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第一部
第51話 俺達と振り返り 中編
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「ところでロナ、あの瞬間一体何をしたんだ?」
「……あれ? そういえば私、なにしたんだっけ?」
何故か質問をされた側である彼女が首を傾げてしまった。
まあ、人ってのは無我夢中で動いた時のことを忘れてしまうことはあるよな。
しかも今のロナはついさっきまで、魔力の欠乏に悩まされながら眠っていたんだ。記憶がおぼろげになってしまうのは仕方ない。
ならここはクレバーに、俺の予想を交えつつ、記憶を辿れるようにエスコートしようじゃあないか。
「とにかくザンを守ろうとしたのは覚えてるんだけど……」
「こんな麗しいレディにそう言われるだなんて、俺は幸せ者だな」
「あ、ありがとっ」
「とりあえず、まずは《大物狩り》の呪いを受けて魔力が欠乏していたはずの状況で、どうしていきなり動けるようになったかは覚えてないか?」
「あ、それはわかるよ!」
そうか、良かった。
これは俺の予想通りなら【究極大器晩成】が関わってて……。
「あのね! ザンが戦ってくれてる最中に、私も力になりたくって、なんとか身体を動かそうとしてたら『魔欠耐性』って能力を覚えたの。ほら、さっき言ってたやつ」
さすがは俺、合ってたぜ。
「やっぱりな! 念のため、カードを見せてもらっていいかな?」
「うん!」
ロナはステータスカードを取り出し、俺に見せてくれた。
たしかに能力の項目に『魔欠耐性』が増えている。
そう……増えてはいる、が。
なんと、それは『魔欠耐性・Ⅲ』と表記されていた。
たしかに『魔欠耐性』を所持していそうだった、Sランクのドロシア嬢やカカ嬢ですら、まともに動けはしなかったあの状況で。
爆弾から俺を咄嗟に守るなんて芸当は、このような、かなり強い耐性がなければ不可能だろうが……。
「す、すごいな。すぐ『Ⅲ』まで進化したのか」
「うん! ……うん? あ、違うよ! 私、ザンに謝らなきゃいけないことがあるんだった!」
「お、なんだ?」
「あのね、相手が巨核魔導爆弾を取り出した時、さすがにマズイと思って……近くに落ちてた『能力上昇の札』を使って『魔欠耐性』を進化させるのに使っちゃったの。ご、ごめんなさい……貴重なもの勝手に使っちゃって……」
あー!
なるほど、そういうことだったか。
《大物狩り》を倒した後、俺は、憲兵がやって来るまでの間に自分で散らかした宝具はきちんと片付けた。
だが、『能力上昇の札』だけがどうしても見つからず回収できなかったんだ。
宝具とはいえモノ自体は薄っぺらい紙だからな、爆風で吹き飛ばされたのかと思って諦めていたんだが……ロナが使っていたから無かったのが答えだったか。
にしても、あの札の効果で進化できるのは一段階までだったはず。
つまり、どのみちロナは最初から、『魔欠耐性』を『Ⅱ』までは習得できてしまったことになるよな。
一昨日のランチの時を彷彿とさせるぜ。やはりロナは凄い素質を持っているようだ。
「ほんとに、ほんとに、ごめん……ね?」
「ん……」
宝具を相談なく使ってしまったことを思い出したためか、罪悪感に駆られたロナは、まるで捨てられたペットのような顔をして謝っている。
この表情、胸がキュンと締め付けられるようだ。
彼女は育った環境故か、宝具をそれはもうめちゃくちゃ大切なものだと捉えているから、かなり自分を責めているのだろう。
気にする必要ないのにな。
よし、ここは紳士の見せ所。
俺は彼女の顎にそっと手を添え、色男な風を吹かせながら、ジェントルな優しい声で囁いた。
「俺を思ってのことだ、微塵も怒ってないぜレディ。むしろこれ以上ないベストな使い方だ。両方の意味で感謝しているさ。だからそんな悲しそうな顔をしないでくれよ、なぁ」
「そ、そうかなぁ……」
「そうだとも。それに、俺だってロナに謝らなきゃいけないことがあるんだ。それくらい訳ないさ」
「え? ザンが私に謝らなきゃいけないこと? そんなの、なぃ……あ! む、むね……おっぱ……あーっ⁉︎ あわあわ、あわわわわわ!」
あ……し、しまった!
