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第2部 第1章「迫りくる戦火」
第29話「商人の警告」
第29話「商人の警告」
グロスマンとの取引が始まってから、四ヶ月が経った。
月に一度、グロスマンは町を訪れる。
そして、ミスリルと金銀銅のインゴットを買い取り、代わりに様々な情報を提供してくれる。
王都の政治情勢、各地の動き、商業の流れ…
グロスマンの情報は、常に正確で、貴重だった。
取引の規模も、徐々に拡大していた。
今では、月に金貨五百枚規模になっている。
信頼関係は、確実に深まっていた。
ある秋の日。
いつものように、グロスマンが町を訪れた。
でも、今日は様子が違う。
グロスマンの表情が、いつもより硬い。
「アレン男爵、緊急でお話があります。グレン男爵とエルヴィン様も、お呼びいただけますか」
僕は驚く。
グロスマンが、こんなに深刻な表情を見せるのは初めてだ。
「わかりました。すぐに」
屋敷の書斎に、僕、父、エルヴィン、そしてグロスマンが集まった。
母さん、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも同席している。
グロスマンが、重い口を開く。
「アレン男爵…非常に憂慮すべき情報が入りました」
グロスマンが資料を広げる。
「隣国、ヴェルデン王国の動きが、怪しいのです」
「隣国…?」
「はい。ここ数ヶ月、ヴェルデン王国が大規模な軍備増強を行っています。兵の訓練、武器の調達、食料の備蓄…全てが、戦争準備を示しています」
父が厳しい表情になる。
「それは…侵攻の準備か?」
「可能性は高いです。しかし、問題はそれだけではありません」
グロスマンが続ける。
「さらに悪いことに…この王国の貴族の中にも、ヴェルデン王国と通じている者がいる可能性があります」
全員が息を呑む。
「貴族が…裏切りを…?」
母さんが信じられないという表情だ。
「はい。私の情報網では、少なくとも十名以上の貴族が、ヴェルデン王国と密かに接触しているという報告があります。特に、国境に近い領地を持つ古い貴族たちです」
グロスマンが地図を広げる。
「この辺りの貴族たちです。彼らは、国王陛下の改革に強く反発しています。『古き秩序を守る会』の残党も含まれているでしょう」
エルヴィンが言う。
「内乱と外患…同時に来るというわけか」
「その可能性が高いです。しかし…」
グロスマンが悔しそうに言う。
「確実な証拠がありません。全て、状況証拠と噂だけです。これでは、貴族を裁くことはできません」
父が拳を握りしめる。
「証拠がなければ、動けないのか…」
「はい。下手に動けば、逆に彼らを警戒させてしまいます。しかし、何もしなければ…」
僕は考える。
これは、非常に危険な状況だ。
でも、証拠がない。
「グロスマンさん、この情報は、国王陛下に伝えるべきですか?」
「はい。少なくとも、警戒はしていただくべきだと思います。ただし、証拠不足であることも伝えなければなりません」
その日の午後、僕は家族とエルヴィンで会議を開いた。
「グロスマンさんの情報…信じられますか?」
僕が聞く。
父が言う。
「グロスマンは、これまで一度も間違った情報を伝えたことがない。信頼できる」
エルヴィンが言う。
「わしもそう思う。それに、状況を見れば、可能性は高い。国王陛下の改革に反発する貴族は多い。彼らが、隣国と手を組むことは、十分にあり得る」
ソフィア姉さんが言う。
「でも、証拠がないんでしょ? どうすればいいの?」
「まずは、国王陛下に報告する。そして…」
僕は少し考える。
「僕たちも、準備を始めるべきだと思います」
「準備…?」
「はい。もし、本当に戦争が起きたら…僕たちの領地も、狙われる可能性があります。魔の森に隣接していて、戦略的に重要な場所ですから」
