異世界転生?と予想してましたが、異世界転移でした………ってどっちでも良いワ!!

アルさんのシッポ

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第5章:「子爵になって、神の使徒になって、婚約もして。あ、魔の森の開拓もありました。貴族って、こんなに忙しいものなんですか?」

第62話「ダンジョン・タワー開業前夜」

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第62話「ダンジョン・タワー開業前夜」


1週間後。
グリューンヴァルト領。
ダンジョン・タワー前。
朝。
空が、青い。
湖が、キラキラと輝いている。
タワーが、朝日を受けて、堂々とそびえ立っている。
「今日だ……」
レンが、タワーを見上げる。
(1週間……あっという間だった……)
アラクネが、肩に乗っている。
「キュルル~」
「そうだな、アラクネ。いよいよだ」
レンが、微笑む。
ギルド職員の到着
午前中。
グリューンヴァルト領の正門前。
馬車が、続々と到着する。
5台の大型馬車。
王都から、3日かけてやって来た。
馬車から、人が降りてくる。
ギルドマスター・ヴィクトール・ハーゲン。
そして――
ギルド職員50名。
男性、女性、様々な年齢。
皆、きっちりとした服装。
ギルドの制服。
青いジャケット。
銀のバッジ。
「閣下、お約束通り参りました」
ヴィクトールが、レンに深々と頭を下げる。
「3日間の道中、お疲れ様でした」
レンが、頷く。
「職員50名、全員揃っております」
「ありがとうございます、ヴィクトール殿」
レンが、全員を見渡す。
「皆さんも、遠路はるばる……本当にありがとうございます」
レンが、深々と頭を下げる。
「!」
職員たちが、驚く。
(領主様が……頭を下げている……)
(伯爵閣下が……私たちに……)
ざわめく。
「閣下、そのようなことは……」
ヴィクトールが、慌てる。
「いいえ」
レンが、微笑む。
「皆さんには、これからお世話になります。当然のことです」
職員たちが、顔を見合わせる。
そして――
自然と、表情が和らぐ。
「では、タワーの中をご案内する前に……一つ、お願いがあります」
レンが、全員を見渡す。
「全員に、契約魔法を結んでいただきます」
「!」
職員たちが、緊張する。
「このダンジョン・タワーに関する全ての情報は、現時点では秘密です。外部への漏洩は、契約魔法の違反になります」
レンが、説明する。
「了解しています」
ヴィクトールが、頷く。
「職員全員、承知しております」
「では……」
レンが、魔法を発動する。
契約魔法の光が、全員を包む。
一人ずつ。
50名全員。
「完了です」
レンが、確認する。
「ありがとうございます。では、中へどうぞ」
商人たちの到着
職員たちがタワーに入ろうとした、その時。
別の馬車が、3台到着する。
荷物を満載した大きな馬車。
馬車から、商人たちが降りてくる。
武器商。
がっしりとした体型の中年男性。
「ラドルフ・シュミット、武器商です」
深々と頭を下げる。
「よろしくお願いします」
防具商。
小柄だが目の鋭い女性。
「エリナ・クロッセ、防具商です」
きっぱりとした声。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ポーション商。
白衣を着た若い男性。
「アルヴィン・ベッカー、ポーション商です」
眼鏡をかけている。
丁寧な礼儀。
「初めまして。レンアスカ・フォン・グリューンヴァルトです」
レンが、3人に頭を下げる。
「この度は、お集まりいただき感謝します」
「いいえ……」
ラドルフが、驚いた表情で言う。
「ギルドマスターから、素晴らしい施設だと聞きました。こちらこそ、よろしくお願いします」
「商品の陳列は、明日の開業に間に合いますか?」
レンが、聞く。
「はい。今日中に全て搬入して、並べます」
エリナが、きっぱりと答える。
「荷物は、こちらの馬車3台に全て積んであります」
アルヴィンが、説明する。
「分かりました。3階から5階が、皆さんのスペースです」
レンが、説明する。
「エドガーが案内します」
「はい、レン様」
エドガーが、前に出る。
「皆さん、こちらへどうぞ」
エドガーが、商人たちを案内する。
馬車の荷物が、次々とタワーに運び込まれる。
商人たちにも、全員に契約魔法を結ばせる。
タワー内の説明会
午後。
1階のギルドエリア。
職員50名が、テーブルに座っている。
