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第二部

第74話 俺達と宝具取扱店

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「着いた、ここだ」


 ここが黄色い屋根の店の店主に紹介してくれた、個人経営ながら宝具を扱う店なのか。
 オシャレで大人っぽい落ち着いた外観で、全体的にブラウン色で仕上げられている。


「じゃあ、入るか」

 
 そう声をかけると、ロナは黙って頷いた。叔父を見かけてからだいぶ口数が減っている。

 一応ここに来るまでの間に、今日はもうやめておくかと提案したんだが……彼女は「ここまで来たんだったら用事は済ませておきたい」と答えた。

 それが本音のようには見えなかったが、ロナ自身がそう望むなら、クールに答えてやるのが紳士なのさ。
 俺が気を配りまくれば済む話なんだ、簡単だろう?

 そんなわけで店の中に入ると、重めな鈴の音が響いた。
 中はごちゃごちゃだ。いや、なんというか……きちんと整頓されたごちゃごちゃと言うべきか。あえてこうしているのだろう。

 つまり、どう見てもただの良い趣味してる古道具屋アンティークショップだ。ざっと見た限り『宝具理解』が反応するものはない。


「あ、お客さん? いらっしゃ~い!」


 カウンターの奥から可愛らしい声が聞こえたかと思うと、これまた可愛らしいエルフ族の少女がひょっこりと顔を覗かせた。人族だったら十三歳くらいだろうか。

 この店の雰囲気でこのようなレディが現れるのは予想外だったが……ふっ、良い店を紹介されたものだ。今度あの店主にお礼を言わないと。


「初めてみるお客さんだぁ、お好きにご覧になってくださいね! 好みのものがあると良いけど……ん? しかもカップルなんだ! いいなぁ、デートですねっ?」
「え! あ、ちが……そのっ……」


 グイグイくるな。
 やっぱり店の雰囲気と違うが、いや、むしろそれが良いとも言える。うんうん。

 しかし今日だけでカップルに間違われること二回か……ま、それもまた良いんだがな。


「はは。まあ半分正解だが本題は違うのさレディ」
「は、はんぶん……!」
「へー、ほー……ふふぅん。じゃ、本題というのはなんですか? イカした帽子のお兄さん」
「お、センスのある呼び方だな。嬉しいぜ。でな、この店は宝具を取り扱ってると紹介してもらったんだ。売却を検討している宝具があるんだが、まだ考えているだけだから、査定のみをお願いしたいんだよ」
「ほほう、そっちか。それなら店主をお呼びしますね! ……ひいおばぁちゃーーん、ほーぐのほーのお客さんだよぉー!」


 エルフ族のレディはカウンター奥に向かってそう叫んだ。
 するとすぐに「もう少し静かに呼べないのかい!」と返事が返ってくる。

 ひい・・おばあさんなのに、結構な元気がある声。
 となると、おそらくその人もエルフ族なのだろう……なんて考えていたら、実際に白髪の横に耳の長い老婦人が現れた。

 昔、かなりの美人だったのは間違いない。お年を召されているのに華麗さがにじみ出てるぜ。


「いらっしゃい。うちの騒がしいのがすまないね。……ほう、これは珍しい。竜族の若い女かい、見るからにまだ酒も飲めないね?」
「はい、その通りです」
「竜族……? あ、ほんとだ! やっぱり尻尾大きいんだねぇ。あとこの子、胸も大きいね……?」
「こら、余計なこと言うんじゃないよ! しかし飲酒不可の竜族の女の子なんて百二十数年ぶりに見るね」


 やけに珍しがられることが多いな、ロナは。
 竜族そのものがかなり珍しいのは知っているが、十八歳未満であるロナの場合はさらに希少みたいだ。

 まあ、人って子供の時期より大人の時期のほうが長いし、そうなるのも自然なことだろう。……きっと。
 

「で、査定だったね? 聞こえてたよ。そんなもん、国営の方に行けば良いじゃないか。そうしない理由が何かあるのかい?」
「理由は単純さ、マダム。売却額を聞き比べて高い方で売る……基本だろう?」
「最近はそういうこと気にせず向こう行く奴も多くなったってのに……若いくせして考えることがこすいよ」
「ははは、良く言えば堅実なのさ。でもこうして麗しいレディ達とお話しできたんだ、それだけでも足を運んだ価値があるよ」
「わぁ! うるわしいってさ! にへへー、見る目あるねー」
「はいはい、なるほどアンタそういうタイプかい。商人気質でキザな人族ね……その若さで。これまた珍しいもんだね。ま、珍しいのは嫌いじゃないよ。こっちきな」