父が頷く。
「そうだな。警備を強化し、町の防衛を固める必要がある」
マルク兄さんが言う。
「冒険者たちにも、協力を要請すべきだね」
「そうですね」
その夜、僕は一人で教会を訪れた。
祭壇の前で、祈る。
「セレスティア様…大変なことになりそうです。王国に、危機が迫っています。どうか、導いてください」
すると――
祭壇から、微かな光が溢れる。
女神セレスティアが、姿を現す。
でも、いつもより姿が薄い。
「アレン…」
「セレスティア様!」
セレスティアが、少し疲れた表情で微笑む。
「ごめんなさい、アレン。今、私は…神界で問題になっているの」
「問題…?」
「あなたに、あまりにも肩入れしすぎていると。他の神々から、批判されているわ。だから、今は大っぴらに力を貸すことができないの」
セレスティアが悲しそうに言う。
「でも、重要なことだけは伝えるわ。神託として」
セレスティアが真剣な表情になる。
「アレン、グロスマンの情報は正しい。ヴェルデン王国は、この王国に侵攻する準備をしている。そして、内部の裏切り者たちも、確実に存在する」
「やはり…」
「準備をしなさい。あなたと、あなたの家族を。そして、信頼できる者たちを。来るべき戦いに備えて」
「わかりました」
「それと…」
セレスティアが、優しく微笑む。
「あなたは、一人じゃない。家族がいる。仲間がいる。エルヴィンがいる。そして、私も、見守っている。制約があっても、できる限りのことはするわ」
「ありがとうございます、セレスティア様」
セレスティアの姿が、ゆっくりと消えていく。
「頑張って、アレン。あなたなら、きっとできる」
翌日、僕と父は、国王への書状を書いた。
グロスマンの情報を、全て記載する。
そして、証拠不足であることも正直に伝える。
書状は、王国騎士団の使者に託された。
「国王陛下に、確実にお届けください」
「承知いたしました」
数日後、国王から返事が来た。
「アレン男爵
情報、感謝する。
すでに、我々も同様の情報を得ていた。
ヴェルデン王国の動き、そして内部の裏切り者の存在。
しかし、貴殿の言う通り、証拠が不足している。
現時点では、警戒を強めることしかできない。
各領主に、防衛の準備を指示した。
貴殿の領地も、魔の森に隣接し、戦略的に重要である。
十分に警備を強化してほしい。
何か動きがあれば、すぐに報告を。
国王 アルブレヒト三世」
僕は手紙を読み、頷く。
「国王陛下も、同じ情報を持っていたんだ」
父が言う。
「ということは、事態は深刻だ。アレン、本格的に準備を始めよう」
「はい」
その日の午後、父が重大な提案をした。
「アレン、騎士団を作ろう」
「騎士団…?」
「ああ。正式な、領地の騎士団だ。今の町の警備隊では、本格的な戦争には対応できない」
父が続ける。
「俺には、かつて戦場で共に戦った仲間がいる。信頼できる戦士たちだ。彼らを集めて、二つの領地の騎士団を作る」
「でも、人数は…?」
「各領地百名ずつ。合計二百名。少数精鋭だ」
父が真剣に言う。
「そして、お前が彼らに魔法を教えるんだ。身体強化魔法、属性魔法…お前とエルヴィンの指導で、彼らを鍛え上げる」
エルヴィンが言う。
「良い案だ。グレン殿の元同僚なら、戦闘経験も豊富だろう。魔法を習得すれば、相当な戦力になる」
僕は考える。
二百名の騎士団。
全員に魔法を教える。
それは、大変な作業だ。
でも――
「やりましょう。家族と、町を守るために」
父が微笑む。
「ありがとう、アレン」
翌日から、父は元同僚たちに連絡を取り始めた。
手紙を書き、使者を送り、直接会いに行く。
「グレン! 久しぶりだな!」
「お前、男爵になったんだってな!」
父の元同僚たちが、次々と集まってくる。
かつて戦場で共に戦った、歴戦の戦士たち。
父が彼らに説明する。
「実は、頼みがある。俺の領地の騎士団に、入ってくれないか」