レンが、前に立つ。
エドガー、グンター、スチュアート、ライカが、脇に控えている。
スチュアートは、この日のためにゲートでグリューンヴァルト領主館から来ていた。
「改めまして、グリューンヴァルト伯爵のレンアスカです」
レンが、全員を見渡す。
「今日は、ダンジョン・タワーの全容を説明します。明日の開業に備えて、しっかりと把握してください」
「はい!」
職員たちが、声を揃える。
各フロアの説明
「まず、タワーの構造から説明します」
レンが、大きな図を広げる。
タワーの断面図。
全30階と地下1階が描かれている。
クラフト魔法で作った、精巧な図面。
「!」
職員たちが、図を見る。
「地下1階が、ダンジョンの入口エリアです。アダマント合金の封印の門があり、その奥からダンジョン内部に続きます。地下2階以降は、タワーの建物ではなく、ダンジョンの内部です」
レンが、説明する。
「地上1階が、皆さんの主な職場になる冒険者ギルドと食事処です」
「2階が、訓練施設。3階から5階が、武器・防具・ポーションのショップ。6階が、治療院」
「11階から13階が、皆さんの住居……社宅です。後ほど、全員に部屋を割り当てます」
「18階が、監視ルームです。ここは特に重要な場所です」
レンが、強調する。
「30階が、私の領主館です。緊急時には、直接連絡してください」
職員たちが、熱心にメモを取っている。
ダンジョンの説明
「次に……ダンジョンについて説明します」
レンが、続ける。
「このダンジョンは、100階層以上あります」
「!」
職員たちが、驚く。
「各階層の難易度は……」
レンが、説明する。
「1階層がFランク、10階層がDランク、30階層がBランク、50階層がAランク、70階層以降はSランク相当以上の魔獣が出現します」
レンが、はっきりと言う。
「つまり……70階層以降は、王国内でも最高クラスの冒険者でなければ、生きて帰れないと思ってください」
「!」
職員たちが、表情を引き締める。
「現実的な話をします」
レンが、続ける。
「Cランクの冒険者が安全に挑戦できるのは、20階層程度まで。Bランクで30階層前後。Aランクパーティーで、最大でも60階層から70階層が限界と考えてください」
「70階層以降は……」
ヴィクトールが、聞く。
「事実上、突破は極めて困難です」
レンが、答える。
「それを、冒険者への説明で徹底してください。ダンジョンは危険な場所です。命懸けで挑む場所ですが……無謀な挑戦は、ただの自殺です」
「はい」
ヴィクトールが、力強く頷く。
「入場受付の際に、必ず注意事項を伝えます。自分のランクと実力に見合った階層に挑むよう、厳しく伝えます」
「よろしくお願いします」
レンが、頷く。
「そして……もう一度、言います」
レンが、続ける。
「ダンジョンは、危険な場所です。命懸けで挑む冒険者たちを、我々は支えます。しかし……助けに行くのではありません。管理するのです。その違いを、しっかり理解してください」
「はい!」
全員が、力強く答える。
監視ルームの説明
「では、18階の監視ルームに移動します」
レンが、言う。
「全員、エレベーターで数回に分けて上がります」
職員たちが、順番にエレベーターで18階へ。
「!」
エレベーターに乗る度に、驚きの声が上がる。
「動いている……!」
「魔力で動く昇降装置……!」
18階に到着する。
「!」
広い監視ルーム。
壁一面のモニター。
「……」
職員たちが、言葉を失う。
「これが、監視ルームです」
レンが、説明する。
「ダンジョン内800台の監視カメラの映像が、リアルタイムでここに映し出されます」
レンが、モニターを操作する。
映像が、映し出される。
各階のダンジョン内部。
「これがダンジョン1階の映像……」
「これが30階……」
「これが50階……」
「これが70階……」
職員たちが、食い入るように見る。
「本当に、ダンジョンの内部が……」
「魔物が……動いている……!」
「このルームを、24時間体制で監視します」
レンが、続ける。
「シフトを組んで、必ず誰かがここにいるようにしてください」
「監視の際に、注意すべき点を教えていただけますか?」
ヴィクトールが、聞く。
「はい」
レンが、説明する。
「通常時は、各階の魔物の数と行動範囲を把握してください。数が突然増えたり、上の階に向かって移動し始めたりした場合は、スタンピードの前兆の可能性があります」
「その場合は?」
「即座に私に連絡してください。携帯電話で」
レンが、答える。