 俺とロナは二人に導かれるまま、カウンターの奥にあった部屋に案内された。なるほど、こっちにはしっかりと宝具がたくさん置いてある。
 まあ、普通は堂々と宝具を商品棚に並べたりしないよな。


「じゃ、アンタはお客さんにお出しする紅茶を入れてきな」
「おっけー! ……ところでさ、どんな宝具か気になるからさ、私も一緒にみてい~い?」
「ああ、俺は構わないぜ。な、ロナ」
「うんっ」
「お客さんがそう言うなら断るわけにはいかないじゃないか。ったく、この変な宝具好きは誰に似たんだか……」
「ひいおばあちゃんだよー? じゃあお茶淹れてくるねー!」


 レディが嬉しそうに走り去った後、その場にあった古びたソファに腰をかけるよう促される。

 年季は感じるが、手入れが行き届いていて爽やかなノスタルジーに浸ってしまいそうになる……良く見れば家具類はみんな大体そんな感じだ、うん、こういう応接室もいいな。


「それじゃ、まずは身分証を見せてもらおうかい。私は別に見なくてもいいんだが、ま、デカイ取引をする時の儀式みたいなもんだからね」
「ああ、もちろん」


 俺とロナはステータスカードを取り出し、老婦人に渡した。

 彼女はそれを退屈そうに眺め始めたが、その表情はすぐに変わった。エルフ族の老人なんて普通では味わえない経験をたっぷりしているであろう人物でも、俺達のカードのその内容には驚きを隠せないようだ。


「いやぁ……驚いたね。これは驚いた。ここまで驚いたのは三年ぶりくらいだよ」
「はは、良く言われるさ」
「竜族の人間、それも【誇り】だとか【血筋】だとかがしっかりあって、その風習にがんじがらめになってるであろう子が、こんな呪われまくっている人族相手に親しそうにしているのが特にビックリさ」


 え? なんだと? 
 その方面からの驚かれ方は予想していなかった、思いつきもしなかった。俺とロナが仲良いこと自体が異端だなんてな。

 いやいや、俺とロナはベストフレンド……なんならそのうちベストカップルになるかもしれないんだ。流石に聞き捨てならないぜ。


「なあ……それは、どういうことだ?」
「……知らないんだね。いいかい、竜族はその強さゆえに傲慢なところがあってね、大の弱い者嫌いなのさ。だから弱者とは基本関わらない、あるいは見下す、なんならしいたげる……そういう悪い面のある種族なんだよ。そのぶん強者や才能のある人物はとことん認めるがね。例の二つの称号がある時点でお嬢ちゃんも例外じゃない」


 老婦人がこの話をし始めてから、ロナは悲しそうにうつむいている。が、反論や否定をしようとはしない。反応を見るに、老婦人の言っていることの大半が間違っていないみたいだ。

 たしかに、ロナが【究極大器晩成】のマイナス方面の効果のせいで、故郷で辛い思いをしてきたってのはたまに聞いていた。
 竜族の間で、弱者として過度に虐げられてきとしたなら……なるほど、老婦人の話と合致する。

 そして、そんなもんは個人差なんじゃないかと言いたいところだが、実際は【誇り】と【血筋】の称号がある時点でロナ自身もそういう考え方を持っている……のか。


「……すまないね。竜族が特別イヤな種族だと言ってるんじゃないよ。どの種族にも必ずそういう面はあるのさ。エルフ族にも人族にもね。いわば身体能力や寿命の差みたいに逃れられない特性の一つだ。それを乗り越えて仲良くしているアンタ達は本当に、珍しい」


 なるほど、そういうことか。
 ま、正直その乗り越えられた理由とやらはたくさん心当たりがあるが……とりあえずこの俺が才能の塊であるからという点は大きいんだろうな。うん。





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