「騎士団…?」
「ああ。王国に、危機が迫っている。詳しくは言えないが、大規模な戦争になる可能性がある。俺は、家族と領地を守りたい。そのために、お前たちの力が必要なんだ」
元同僚たちが、顔を見合わせる。
そして――
「グレン、お前と一緒なら、どこへでも行くぜ」
「俺たちは、お前の部下だ。お前が呼ぶなら、駆けつける」
一人、また一人と、父の元に集まる。
かつての戦友たち。
信頼で結ばれた仲間たち。
一週間後、百名の戦士が集まった。
ノイシュテルン領の騎士団候補だ。
さらに一週間後、もう百名が集まった。
ヴァルトハイム領の騎士団候補だ。
合計二百名。
全員、父が信頼する、歴戦の戦士たちだ。
屋敷の大広場に、二百名の戦士が整列している。
僕と父、エルヴィン、そして家族全員が前に立つ。
父が前に出る。
「みんな、集まってくれてありがとう。お前たちは、今日から、ノイシュテルン領とヴァルトハイム領の騎士団だ」
戦士たちが、拳を胸に当てて敬礼する。
「そして、これから、特別な訓練を受けてもらう。魔法の訓練だ」
戦士たちがざわつく。
「魔法…?」
「俺たちが…?」
父が続ける。
「教えるのは、俺の息子、アレン・フォン・ノイシュテルン男爵と、エルフの長老エルヴィン様だ」
僕が前に出る。
「初めまして。アレン・フォン・ノイシュテルンです。まだ九歳ですが、精一杯指導させていただきます」
戦士たちが、少し驚いている。
でも、父を信頼しているから、黙って聞いている。
「ただし…」
僕は真剣な表情になる。
「この訓練を受ける前に、一つだけ確認させてください。皆さん全員を、私の能力で確認させていただきます」
父が驚く。
「アレン…?」
「はい。父さんが信頼する方々だとは思いますが、念のため…神眼で確認させてください」
戦士たちが少しざわつく。
でも、誰も反対しない。
一人の年配の戦士が前に出る。
「当然だ。俺たちに魔法を教えるんだ。信頼できるかどうか、確認するのは当たり前だ」
僕は頷く。
「ありがとうございます」
僕は神眼を発動する。
二百名全員を、一人一人、丁寧に確認していく。
一人目。
悪意なし。純粋に父を信頼している。
二人目。
悪意なし。家族を守りたいという強い意志。
三人目。
悪意なし。父への恩義を返したいという思い。
四人目、五人目、十人目…
全員、同じだ。
悪意が、一切ない。
裏切りの気配も、隠し事も、何もない。
ただ、父グレンへの信頼と、仲間への絆だけがある。
五十人、百人…
僕は確認を続ける。
そして――
二百人全員、確認が終わった。
僕は驚愕していた。
二百人全員。
一人の例外もなく。
全員が、心から父を信頼している。
全員が、純粋に父のために集まった。
裏切り者など、一人もいない。
僕は、涙が溢れそうになるのを堪える。
「確認、終わりました」
僕が言う。
父が心配そうに聞く。
「どうだった?」
「父さん…」
僕は父を見る。
そして、はっきりと言う。
「二百人全員、信頼できます。一人の例外もなく、全員が心から父さんを信頼しています。裏切り者は、一人もいません」
父が目を見開く。
「全員…?」
「はい。全員です」
僕は戦士たちを見回す。
「皆さん…ありがとうございます。皆さんの父への信頼、仲間への絆…心から感じました」
戦士たちが、笑顔になる。
「当たり前だ! グレンは、俺たちの命の恩人だ!」
「戦場で、何度も助けてもらった!」
「グレンのためなら、命だって惜しくない!」
次々と、声が上がる。
父が、目を潤ませている。
「みんな…」
僕は、父の偉大さを改めて感じた。
二百人もの戦士が、心から父を信頼している。
これは、並大抵のことではない。
父は、戦場でどれだけ多くの人を助けたのだろう。
どれだけ多くの命を救ったのだろう。
どれだけ多くの人に、信頼されていたのだろう。