「私がダンジョンマスターですので、すぐに対応します」
「分かりました」
ヴィクトールが、頷く。
「それと……冒険者が危険な状況になった場合も、ここから確認できます。ただし……」
レンが、続ける。
「確認できるからといって、すぐに助けに行くことはしません」
「はい」
ヴィクトールが、同意する。
「ダンジョンは、冒険者が自己責任で挑む場所。我々は管理者であって、救助隊ではありません」
「しかし……」
レンが、付け加える。
「スタンピードの危機など、周辺の安全に関わる事態は別です。その場合は、即座に対処します」
「承知しました」
職員たちが、頷く。
緊急時対応の説明
「次に、緊急時の対応手順を説明します」
レンが、資料を配る。
「エドガーが作成した、行動マニュアルです」
資料を受け取る職員たち。
「スタンピード発生時の手順」「冒険者の死亡確認手順」「怪我人の対応手順」「外部への連絡手順」……
様々な手順が、書かれている。
「スタンピード発生時の手順を説明します」
エドガーが、前に出る。
「1。監視ルームでスタンピードの前兆を発見」
「2。即座にレン様に携帯電話で連絡」
「3。ダンジョン内に入っている冒険者全員に、緊急連絡」
「4。冒険者を全員地上に誘導。ダンジョン入口を閉鎖」
「5。レン様の指示に従い、封印を強化」
エドガーが、淡々と説明する。
「このマニュアルは、万が一の事態を想定したものです。実際には、私がダンジョンマスターとして封印を管理していますので……通常時にスタンピードは発生しません」
レンが、付け加える。
「しかし、万が一に備えることが重要です」
「はい、閣下」
職員たちが、頷く。
「冒険者の死亡確認手順を説明します」
エドガーが、続ける。
「ダンジョン内で冒険者が死亡した場合……その遺体は、基本的にダンジョン内に残ります。回収は、同行者か後続の冒険者が行います」
「ギルドとして、遺体の回収依頼を受けることはできます。しかし……」
エドガーが、続ける。
「遺体回収は、それ自体が危険な依頼です。依頼を受ける冒険者にも、十分な説明を行ってください」
「ご遺族への連絡は、ギルドが担当します。この点は、通常のギルド業務と同様です」
ヴィクトールが、補足する。
避難訓練
「今から、簡単な避難訓練を行います」
レンが、言う。
「想定:監視ルームでスタンピードの前兆を発見。この場合、どう動くか」
「では……始めます」
「スタンピード前兆発見!」
監視ルームの担当職員が、声を上げる。
「即座にレン様へ連絡!」
別の職員が、携帯電話を手に取る。
「レン様、スタンピードの前兆を確認しました!」
「了解。封印を強化します。ダンジョン内の冒険者を全員誘導してください」
レンが、答える。
「ダンジョン内の冒険者に緊急連絡!」
「1階ギルドエリアでアナウンス!」
職員たちが、次々と動く。
「入口閉鎖準備!」
「よし」
レンが、頷く。
「手順は、問題なさそうですね」
「はい!」
職員たちが、声を揃える。
社宅の割り当て
夕方前。
11階。
社宅フロア。
廊下に、職員たちが並んでいる。
「では、部屋の割り当てを行います」
エドガーが、リストを持っている。
「ヴィクトール・ハーゲン様は、1101号室です」
「はい」
ヴィクトールが、鍵を受け取る。
「次……」
エドガーが、一人ずつ部屋の鍵を渡していく。
職員たちが、それぞれの部屋に入る。
「……!」
次々と、驚きの声が上がる。
「広い……!」
「これが……社宅……?」
「お風呂が……こんなに大きい……!」
廊下に、感嘆の声が響く。
「このトイレは……何ですか?」
若い女性職員が、エドガーに聞く。
「水洗トイレです」
エドガーが、説明する。
「このレバーを引くと……水が流れて、汚物を流してくれます。臭いもありません」
「!」
「それと……このボタンを押すと……」
エドガーが、実演する。
温水が、出る。
「!」
「温かい水が……下から……!」
「はい。洗浄もできます」
廊下に、さらに騒ぎが広がる。
「嘘だろ……」
「本当に、全部屋に……」
「俺の家より、豪華じゃないか……」
「王都の俺のアパートより、広いぞ……」
ヴィクトールが、自分の部屋から出てくる。
「閣下……」
ヴィクトールが、レンに近づく。
「この社宅……本当に、職員に使わせていただけるのですか……」
ヴィクトールが、信じられない、という表情で聞く。
「はい、もちろんです」
レンが、頷く。
「ここで働く職員の皆さんには、最高の環境を提供します。それが、良い仕事につながりますから」
