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第1部 第5章「新たな始まり」
第20話「女神との再会、そして叙爵」
第20話「女神との再会、そして叙爵」
東の森から戻った翌日の昼過ぎ。
僕は屋敷で、建築ギルドの報告書に目を通していた。
その時――
町の入口の方から、歓声が聞こえてきた。
「何だろう…?」
僕は窓の外を見る。
町民たちが、入口の方に集まっている。
その中心に――
一人の男性がいた。
背が高く、がっしりとした体格。茶色の髪。顔には疲労の色が濃いが、その目は力強い。
僕の心臓が、高鳴った。
「父さん…!」
僕は慌てて外に飛び出した。
家の中からも、家族が駆け出してくる。
「あなた!」
母さんが叫ぶ。
「お父さん!」
ソフィア姉さんとマルク兄さんも走る。
レオとリナも、必死で走っている。
「お父さん!」
父――グレン・ヴァルトハイムが、僕たちを見て微笑む。
そして――
母さんが、父に飛びつく。
「あなた…あなた…!」
母さんが泣きながら、父を抱きしめる。
父も母さんを抱きしめ返す。
「ただいま、エレナ」
「おかえりなさい…おかえりなさい…!」
母さんが声を上げて泣く。
僕たちも、父の周りに集まる。
「父さん、おかえりなさい」
「ただいま、アレン」
父が僕の頭を撫でる。
その手は、傷だらけだ。
ソフィア姉さんも泣いている。
「お父さん…心配したんだから…」
「ごめんな、ソフィア。でも、無事に帰ってきたよ」
マルク兄さんも涙を流している。
「お父さん…」
「マルク、大きくなったな」
レオとリナが、父の足に抱きつく。
「お父さん!」
「お父さん!」
「レオ、リナ。お前たち、随分たくましくなったな」
父が二人を抱き上げる。
ノエルが、少し離れた場所から見ている。
「ノエル…だな」
父がノエルに優しく微笑む。
「家族になってくれて、ありがとう」
ノエルの目から、涙が溢れる。
「グレンさん…どうして?」
「ああ、エレナから手紙で知らせが来ていた」
「大変だったね」
「ノエルこれからも宜しく頼むよ」
町民たちも、温かく見守っている。
「グレンさん、おかえりなさい!」
「無事で良かった!」
父が町民に向かって頭を下げる。
「ただいま。そして…町が、こんなに立派になって…」
父が周囲を見回す。
美しい家々、立派な城壁、整備された道。
「これは…まるで別の場所のようだ…」
母さんが微笑む。
「アレンが、頑張ってくれたのよ」
「アレンが…」
父が僕を見る。
「後で、詳しく聞かせてくれ」
「はい」
その夜、家族全員が食堂に集まった。
久しぶりの、家族全員での食事。
母さんが腕を振るって作った豪華な料理が並ぶ。
「いただきます」
全員で食事を始める。
父が、料理を口に運んで驚く。
「美味しい…こんなに良い食材…」
「アレンが、色々と手に入れてくれたのよ」
母さんが嬉しそうに言う。
父が僕を見る。
「アレン…お前、一体何をしたんだ?」
「色々です。後で、全部話します」
食事をしながら、父が戦場のことを少し話してくれた。
「激しい戦いだった。敵は強く、味方は押されていた」
「でも、将軍が危機に陥った時…俺は、全力で戦った」
「そして、なんとか将軍を守り、戦局を立て直した」
母さんが心配そうに聞く。
「怪我は…?」
「小さな傷はあるけど、大丈夫だ。それにエレナは治癒魔法を覚えたんだろ」
「エレナの治癒魔法があれば、すぐに治る」
母さんが父の手を握る。
「後で、ちゃんと診せてね」
「ああ」
食事が終わると、僕は父に全てを話した。
冒険者になったこと。
盗賊団を倒したこと。
村が町に昇格したこと。
そして――
前世のことも、改めて説明した。
父は、全てを静かに聞いていた。
最後まで聞くと、深く息を吐いた。
「そうか…お前は、勇者だったのか…」
「はい」
「それで…今は幸せか?」
父が真剣な目で聞く。
「はい。とても幸せです」
僕は笑顔で答える。
「この家族がいて、この町があって…前世より、ずっと幸せです」
父が微笑む。
「そうか。なら、良かった」
翌日、僕は父も含めて家族全員で提案した。
「今日、グランベルの町の教会に行きたいんだ」
父が驚く。
「教会…?」
「女神セレスティアに、ちゃんとお礼を言いたいんです。この幸せな家族をくれたこと、二度目の人生をくれたこと」
母さんが微笑む。
「それはいいわね」
「父さんも、一緒に来てくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
午後、僕たち家族はグランベルの町の教会を訪れた。
立派な石造りの建物。
高い尖塔、美しいステンドグラス。
中に入ると、静謐な空気に包まれる。
祭壇の前には、女神セレスティアの像が立っていた。
美しい女性の姿。優しく微笑んでいる。
僕は祭壇の前に進み、跪く。
そして、空間収納から金貨十枚を取り出して、お布施箱に入れる。
家族も後ろで祈っている。
僕は目を閉じて、心から祈った。
「女神セレスティア、僕を転生させてくれて、ありがとうございます」
「この素晴らしい家族に出会わせてくれて、ありがとうございます」
「前世では、一人で戦い、一人で裏切られました」
「でも、この世界では、家族がいます。愛してくれる人たちがいます」
「父も、無事に帰ってきてくれました」
「これからも、この家族を、この町を、守っていきます」
