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第二部
第75話 俺達と黒鍵を求める者
しおりを挟む「ははは! そりゃあ俺がクールでジーニアスでセンスのあるジェントルマンだからかもしれないぜ?」
「……ああ。そうかもしれないねぇ」
思ったことをそのまま言ってみると、老婦人は否定することなくすんなりと頷いた。
正直、苦笑いされるか受け流されるだろうと思って発言したんだが、もう俺の良さが伝わったのだろうか? 自画自賛しただけなんだがなぁ、流石は紳士……!
「……おっと。まだまだ珍しい話はできそうだが、そろそろ本題に入らないといけないようだね」
老婦人がそう言い出すと同時に、この部屋の扉が再び開き、少女が四杯の紅茶を持って戻ってきた。
レディはテキパキとそれを配り終えると、老婦人の隣にちょこんと座り、興味を抑えきれない様子でこちらをみてくる。
「それでそれで、査定してほしい宝具っていうのは……!」
「はいはい、今から見せてもらうんだよ。そういえば品物の大きさを聞いてなかったね」
「どっちも机に乗り切る小物サイズさ」
「じゃ、この上に乗せな」
木製のオボンが差し出されたので、その上に『トレジア』と『解呪の黒鍵』をのせる。
その瞬間、レディの瞳孔がカッと力強く見開いた。
「ひぃおばぁちゃん、これ! これっ! 黒鍵!」
「はいはい、わかってるよ」
「すぐに連絡しなくちゃ……! 私、一走り行ってくるっ!」
「こら待ちな。まだお客さんは査定しか頼んでないんだからね。まずは話をするんだよ」
「そ、そうだった~……」
ふむ。二人の反応と、連絡したい相手がいるとの発言からして、まあ、答えは一つか。
「これを欲しがってる人間が居るんだな」
「ああ、その通りさ」
「そうなのー! すごく有名なギルドに所属している冒険者さんが、つい三日前にうちに来てね~!」
……彼女の話によると。
その三日前に来たという有名ギルドの冒険者には、日頃世話になってる大物冒険者ってのが居て……。
その人物が最近手に入れたパンドラの箱の中に、昔から欲しかった宝具が入っていることが判明したんだとか。
しかし箱開け屋は今から予約したら数ヶ月は待たねばならならず、短気なその大物冒険者は「そんなに待ってられない」「今すぐ宝具がほしい」「ならば鍵で開けよう」ってことで周りを巻き込んでこの黒鍵探しに躍起になっているんだそうだ。
そのため黒鍵が見つかったら絶対に知らせてほしいと、その大物本人の代わりというか、使いっ走りとして、冒険者がここへ依頼しに来た……というわけだ。
「ははぁ、なるほどな」
「ちなみに、その宝具はウチで買い取るなら三千万だね。ま、国営も同じだよ。だが……その冒険者らと直接取引したら、三割り増しくらいにはなるかもね」
「売るならすぐ呼んでくるよ! 私、そういう能力持ってるんだ~! あの様子だと今も探し続けてるだろうし」
「おいおい、俺達が直接取引なんかしたらマダム達の利益にはならないだろう⁉︎ 仲介手数料は取るのか?」
店や地域などによっては、そういった客同士の直接取引を対策するため、少し暴力的なバックボーンをつけることもあるほどだ。
ましてや、仲介の立場である店の方からわざわざ直接取引を推奨することなんて前代未聞ではないだろうか。
取るに足らない小さなやり取りならともかく……数百万ベル以上が確実に動く案件なんがな、これは。
「若いのが変なとこ気にするね。手数料も要らないよ。ウチの店は元から直接取引をさせられそうなら、そうさせてやるのが方針なのさ」
「ひいおばぁちゃんはね、欲しいものを手に入れられて嬉しいって顔する人見るのと、自分のものが高く売れて嬉しいって顔する人を見るのが好きなんだ~! それが同時に見られてお得だよねーっ話なの。私もおんなじ!」
「ああ。それに私みたいな、そこそこ小金持ちな年寄りがアンタ達みたいな若いのから利益をせしめるのも悪いしね」