「父さん…すごいです」
僕は心から言う。
父が照れくさそうに笑う。
「いや、俺は…ただ、当たり前のことをしただけだ」
「いいえ、父さんは本当にすごいです。二百人全員から、これほど信頼されるなんて…」
エルヴィンも微笑む。
「グレン殿、お前は本当に立派な戦士だったんだな。そして、立派な人間だ」
母さんも、誇らしげに父を見ている。
ソフィア姉さんとマルク兄さんも、父を尊敬の眼差しで見ている。
ノエルも、双子も。
みんな、父を誇りに思っている。
父が咳払いをする。
「さて、では…訓練を始めよう」
僕が前に出る。
「はい。エルヴィン様も、お願いします」
エルヴィンが前に出る。
「わしは、エルヴィン。エルフの長老だ。お前たちに、魔法を教える。厳しい訓練になるが、ついてこい」
僕が宣言する。
「これから七ヶ月間、訓練を行います。身体強化魔法、そして各自に合った属性魔法を習得してもらいます。終わる頃には、人族を超える力を手に入れているでしょう」
戦士たちの目が、輝き始める。
「よし、やるぞ!」
「グレンの息子なら、信じる!」
その日から、過酷な訓練が始まった。
朝から晩まで、休みなく。
僕とエルヴィンが、二百名全員に魔法を教える。
家族も、訓練に参加する。
父、母、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル。
そして、双子も。
全員で、さらなる高みを目指す。
来るべき戦いに備えて。
窓の外を見上げると、秋の空が広がっていた。
嵐の前の静けさ。
でも、僕たちは準備する。
家族を守るために。
町を守るために。
王国を守るために。
そして――
父への信頼に応えるために。
次回:第30話「七ヶ月の鍛錬」
グロスマンとの取引が始まってから、四ヶ月が経った。
月に一度、グロスマンは町を訪れる。
そして、ミスリルと金銀銅のインゴットを買い取り、代わりに様々な情報を提供してくれる。
王都の政治情勢、各地の動き、商業の流れ…
グロスマンの情報は、常に正確で、貴重だった。
取引の規模も、徐々に拡大していた。
今では、月に金貨五百枚規模になっている。
信頼関係は、確実に深まっていた。
ある秋の日。
いつものように、グロスマンが町を訪れた。
でも、今日は様子が違う。
グロスマンの表情が、いつもより硬い。
「アレン男爵、緊急でお話があります。グレン男爵とエルヴィン様も、お呼びいただけますか」
僕は驚く。
グロスマンが、こんなに深刻な表情を見せるのは初めてだ。
「わかりました。すぐに」
屋敷の書斎に、僕、父、エルヴィン、そしてグロスマンが集まった。
母さん、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエルも同席している。
グロスマンが、重い口を開く。
「アレン男爵…非常に憂慮すべき情報が入りました」
グロスマンが資料を広げる。
「隣国、ヴェルデン王国の動きが、怪しいのです」
「隣国…?」
「はい。ここ数ヶ月、ヴェルデン王国が大規模な軍備増強を行っています。兵の訓練、武器の調達、食料の備蓄…全てが、戦争準備を示しています」
父が厳しい表情になる。
「それは…侵攻の準備か?」
「可能性は高いです。しかし、問題はそれだけではありません」
グロスマンが続ける。
「さらに悪いことに…この王国の貴族の中にも、ヴェルデン王国と通じている者がいる可能性があります」
全員が息を呑む。
「貴族が…裏切りを…?」
母さんが信じられないという表情だ。
「はい。私の情報網では、少なくとも十名以上の貴族が、ヴェルデン王国と密かに接触しているという報告があります。特に、国境に近い領地を持つ古い貴族たちです」
グロスマンが地図を広げる。
「この辺りの貴族たちです。彼らは、国王陛下の改革に強く反発しています。『古き秩序を守る会』の残党も含まれているでしょう」