「どうか、見守っていてください」
その瞬間――
祭壇から、眩い光が溢れ出した。
「え…?」
光が形を成していく。
そして――
美しい女性が現れた。
長い金色の髪、青い瞳、純白のドレス。
女神セレスティアだ。
「ハルト…やっと…やっと見つけた…」
女神が涙を流しながら、僕に駆け寄ってくる。
そして、僕を抱きしめる。
「セレスティア様…!」
僕も驚いて抱きしめ返す。
後ろで、家族が驚愕している。
父も、初めて見る女神に、跪いている。
「女神様…!」
セレスティアが顔を上げる。
「ハルト…いえ、アレン。探していたのよ。でも、転生は本当にランダムで…どこに生まれるか予測できなくて…」
「え…? でも、いつも見守ってくれてたんじゃ…?」
「?」
セレスティアが不思議そうな表情を浮かべる。
「夜、星に話しかけると、いつも輝いて返事してくれてたから…」
セレスティアが少し考える。
そして――
「…………それ、私じゃないわ。ただの星よ」
沈黙。
僕の顔が、みるみる赤くなる。
「…………」
セレスティアが、クスクスと笑い出す。
「可愛い」
「恥ずかしい…めちゃくちゃ恥ずかしい…」
僕は顔を覆う。
後ろで、家族も笑いをこらえている。
「ぷっ…」
ソフィア姉さんが吹き出しそうになっている。
マルク兄さんも口元を押さえている。
父も、微笑んでいる。
「セレスティア様…ずっと、星に話しかけてたんです…何ヶ月も…」
「それは…愛おしいわね」
セレスティアが優しく微笑む。
「でも、今日、教会で祈ってくれたから、やっと見つけられた」
「そうだったんですか…」
「ええ。教会で祈ると、私に直接届くの。だから、もっと早く教会に来てくれれば良かったのに」
セレスティアが少し拗ねたように言う。
「すみません…」
「でも、無事に会えて良かった」
セレスティアが僕の頬に手を当てる。
「幸せそうね。良い家族に恵まれて」
「はい。本当に幸せです」
僕は家族を振り返る。
家族全員が、女神に向かって跪いている。
「セレスティア様…」
母さんが震える声で言う。
「アレンを、私たちの家族にしてくださって、ありがとうございます」
父も深々と頭を下げる。
「そして、無事に家族の元に戻してくださって、ありがとうございます」
セレスティアが優しく微笑む。
「いいえ。アレンを幸せにしてくれて、私からもありがとう」
女神が家族に近づく。
「グレン、エレナ、ソフィア、マルク、レオ、リナ、そしてノエル。あなたたちは、アレンにとって何よりも大切な宝物です」
「これからも、アレンを支えてあげてください」
家族全員が頷く。
「はい!」
セレスティアが僕に向き直る。
「アレン、今夜、国王に神託を下します」
「神託…?」
「ええ。あなたが元勇者であること、そして私の使徒であることを」
僕は少し驚く。
「でも、それは…」
「大丈夫。国王は信頼できる人物です。そして、あなたにはもっと大きな舞台が必要」
セレスティアが真剣な表情になる。
「この地域だけでなく、王国全体を良くしていくために」
「わかりました」
「それと…」
セレスティアが微笑む。
「いつか、エルヴィンと再会できるでしょう」
「エルヴィン…?」
「あなたに魔法を教えてくれた、エルフの長老よ」
僕は驚く。
「まだ…生きているんですか!?」
「ええ。エルフは長命ですから。今は隠居していますが、元気にしているわ」
僕の目から、涙が溢れそうになる。
「そう…だったんですか…」
「いずれ、彼と再会する日が来るでしょう。それまで、楽しみにしていてね」
セレスティアが再び僕を抱きしめる。
「また会いましょう、アレン。教会で祈れば、いつでも会えるから」
「はい」
女神が光に包まれ、消えていく。
教会には、再び静寂が戻った。
その夜。
王都の王宮。
国王アルブレヒト三世は、執務室で書類に目を通していた。
三十代前半の若き王。真面目で誠実な性格で知られている。
その時――
部屋が眩い光に包まれた。
「何だ…!?」
光の中から、女性の声が響く。
「聞きなさい、王よ」
「この声は…まさか…」
国王が跪く。
「女神セレスティア様…!」
「そう。私はセレスティア」
光の中に、女神の姿が浮かび上がる。
「王よ、神託を授ける」
「はっ」
「アレン・ヴァルトハイムという少年を知っているか」
「はい。辺境のノイヴァルトハイム町の代表…神童と呼ばれる…」
「彼は、五百年前に魔王を討伐した勇者ハルト・タカハシの転生である」
国王が驚愕する。
「勇者の…転生…!?」
「そう。勇者ハルトは、魔王討伐後、彼を利用した王侯貴族に裏切られ、刺客を送られた。しかも苦楽を共にした仲間達を使って………」
女神の声が、悲しみに満ちる。
「その国は、私の怒りにより滅ぼされた」
「…………」
国王が震える。
「今のアレンは、私の使徒である。私の代理人である」
「彼に協力しなさい。彼を支援しなさい」
「さすれば、汝の国は繁栄するだろう」
「は、はい! 必ず!」
「良い返事だ」
女神が微笑む。
「王よ、あなたは良き王になれる。アレンの知恵を借りなさい」
「そして…アレンの父、グレン・ヴァルトハイムについても調べなさい。彼には、不当な扱いを受けた過去がある」
「はい!」
光が消え、部屋に静寂が戻る。
国王は、しばらく跪いたまま動けなかった。
そして、立ち上がると、すぐに宰相を呼んだ。
「レオンハルト、至急調査を命じる」
