39 / 65
第2部 第2章「改革の波」
第39話「醸造品の完成と商機」
第39話「醸造品の完成と商機」
フェルゼン領から戻って、一週間が経った。
アダルベルトの逮捕と土地改革の成功により、フェルゼン領は大きく変わった。
マティアスを正式な代官に任命し、改革を任せた。
彼なら、きっとうまくやってくれる。
そして――
醸造の方も、大きな進展があった。
リトヴァル族の老職人リーブが、僕のもとに報告に来た。
「アレン様、完成しました」
「本当ですか!?」
「はい。時間加速魔法のおかげで、外の世界では四ヶ月ですが、熟成室内では四年が経過しました」
僕は、急いで酒蔵に向かった。
リトア、エルヴィン、そして家族も一緒だ。
熟成室の扉を開ける。
中には、樽が並んでいる。
老職人リーブが、一つの樽を開ける。
日本酒だ。
透明で、美しい液体。
香りが、広がる。
芳醇な、米の香り。
「これは…!」
僕は、前世を思い出す。
日本酒の香りだ。
老職人リーブが、猪口に注ぐ。
「どうぞ」
僕は、一口飲む。
――美味い。
本当に、美味い。
まろやかで、深みがあって。
前世で飲んだ日本酒に、負けていない。
いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。
「すごい…本当に、すごいです…」
老職人リーブが、嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。我々も、満足のいく出来です」
次は、味噌。
深い色をしている。
香りも、しっかりしている。
少し舐めてみる。
――これも、完璧だ。
塩味と旨味のバランスが絶妙。
醤油も同じ。
深い色、良い香り、バランスの取れた味。
そして――
ウイスキーとブランデー。
樽から注がれる、琥珀色の液体。
香りが、素晴らしい。
木の香り、果実の香り、複雑な香り。
一口飲む。
――これは…
前世でも、こんなに美味しいウイスキーは、なかなか飲めなかった。
まろやかで、深みがあって、余韻が長い。
ブランデーも同じ。
果実の甘み、木の香り、全てが調和している。
「完璧です…」
僕は、感動している。
すると父が
「アレン、お前達が造っているから試飲は仕方ないが、まだ子供のお前には、酒は体に良くないだろう。だから、試飲だけだぞ」
と、父からしっかりと釘をさされて、自分が子供だった事を今更ながらに思い出す。
しかし何故子供のアレンが、酒を美味いと感じられるのかは、考えていないアレンだった。
そして家族も、試飲する。
父が、ウイスキーを飲んで驚く。
「これは…すごい酒だ…」
母も、日本酒を飲んで感動している。
「こんなに美味しいお酒、初めて…」
ソフィア姉さんも、ブランデーを飲んで目を輝かせる。
「甘くて、でも深みがあって…!」
マルク兄さんも頷く。
「これなら、貴族たちも喜ぶだろうな」
ノエルも、味噌と醤油を試している。
「これ…料理に使ったら、すごく美味しくなりそう…」
双子は、まだお酒は飲めないので、味噌汁を飲んでいる。
「美味しい!」
「この味、好き!」
エルヴィンも、日本酒を飲んで感心している。
「人族が作る酒の中で、最高峰だな。いや、他種族の酒と比べても、負けていない」
リトアも、誇らしげだ。
「我が族の技術が、こうして認められて…嬉しいです」
翌日、グロスマンを新領地に招待した。
彼は、王都から三日かけて来てくれた。
「アレン伯爵、お久しぶりです」
「グロスマンさん、来てくれてありがとうございます」
「いえいえ。緊急の呼び出しとのことでしたが…何か重要な話ですか?」
「はい。見ていただきたいものがあります」
僕は、グロスマンを酒蔵に案内した。
リトヴァル族の職人たちが、準備をしている。
「これは…酒蔵ですか?」
「はい。そして、これから試飲していただくのは…この世界にはまだ存在しなかった酒です」
グロスマンの目が、輝く。
商人の本能が、反応している。
「新しい酒…ですか」
「はい。まず、これを」
職人が、日本酒を注ぐ。
グロスマンが、香りを嗅ぐ。
「これは…なんという香り…」
一口飲む。
――グロスマンの目が、大きく見開かれる。
「こ、これは…!」
言葉を失っている。
もう一口、飲む。
