神速の大魔導師 〜使える魔法が一種類でも最強へと成り上がれます〜

Ss侍

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第39話 暴食を過ぎた怪物

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 仲間を痩せ細らせ、人間を攫わせる。挙げ句の果てには仲間を食べまてしまうほどの暴飲暴食。
 魔物が進化する際は何かが暴走する場合があるという。例えば、無意味な破壊衝動に駆られたり、意味もなく延々と地面を駆け回ったり。

 その暴走が、このゴブリンにとっては食事だった。つまり今までのは全部……そう、シャンプ村とリリンス村のゴゴブリンの発見から全部がこいつにとって進化の前フリ。

 僕は知識があるだけ。専門家じゃない。だから、とは言いたくないけど気がつけなかった。もし気がついていたら……いや、何もできなかったよやっぱり、それでも。さっきまでの時点であんなに強かったんだから。

 AランクからSランクの進化を見れるなんてとても貴重だ。そばに僕以上に強い味方が何人もいる状態だったら喜んでいられたかも知れない。でも、今戦えるのは僕一人。

 肩が激しく痛む。傷がところどころに付いている。万全とは言い難い僕一人がこの化け物に……挑む。挑めば……否、挑まなきゃならない。勝てないかもしれないけど、僕しか、僕しかみんなを守れる人間がここに居ないから。


「ヌフフ……」


 動いたのか、全く見えなかった。
 一瞬でゴ・ゴッドゴブリンは僕の目の前まで距離を詰めた。その風圧で僕の頬の皮膚が軽く裂ける。


「はぁ……はぁ……」
「ヌフ」


 まるで「速さでお前を上回った」とでも言いたげた。今の動き、確実に速度魔法の類は使っていない。身体能力だけでの移動だ。


「ヌフ……フンッ」
「あぐ……」


 全身が引っ張られる。真横に落ちるように。
 自分の意思に反して猛スピードで壁へ背中から突進していっている。そして僕は壁へ叩きつけられた。


「かはっ……!」
「ヌフフフフ」


 瞬時に僕の身に付けているもの全てに『シィ・スピダウン』をかけ、横への落下速度を和らげた。それでも骨の何箇所かにヒビが入ったんじゃないかと思えるほどの痛みが主張してくる。


「ぐ、うぅ……」
「ガグゥア、アギ」


 Sランクの魔法の威力。本来ならこんなものじゃ済まされないだろう。
 確実にこのゴ・ゴッドゴブリンは僕を弄ぶつもりだ。たくさん食事を邪魔してきたから、その仕返しだろうか。


「アヌア、アフ、アフフッ」


 再び、一瞬で僕の目の前に現れる。
 そして僕の髪を掴み、軽く放り投げた。僕はこの穴の端っこから真ん中まで地面を擦りながら飛ばされる。服が裂け、擦った肩から血が流れる。


「ア、フ」


 起き上がるより先に僕の前までやってきたゴブリンは、腰をかがませ、僕の顔をじっくりと眺めつつ猫族のみんながいる方に指を差す。
 指を刺したら立ち上がり、ゆっくり、ゆっくりと見せ付けるように一歩ずつ彼らがいる方向に向かって歩き始めた。
 わかった、わかっている。何がしたいかは。


「だ、だめ!」


 シィ・スピダウン9回掛け。しかしゴ・ゴッドゴブリンは止まらない。確かにちょっぴり遅くなったような気もするが、ほとんど効いている様子はない。
 

「やめ……だめだ……」


 ゴブリンは今、僕から穴の淵までの中間地点。もう一度シィ・スピダウンをかけるもやはり効果はない。
 

「やめて……」


 僕は立ち上がって、滑るこむように移動し左手でゴブリンの足をつかもうとした。しかしそれがわかっていたかのように透かされる。……その上。


「あ、ああああああっ!?」
「ヌフフフフ!」


 踏み抜かれた。肉と骨が潰された音がする。痛い。こんなに痛いのは始めてだ。……でも死ぬほど痛いというわけではない。
 その理由はわかる。だって僕がここで痛がっていたら、代わりにその程度じゃ済まされなくなる人たちが居るからだ。


 <【特技強化・極】の効果が発動。
   能力取得:【痛覚鈍化】>


 ……ありがたい。さっそくその能力をオンにする。
 それでもまだ痛くはある。自分の左手を目視したくない。
 

「ヌフフ」


 僕の様子を確認し、満面の笑みを浮かべてから再び後ろを振り向いたゴ・ゴッドゴブリン。
 ついに穴の淵までたどり着いた。Sランクの跳躍力なら、このまま跳べばすぐに猫族達の元へ辿り着く。

 本人もそれを自覚しているのか、膝を思い切り曲げ、跳ぶ準備に入った。わざとらしく力をためている。
 そして膝を伸ばしきり、足を地面から離そうとしたその瞬間。

 僕は右手で鉄のムチを振るい、ゴ・ゴッドゴブリンの体に巻き付けて拘束した。さらに間髪入れずにムチにシィ・スピダウンを九回重ねがけして引きちぎりにくいよう固定する。


「ヌ!?」
「はぁ……はぁ……やらせない!」


<【特技強化・極】の効果が発動。
  鞭技追加:【バインドウィップ】>


 捕獲するためのムチの技だ。死ぬ寸前なのにいま習得しても意味ないけど。

 僕はそのまま片手でムチを引っ張りつつ、自分に全力で速度暴走をかける。
 予想通り全く本気を出さずに跳んでいたゴブリンを道連れに、僕は後ろへ転げ回った。でもムチは死んでも離さない。


「グ、ヌ」
「は、はは……」


 ついに右肩が外れた。しかし、ゴ・ゴッドゴブリンの両腕を封じることはできた。いくらただの鉄製とはいえ、千切れた時に崩壊する速度すら遅くなっているんだ。ほんの少しくらい持つだろう。
 でも、かと言ってこれからどうしよう……。


「ヌフ、ヌフフフフ!」

 
 ゴブリンはまた笑い出すと、身体をプルプルと、寒い場所にでも居るかのように震わせ始めた。

 その振動はだんだんと早くなっていき、それが鉄のムチに伝わり、速くなりすぎた振動がムチを破壊。ゴブリンを直接巻き付けていた部位がまるで砂鉄になったかのように崩れ落ちる。

 どうやら力で無理やり引きちぎるのは不正解だと瞬時に理解されたようだ。わかってたけど、知能も半端じゃないくらい上がっている。
 

「ヌフ、ヌフフフフ、ヌフフフフフフフ!」


 明らかに僕を嘲笑っている。元の方向を振り返ると、再び歩みを始め、すぐにまた猫族達から一番近い穴の淵へ。
 
 頭の中でありとあらゆる止める方法を考える。全力で考える。鼻から血が垂れてくるほど考える。そして考えついた。
 僕は【個人求道】から能力の強制進化、貯めてある一回分を選択。能力を一つ、進化させた。


<【個人求道・改】の効果が発動。
  能力進化:【重複補助・極】>

 
 さあ、僕の全魔力を込めて____。





=====
(あとがき)
今日は午後10時にも投稿しますよ!


ゴ・ゴッドゴブリン/Sランク

ゴブリン系の最終形態の一つ。
その強力さは一晩で街一つを破壊し尽くしたという逸話があるほど。
基本的に魔法使いタイプや物理攻撃タイプに分かれているゴブリンだが、ゴ・ゴッドゴブリンでも進化前のそれらの情報が引き継がれる。
もし倒すことができた場合、売ると高い部位は金色の目と歯。膨大な魔力が含まれているらしい。


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