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雪原の紅い風
40.
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2月8日
アル。今日まで、お手紙を書けなくてごめん。色々あって、ずっと医務室から出して貰えなくて、紙もペンも手元に無かったから。4日にあったことは、ウィリアム先生が出したお手紙の方がきっと詳しいと思うから、僕は書かないでおくね。
医務室にいた間、僕の体を大人がたくさん見に来たよ。哀れんでくれる人、目を逸らす人、心配するふりをして良い気味だとほくそ笑む人、様々だった。体の傷と、アルに言われてずっとつけていた記録、それからテオドールの証言があって、僕たち二人への個別指導は中止になったよ。あの先生達がどうなるのかは分からない。
審議会では、僕の体の傷が酷いものだから、ヴィル役を代えた方が良いんじゃないかって意見も出たらしい。テオドールが
「レオナルドがヴィルを下ろされるなら僕もリトゥムハウゼを下りる」
って宣言してその場を凍りつかせたってウィリアム先生から聞いた。それから、教典解釈の先生がね、
「彼の知識と経験、感性に依った教典の解釈は深く、時に斬新で面白い。彼は傷つきたくて傷ついたわけではなく、しかし痛む体をおして毎日指導を受けに来た。その根性は見上げるものがあり、我々が勝手に梯子を外して良い道理は無い。ヴィルは彼こそ相応しいと思うが」
って意見してくれたんだって。嬉しい意見だったから是非僕に伝えたいと思ったって、ウィリアム先生ったら丸暗記しちゃって。だから僕も覚えちゃった。
教典解釈の先生はね、実は結構偉い人だったらしい。胡麻色頭の本好きおじいちゃんだと思ってたけど、その意見で審議会の風向きをぐいっと変えるくらいには影響力のある人なんだって。知らなかった。
15日からの合同稽古までは僕もテオドールもずっとお休み。しっかり療養するようにって言われた。
まだまだ書きたいことはたくさんあるけれど、明日から書くことが無くなっちゃう気もするからこの辺で。今日までの手紙を纏めたから、ウィリアム先生に送って貰うね。
アルも、アダムスの皆も、風邪とかひかないように気をつけて。
2月9日
テオドールが優しいの。今日、夕食を廊下から部屋に入れる時に目が合ってね、パンを暖炉の火で少し温めると美味しいって教えてくれたの。僕は暖炉が使えないって、なんだかその時は言えなくて。食事の時間の終わりにドアを開けたらまた目が合って、どうだった? って聞かれたから、嘘をつくのも忍びなくて、その時に本当の事を話したんだ。そうしたら、テオドールったら目玉が転がり落ちるんじゃないかってくらい驚いてね、可笑しかったな。
食器を片付けてくれる係の人(この人には姿を見せてはいけないことになってる)が立ち去って、階段に繋がる大きな扉を閉めたのを確認してから、僕達はもう一度ドアを開けたの。そしたらまず食べきれていない食事を持ってくるように言われて、次にドアを押さえたまま廊下に出るようにって。僕がそうしたらテオドールも同じようにドアを押さえたの。何だろう、と思ったら、テオドールの部屋の温かい空気をお裾分けしてくれるらしかった。
僕をテオドールの部屋のドアに凭れさせて、それから僕が残したパンを火で炙ってくれたの。スープも暖炉の前に暫く置いておいてくれて、温めてくれた。その後、テオドールはヴィルの部屋のドアに凭れて、僕と向かい合うようにして座ってね。僕がゆっくり食事をするのを見ながら、中央の街の事を色々話してくれたよ。
久しぶりの温かい食事は美味しくて、だけどそれだけではなくて、なんだか涙が止まらなかった。テオドールは僕を泣き止ませるわけでも宥めるわけでもなく、困ったり笑わせたりもしないで、ずっと街について話してくれてたから、それが一番嬉しかった。