「……」
ヴィクトールが、しばらく沈黙する。
「閣下……」
ヴィクトールが、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
レンが、頭を下げる。
辺境伯と騎士団の到着
夕方。
正門前。
馬車が、到着する。
辺境伯ヴォルフガングが、降りてくる。
騎士団20名を連れて。
「レン殿!」
辺境伯が、レンに近づく。
「辺境伯様、ようこそ。道中、お疲れ様でした」
レンが、笑顔で迎える。
「ついに、明日ですな!」
辺境伯が、興奮した表情で言う。
「はい」
レンが、頷く。
「タワーを……見てもよいですか?」
辺境伯が、タワーを見上げながら聞く。
「もちろんです。ご案内します」
レンが、辺境伯を中へ案内する。
「!」
辺境伯が、1階に入る。
広大なギルドエリアを見渡す。
「凄い……」
辺境伯が、感嘆する。
「この広さ……100名以上が、同時に行動できる……」
エレベーターで、29階へ。
展望台。
「!」
辺境伯が、景色を見て、言葉を失う。
「これが……私の隣にある領地……」
辺境伯が、しみじみと言う。
「ここまで、成長するとは……」
辺境伯の目に、涙が浮かぶ。
「辺境伯様……」
レンが、隣に立つ。
「あなたの領地のおかげです。最初から、協力していただいて……」
「いいえ……」
辺境伯が、首を振る。
「あなたが成し遂げたことだ。私は、少し手を貸しただけです」
「辺境伯様……」
レンが、頭を下げる。
「ありがとうございます」
辺境伯が、レンの肩を叩く。
「明日は、盛大に行きましょう!」
辺境伯が、笑顔で言う。
「はい!」
辺境伯が、窓の外を眺めながら、続ける。
「そうだ、レン殿」
辺境伯が、声を落とす。
「はい」
「ゲートのことなのですが……」
辺境伯が、真剣な表情で言う。
「後で国王陛下に知らせておいた方が良いと思っています」
「!」
レンが、頷く。
「今は秘密にしていますが……陛下に知られた後では、良くない印象を与えかねません」
「おっしゃる通りです」
レンが、同意する。
「王都への報告の際に、ゲートについても正直に報告します」
「その際には……万が一、敵に利用された場合の対策も、一緒に提案した方がよいですね」
辺境伯が、続ける。
「はい。陛下のご許可をいただいた上で……将来的には、適切なセキュリティ設備を整えた公共ゲートの設置も検討します」
レンが、答える。
「ただし……現時点では、私の私邸のみに限定しています。辺境伯様のご邸宅隣の屋敷と、工場地帯のマンション最上階の私の部屋、そしてこのタワー30階の私の部屋に設置しているものです」
「分かりました。そのように、陛下に伝えましょう」
辺境伯が、頷く。
「ありがとうございます、辺境伯様」
レンが、深く頭を下げる。
開業前夜・準備
夕方。
タワー全体が、慌ただしい。
1階では――
ギルド職員たちが、受付カウンターの最終確認をしている。
依頼ボードを、壁に取り付けている。
食事処のテーブルと椅子を、確認している。
「受付カウンター、全10台確認完了です!」
職員の一人が、報告する。
「依頼ボード、設置完了です!」
別の職員が、報告する。
3階から5階では――
商人たちが、商品を並べている。
ラドルフが、武器を一本一本、丁寧に並べる。
剣、槍、斧、弓……
様々な武器が、整然と並ぶ。
「この品揃えは……素晴らしい」
ラドルフが、満足そうに言う。
エリナが、防具を確認している。
鎧、盾、兜……
品質を、一点ずつチェックしている。
「粗悪品は一つもない。全て、私が保証する」
エリナが、きっぱりと言う。
アルヴィンが、ポーションを並べている。
回復ポーション、解毒ポーション、魔力回復ポーション……
様々な種類が、棚に並ぶ。
「全て、私が調合した品です。Fランクから揃えています」
アルヴィンが、丁寧に並べる。
18階では――
監視ルームの最終確認。
担当職員5名が、モニターの前に座っている。
全800台のカメラ映像を、確認している。
「全カメラ、正常に作動しています!」
担当職員が、報告する。
「よし」
レンが、頷く。
グンターの仕事
夕方。
工房。
グンターが、最終確認をしている。
「グンター」
レンが、工房を訪れる。
「はい、レン様」
グンターが、振り返る。
「準備は、どうですか?」
「はい。全ての魔導具設備、最終点検完了しました」
グンターが、報告する。
「エレベーター……全階、正常に作動。魔石残量、満タンです」
「魔石灯……全フロア、正常に点灯」