「グレン・ヴァルトハイムという男について、全てを調べよ」
5日後、ノイヴァルトハイム町に、王都から緊急の使者が来た。
「アレン・ヴァルトハイム殿、そしてグレン・ヴァルトハイム殿、国王陛下が至急お会いになりたいとのことです」
僕たちは家族と共に、急いで準備をした。
レオとリナは、今回はゲオルグさんに預ける。
「お兄ちゃん、また行っちゃうの…?」
「ごめんね。でも、すぐに帰ってくるから」
そして、僕たち――父、母、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル、そして僕――は王都に向かった。
王都は、父以外の家族にとって初めて訪れる場所だった。
高い城壁、立派な建物、賑やかな通り。
グランベルの町とは比べ物にならない規模だ。
「すごい…」
ソフィア姉さんが目を輝かせる。
「これが王都…」
マルク兄さんも圧倒されている。
ノエルも驚いている。
「私、初めて来た…」
父が言う。
「俺は何度か来たが…こんなにゆっくり見るのは初めてだ」
僕たちは王宮に案内された。
巨大な石造りの宮殿。
謁見の間に通されると、そこには国王が座っていた。
三十代前半の男性。厳格そうだが、目には優しさがある。
そして、その横には、宰相が立っている。
「よくぞ参られた、アレン・ヴァルトハイム殿、そしてグレン・ヴァルトハイム殿」
国王が立ち上がる。
「そして、ご家族の皆様も」
僕たちは跪く。
「初めてお目にかかります。アレン・ヴァルトハイムです」
「グレン・ヴァルトハイムです」
「面を上げられよ」
国王が優しく言う。
僕たちが顔を上げると、国王が微笑んでいる。
「まずは、公式の場でお礼を言わせていただきたい」
国王が真剣な表情になる。
「アレン殿、貴殿の功績――盗賊団の壊滅、村の復興、町への昇格――全て、王国の発展に大きく貢献している」
「ありがたき幸せです」
「そして、グレン殿。貴殿の戦功も、素晴らしいものであった」
国王が父を見る。
「押されていた戦局を立て直し、将軍を守り、勝利に導いた。その功績は、計り知れない」
父が深く頭を下げる。
「恐れ入ります」
「そして…」
国王が側近に目配せする。
側近が、二つの立派な羊皮紙を持ってくる。
「本日、二つの叙爵を行う」
謁見の間がざわつく。
同席していた貴族たちが驚いている。
「まず――アレン・ヴァルトハイム、前へ」
僕は前に出る。
「貴殿を、男爵位に叙爵する」
「七歳で…男爵…?」
「前代未聞だ…」
貴族たちが囁く。
国王が続ける。
「アレン・ヴァルトハイム、いや――アレン・フォン・ノイシュテルン」
「ノイシュテルン…新しい星…」
国王が微笑む。
「貴殿は、この国の新しい希望の星だ。だから、この家名を授ける」
「そして、領地として、ノイヴァルトハイム男爵領を授ける」
僕は驚く。
「領地…ですか?」
「そう。貴殿が発展させた町と、その周辺の土地だ。魔の森と隣接する、厳しい土地ではあるが…貴殿ならば、更に発展させられるだろう」
宰相が説明を加える。
「元の領主には、王都近くの王家所有地を与えました。彼は、より王都に近い土地を得られたと、大変喜んでおります」
僕は深々と頭を下げた。
「ありがたく頂戴いたします」
「次に――グレン・ヴァルトハイム、前へ」
父が前に出る。
「貴殿もまた、男爵位を授ける」
父が驚愕する。
「え…私に…?」
「そう。貴殿の戦功は、男爵位に値する」
国王が真剣な表情で言う。
「そして…調査の結果、貴殿が過去に不当な扱いを受けたことが判明した」
父が息を呑む。
「貴殿は元々、グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵であった」
「政治的陰謀により、不当に爵位を剥奪された。冤罪であった」
謁見の間が、静まり返る。
「貴殿の名誉を回復する。そして、戦場での武功により、改めて男爵位を授ける」
「そして、領地として、貴殿が元々所有していた土地を返還する」
父の目から、涙が溢れる。
「陛下…ありがとうございます…」
「顔を上げられよ、グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵」
父が顔を上げる。
その表情は、喜びと感動に満ちていた。
宰相が補足する。
「グレン男爵の領地は、アレン男爵の領地と隣接しております。王都寄りで、魔の森には隣接していない、より安全な土地です」
国王が微笑む。
「親子で隣接する領地。協力し合って、この地域を発展させていただきたい」
「はい!」
僕と父が同時に答える。
こうして、叙爵式が行われた。
僕は「アレン・フォン・ノイシュテルン男爵」に。
父は「グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵」に。
同じ日に、親子二人が貴族になった。
叙爵式の後、僕たちは応接間に案内された。
そこには、国王と宰相だけがいた。
「では、ここからは非公式の話だ」
国王が真剣な表情になる。
「アレン殿」
国王と宰相が、深々と頭を下げる。
僕は驚く。
「陛下…!」
「昨夜、女神セレスティア様より、神託を賜った」
国王が説明する。
「貴殿が、五百年前の勇者ハルト・タカハシの転生者であると」
宰相も頭を下げたまま言う。
「そして、当時の王侯貴族が、貴殿を裏切り、刺客を送ったと」