湯浴みや寝る時はドアの前には居られないから部屋を閉じているよ。今もそう。テオドールはどうにかしてドアを開けたままに出来ないか考えてたけど、部屋の中の物を外に出すわけにはいかなくて渋々ドアを閉めたよ。だけど、今までドアを開けていたから、いつもよりも温かい気がする。今日は良い夢が見られそうだよ。
2月10日
午前中、他の学徒が稽古をしている間に、僕は医務室へ行って毎日怪我の具合を診て貰っているのだけど、今日は
「薬の塗り方が甘い!」
って叱られちゃった。医務官さんにはよく叱られるの。初めて会った時にも
「どうしてこんなになるまで放って置いたんだ!」
って、ウィリアム先生と僕とテオドール三人まとめて怒鳴られたんだ。だけどとっても優しい人だよ。僕専用に薬を調合してくれたの。物凄く匂いがキツいけどその分治りも早いみたい。椅子に座るのも、もう辛くないよ。
怪我人に中央もアダムスも関係ないってハッキリ仰ってくれて、ルイやジョン、ディラン、リヴィの健康診断もしてくれた。やっぱり四人は、ウィリアム先生の目の行き届かない所では足を引っ掛けられたり、言い掛かりをつけられて鞭で打たれたりしてたみたい。酷い傷ではないし、僕ほど執拗に打たれたわけじゃないから、そういう時はウィリアム先生がくれた軟膏をたっぷり塗っておけば良いんだって。だけど、問題なのは心労の方で、こればっかりはここを離れるのが一番なんだけど、そうもいかないからって心が安らぐお茶の葉を四人に渡してた。ルイによると、美味しいんだか不味いんだか分からない味だって。気になったから僕も欲しいって言ったら、君の場合はお茶を飲むとか飲まないとかそういう話じゃないって言われた。残念。
アル、ウィリアム先生、ルイ、ジョン、ディラン、リヴィ、テオドール、医務官さん。そしてアダムスの皆。たくさんの人が僕を大切に思ってくれてるのを、この数日すごく感じてる。僕は周りの人にとっても恵まれてるよね。なんて僕は果報者なんだろうね。
アル。今日まで、お手紙を書けなくてごめん。色々あって、ずっと医務室から出して貰えなくて、紙もペンも手元に無かったから。4日にあったことは、ウィリアム先生が出したお手紙の方がきっと詳しいと思うから、僕は書かないでおくね。
医務室にいた間、僕の体を大人がたくさん見に来たよ。哀れんでくれる人、目を逸らす人、心配するふりをして良い気味だとほくそ笑む人、様々だった。体の傷と、アルに言われてずっとつけていた記録、それからテオドールの証言があって、僕たち二人への個別指導は中止になったよ。あの先生達がどうなるのかは分からない。
審議会では、僕の体の傷が酷いものだから、ヴィル役を代えた方が良いんじゃないかって意見も出たらしい。テオドールが
「レオナルドがヴィルを下ろされるなら僕もリトゥムハウゼを下りる」
って宣言してその場を凍りつかせたってウィリアム先生から聞いた。それから、教典解釈の先生がね、
「彼の知識と経験、感性に依った教典の解釈は深く、時に斬新で面白い。彼は傷つきたくて傷ついたわけではなく、しかし痛む体をおして毎日指導を受けに来た。その根性は見上げるものがあり、我々が勝手に梯子を外して良い道理は無い。ヴィルは彼こそ相応しいと思うが」
って意見してくれたんだって。嬉しい意見だったから是非僕に伝えたいと思ったって、ウィリアム先生ったら丸暗記しちゃって。だから僕も覚えちゃった。
教典解釈の先生はね、実は結構偉い人だったらしい。胡麻色頭の本好きおじいちゃんだと思ってたけど、その意見で審議会の風向きをぐいっと変えるくらいには影響力のある人なんだって。知らなかった。
15日からの合同稽古までは僕もテオドールもずっとお休み。しっかり療養するようにって言われた。
まだまだ書きたいことはたくさんあるけれど、明日から書くことが無くなっちゃう気もするからこの辺で。今日までの手紙を纏めたから、ウィリアム先生に送って貰うね。