エルヴィンが言う。
「内乱と外患…同時に来るというわけか」
「その可能性が高いです。しかし…」
グロスマンが悔しそうに言う。
「確実な証拠がありません。全て、状況証拠と噂だけです。これでは、貴族を裁くことはできません」
父が拳を握りしめる。
「証拠がなければ、動けないのか…」
「はい。下手に動けば、逆に彼らを警戒させてしまいます。しかし、何もしなければ…」
僕は考える。
これは、非常に危険な状況だ。
でも、証拠がない。
「グロスマンさん、この情報は、国王陛下に伝えるべきですか?」
「はい。少なくとも、警戒はしていただくべきだと思います。ただし、証拠不足であることも伝えなければなりません」
その日の午後、僕は家族とエルヴィンで会議を開いた。
「グロスマンさんの情報…信じられますか?」
僕が聞く。
父が言う。
「グロスマンは、これまで一度も間違った情報を伝えたことがない。信頼できる」
エルヴィンが言う。
「わしもそう思う。それに、状況を見れば、可能性は高い。国王陛下の改革に反発する貴族は多い。彼らが、隣国と手を組むことは、十分にあり得る」
ソフィア姉さんが言う。
「でも、証拠がないんでしょ? どうすればいいの?」
「まずは、国王陛下に報告する。そして…」
僕は少し考える。
「僕たちも、準備を始めるべきだと思います」
「準備…?」
「はい。もし、本当に戦争が起きたら…僕たちの領地も、狙われる可能性があります。魔の森に隣接していて、戦略的に重要な場所ですから」
父が頷く。
「そうだな。警備を強化し、町の防衛を固める必要がある」
マルク兄さんが言う。
「冒険者たちにも、協力を要請すべきだね」
「そうですね」
その夜、僕は一人で教会を訪れた。
祭壇の前で、祈る。
「セレスティア様…大変なことになりそうです。王国に、危機が迫っています。どうか、導いてください」
すると――
祭壇から、微かな光が溢れる。
女神セレスティアが、姿を現す。
でも、いつもより姿が薄い。
「アレン…」
「セレスティア様!」
セレスティアが、少し疲れた表情で微笑む。
「ごめんなさい、アレン。今、私は…神界で問題になっているの」
「問題…?」
「あなたに、あまりにも肩入れしすぎていると。他の神々から、批判されているわ。だから、今は大っぴらに力を貸すことができないの」
セレスティアが悲しそうに言う。
「でも、重要なことだけは伝えるわ。神託として」
セレスティアが真剣な表情になる。
「アレン、グロスマンの情報は正しい。ヴェルデン王国は、この王国に侵攻する準備をしている。そして、内部の裏切り者たちも、確実に存在する」
「やはり…」
「準備をしなさい。あなたと、あなたの家族を。そして、信頼できる者たちを。来るべき戦いに備えて」
「わかりました」
「それと…」
セレスティアが、優しく微笑む。
「あなたは、一人じゃない。家族がいる。仲間がいる。エルヴィンがいる。そして、私も、見守っている。制約があっても、できる限りのことはするわ」
「ありがとうございます、セレスティア様」
セレスティアの姿が、ゆっくりと消えていく。
「頑張って、アレン。あなたなら、きっとできる」
翌日、僕と父は、国王への書状を書いた。
グロスマンの情報を、全て記載する。
そして、証拠不足であることも正直に伝える。
書状は、王国騎士団の使者に託された。
「国王陛下に、確実にお届けください」
「承知いたしました」
数日後、国王から返事が来た。
「アレン男爵
情報、感謝する。
すでに、我々も同様の情報を得ていた。
ヴェルデン王国の動き、そして内部の裏切り者の存在。
しかし、貴殿の言う通り、証拠が不足している。
現時点では、警戒を強めることしかできない。
各領主に、防衛の準備を指示した。
貴殿の領地も、魔の森に隣接し、戦略的に重要である。