「五百年前、我々人族が犯した罪…深くお詫び申し上げます」
僕は慌てて言う。
「顔を上げてください! それは、この国ではありません」
「しかし…人族として…」
「僕は、過去にとらわれていません。今を生きています」
僕は真剣に言う。
「確かに、前世では裏切られました。でも、この世界では違います」
「素晴らしい家族がいます。信頼できる仲間がいます」
「それだけで、僕は幸せです」
国王が顔を上げる。
「なんと…寛大な…」
宰相も感動している。
「ありがとうございます」
国王が微笑む。
「それでは…これからは、友人として接していただけませんか」
「友人…ですか?」
「はい。私はまだ若く、未熟です。貴殿の知恵を、お借りしたい」
国王が続ける。
「君臣関係ではなく、対等な友人として」
僕は少し考えた。
そして、微笑んだ。
「わかりました。よろしくお願いします、アルブレヒト王」
「ありがとう、アレン」
国王が嬉しそうに微笑む。
宰相も言う。
「私もです。友人として、協力させてください。私の名はレオンハルトと申します」
「こちらこそ、よろしくお願いします、レオンハルト殿」
国王が父を見る。
「グレン殿、貴殿を陥れた者たちについて…」
父が緊張する。
「調査を命じました。詳細は、後日報告させていただきます」
「ありがとうございます」
父が深々と頭を下げる。
その夜、王宮の客室で、家族全員が集まった。
「すごいことになったね…」
ソフィア姉さんが言う。
「お父さんとアレン、両方が貴族になるなんて」
マルク兄さんも頷く。
「僕たちも、貴族の子供になったんだね」
母さんが微笑む。
「でも、何も変わらないわ。私たちは家族」
父も言う。
「そうだ。爵位があっても、なくても、僕たちは家族だ」
ノエルが少し心配そうに言う。
「でも…私は…血が繋がってないから…」
母さんがノエルを抱きしめる。
「何を言ってるの。あなたも立派な家族よ」
父も頷く。
「ノエルは、正式にヴァルトハイム家の養子だ。何も心配いらない」
ノエルが涙を流す。
「ありがとう…」
僕は家族を見回した。
みんなの笑顔。
温かな雰囲気。
「これからも、家族みんなで頑張ろうね」
全員が頷く。
「うん!」
それから、三週間後。
王宮の一室で、国王、宰相、そして僕と父が集まっていた。
「グレン男爵、報告があります」
宰相レオンハルトが、羊皮紙の束を父に渡す。
「貴殿を陥れた者たちの調査が完了しました」
父が緊張した表情で羊皮紙を受け取る。
「主犯は、バルトロメウス伯爵家、リヒター男爵家、そしてフォーゲル男爵家の三家でした」
宰相が淡々と説明する。
「彼らは、貴殿を陥れただけでなく、様々な不正を働いていました」
「税の横領、賄賂の受領、領民への不当な搾取…」
「国王陛下直属の諜報部が、全ての証拠を集めました」
国王が厳しい表情で言う。
「彼らには、相応の罰を与えた」
「主犯三名は、全ての爵位と領地を剥奪。奴隷に落とした」
「その家族は、平民に落とした」
「そして、全ての財産は没収した」
父が息を呑む。
「それほどまでに…」
「当然の報いだ」
国王が続ける。
「そして、グレン男爵…没収した財産は、全て貴殿に譲渡する」
父が驚愕する。
「全て…ですか…!?」
「そう。冤罪の賠償として、正当な権利だ」
宰相が羊皮紙を渡す。
「財産目録です。金貨約三千枚、王都の貴族街の邸宅二軒、宝石類、美術品…合計すると、相当な額になります」
父が震える手で、羊皮紙を受け取る。
「こんなに…」
「失われた十年への補償としては、むしろ少ないくらいだ」
国王が微笑む。
「これで、領地経営も安定するでしょう」
父が深々と頭を下げる。
「ありがとうございます…陛下…」
「礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」
僕も父の横で頭を下げる。
正義が、ちゃんと果たされた。
父の名誉が、完全に回復された。
その夜、町に戻った僕たちは、屋敷で家族会議を開いた。
「信じられない…」
母さんが呆然としている。
「金貨三千枚…」
ソフィア姉さんも驚いている。
「私たち…本当に貴族になったんだね…」
マルク兄さんも実感が湧いていないようだ。
父が言う。
「でも、この財産は、領地の発展に、町の発展に、そして家族の幸せのために使おう。それと、王都の屋敷の一軒はアレンに渡すから、好きに使いなさい。王都の貴族街に邸宅を持つのは、貴族としての格を示す為にもあった方が良い。くだらん考えだが、それでもこんな事で見下されたりしない様にする事は、貴族としての処世術の1つだからな」
母さんが微笑む。
「そうね。みんなで、幸せになりましょう」
僕は窓の外を見上げた。
満天の星空が広がっている。
でも、もう星に話しかけたりしない。
恥ずかしいから。
「セレスティア様、ありがとうございます」
心の中で呟く。
「父も帰ってきて、名誉も回復されました」
「これからも、見守っていてください」
そして、僕は思い出す。
エルヴィン…五百年前、僕に魔法を教えてくれたエルフの長老。
まだ生きている。
いつか、必ず再会したい。
明日から、また新しい日々が始まる。
貴族として。
町の代表として。
そして、女神の使徒として。
でも、一番大切なのは――
家族の一員として。
父も戻ってきた、完全な家族で。
僕の二度目の人生は、まだまだ続いていく。
