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第一部

第40話 俺達と待ち合わせ

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 俺とロナが出会ってから四日目。
 俺達は王都内の、とあるあまり人気ひとけのないちょっとした広場の公共のベンチで、二人なかよく並んで座っていた。

 午前十時前……嗚呼ああ、これから昼時に移り変わっていく最中さなか、こんな美少女と一緒にのんびりと、遠目から街を行き交う人々を眺めるってのは、なんと優雅で紳士的なのだろう。

 こんなゆったりとした時間が、俺のジェントルな魂をより清らかにしてくれるんだ。
 
 俺はふと、ロナの方を見た。
 その腕にはたくさんの露店で買ったお菓子や小料理が抱えられており、それらをとても嬉しそうに頬張っている。すんごい満面の笑みだ。

 うん。やはり、彼女は美しい。


「……う? どしたのザン……食べる?」


 おっと、長いこと眺めていたらどうやら食べ物を狙っていると思われたようだ。
 小首を傾げながら、何かの串付きフライを差し出してくる。


「いや、相変わらず美味しそうに食べるなと思って見てただけさ。お気遣いはありがたいが、俺はランチが食べられなくなりそうだから遠慮しておくぜ」
「そっかー」


 ロナは再び抱えてるものを食べ始めた。

 昨日の夜も料理屋で約束していた通り俺の奢りで超大量に食事して、今朝はブレックファーストだってしっかり摂ったんはずなんだが、間食でこの量……食欲は止まることを知らないようだ。

 だが、流石に一緒に過ごして半週間経ったんだ。
 彼女を見る周りの目にも、彼女自身の胃袋の強さにも、既に慣れつつある。

 それに能力を得たことで、食事が彼女にとって魔力回復の一番の手段になったんだ。
 来週の今頃になれば、もう微塵も気にしなくなっているかも知れないな……たぶん。


「それにしてもさ、ザン」
「なんだ?」


 いつのまにか、抱えていたもの全て食べ終わっいたらしいロナは、心配そうな表情を俺に向けていた。
 口角にベリー系のソースがついている……。
 その場所を指してやると、ロナは恥ずかしそうにそれをぬぐった。
 

「あっ、えへへ……。で、でね。今更だけど、今から会う人達ってザンが呪われる原因でしょ? その時のこと思い出したりして辛くならない?」
「なに、その点はノープロブレムだ。そもそも呪われたこと自体、思い悩んで苦しんだ時間が短いからな」
「そうなんだ」
「だって呪われた直後にロナと運命的な出会いをしたんだぜ? 落ち込む暇なんてなかったさ」


 思えば俺が呪われて、ギルドを飛び出してから一時間も経たずにロナを救ったんだよな。
 レディを助けるのに己の精神状態は関係ない……か。
 ふっふっふ、さすが俺だ。これこそスーパーなジェントルマンだろう。


「そっか……」
「まぁ、紳士だからな! ふっふっふ。……って、お? もう時間か」


 近くに建てられていた柱時計の針が指し示す。
 午前十時丁度、つまり約束の時間が来たようだ。

 それと同時に、こちらに向かって歩いてくる大小様々な四つの人影があった。

 ……俺みたいな素人でも遠目で見てもわかる、その四人のカリスマ性と凄まじい強さ。
 ギルド『リブラの天秤』が誇る、全メンバーがSランクで構成されたパーティ、『ヘレストロイア』。その全員が揃い踏みだ。

 道行く人々に次々と声をかけられているものの、軽い返事で済ませながら前に進んでいる。これが人気者ってやつか。

 ……ただ、その声をかけている人々は気がついているのだろうか。
 そのほとんど全員の表情が、とても暗く、よどんでいることに。

 ふむ。あの雰囲気と空気感だと、俺に話しかけてくるまでにそこそこまごつきそうだな。
 ならばここは紳士的に、俺から声をかけてやろうじゃないか。

 この最初のコンタクトで元気そうに振る舞えば、ドロシア嬢の目的も果たしやすくなるというものだろう。
 というわけで、俺は立ち上がって『ヘレストロイア』に近いた。


「やぁやぁ、ごきげんよう諸君。三日ぶりじゃあないか」
「ザンくん……ごめん。待たせてた、みたいだね」
「いやぁ、なに。俺も今来たところさ」


 本当は余裕を持って三十分前にはこの場所にやってきていたが、その間ずっとロナと優雅な時間を過ごせたので、問題はない。

 さて、ドロシア嬢以外の三人は……あー、真近に来てみるとさらによくわかるな。目が死んでるってやつだ。
 せめてこの幼い見た目で愛くるしい、ホビット族のカカ嬢だけは笑顔にしてやりたいものだが……。


「とりあえず、そこのベンチに腰をかけよう。レディを立ちっぱなしにさせるというのは俺の紳士的な性分に合わないからな……。俺の連れが居るが気にせず腰掛けてくれ」
「……わかった」
「だが待てよ。あの椅子は三人用だな。よし、男は立ってろ」
「お、お前、そういうキャラだったのか……」


 獅子族であり、俺が呪われた身になった原因とも言えるリオという男がそうツッコミを入れてきた。
 声色は落ち込んでいるが、コイツはこの様子だと、俺のステータスカードを見て『強制互角』を調べ、俺の力を理解できれば、簡単に元気になりそうだな。


「ロナちゃん……だっけ、お隣、失礼するね」
「は、はいっ」


 ロナは椅子の右端に身を寄せ、真ん中にドロシア嬢、左端にカカ嬢が座った。
 いや、カカ嬢は座ったっていうよりドロシア嬢が座らせたか。自分で動く気力もないようだ。
 
 ……ああ、特に彼女はこの四人の中で特に覇気がない。ずっと下をうつむいたままだ。
 自分が宝箱を手放さなければ、俺が呪われることもなかった、なーんて今も考えているのだろうな。この様子だと。

 さて、これから俺がドロシア嬢とカカ嬢のために一肌脱げばいいんだろう。気合を入れてジェントルにいこう。
 まあレディのためなら、無償で何肌でも脱ぐがな!






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