落ち着かせるためのセリフが逆効果となってしまった。
俺としたことが……忘れられてるならそれで良かったのに、わざわざ思い出させるだなんて。
俺の今の余計な一言で、上裸を見られたことも思い出してしまったロナは、顔を真っ赤にしながら自分の胸を両腕で抑えつつ、目に涙を溜めている……。
……が、まてよ。
なぜなんだ?
むしろこの状況にホッとしている俺もいる。
レディの身一つで弱いまま路地裏に入ったり、俺の寝てる間に同室で着替え始めたりと、警戒心こそ足りなかったものの、やはり羞恥心の方は人並みに有るのだと、再確認できたからか……?
とはいえ、どっちみち正式な謝罪を紳士としてしなくては。
「ごめんな、本当にあれは悪かったよ、恥ずかしい思いをさせた。紳士としたことが」
「あぅ……ぅ……で、でもアレはザンは悪くないし……じ、事故だし……。恥ずかしいけど……。む、むしろ、それも、私なんかの……変なもの見せて申し訳ないなぁ……って……思う、よ」
「そんなことないさ」
相変わらず自信なさげだな。
むしろ自信無いのが考えられないくらいのスタイルをしているんだが……。
そこをフォローしすぎるとやはりセクハラになるので、当たり障りのない返答しかできないのがもどかしい。
「ぇと、ところでさ、ザンだけかな……見たの」
「ああ、そのはずだ」
「な、ならいいかな……うん……」
大丈夫、『ヘレストロイア』の四人からは俺の背中が影になっていただろうし、《大物狩り》からはロナの背中しか見えていなかったはずだ。
ロナは俺の返事を聞くと一つ大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせたような仕草をとった上で、俺と正面から向き合ってくれた。
……あ、でもやっぱりすぐにまた顔を赤くして目線を逸らしたぞ。
なんだこれ、可愛いな。
「と、とにかく! 札のことは、ごめん、なさい……」
「俺もすまなかった。……まあ俺とロナ、互いに何かしら悪く思ってるんだ。ここはお互い様ってことで俺はいいと思うぜ」
「そ、そっか……な? うーん……わかった」
腑には落ちてないみたいだが、あの話を挟んだことで、罪悪感を緩和させられることはできたのか……?
け、結果オーライだな、うん。
=====
よ、予定より振り返り編が長く……。
非常に励みになりますので、もし良ければ感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
「……あれ? そういえば私、なにしたんだっけ?」
何故か質問をされた側である彼女が首を傾げてしまった。
まあ、人ってのは無我夢中で動いた時のことを忘れてしまうことはあるよな。
しかも今のロナはついさっきまで、魔力の欠乏に悩まされながら眠っていたんだ。記憶がおぼろげになってしまうのは仕方ない。
ならここはクレバーに、俺の予想を交えつつ、記憶を辿れるようにエスコートしようじゃあないか。
「とにかくザンを守ろうとしたのは覚えてるんだけど……」
「こんな麗しいレディにそう言われるだなんて、俺は幸せ者だな」
「あ、ありがとっ」
「とりあえず、まずは《大物狩り》の呪いを受けて魔力が欠乏していたはずの状況で、どうしていきなり動けるようになったかは覚えてないか?」
「あ、それはわかるよ!」
そうか、良かった。
これは俺の予想通りなら【究極大器晩成】が関わってて……。
「あのね! ザンが戦ってくれてる最中に、私も力になりたくって、なんとか身体を動かそうとしてたら『魔欠耐性』って能力を覚えたの。ほら、さっき言ってたやつ」
さすがは俺、合ってたぜ。
「やっぱりな! 念のため、カードを見せてもらっていいかな?」
「うん!」
ロナはステータスカードを取り出し、俺に見せてくれた。
たしかに能力の項目に『魔欠耐性』が増えている。
そう……増えてはいる、が。
なんと、それは『魔欠耐性・Ⅲ』と表記されていた。
たしかに『魔欠耐性』を所持していそうだった、Sランクのドロシア嬢やカカ嬢ですら、まともに動けはしなかったあの状況で。
爆弾から俺を咄嗟に守るなんて芸当は、このような、かなり強い耐性がなければ不可能だろうが……。
「す、すごいな。すぐ『Ⅲ』まで進化したのか」
「うん! ……うん? あ、違うよ! 私、ザンに謝らなきゃいけないことがあるんだった!」
「お、なんだ?」
「あのね、相手が巨核魔導爆弾を取り出した時、さすがにマズイと思って……近くに落ちてた『能力上昇の札』を使って『魔欠耐性』を進化させるのに使っちゃったの。ご、ごめんなさい……貴重なもの勝手に使っちゃって……」
あー!