「信じられない…こんな酒、見たことがない…!」
次に、ウイスキーを出す。
琥珀色の液体。
グロスマンが、また香りを嗅ぐ。
「この香りは…木の香りと…穀物の香りと…」
一口飲む。
――グロスマンが、固まる。
数秒間、動かない。
そして――
「…これは、革命です」
グロスマンが、真剣な表情で言う。
「この酒は、世界を変えます」
「そんなに…?」
「はい。私は、商人として三十年以上、様々な酒を扱ってきました。でも、これほどの酒は、初めてです」
グロスマンが、ブランデーも試す。
そして、味噌と醤油も。
全てを試した後、グロスマンは深々と頭を下げた。
「アレン伯爵、この商品の独占販売権を、私にいただけませんか」
「独占…ですか?」
「はい。私の全商会網を使って、この酒を世界中に広めます」
グロスマンが、真剣だ。
「ただし、問題があります」
「何ですか?」
「生産量です。これだけの品質の酒を、大量に作るのは難しいでしょう」
僕は頷く。
「その通りです。時間加速魔法を使っても、熟成室の数に限りがあります。当面は、少量生産です」
「では、戦略を変えましょう」
グロスマンが、商人の顔になる。
「少量生産なら、超高級品として売り出します。王侯貴族向けの、最高級品として」
「価格は…?」
「日本酒とウイスキーとブランデーは、一本…金貨十枚」
僕は驚く。
金貨十枚は、平民の一年分の収入に近い。
「そんなに…高くても…」
「売れます。間違いなく。この品質なら、貴族たちは喜んで買います」
グロスマンが続ける。
「味噌と醤油は、少し安くしましょう。金貨一枚で、小瓶一つ。これも、高級調味料として」
「わかりました。では、最初の出荷量は…」
「日本酒、ウイスキー、ブランデー、それぞれ五十本ずつ。味噌と醤油は、百瓶ずつ。これで、様子を見ましょう」
契約が成立した。
一週間後。
グロスマンが、王都の貴族たちに試飲会を開いた。
招待されたのは、上級貴族三十名。
公爵、侯爵、伯爵たち。
王国で最も裕福で、影響力のある人々だ。
試飲会の様子を、グロスマンから手紙で聞いた。
貴族たちは、最初は懐疑的だったらしい。
「また新しい酒か」
「どうせ、大したことないだろう」
でも、一口飲んだ瞬間――
全員が、驚愕したという。
「これは…!」
「なんという…!」
「こんな酒、初めてだ…!」
試飲会は、大成功。
その場で、注文が殺到した。
五十本の日本酒、全て売れた。
ウイスキーも、ブランデーも、全て売れた。
味噌と醤油も、あっという間に完売。
そして、さらなる注文が来ている。
「もっと欲しい」
「いくらでも買う」
グロスマンからの手紙には、こう書いてあった。
「生産を増やせませんか? 注文が、止まりません」
僕は、リトアと相談した。
「生産を増やすには…」
「熟成室を増やす必要があります」
「それと、職人も増やさなければ」
リトアが頷く。
「我が族から、さらに職人を呼びましょう。醸造の技術を持つ者が、まだいます」
「そして、熟成室も、もう二つ作りましょう」
建設ギルドに依頼して、新しい熟成室を作る。
そして、リトヴァル族の職人を二十名追加する。
生産体制を、少しずつ拡大していく。
同じ頃、僕は他の管理領地でも人材を発掘していた。
九つの領地を巡り、神眼で確認しながら、信頼できる人材を探す。
フェルゼン領以外の八領地から、それぞれ優秀な人材を見つけた。
クララ(25歳女性、旧商人の娘)――商業顧問候補。
ハンス(35歳、元兵士)――治安維持隊長候補。父の元戦友。
イルゼ(40歳女性、元家庭教師)――学校校長候補。
ヴェルナー(28歳、元職人)――建築ギルド支部長候補。
ギュンター(45歳、元農場主)――農業顧問候補。
その他、各領地から三名ずつ、合計二十四名。
全員を神眼で確認し、信頼できると判断した。
そして、全員をノイブルクの新領地に招待した。
二週間の集中研修プログラムだ。
研修の初日。
三十名近い人々が、集まっている。
マティアスも、フェルゼン領から来てくれた。
僕は、みんなの前で挨拶する。
「みなさん、来てくれてありがとうございます」
人々が、緊張した表情で聞いている。
「これから二週間、この領地で研修を受けてもらいます。目的は、領地運営の基礎を学ぶことです」
