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第一部

◆ ロナとファッション 後編

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「さあ、見てあげてちょうだい……ふふっ」
「ど、どお……かな……?」


 店主のご婦人と共に現れたロナは、顔を赤くしながら俺に感想を尋ねてくる。かなり恥ずかしがってるのも当然だ。

 今まで露出がほぼない格好をしていた彼女は、黒い肩出しのトップスに焦茶色のミニスカートを着ていた。
 今、太腿に肩、なんなら胸の谷間までさらけ出していることになる訳だ。相変わらずデカ……じゃなくて抜群のスタイルをしている。

 うーん、これはロナの趣味ではないな。確実に婦人の趣味だろう。

 ついつい、年頃の少年として紳士的でないところに目線を泳がせてしまうため、帽子の縁で視野を遮りながら、俺は感想を述べる。


「よく似合ってるぜ。……だが、それでロナは日常生活を送れるのか?」
「む、無理……。無理ですよ、やっぱり! 尻尾のせいでスカートが捲れそうで……! ひらひらして落ち着かないです!」


 ん? この服装でロナの気にしてるのってそこだけなのか?
 胸元や肩は特に気にせず、脚だけ抑えてるしな。多分そうなんだろう。


「あらそう? ふふ、ごめんなさいね。でも明らかに貴女の要望と違うものを出したのに、着てみてくれるとは思わなかったわ」
「い、一応です……」
「あら、じゃあ次も似たようなの着てもらおうかしら」
「あぅ……」
「てんちょ~、あんまりイジワルしたらダメですよぉ~」
「あらあら、そうね。じゃ、次は要望通りにするわ。……それにしても顔も良いのにスタイルもヤバいなんてズルいわね。何着ても似合うのよ、もっと今みたいにファッショナブルなチャレンジ、してみない?」


 その問いに対し、ロナはフルフルと首を振った。
 まだ王都そのものにも慣れきっていないロナにはたしかに厳しいだろうな。


「あら、残念。じゃ、またこっちにきて」
「は、はいっ」


 再び二人はどこかへ消え去ったが、やはりすぐに戻ってきた。
 婦人の服を選ぶ速さもあるが、着替えるのも速い。おそらくは一瞬で着替えさせるアイテムとかがあるんだろう、よく知らないけど。

 今度のロナは、トップスが白いシャツに首元に赤い小さめのリボンがあしらわれているものであり、硬めの生地のチェック柄のブラウンの膝丈のスカート、長めの黒ソックスで決められていた。

 そうそう、こういうのだよ、こういうの。
 なんでも似合うとは言え、ロナの性格と合致するのはこういうのだ。


「どう……?」
「いやぁ、素晴らしいな」
「あ、ありがと!」
「うーん、流行って訳じゃないし、都会っぽくもないし、なんなら他の店でもあしらえるようなファッションだけど……そうね、シンプルがベスト、素体の良さを引き立ててるわ。この雰囲気……良家の御出身だったりするのかしら?」
「そもそも竜族だったらお金持ち多いんじゃないんですかぁ? 強い冒険者ばっかりだしぃ……」
「ああ、確かにそうね。それで、こんな感じがいいのよね?」
「は、はいっ!」
「じゃあ、あと10セットくらい試しましょうか。獣族用の服もたくさん揃えておいてよかったわ……」


 それからロナは、白地に深緑のスカートのワンピースや、赤い腰巻き布のついた長丈の黒ズボンと白シャツだったり、カーディガンが添えられていたり、袖がないものだったり、色んな服を着せ掛えさせられていった。

 うーん、すっかりロナを婦人に取られてしまったぜ。
 本当は店を歩き回りながら、これが似合う、似合わないなんて話し合いをしつつ決めていくのが俺の予定だったんだが……ま、別にいいか。それは俺のターンでやればいい。

 一つ一つ店に来る二人にその都度感想を述べて、それを繰り返し、おおよそ三十分が経った頃。ロナが元の服装になって戻ってきた。


「決め終わったのか?」
「うん!」
「3セットだろ? どれにしたんだ?」
「えっとね……」


 曰く、二番目のリボン付き白いシャツのセットと、紺色と一部白のワンピース、ベージュのオーバーオールのスカートのセットにしたようだ。


「いいんじゃないか。暑くなるまではいけるな」
「んー、竜族は暑いのにも寒いのにも強いから、ずっとこれの繰り返しでも大丈夫だよ?」
「いやいや、使いまわすんじゃなくてこまめに買った方がいいぜ。季節に合わせたりしてな」
「そうですよぉ~」
「そう、ですか? じゃあそうしようかな」


 しばらくして、店主が遅れてやってくる。それはどこか満足そうな顔をしていた。
 店員の一人に服を包むようお願いしたあと、再びロナに話しかけてくる。


「さ、次は下着ね。これも彼氏、じゃなくてお友達さんに見てもらう?」
「えぇ⁉︎」
「ふふ、冗談よ。まあ、下着もたくさん種類があるし、これもしっかり選びないとね。でしょ? だって……」


 婦人は何かをロナに耳打ちした。
 何度目だろう、ロナの顔がまた赤くなった。
 一体何を囁いたんだ。激しく首を横に振っている。


「ふ、普通で! 普通でいいです! まだそんなんじゃないですから! セクシーとかそういうのは……ダメです!」
「あらそう、残念ねぇ」


 婦人がチラッと俺の顔を見ると、片目でウインクしてきた。
 なるほど、今ので大体察しはついたぞ。俺との仲を冷やかして、いかがわしそうな下着を勧めたんだろう。
 残念ながら俺もまだそういう意味で手を出すつもりはないからな、下着は別に興味がない。……ヘタレでもないぞ。違うぞ。
 
 それからまたややあって、ロナは服と下着の全てを選び終え、結局この店でロナの私服は全て済ませてしまった。

 合計で二十三万ベルもするというが、今の俺たちには払えない額ではない。ロナはそのまま躊躇うことなく大金貨二枚と端数の貨幣をポンと出した。
 これより店員さん達には本格的にお嬢様だと思われたみたいだ。

 ちなみに俺が紳士的に支払いしようとしたところ、無言で手のひらをこちらに向けつつ首を振って拒否された。
 財布を出す前にそれをされたので、そろそろロナも俺の行動に慣れてきたようだ。

 ただ、『シューノ』があるので荷物持ちは任させてくれる。ふふふ、紳士冥利に尽きるぜ。
 でも……なんかよく見たら服が3セットでなく4セットあるような……? 気のせいか。
 まあ、仮に予定より多く買ってたとしても、ロナの勝手だろう。


「ありがとうございましたぁ~! また、いらしてちょうだいね」
「はい!」


 俺たちは店を去った。
 ロナはそれなりに楽しかったのか、満足感があったのか、ホクホクとした表情を浮かべている。











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