十分に警備を強化してほしい。
何か動きがあれば、すぐに報告を。
国王 アルブレヒト三世」
僕は手紙を読み、頷く。
「国王陛下も、同じ情報を持っていたんだ」
父が言う。
「ということは、事態は深刻だ。アレン、本格的に準備を始めよう」
「はい」
その日の午後、父が重大な提案をした。
「アレン、騎士団を作ろう」
「騎士団…?」
「ああ。正式な、領地の騎士団だ。今の町の警備隊では、本格的な戦争には対応できない」
父が続ける。
「俺には、かつて戦場で共に戦った仲間がいる。信頼できる戦士たちだ。彼らを集めて、二つの領地の騎士団を作る」
「でも、人数は…?」
「各領地百名ずつ。合計二百名。少数精鋭だ」
父が真剣に言う。
「そして、お前が彼らに魔法を教えるんだ。身体強化魔法、属性魔法…お前とエルヴィンの指導で、彼らを鍛え上げる」
エルヴィンが言う。
「良い案だ。グレン殿の元同僚なら、戦闘経験も豊富だろう。魔法を習得すれば、相当な戦力になる」
僕は考える。
二百名の騎士団。
全員に魔法を教える。
それは、大変な作業だ。
でも――
「やりましょう。家族と、町を守るために」
父が微笑む。
「ありがとう、アレン」
翌日から、父は元同僚たちに連絡を取り始めた。
手紙を書き、使者を送り、直接会いに行く。
「グレン! 久しぶりだな!」
「お前、男爵になったんだってな!」
父の元同僚たちが、次々と集まってくる。
かつて戦場で共に戦った、歴戦の戦士たち。
父が彼らに説明する。
「実は、頼みがある。俺の領地の騎士団に、入ってくれないか」
「騎士団…?」
「ああ。王国に、危機が迫っている。詳しくは言えないが、大規模な戦争になる可能性がある。俺は、家族と領地を守りたい。そのために、お前たちの力が必要なんだ」
元同僚たちが、顔を見合わせる。
そして――
「グレン、お前と一緒なら、どこへでも行くぜ」
「俺たちは、お前の部下だ。お前が呼ぶなら、駆けつける」
一人、また一人と、父の元に集まる。
かつての戦友たち。
信頼で結ばれた仲間たち。
一週間後、百名の戦士が集まった。
ノイシュテルン領の騎士団候補だ。
さらに一週間後、もう百名が集まった。
ヴァルトハイム領の騎士団候補だ。
合計二百名。
全員、父が信頼する、歴戦の戦士たちだ。
屋敷の大広場に、二百名の戦士が整列している。
僕と父、エルヴィン、そして家族全員が前に立つ。
父が前に出る。
「みんな、集まってくれてありがとう。お前たちは、今日から、ノイシュテルン領とヴァルトハイム領の騎士団だ」
戦士たちが、拳を胸に当てて敬礼する。
「そして、これから、特別な訓練を受けてもらう。魔法の訓練だ」
戦士たちがざわつく。
「魔法…?」
「俺たちが…?」
父が続ける。
「教えるのは、俺の息子、アレン・フォン・ノイシュテルン男爵と、エルフの長老エルヴィン様だ」
僕が前に出る。
「初めまして。アレン・フォン・ノイシュテルンです。まだ九歳ですが、精一杯指導させていただきます」
戦士たちが、少し驚いている。
でも、父を信頼しているから、黙って聞いている。
「ただし…」
僕は真剣な表情になる。
「この訓練を受ける前に、一つだけ確認させてください。皆さん全員を、私の能力で確認させていただきます」
父が驚く。
「アレン…?」
「はい。父さんが信頼する方々だとは思いますが、念のため…神眼で確認させてください」
戦士たちが少しざわつく。
でも、誰も反対しない。
一人の年配の戦士が前に出る。
「当然だ。俺たちに魔法を教えるんだ。信頼できるかどうか、確認するのは当たり前だ」
僕は頷く。
「ありがとうございます」
僕は神眼を発動する。
二百名全員を、一人一人、丁寧に確認していく。
一人目。
悪意なし。純粋に父を信頼している。
二人目。
悪意なし。家族を守りたいという強い意志。
三人目。
悪意なし。父への恩義を返したいという思い。