「監視カメラ……800台全て、映像確認済み」
「温水器……全社宅105部屋、正常作動」
「完璧ですね」
レンが、満足する。
「グンター、本当に助かっています」
「いいえ」
グンターが、照れたように言う。
「私は、技術屋ですから。魔導具の管理は、お任せください」
「それと……」
グンターが、続ける。
「明日の開業後、冒険者が増えれば……武器や防具の修理依頼も来るかもしれません」
「そうですね」
「19階から28階の未定フロアに、鍛冶工房と魔導具修理工房を設けることを、検討していただけますか?」
グンターが、提案する。
「冒険者の武器・防具を、その場で修理できれば……」
「なるほど……」
レンが、考える。
「開業後に、検討しましょう」
「ありがとうございます」
スチュアートの仕事
同じ頃。
1階のギルドエリア。
スチュアートが、職員たちに説明している。
「貴族の方がいらした場合の対応を、説明します」
スチュアートが、穏やかな声で言う。
「グリューンヴァルト伯爵閣下のダンジョン・タワーですので、貴族や重要人物が訪れることもあるかと思います」
職員たちが、真剣な顔で聞いている。
「まず、礼儀として……貴族には深いお辞儀を。伯爵以上の方には、特に丁寧に」
スチュアートが、実演する。
「次に、言葉遣いです。敬語を徹底してください」
エドガーが、横で聞いている。
(師匠の話は……いつも具体的で、分かりやすい……)
エドガーが、心の中で思う。
「それと……」
スチュアートが、続ける。
「冒険者の方は、様々な背景の方がいらっしゃいます。乱暴な言葉遣いの方も、いるでしょう。しかし……どんな方にも、公平に、丁寧に接してください。ギルドの信頼は、そこから生まれます」
「はい!」
職員たちが、頷く。
「スチュアート殿」
ヴィクトールが、近づく。
「お教えいただき、ありがとうございます。王都のギルドでも、このような指導はなかなか……」
「いえ……長年、貴族社会を見てきただけです」
スチュアートが、謙遜する。
「閣下の側近として……少しでもお役に立てれば」
開業前夜の集い
夜。
1階の食事処。
全員が集まっている。
ギルド職員50名。
武器商ラドルフ、防具商エリナ、ポーション商アルヴィン。
治療師3名。
辺境伯と騎士団20名。
レン、エドガー、グンター、スチュアート、ライカ、ボルン。
総勢80名以上。
大きなテーブルに、料理が並ぶ。
グリューンヴァルト領で採れた、新鮮な食材。
マルタが、腕を振るった料理。
「今夜は、開業前夜の集いです」
レンが、立ち上がる。
全員が、静かになる。
「明日、ダンジョン・タワーが開業します」
レンが、全員を見渡す。
「ここに集まってくださった皆さん、全員に感謝します」
「ギルドの皆さん。王都から3日かけて来てくださり、ありがとうございます」
「武器商のラドルフさん、防具商のエリナさん、ポーション商のアルヴィンさん。商品の搬入、お疲れ様でした」
「辺境伯様、騎士団の皆さん。いつも、ありがとうございます」
「そして……エドガー、グンター、スチュアート、ライカ、ボルン。皆さんがいなければ、ここまで来られませんでした」
レンが、頭を下げる。
「明日から、このダンジョン・タワーは動き始めます」
レンが、続ける。
「ダンジョンは、危険な場所です。命懸けで挑む冒険者たちが、全国から集まってきます。彼らを支える施設として……このタワーが機能するよう、皆さんと共に頑張っていきたいと思います」
レンが、グラスを掲げる。
「では……乾杯!」
「乾杯!!」
全員が、声を揃える。
大きな歓声が、食事処に響く。
宴が、始まる。
美味しい料理。
美味しい酒。
会話が、弾む。
様々な場所から来た人々が、一つのテーブルを囲んでいる。
「閣下」
ラドルフが、レンに近づく。
「明日……どのような冒険者が来るでしょうか?」
「全国から、腕利きが集まるでしょう」
レンが、答える。
「100階層以上のダンジョンは、滅多にありませんから」
「良い武器は、腕利きの冒険者に使ってもらってこそです」
レンが、微笑む。
「はい!そのために、最高の品を揃えました!」
ラドルフが、力強く言う。
辺境伯が、レンの隣に来る。
「レン殿、今日は本当に……立派でした」
辺境伯が、しみじみと言う。
「ありがとうございます」
「アリシアも、あなたのことを誇りに思っているでしょう」
辺境伯が、微笑む。
「……恐れ入ります」
レンが、照れる。
開業前夜・レンの執務室
夜が深まる頃。
宴が終わり、皆が部屋に戻っていく。
30階。