次回:第21話「貴族としての責任、そして新たな挑戦」0
第5章「新たな始まり」
東の森から戻った翌日の昼過ぎ。
僕は屋敷で、建築ギルドの報告書に目を通していた。
その時――
町の入口の方から、歓声が聞こえてきた。
「何だろう…?」
僕は窓の外を見る。
町民たちが、入口の方に集まっている。
その中心に――
一人の男性がいた。
背が高く、がっしりとした体格。茶色の髪。顔には疲労の色が濃いが、その目は力強い。
僕の心臓が、高鳴った。
「父さん…!」
僕は慌てて外に飛び出した。
家の中からも、家族が駆け出してくる。
「あなた!」
母さんが叫ぶ。
「お父さん!」
ソフィア姉さんとマルク兄さんも走る。
レオとリナも、必死で走っている。
「お父さん!」
父――グレン・ヴァルトハイムが、僕たちを見て微笑む。
そして――
母さんが、父に飛びつく。
「あなた…あなた…!」
母さんが泣きながら、父を抱きしめる。
父も母さんを抱きしめ返す。
「ただいま、エレナ」
「おかえりなさい…おかえりなさい…!」
母さんが声を上げて泣く。
僕たちも、父の周りに集まる。
「父さん、おかえりなさい」
「ただいま、アレン」
父が僕の頭を撫でる。
その手は、傷だらけだ。
ソフィア姉さんも泣いている。
「お父さん…心配したんだから…」
「ごめんな、ソフィア。でも、無事に帰ってきたよ」
マルク兄さんも涙を流している。
「お父さん…」
「マルク、大きくなったな」
レオとリナが、父の足に抱きつく。
「お父さん!」
「お父さん!」
「レオ、リナ。お前たち、随分たくましくなったな」
父が二人を抱き上げる。
ノエルが、少し離れた場所から見ている。
「ノエル…だな」
父がノエルに優しく微笑む。
「家族になってくれて、ありがとう」
ノエルの目から、涙が溢れる。
「グレンさん…どうして?」
「ああ、エレナから手紙で知らせが来ていた」
「大変だったね」
「ノエルこれからも宜しく頼むよ」
町民たちも、温かく見守っている。
「グレンさん、おかえりなさい!」
「無事で良かった!」
父が町民に向かって頭を下げる。
「ただいま。そして…町が、こんなに立派になって…」
父が周囲を見回す。
美しい家々、立派な城壁、整備された道。
「これは…まるで別の場所のようだ…」
母さんが微笑む。
「アレンが、頑張ってくれたのよ」
「アレンが…」
父が僕を見る。
「後で、詳しく聞かせてくれ」
「はい」
その夜、家族全員が食堂に集まった。
久しぶりの、家族全員での食事。
母さんが腕を振るって作った豪華な料理が並ぶ。
「いただきます」
全員で食事を始める。
父が、料理を口に運んで驚く。
「美味しい…こんなに良い食材…」
「アレンが、色々と手に入れてくれたのよ」
母さんが嬉しそうに言う。
父が僕を見る。
「アレン…お前、一体何をしたんだ?」
「色々です。後で、全部話します」
食事をしながら、父が戦場のことを少し話してくれた。
「激しい戦いだった。敵は強く、味方は押されていた」
「でも、将軍が危機に陥った時…俺は、全力で戦った」
「そして、なんとか将軍を守り、戦局を立て直した」
母さんが心配そうに聞く。
「怪我は…?」
「小さな傷はあるけど、大丈夫だ。それにエレナは治癒魔法を覚えたんだろ」
「エレナの治癒魔法があれば、すぐに治る」
母さんが父の手を握る。
「後で、ちゃんと診せてね」
「ああ」
食事が終わると、僕は父に全てを話した。
冒険者になったこと。
盗賊団を倒したこと。
村が町に昇格したこと。
そして――
前世のことも、改めて説明した。
父は、全てを静かに聞いていた。
最後まで聞くと、深く息を吐いた。
「そうか…お前は、勇者だったのか…」
「はい」
「それで…今は幸せか?」
父が真剣な目で聞く。
「はい。とても幸せです」
僕は笑顔で答える。
「この家族がいて、この町があって…前世より、ずっと幸せです」
父が微笑む。
「そうか。なら、良かった」
翌日、僕は父も含めて家族全員で提案した。
「今日、グランベルの町の教会に行きたいんだ」
父が驚く。
「教会…?」
「女神セレスティアに、ちゃんとお礼を言いたいんです。この幸せな家族をくれたこと、二度目の人生をくれたこと」
母さんが微笑む。
「それはいいわね」
「父さんも、一緒に来てくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
午後、僕たち家族はグランベルの町の教会を訪れた。
立派な石造りの建物。
高い尖塔、美しいステンドグラス。
中に入ると、静謐な空気に包まれる。
祭壇の前には、女神セレスティアの像が立っていた。
美しい女性の姿。優しく微笑んでいる。
僕は祭壇の前に進み、跪く。
そして、空間収納から金貨十枚を取り出して、お布施箱に入れる。
家族も後ろで祈っている。
僕は目を閉じて、心から祈った。
「女神セレスティア、僕を転生させてくれて、ありがとうございます」
「この素晴らしい家族に出会わせてくれて、ありがとうございます」
「前世では、一人で戦い、一人で裏切られました」
「でも、この世界では、家族がいます。愛してくれる人たちがいます」
「父も、無事に帰ってきてくれました」
「これからも、この家族を、この町を、守っていきます」
「どうか、見守っていてください」
その瞬間――
祭壇から、眩い光が溢れ出した。
「え…?」