四人目、五人目、十人目…
全員、同じだ。
悪意が、一切ない。
裏切りの気配も、隠し事も、何もない。
ただ、父グレンへの信頼と、仲間への絆だけがある。
五十人、百人…
僕は確認を続ける。
そして――
二百人全員、確認が終わった。
僕は驚愕していた。
二百人全員。
一人の例外もなく。
全員が、心から父を信頼している。
全員が、純粋に父のために集まった。
裏切り者など、一人もいない。
僕は、涙が溢れそうになるのを堪える。
「確認、終わりました」
僕が言う。
父が心配そうに聞く。
「どうだった?」
「父さん…」
僕は父を見る。
そして、はっきりと言う。
「二百人全員、信頼できます。一人の例外もなく、全員が心から父さんを信頼しています。裏切り者は、一人もいません」
父が目を見開く。
「全員…?」
「はい。全員です」
僕は戦士たちを見回す。
「皆さん…ありがとうございます。皆さんの父への信頼、仲間への絆…心から感じました」
戦士たちが、笑顔になる。
「当たり前だ! グレンは、俺たちの命の恩人だ!」
「戦場で、何度も助けてもらった!」
「グレンのためなら、命だって惜しくない!」
次々と、声が上がる。
父が、目を潤ませている。
「みんな…」
僕は、父の偉大さを改めて感じた。
二百人もの戦士が、心から父を信頼している。
これは、並大抵のことではない。
父は、戦場でどれだけ多くの人を助けたのだろう。
どれだけ多くの命を救ったのだろう。
どれだけ多くの人に、信頼されていたのだろう。
「父さん…すごいです」
僕は心から言う。
父が照れくさそうに笑う。
「いや、俺は…ただ、当たり前のことをしただけだ」
「いいえ、父さんは本当にすごいです。二百人全員から、これほど信頼されるなんて…」
エルヴィンも微笑む。
「グレン殿、お前は本当に立派な戦士だったんだな。そして、立派な人間だ」
母さんも、誇らしげに父を見ている。
ソフィア姉さんとマルク兄さんも、父を尊敬の眼差しで見ている。
ノエルも、双子も。
みんな、父を誇りに思っている。
父が咳払いをする。
「さて、では…訓練を始めよう」
僕が前に出る。
「はい。エルヴィン様も、お願いします」
エルヴィンが前に出る。
「わしは、エルヴィン。エルフの長老だ。お前たちに、魔法を教える。厳しい訓練になるが、ついてこい」
僕が宣言する。
「これから七ヶ月間、訓練を行います。身体強化魔法、そして各自に合った属性魔法を習得してもらいます。終わる頃には、人族を超える力を手に入れているでしょう」
戦士たちの目が、輝き始める。
「よし、やるぞ!」
「グレンの息子なら、信じる!」
その日から、過酷な訓練が始まった。
朝から晩まで、休みなく。
僕とエルヴィンが、二百名全員に魔法を教える。
家族も、訓練に参加する。
父、母、ソフィア姉さん、マルク兄さん、ノエル。
そして、双子も。
全員で、さらなる高みを目指す。
来るべき戦いに備えて。
窓の外を見上げると、秋の空が広がっていた。
嵐の前の静けさ。
でも、僕たちは準備する。
家族を守るために。
町を守るために。
王国を守るために。
そして――
父への信頼に応えるために。
次回:第30話「七ヶ月の鍛錬」
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タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
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処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
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