僕は続ける。
「みなさんには、それぞれの領地で、代官や顧問として働いてもらいます。大きな責任ですが、みなさんなら、できると信じています」
人々の表情が、少し和らぐ。
クララが、手を挙げる。
「アレン様、私たちは…本当に、そんな重要な仕事ができるんでしょうか?」
「できます。僕が選んだ人たちだから」
僕は、神眼のことは言わないが、確信を持って言う。
「みなさんには、才能があります。そして、何より、領民のことを思う心があります。それがあれば、必ずできます」
研修は、各分野の専門家が担当した。
ゲルハルト先生が、教育について教える。
学校の運営方法、カリキュラムの作り方、子供たちへの接し方。
イルゼが、熱心にメモを取っている。
オスカーが、建築について教える。
学校、道路、橋の建設方法。
ヴェルナーが、目を輝かせて聞いている。
ゲオルグが、商業について教える。
健全な商業の育成方法、不正な商人の見分け方、税制の運用。
クララが、積極的に質問する。
父グレンが、統治と治安維持について教える。
領主としての心構え、治安の維持方法、騎士団の運用。
ハンスとマティアスが、真剣に聞いている。
母エレナが、福祉と医療について教える。
治癒魔法の基礎、病気の予防、弱者への配慮。
みんなが、感動している。
そして、僕が税制と行政について教える。
適切な税率、効率的な行政、改革の進め方。
全員が、熱心に学んでいる。
研修の最終日。
僕は、全員を集めた。
「二週間、お疲れ様でした」
人々が、達成感のある表情をしている。
「みなさんは、よく学びました。これから、それぞれの領地で、この知識を活かしてください」
僕は、一人一人に辞令を渡す。
マティアス――フェルゼン領代官(正式任命)
クララ――第二領地商業顧問
ハンス――第三領地治安維持隊長
イルゼ――第四領地学校校長
ヴェルナー――建築ギルド支部長(全領地巡回)
ギュンター――農業改革チームリーダー(全領地巡回)
その他の人々も、それぞれの役職に。
「みなさんの使命は、領民を幸せにすることです」
僕は、真剣に言う。
「税金を減らし、学校を作り、道路を整備し、商業を活性化させる。そうすれば、領民たちの生活は良くなります」
全員が、頷く。
「そして、それは僕の理念でもあります。『全ての人が、幸せに暮らせる世界』。その第一歩を、みなさんと一緒に踏み出したいんです」
マティアスが、前に出る。
「アレン様の理念、必ず実現してみせます」
クララも言う。
「私たちも、精一杯頑張ります」
他の人々も、口々に決意を述べる。
「領民のために!」
「アレン様の理念を広めます!」
みんなの目が、輝いている。
研修を終えた人々は、それぞれの領地に向かった。
マティアスはフェルゼン領に戻り、さらなる改革を進める。
クララたちも、新しい領地で改革を始める。
僕は、定期的に各領地を巡回し、サポートする。
改革は、加速し始めた。
九つの管理領地、全てで同時に改革が進行する。
半年後には、目に見える成果が出始めるだろう。
ある日、グロスマンから手紙が来た。
「醸造品、大人気です。貴族たちが、取り合いになっています」
「新しい注文が、毎日来ます」
「生産を、さらに増やせませんか?」
僕は、リトアと相談する。
「どうしましょうか?」
「熟成室を、さらに二つ増やしましょう。そして、職人も増やします」
「わかりました。お願いします」
醸造事業は、順調に拡大している。
これは、アレンの領地の主要産業になるだろう。
そして、莫大な利益をもたらすだろう。
その利益を、さらなる改革に使う。
良い循環が、生まれつつある。
その夜、僕は書斎で地図を見ていた。
九つの管理領地に、改革チームが配置された。
全てが、動き始めている。
四つの直轄領地も、順調だ。
リトヴァル族五千人以上も、順調に生活している。
醸造事業も成功している。
全てが、うまくいっている。
でも――
油断はできない。
まだ、課題は山積みだ。
ヴェルデン王国の脅威。
魔の森の異変。
そして――
窓の外を見る。
星空が広がっている。
平和な夜だ。
でも、その平和は、いつ壊れるかわからない………
新たな脅威が、迫っていた。
次回:第40話「疫病と衛生改革」