光が形を成していく。
そして――
美しい女性が現れた。
長い金色の髪、青い瞳、純白のドレス。
女神セレスティアだ。
「ハルト…やっと…やっと見つけた…」
女神が涙を流しながら、僕に駆け寄ってくる。
そして、僕を抱きしめる。
「セレスティア様…!」
僕も驚いて抱きしめ返す。
後ろで、家族が驚愕している。
父も、初めて見る女神に、跪いている。
「女神様…!」
セレスティアが顔を上げる。
「ハルト…いえ、アレン。探していたのよ。でも、転生は本当にランダムで…どこに生まれるか予測できなくて…」
「え…? でも、いつも見守ってくれてたんじゃ…?」
「?」
セレスティアが不思議そうな表情を浮かべる。
「夜、星に話しかけると、いつも輝いて返事してくれてたから…」
セレスティアが少し考える。
そして――
「…………それ、私じゃないわ。ただの星よ」
沈黙。
僕の顔が、みるみる赤くなる。
「…………」
セレスティアが、クスクスと笑い出す。
「可愛い」
「恥ずかしい…めちゃくちゃ恥ずかしい…」
僕は顔を覆う。
後ろで、家族も笑いをこらえている。
「ぷっ…」
ソフィア姉さんが吹き出しそうになっている。
マルク兄さんも口元を押さえている。
父も、微笑んでいる。
「セレスティア様…ずっと、星に話しかけてたんです…何ヶ月も…」
「それは…愛おしいわね」
セレスティアが優しく微笑む。
「でも、今日、教会で祈ってくれたから、やっと見つけられた」
「そうだったんですか…」
「ええ。教会で祈ると、私に直接届くの。だから、もっと早く教会に来てくれれば良かったのに」
セレスティアが少し拗ねたように言う。
「すみません…」
「でも、無事に会えて良かった」
セレスティアが僕の頬に手を当てる。
「幸せそうね。良い家族に恵まれて」
「はい。本当に幸せです」
僕は家族を振り返る。
家族全員が、女神に向かって跪いている。
「セレスティア様…」
母さんが震える声で言う。
「アレンを、私たちの家族にしてくださって、ありがとうございます」
父も深々と頭を下げる。
「そして、無事に家族の元に戻してくださって、ありがとうございます」
セレスティアが優しく微笑む。
「いいえ。アレンを幸せにしてくれて、私からもありがとう」
女神が家族に近づく。
「グレン、エレナ、ソフィア、マルク、レオ、リナ、そしてノエル。あなたたちは、アレンにとって何よりも大切な宝物です」
「これからも、アレンを支えてあげてください」
家族全員が頷く。
「はい!」
セレスティアが僕に向き直る。
「アレン、今夜、国王に神託を下します」
「神託…?」
「ええ。あなたが元勇者であること、そして私の使徒であることを」
僕は少し驚く。
「でも、それは…」
「大丈夫。国王は信頼できる人物です。そして、あなたにはもっと大きな舞台が必要」
セレスティアが真剣な表情になる。
「この地域だけでなく、王国全体を良くしていくために」
「わかりました」
「それと…」
セレスティアが微笑む。
「いつか、エルヴィンと再会できるでしょう」
「エルヴィン…?」
「あなたに魔法を教えてくれた、エルフの長老よ」
僕は驚く。
「まだ…生きているんですか!?」
「ええ。エルフは長命ですから。今は隠居していますが、元気にしているわ」
僕の目から、涙が溢れそうになる。
「そう…だったんですか…」
「いずれ、彼と再会する日が来るでしょう。それまで、楽しみにしていてね」
セレスティアが再び僕を抱きしめる。
「また会いましょう、アレン。教会で祈れば、いつでも会えるから」
「はい」
女神が光に包まれ、消えていく。
教会には、再び静寂が戻った。
その夜。
王都の王宮。
国王アルブレヒト三世は、執務室で書類に目を通していた。
三十代前半の若き王。真面目で誠実な性格で知られている。
その時――
部屋が眩い光に包まれた。
「何だ…!?」
光の中から、女性の声が響く。
「聞きなさい、王よ」
「この声は…まさか…」
国王が跪く。
「女神セレスティア様…!」
「そう。私はセレスティア」
光の中に、女神の姿が浮かび上がる。
「王よ、神託を授ける」
「はっ」
「アレン・ヴァルトハイムという少年を知っているか」
「はい。辺境のノイヴァルトハイム町の代表…神童と呼ばれる…」
「彼は、五百年前に魔王を討伐した勇者ハルト・タカハシの転生である」
国王が驚愕する。
「勇者の…転生…!?」
「そう。勇者ハルトは、魔王討伐後、彼を利用した王侯貴族に裏切られ、刺客を送られた。しかも苦楽を共にした仲間達を使って………」
女神の声が、悲しみに満ちる。
「その国は、私の怒りにより滅ぼされた」
「…………」
国王が震える。
「今のアレンは、私の使徒である。私の代理人である」
「彼に協力しなさい。彼を支援しなさい」
「さすれば、汝の国は繁栄するだろう」
「は、はい! 必ず!」
「良い返事だ」
女神が微笑む。
「王よ、あなたは良き王になれる。アレンの知恵を借りなさい」
「そして…アレンの父、グレン・ヴァルトハイムについても調べなさい。彼には、不当な扱いを受けた過去がある」
「はい!」
光が消え、部屋に静寂が戻る。
国王は、しばらく跪いたまま動けなかった。
そして、立ち上がると、すぐに宰相を呼んだ。
「レオンハルト、至急調査を命じる」
「グレン・ヴァルトハイムという男について、全てを調べよ」
5日後、ノイヴァルトハイム町に、王都から緊急の使者が来た。