なるほど、そういうことだったか。
《大物狩り》を倒した後、俺は、憲兵がやって来るまでの間に自分で散らかした宝具はきちんと片付けた。
だが、『能力上昇の札』だけがどうしても見つからず回収できなかったんだ。
宝具とはいえモノ自体は薄っぺらい紙だからな、爆風で吹き飛ばされたのかと思って諦めていたんだが……ロナが使っていたから無かったのが答えだったか。
にしても、あの札の効果で進化できるのは一段階までだったはず。
つまり、どのみちロナは最初から、『魔欠耐性』を『Ⅱ』までは習得できてしまったことになるよな。
一昨日のランチの時を彷彿とさせるぜ。やはりロナは凄い素質を持っているようだ。
「ほんとに、ほんとに、ごめん……ね?」
「ん……」
宝具を相談なく使ってしまったことを思い出したためか、罪悪感に駆られたロナは、まるで捨てられたペットのような顔をして謝っている。
この表情、胸がキュンと締め付けられるようだ。
彼女は育った環境故か、宝具をそれはもうめちゃくちゃ大切なものだと捉えているから、かなり自分を責めているのだろう。
気にする必要ないのにな。
よし、ここは紳士の見せ所。
俺は彼女の顎にそっと手を添え、色男な風を吹かせながら、ジェントルな優しい声で囁いた。
「俺を思ってのことだ、微塵も怒ってないぜレディ。むしろこれ以上ないベストな使い方だ。両方の意味で感謝しているさ。だからそんな悲しそうな顔をしないでくれよ、なぁ」
「そ、そうかなぁ……」
「そうだとも。それに、俺だってロナに謝らなきゃいけないことがあるんだ。それくらい訳ないさ」
「え? ザンが私に謝らなきゃいけないこと? そんなの、なぃ……あ! む、むね……おっぱ……あーっ⁉︎ あわあわ、あわわわわわ!」
あ……し、しまった!
落ち着かせるためのセリフが逆効果となってしまった。
俺としたことが……忘れられてるならそれで良かったのに、わざわざ思い出させるだなんて。
俺の今の余計な一言で、上裸を見られたことも思い出してしまったロナは、顔を真っ赤にしながら自分の胸を両腕で抑えつつ、目に涙を溜めている……。
……が、まてよ。
なぜなんだ?
むしろこの状況にホッとしている俺もいる。
レディの身一つで弱いまま路地裏に入ったり、俺の寝てる間に同室で着替え始めたりと、警戒心こそ足りなかったものの、やはり羞恥心の方は人並みに有るのだと、再確認できたからか……?
とはいえ、どっちみち正式な謝罪を紳士としてしなくては。
「ごめんな、本当にあれは悪かったよ、恥ずかしい思いをさせた。紳士としたことが」
「あぅ……ぅ……で、でもアレはザンは悪くないし……じ、事故だし……。恥ずかしいけど……。む、むしろ、それも、私なんかの……変なもの見せて申し訳ないなぁ……って……思う、よ」
「そんなことないさ」
相変わらず自信なさげだな。
むしろ自信無いのが考えられないくらいのスタイルをしているんだが……。
そこをフォローしすぎるとやはりセクハラになるので、当たり障りのない返答しかできないのがもどかしい。
「ぇと、ところでさ、ザンだけかな……見たの」
「ああ、そのはずだ」
「な、ならいいかな……うん……」
大丈夫、『ヘレストロイア』の四人からは俺の背中が影になっていただろうし、《大物狩り》からはロナの背中しか見えていなかったはずだ。
ロナは俺の返事を聞くと一つ大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせたような仕草をとった上で、俺と正面から向き合ってくれた。
……あ、でもやっぱりすぐにまた顔を赤くして目線を逸らしたぞ。
なんだこれ、可愛いな。
「と、とにかく! 札のことは、ごめん、なさい……」
「俺もすまなかった。……まあ俺とロナ、互いに何かしら悪く思ってるんだ。ここはお互い様ってことで俺はいいと思うぜ」
「そ、そっか……な? うーん……わかった」
腑には落ちてないみたいだが、あの話を挟んだことで、罪悪感を緩和させられることはできたのか……?
け、結果オーライだな、うん。
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