そ、そうなのか……。
まあ、世の中には売上よりも持ち主の実力や才能を見て武器や防具を売るか決める鍛冶屋も少なくないと聞くが……つまり、そんな感じのタイプの淑女達なんだろう、この二人は。
そういうことなら、その話と方針は素直に飲んだほうが良さそうだ。
「……わかった、じゃあご好意に甘えてお願いしてしまおうか。ロナもそれでいいかな?」
「うん。……それで」
「というわけだ、行って来なさい」
「は~いっ! じゃ、十分から三十分くらい待っててね!」
レディはこの部屋を元気に飛び出て、その黒鍵を望んでる冒険者達のもとへ行ってしまった。
恐らくやって来るとしたら、その冒険者は、黒鍵を欲しがっている本人を連れてくるだろう。
まあ、クレバーなこの俺のことだ、短気な奴だろうが、偉い人だろうが、有名人だろうが、上手く交渉してみせるさ。
「それで……もう一つの方は『トレジア』だね?」
「ああ、そっちも頼む」
老婦人は魔法で地図を浮かせ、眺めながらそう言った。
これで三人目……やっぱりわかる人には瞬時にわかってしまう代物なんだな、これは。
「これも売る気があるのかい」
「実はもう一枚持っててな」
「なるほどねぇ、ダブったってやつだね。よし、動作も問題なさそうだ。まあそもそも宝具は全て壊れも汚れもしにくいけどね。……うん、ちょっと待ってな」
彼女はトレジアを丁寧にトレイに着地させたあと、どこからともなくビッシリ文字が書き込まれた羊皮紙を取り出した。それに目を通しながら話を続ける。
「ふむ……。この地図はね、見つかることは少なくはない方なんが、需要が高くってね。うちに入荷するのを待ってるAランク以上の冒険者が結構居るのさ。直接合わせる余裕がないくらいたくさんね。その分値段もするんだ」
……なるほどな、謎が一つ解けた。
何故これが、商人などが鑑定する前から名前を言い当ててしまうくらいにはありふれているのであろう宝具にも関わらず、並の宝具の武器数本よりも高い、七千万ベル以上もの買取価格が付けられているか疑問だったんだ。
供給より需要のが高いっていうシンプルな理由だったんだな。
Aランク以上、つまり実力のあるやつほどダンジョンを求める……か。まあ、そりゃそうだろうな。攻略できるなら宝の山みたいなもんだしな。
この事実、邪魔な場所にダンジョンができたからってわざわざ高い金を払い、Sランクの冒険者を呼んで処理した、知り合いである故郷の隣村の村長に聞かせてみたいな……。なんて反応するんだろう。
「で、今……おそらく国営の方で見せたら七千七百万前後かね。なら、うちは八千万で引き取ろうかね」
「マジか! ……わかったぜ。ロナもそれでいいか?」
「う、うんっ!」
「おや、これも決まりでいいのかい? じゃ、あの子が帰ってきたら……おや、いつもより早いね。客が近くに居たかな? もうそろそろ戻ってくるみたいだね」
確かにそのようだ。俺は魔力とかは感知できないが、外の方が少し騒がしい。
どうやら一人、声がバカでかいオッサンがいるみたいだな。それが『解呪の黒鍵』を求めていた人なのかもしれ……ん、なんだ? ロナの様子がおかしいぞ。
「お、おい……ロナ、どうかしたのか?」
叔父と遭遇しそうになり、老婦人から竜族の事実を突きつけられ、すっかり元気を無くしていた……が、地図がちょっと高く売れることを知り機嫌を取り戻しつつあった ────。
そんなロナの機嫌が逆戻りし、なんなら縮こまって震えていた。
「……! あの竜族がこんなになるなんてよっぽどだよ。気分が悪いのかい⁉︎」
「あの魔法でもどうにかなりそうにないのか? 俺ができることならなんでもするから、何があったかまず……!」
俺らがそう問うと、ロナはフルフルと首を横に振る。
そして、ポツリと。
「お、叔父……私の叔父さんが……! ここにっ……⁉︎」
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