レンの執務室。
窓から、夜のグリューンヴァルト領が見える。
美しい夜景。
タワーの魔石灯が、輝いている。
アラクネが、肩に乗っている。
「キュルル~」
「明日だな、アラクネ」
レンが、呟く。
「キュルル!」
アラクネが、元気に鳴く。
(ダンジョン・タワーが、ついに開業する……)
レンが、考える。
(全国から、冒険者が来る……)
(危険なダンジョンに、命懸けで挑む者たちが……)
(それを支える施設として……しっかり機能させなければ……)
(そして……ゲートのことも、近いうちに国王陛下に報告しなければ……)
携帯電話を、手に取る。
「004」を入力。
アリシア。
『もしもし、アリシアです』
「レンです。明日、いよいよ開業です」
レンが、言う。
『本当に……ついに、ですね!』
アリシアが、嬉しそうに言う。
『職員の皆さんは、いかがですか?』
「はい。王都から3日かけて来てくださいました。皆さん、やる気に満ちています」
レンが、答える。
「社宅を見た時の反応が……印象的でしたよ」
レンが、苦笑する。
『ウォシュレットですね?』
アリシアが、くすくす笑う。
「はい。かなり驚いておられました」
レンが、答える。
『それと……お父様から聞きました。ゲートのことを国王陛下に報告する話』
アリシアが、続ける。
「はい。辺境伯様のご提案です。正しい判断だと思います」
レンが、答える。
『私も……そう思います。陛下には、正直に話した方が良いですよ。レン様のことを信頼してくださっていますから』
「はい。次に王都に伺う際に、報告します」
レンが、頷く。
「おやすみなさい、アリシア」
『おやすみなさい……レン様。明日、うまくいくといいですね!』
通話が、切れる。
その時――
念話が、響く。
『レン様!』
エリシアの声。
明るく、弾んでいる。
『エリシア様』
レンが、答える。
『明日は、いよいよ開業ですね!!』
エリシアが、興奮した声で言う。
『ありがとうございます。エリシア様も、ずっと見ていてくださるんですよね』
『もちろんです!神の視点から、しっかり見ていますよ!』
エリシアが、笑う。
『今夜の集い……良かったです。色々な方が集まって……』
エリシアが、続ける。
『それと……辺境伯様とのゲートの話も、聞いていましたよ』
『エリシア様……』
レンが、苦笑する。
『正しい判断です。国王陛下には、正直に話した方が良い。信頼関係を大切にしてください』
『はい。肝に銘じます』
『では、おやすみなさい!明日の開業、楽しみにしています!』
エリシアが、励ます。
『おやすみなさい、エリシア様』
念話が、切れる。
その時――
《レン》
シルの声。
『シル』
《明日の開業……楽しみにしている》
シルが、静かに言う。
《ダンジョンは、危険な場所だ。明日から多くの冒険者が挑んでくる。中には、無謀な者もいるだろう》
『はい……』
《だが……それがダンジョンというものだ》
シルが、続ける。
《危険を承知で挑む者たちを、正しく管理する。それが、ダンジョンマスターとしての役割だ》
《そして……ゲートの件も、正しく処理するように。秘密は、適切な形で明かされるべき時に明かされる》
『はい。次の王都訪問で、陛下に報告します』
《うむ。では……おやすみ》
シルの声が、静かになる。
レンが、椅子に座る。
(明日……)
レンが、考える。
(ダンジョン・タワーが、動き始める……)
(全国から、冒険者が集まる……)
(そして……国王陛下への報告も、しなければ……)
(やることは、まだまだある……)
(でも……一つずつ、着実に……)
レンが、微笑む。
アラクネが、膝の上で丸くなっている。
「キュルル……」
「おやすみ、アラクネ」
レンが、アラクネを優しく撫でる。
目を閉じる。
静かに、眠りにつく。
明日への、期待を胸に。

第62話 完


次回予告:

第63話「ダンジョン・タワー開業」

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12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
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過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

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