「アレン・ヴァルトハイム殿、そしてグレン・ヴァルトハイム殿、国王陛下が至急お会いになりたいとのことです」
僕たちは家族と共に、急いで準備をした。
レオとリナは、今回はゲオルグさんに預ける。
「お兄ちゃん、また行っちゃうの…?」
「ごめんね。でも、すぐに帰ってくるから」
そして、僕たち――父、母、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル、そして僕――は王都に向かった。
王都は、父以外の家族にとって初めて訪れる場所だった。
高い城壁、立派な建物、賑やかな通り。
グランベルの町とは比べ物にならない規模だ。
「すごい…」
ソフィア姉さんが目を輝かせる。
「これが王都…」
マルク兄さんも圧倒されている。
ノエルも驚いている。
「私、初めて来た…」
父が言う。
「俺は何度か来たが…こんなにゆっくり見るのは初めてだ」
僕たちは王宮に案内された。
巨大な石造りの宮殿。
謁見の間に通されると、そこには国王が座っていた。
三十代前半の男性。厳格そうだが、目には優しさがある。
そして、その横には、宰相が立っている。
「よくぞ参られた、アレン・ヴァルトハイム殿、そしてグレン・ヴァルトハイム殿」
国王が立ち上がる。
「そして、ご家族の皆様も」
僕たちは跪く。
「初めてお目にかかります。アレン・ヴァルトハイムです」
「グレン・ヴァルトハイムです」
「面を上げられよ」
国王が優しく言う。
僕たちが顔を上げると、国王が微笑んでいる。
「まずは、公式の場でお礼を言わせていただきたい」
国王が真剣な表情になる。
「アレン殿、貴殿の功績――盗賊団の壊滅、村の復興、町への昇格――全て、王国の発展に大きく貢献している」
「ありがたき幸せです」
「そして、グレン殿。貴殿の戦功も、素晴らしいものであった」
国王が父を見る。
「押されていた戦局を立て直し、将軍を守り、勝利に導いた。その功績は、計り知れない」
父が深く頭を下げる。
「恐れ入ります」
「そして…」
国王が側近に目配せする。
側近が、二つの立派な羊皮紙を持ってくる。
「本日、二つの叙爵を行う」
謁見の間がざわつく。
同席していた貴族たちが驚いている。
「まず――アレン・ヴァルトハイム、前へ」
僕は前に出る。
「貴殿を、男爵位に叙爵する」
「七歳で…男爵…?」
「前代未聞だ…」
貴族たちが囁く。
国王が続ける。
「アレン・ヴァルトハイム、いや――アレン・フォン・ノイシュテルン」
「ノイシュテルン…新しい星…」
国王が微笑む。
「貴殿は、この国の新しい希望の星だ。だから、この家名を授ける」
「そして、領地として、ノイヴァルトハイム男爵領を授ける」
僕は驚く。
「領地…ですか?」
「そう。貴殿が発展させた町と、その周辺の土地だ。魔の森と隣接する、厳しい土地ではあるが…貴殿ならば、更に発展させられるだろう」
宰相が説明を加える。
「元の領主には、王都近くの王家所有地を与えました。彼は、より王都に近い土地を得られたと、大変喜んでおります」
僕は深々と頭を下げた。
「ありがたく頂戴いたします」
「次に――グレン・ヴァルトハイム、前へ」
父が前に出る。
「貴殿もまた、男爵位を授ける」
父が驚愕する。
「え…私に…?」
「そう。貴殿の戦功は、男爵位に値する」
国王が真剣な表情で言う。
「そして…調査の結果、貴殿が過去に不当な扱いを受けたことが判明した」
父が息を呑む。
「貴殿は元々、グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵であった」
「政治的陰謀により、不当に爵位を剥奪された。冤罪であった」
謁見の間が、静まり返る。
「貴殿の名誉を回復する。そして、戦場での武功により、改めて男爵位を授ける」
「そして、領地として、貴殿が元々所有していた土地を返還する」
父の目から、涙が溢れる。
「陛下…ありがとうございます…」
「顔を上げられよ、グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵」
父が顔を上げる。
その表情は、喜びと感動に満ちていた。
宰相が補足する。
「グレン男爵の領地は、アレン男爵の領地と隣接しております。王都寄りで、魔の森には隣接していない、より安全な土地です」
国王が微笑む。
「親子で隣接する領地。協力し合って、この地域を発展させていただきたい」
「はい!」
僕と父が同時に答える。
こうして、叙爵式が行われた。
僕は「アレン・フォン・ノイシュテルン男爵」に。
父は「グレン・フォン・ヴァルトハイム男爵」に。
同じ日に、親子二人が貴族になった。
叙爵式の後、僕たちは応接間に案内された。
そこには、国王と宰相だけがいた。
「では、ここからは非公式の話だ」
国王が真剣な表情になる。
「アレン殿」
国王と宰相が、深々と頭を下げる。
僕は驚く。
「陛下…!」
「昨夜、女神セレスティア様より、神託を賜った」
国王が説明する。
「貴殿が、五百年前の勇者ハルト・タカハシの転生者であると」
宰相も頭を下げたまま言う。
「そして、当時の王侯貴族が、貴殿を裏切り、刺客を送ったと」
「五百年前、我々人族が犯した罪…深くお詫び申し上げます」
僕は慌てて言う。
「顔を上げてください! それは、この国ではありません」
「しかし…人族として…」