フェルゼン領から戻って、一週間が経った。
アダルベルトの逮捕と土地改革の成功により、フェルゼン領は大きく変わった。
マティアスを正式な代官に任命し、改革を任せた。
彼なら、きっとうまくやってくれる。
そして――
醸造の方も、大きな進展があった。
リトヴァル族の老職人リーブが、僕のもとに報告に来た。
「アレン様、完成しました」
「本当ですか!?」
「はい。時間加速魔法のおかげで、外の世界では四ヶ月ですが、熟成室内では四年が経過しました」
僕は、急いで酒蔵に向かった。
リトア、エルヴィン、そして家族も一緒だ。
熟成室の扉を開ける。
中には、樽が並んでいる。
老職人リーブが、一つの樽を開ける。
日本酒だ。
透明で、美しい液体。
香りが、広がる。
芳醇な、米の香り。
「これは…!」
僕は、前世を思い出す。
日本酒の香りだ。
老職人リーブが、猪口に注ぐ。
「どうぞ」
僕は、一口飲む。
――美味い。
本当に、美味い。
まろやかで、深みがあって。
前世で飲んだ日本酒に、負けていない。
いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。
「すごい…本当に、すごいです…」
老職人リーブが、嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。我々も、満足のいく出来です」
次は、味噌。
深い色をしている。
香りも、しっかりしている。
少し舐めてみる。
――これも、完璧だ。
塩味と旨味のバランスが絶妙。
醤油も同じ。
深い色、良い香り、バランスの取れた味。
そして――
ウイスキーとブランデー。
樽から注がれる、琥珀色の液体。
香りが、素晴らしい。
木の香り、果実の香り、複雑な香り。
一口飲む。
――これは…
前世でも、こんなに美味しいウイスキーは、なかなか飲めなかった。
まろやかで、深みがあって、余韻が長い。
ブランデーも同じ。
果実の甘み、木の香り、全てが調和している。
「完璧です…」
僕は、感動している。
すると父が
「アレン、お前達が造っているから試飲は仕方ないが、まだ子供のお前には、酒は体に良くないだろう。だから、試飲だけだぞ」
と、父からしっかりと釘をさされて、自分が子供だった事を今更ながらに思い出す。
しかし何故子供のアレンが、酒を美味いと感じられるのかは、考えていないアレンだった。
そして家族も、試飲する。
父が、ウイスキーを飲んで驚く。
「これは…すごい酒だ…」
母も、日本酒を飲んで感動している。
「こんなに美味しいお酒、初めて…」
ソフィア姉さんも、ブランデーを飲んで目を輝かせる。
「甘くて、でも深みがあって…!」
マルク兄さんも頷く。
「これなら、貴族たちも喜ぶだろうな」
ノエルも、味噌と醤油を試している。
「これ…料理に使ったら、すごく美味しくなりそう…」
双子は、まだお酒は飲めないので、味噌汁を飲んでいる。
「美味しい!」
「この味、好き!」
エルヴィンも、日本酒を飲んで感心している。
「人族が作る酒の中で、最高峰だな。いや、他種族の酒と比べても、負けていない」
リトアも、誇らしげだ。
「我が族の技術が、こうして認められて…嬉しいです」
翌日、グロスマンを新領地に招待した。
彼は、王都から三日かけて来てくれた。
「アレン伯爵、お久しぶりです」
「グロスマンさん、来てくれてありがとうございます」
「いえいえ。緊急の呼び出しとのことでしたが…何か重要な話ですか?」
「はい。見ていただきたいものがあります」
僕は、グロスマンを酒蔵に案内した。
リトヴァル族の職人たちが、準備をしている。
「これは…酒蔵ですか?」
「はい。そして、これから試飲していただくのは…この世界にはまだ存在しなかった酒です」
グロスマンの目が、輝く。
商人の本能が、反応している。
「新しい酒…ですか」
「はい。まず、これを」
職人が、日本酒を注ぐ。
グロスマンが、香りを嗅ぐ。
「これは…なんという香り…」
一口飲む。
――グロスマンの目が、大きく見開かれる。
「こ、これは…!」
言葉を失っている。
もう一口、飲む。
「信じられない…こんな酒、見たことがない…!」
次に、ウイスキーを出す。
琥珀色の液体。
