ。大丈夫。レオは素敵なヴィルになれる。

 二月の中旬になったら、ルイ達と一緒に稽古が受けられるようになると聞いたよ。その指導にはウィリアムも入ってくれるということだから、酷いことをされることが無いよう頑張ってくれと彼に手紙を書いた。あと少し。だけど、辛かったら部屋から出なくてもいいからね。適切な指導が受けられないのなら、わざわざ傷つきにいかなくていい。部屋には誰も入れないんだ。一番安全な場所なのだからね。万が一の時は、レオが今まで付けていた記録と、傷痕が証拠になる。レオは何も悪くないから、胸を張って部屋に籠っていて良い。心臓のドキドキも息切れも、部屋でゆっくりしていれば少しずつ良くなるはずだから。

 アダムスの皆は二人がいなくて寂しがっているけれど、それでも元気に過ごしているよ。マルコが皆を鼓舞して盛り上げてくれて、それをノアがよく纏めてくれてる。そうそう、ダレンがふらふらと甘えるように一人一人のそばに付いては離れてと繰り返しているよ。そうやって皆の話を聞いて、甘えながら皆を癒してくれている。皆、とても頼もしいよ。

 ジークとガブリエル卿には、手紙の内容をかいつまんでお伝えしたよ。ジークの歌唱指導が役に立ったと伝えたら、とても嬉しがっていた。皆、レオとルイの幸せと、二人が元気に帰ってきてくれるように毎日祈ってる。レオが呼ぶならいつでも会いに行くし、いつだって迎えに行くからね。

 愛しているよ。レオ


追伸
 貰った手紙には八枚と書かれていたけれど、送られてきたのは七枚だったよ。何か、例えばご家族に当てた手紙でもいれる予定だった? 日々の報告とは別に、その一枚だけを先に送ってくれても構わないからね。
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