「僕は、過去にとらわれていません。今を生きています」
僕は真剣に言う。
「確かに、前世では裏切られました。でも、この世界では違います」
「素晴らしい家族がいます。信頼できる仲間がいます」
「それだけで、僕は幸せです」
国王が顔を上げる。
「なんと…寛大な…」
宰相も感動している。
「ありがとうございます」
国王が微笑む。
「それでは…これからは、友人として接していただけませんか」
「友人…ですか?」
「はい。私はまだ若く、未熟です。貴殿の知恵を、お借りしたい」
国王が続ける。
「君臣関係ではなく、対等な友人として」
僕は少し考えた。
そして、微笑んだ。
「わかりました。よろしくお願いします、アルブレヒト王」
「ありがとう、アレン」
国王が嬉しそうに微笑む。
宰相も言う。
「私もです。友人として、協力させてください。私の名はレオンハルトと申します」
「こちらこそ、よろしくお願いします、レオンハルト殿」
国王が父を見る。
「グレン殿、貴殿を陥れた者たちについて…」
父が緊張する。
「調査を命じました。詳細は、後日報告させていただきます」
「ありがとうございます」
父が深々と頭を下げる。
その夜、王宮の客室で、家族全員が集まった。
「すごいことになったね…」
ソフィア姉さんが言う。
「お父さんとアレン、両方が貴族になるなんて」
マルク兄さんも頷く。
「僕たちも、貴族の子供になったんだね」
母さんが微笑む。
「でも、何も変わらないわ。私たちは家族」
父も言う。
「そうだ。爵位があっても、なくても、僕たちは家族だ」
ノエルが少し心配そうに言う。
「でも…私は…血が繋がってないから…」
母さんがノエルを抱きしめる。
「何を言ってるの。あなたも立派な家族よ」
父も頷く。
「ノエルは、正式にヴァルトハイム家の養子だ。何も心配いらない」
ノエルが涙を流す。
「ありがとう…」
僕は家族を見回した。
みんなの笑顔。
温かな雰囲気。
「これからも、家族みんなで頑張ろうね」
全員が頷く。
「うん!」
それから、三週間後。
王宮の一室で、国王、宰相、そして僕と父が集まっていた。
「グレン男爵、報告があります」
宰相レオンハルトが、羊皮紙の束を父に渡す。
「貴殿を陥れた者たちの調査が完了しました」
父が緊張した表情で羊皮紙を受け取る。
「主犯は、バルトロメウス伯爵家、リヒター男爵家、そしてフォーゲル男爵家の三家でした」
宰相が淡々と説明する。
「彼らは、貴殿を陥れただけでなく、様々な不正を働いていました」
「税の横領、賄賂の受領、領民への不当な搾取…」
「国王陛下直属の諜報部が、全ての証拠を集めました」
国王が厳しい表情で言う。
「彼らには、相応の罰を与えた」
「主犯三名は、全ての爵位と領地を剥奪。奴隷に落とした」
「その家族は、平民に落とした」
「そして、全ての財産は没収した」
父が息を呑む。
「それほどまでに…」
「当然の報いだ」
国王が続ける。
「そして、グレン男爵…没収した財産は、全て貴殿に譲渡する」
父が驚愕する。
「全て…ですか…!?」
「そう。冤罪の賠償として、正当な権利だ」
宰相が羊皮紙を渡す。
「財産目録です。金貨約三千枚、王都の貴族街の邸宅二軒、宝石類、美術品…合計すると、相当な額になります」
父が震える手で、羊皮紙を受け取る。
「こんなに…」
「失われた十年への補償としては、むしろ少ないくらいだ」
国王が微笑む。
「これで、領地経営も安定するでしょう」
父が深々と頭を下げる。
「ありがとうございます…陛下…」
「礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」
僕も父の横で頭を下げる。
正義が、ちゃんと果たされた。
父の名誉が、完全に回復された。
その夜、町に戻った僕たちは、屋敷で家族会議を開いた。
「信じられない…」
母さんが呆然としている。
「金貨三千枚…」
ソフィア姉さんも驚いている。
「私たち…本当に貴族になったんだね…」
マルク兄さんも実感が湧いていないようだ。
父が言う。
「でも、この財産は、領地の発展に、町の発展に、そして家族の幸せのために使おう。それと、王都の屋敷の一軒はアレンに渡すから、好きに使いなさい。王都の貴族街に邸宅を持つのは、貴族としての格を示す為にもあった方が良い。くだらん考えだが、それでもこんな事で見下されたりしない様にする事は、貴族としての処世術の1つだからな」
母さんが微笑む。
「そうね。みんなで、幸せになりましょう」
僕は窓の外を見上げた。
満天の星空が広がっている。
でも、もう星に話しかけたりしない。
恥ずかしいから。
「セレスティア様、ありがとうございます」
心の中で呟く。
「父も帰ってきて、名誉も回復されました」
「これからも、見守っていてください」
そして、僕は思い出す。
エルヴィン…五百年前、僕に魔法を教えてくれたエルフの長老。
まだ生きている。
いつか、必ず再会したい。
明日から、また新しい日々が始まる。
貴族として。
町の代表として。
そして、女神の使徒として。
でも、一番大切なのは――
家族の一員として。
父も戻ってきた、完全な家族で。
僕の二度目の人生は、まだまだ続いていく。
次回:第21話「貴族としての責任、そして新たな挑戦」0
第5章「新たな始まり」
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