グロスマンが、また香りを嗅ぐ。
「この香りは…木の香りと…穀物の香りと…」
一口飲む。
――グロスマンが、固まる。
数秒間、動かない。
そして――
「…これは、革命です」
グロスマンが、真剣な表情で言う。
「この酒は、世界を変えます」
「そんなに…?」
「はい。私は、商人として三十年以上、様々な酒を扱ってきました。でも、これほどの酒は、初めてです」
グロスマンが、ブランデーも試す。
そして、味噌と醤油も。
全てを試した後、グロスマンは深々と頭を下げた。
「アレン伯爵、この商品の独占販売権を、私にいただけませんか」
「独占…ですか?」
「はい。私の全商会網を使って、この酒を世界中に広めます」
グロスマンが、真剣だ。
「ただし、問題があります」
「何ですか?」
「生産量です。これだけの品質の酒を、大量に作るのは難しいでしょう」
僕は頷く。
「その通りです。時間加速魔法を使っても、熟成室の数に限りがあります。当面は、少量生産です」
「では、戦略を変えましょう」
グロスマンが、商人の顔になる。
「少量生産なら、超高級品として売り出します。王侯貴族向けの、最高級品として」
「価格は…?」
「日本酒とウイスキーとブランデーは、一本…金貨十枚」
僕は驚く。
金貨十枚は、平民の一年分の収入に近い。
「そんなに…高くても…」
「売れます。間違いなく。この品質なら、貴族たちは喜んで買います」
グロスマンが続ける。
「味噌と醤油は、少し安くしましょう。金貨一枚で、小瓶一つ。これも、高級調味料として」
「わかりました。では、最初の出荷量は…」
「日本酒、ウイスキー、ブランデー、それぞれ五十本ずつ。味噌と醤油は、百瓶ずつ。これで、様子を見ましょう」
契約が成立した。
一週間後。
グロスマンが、王都の貴族たちに試飲会を開いた。
招待されたのは、上級貴族三十名。
公爵、侯爵、伯爵たち。
王国で最も裕福で、影響力のある人々だ。
試飲会の様子を、グロスマンから手紙で聞いた。
貴族たちは、最初は懐疑的だったらしい。
「また新しい酒か」
「どうせ、大したことないだろう」
でも、一口飲んだ瞬間――
全員が、驚愕したという。
「これは…!」
「なんという…!」
「こんな酒、初めてだ…!」
試飲会は、大成功。
その場で、注文が殺到した。
五十本の日本酒、全て売れた。
ウイスキーも、ブランデーも、全て売れた。
味噌と醤油も、あっという間に完売。
そして、さらなる注文が来ている。
「もっと欲しい」
「いくらでも買う」
グロスマンからの手紙には、こう書いてあった。
「生産を増やせませんか? 注文が、止まりません」
僕は、リトアと相談した。
「生産を増やすには…」
「熟成室を増やす必要があります」
「それと、職人も増やさなければ」
リトアが頷く。
「我が族から、さらに職人を呼びましょう。醸造の技術を持つ者が、まだいます」
「そして、熟成室も、もう二つ作りましょう」
建設ギルドに依頼して、新しい熟成室を作る。
そして、リトヴァル族の職人を二十名追加する。
生産体制を、少しずつ拡大していく。
同じ頃、僕は他の管理領地でも人材を発掘していた。
九つの領地を巡り、神眼で確認しながら、信頼できる人材を探す。
フェルゼン領以外の八領地から、それぞれ優秀な人材を見つけた。
クララ(25歳女性、旧商人の娘)――商業顧問候補。
ハンス(35歳、元兵士)――治安維持隊長候補。父の元戦友。
イルゼ(40歳女性、元家庭教師)――学校校長候補。
ヴェルナー(28歳、元職人)――建築ギルド支部長候補。
ギュンター(45歳、元農場主)――農業顧問候補。
その他、各領地から三名ずつ、合計二十四名。
全員を神眼で確認し、信頼できると判断した。
そして、全員をノイブルクの新領地に招待した。
二週間の集中研修プログラムだ。
研修の初日。
三十名近い人々が、集まっている。
マティアスも、フェルゼン領から来てくれた。
僕は、みんなの前で挨拶する。
「みなさん、来てくれてありがとうございます」
人々が、緊張した表情で聞いている。
「これから二週間、この領地で研修を受けてもらいます。目的は、領地運営の基礎を学ぶことです」
僕は続ける。
「みなさんには、それぞれの領地で、代官や顧問として働いてもらいます。大きな責任ですが、みなさんなら、できると信じています」