アルも、アダムスの皆も、風邪とかひかないように気をつけて。
2月9日
テオドールが優しいの。今日、夕食を廊下から部屋に入れる時に目が合ってね、パンを暖炉の火で少し温めると美味しいって教えてくれたの。僕は暖炉が使えないって、なんだかその時は言えなくて。食事の時間の終わりにドアを開けたらまた目が合って、どうだった? って聞かれたから、嘘をつくのも忍びなくて、その時に本当の事を話したんだ。そうしたら、テオドールったら目玉が転がり落ちるんじゃないかってくらい驚いてね、可笑しかったな。
食器を片付けてくれる係の人(この人には姿を見せてはいけないことになってる)が立ち去って、階段に繋がる大きな扉を閉めたのを確認してから、僕達はもう一度ドアを開けたの。そしたらまず食べきれていない食事を持ってくるように言われて、次にドアを押さえたまま廊下に出るようにって。僕がそうしたらテオドールも同じようにドアを押さえたの。何だろう、と思ったら、テオドールの部屋の温かい空気をお裾分けしてくれるらしかった。
僕をテオドールの部屋のドアに凭れさせて、それから僕が残したパンを火で炙ってくれたの。スープも暖炉の前に暫く置いておいてくれて、温めてくれた。その後、テオドールはヴィルの部屋のドアに凭れて、僕と向かい合うようにして座ってね。僕がゆっくり食事をするのを見ながら、中央の街の事を色々話してくれたよ。
久しぶりの温かい食事は美味しくて、だけどそれだけではなくて、なんだか涙が止まらなかった。テオドールは僕を泣き止ませるわけでも宥めるわけでもなく、困ったり笑わせたりもしないで、ずっと街について話してくれてたから、それが一番嬉しかった。
湯浴みや寝る時はドアの前には居られないから部屋を閉じているよ。今もそう。テオドールはどうにかしてドアを開けたままに出来ないか考えてたけど、部屋の中の物を外に出すわけにはいかなくて渋々ドアを閉めたよ。だけど、今までドアを開けていたから、いつもよりも温かい気がする。今日は良い夢が見られそうだよ。
2月10日
午前中、他の学徒が稽古をしている間に、僕は医務室へ行って毎日怪我の具合を診て貰っているのだけど、今日は
「薬の塗り方が甘い!」
って叱られちゃった。医務官さんにはよく叱られるの。初めて会った時にも
「どうしてこんなになるまで放って置いたんだ!」
って、ウィリアム先生と僕とテオドール三人まとめて怒鳴られたんだ。だけどとっても優しい人だよ。僕専用に薬を調合してくれたの。物凄く匂いがキツいけどその分治りも早いみたい。椅子に座るのも、もう辛くないよ。
怪我人に中央もアダムスも関係ないってハッキリ仰ってくれて、ルイやジョン、ディラン、リヴィの健康診断もしてくれた。やっぱり四人は、ウィリアム先生の目の行き届かない所では足を引っ掛けられたり、言い掛かりをつけられて鞭で打たれたりしてたみたい。酷い傷ではないし、僕ほど執拗に打たれたわけじゃないから、そういう時はウィリアム先生がくれた軟膏をたっぷり塗っておけば良いんだって。だけど、問題なのは心労の方で、こればっかりはここを離れるのが一番なんだけど、そうもいかないからって心が安らぐお茶の葉を四人に渡してた。ルイによると、美味しいんだか不味いんだか分からない味だって。気になったから僕も欲しいって言ったら、君の場合はお茶を飲むとか飲まないとかそういう話じゃないって言われた。残念。
アル、ウィリアム先生、ルイ、ジョン、ディラン、リヴィ、テオドール、医務官さん。そしてアダムスの皆。たくさんの人が僕を大切に思ってくれてるのを、この数日すごく感じてる。僕は周りの人にとっても恵まれてるよね。なんて僕は果報者なんだろうね。
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