人々の表情が、少し和らぐ。
クララが、手を挙げる。
「アレン様、私たちは…本当に、そんな重要な仕事ができるんでしょうか?」
「できます。僕が選んだ人たちだから」
僕は、神眼のことは言わないが、確信を持って言う。
「みなさんには、才能があります。そして、何より、領民のことを思う心があります。それがあれば、必ずできます」
研修は、各分野の専門家が担当した。
ゲルハルト先生が、教育について教える。
学校の運営方法、カリキュラムの作り方、子供たちへの接し方。
イルゼが、熱心にメモを取っている。
オスカーが、建築について教える。
学校、道路、橋の建設方法。
ヴェルナーが、目を輝かせて聞いている。
ゲオルグが、商業について教える。
健全な商業の育成方法、不正な商人の見分け方、税制の運用。
クララが、積極的に質問する。
父グレンが、統治と治安維持について教える。
領主としての心構え、治安の維持方法、騎士団の運用。
ハンスとマティアスが、真剣に聞いている。
母エレナが、福祉と医療について教える。
治癒魔法の基礎、病気の予防、弱者への配慮。
みんなが、感動している。
そして、僕が税制と行政について教える。
適切な税率、効率的な行政、改革の進め方。
全員が、熱心に学んでいる。
研修の最終日。
僕は、全員を集めた。
「二週間、お疲れ様でした」
人々が、達成感のある表情をしている。
「みなさんは、よく学びました。これから、それぞれの領地で、この知識を活かしてください」
僕は、一人一人に辞令を渡す。
マティアス――フェルゼン領代官(正式任命)
クララ――第二領地商業顧問
ハンス――第三領地治安維持隊長
イルゼ――第四領地学校校長
ヴェルナー――建築ギルド支部長(全領地巡回)
ギュンター――農業改革チームリーダー(全領地巡回)
その他の人々も、それぞれの役職に。
「みなさんの使命は、領民を幸せにすることです」
僕は、真剣に言う。
「税金を減らし、学校を作り、道路を整備し、商業を活性化させる。そうすれば、領民たちの生活は良くなります」
全員が、頷く。
「そして、それは僕の理念でもあります。『全ての人が、幸せに暮らせる世界』。その第一歩を、みなさんと一緒に踏み出したいんです」
マティアスが、前に出る。
「アレン様の理念、必ず実現してみせます」
クララも言う。
「私たちも、精一杯頑張ります」
他の人々も、口々に決意を述べる。
「領民のために!」
「アレン様の理念を広めます!」
みんなの目が、輝いている。
研修を終えた人々は、それぞれの領地に向かった。
マティアスはフェルゼン領に戻り、さらなる改革を進める。
クララたちも、新しい領地で改革を始める。
僕は、定期的に各領地を巡回し、サポートする。
改革は、加速し始めた。
九つの管理領地、全てで同時に改革が進行する。
半年後には、目に見える成果が出始めるだろう。
ある日、グロスマンから手紙が来た。
「醸造品、大人気です。貴族たちが、取り合いになっています」
「新しい注文が、毎日来ます」
「生産を、さらに増やせませんか?」
僕は、リトアと相談する。
「どうしましょうか?」
「熟成室を、さらに二つ増やしましょう。そして、職人も増やします」
「わかりました。お願いします」
醸造事業は、順調に拡大している。
これは、アレンの領地の主要産業になるだろう。
そして、莫大な利益をもたらすだろう。
その利益を、さらなる改革に使う。
良い循環が、生まれつつある。
その夜、僕は書斎で地図を見ていた。
九つの管理領地に、改革チームが配置された。
全てが、動き始めている。
四つの直轄領地も、順調だ。
リトヴァル族五千人以上も、順調に生活している。
醸造事業も成功している。
全てが、うまくいっている。
でも――
油断はできない。
まだ、課題は山積みだ。
ヴェルデン王国の脅威。
魔の森の異変。
そして――
窓の外を見る。
星空が広がっている。
平和な夜だ。
でも、その平和は、いつ壊れるかわからない………
新たな脅威が、迫っていた。
次回:第40話「疫病と衛生改革」
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。