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第二部

第88話 最弱vs.最強 後編①

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 ああ、やっぱり間違いない。
 四つ……この土壇場で、俺は『ソーサ』による四つ同時操作ができていたんだ!

 とはいえ、さっきのは意図的じゃない。ほぼ無意識だ。
 再現できるかと言われれば、不安だというのが正直な答えになる。

 ……が、俺という紳士は一度できたことは大抵何度やってもできる、いわゆる天才ってやつだ!
 だから問題なく、もう一度試しても上手くいくだろう。

 ま、どっちみち、チャレンジしないという選択肢はないさ。

 ひとまず『バイルトン』を投げつけるのはやめて、『フォルテット』四本全てを操ってみよう。
 

「お? 急に目つきが変わったなッ! 何かいい事でもあったか?」


 先程まで地面に寝かせていた本体の『フォルテット』、それを新たに『ソーサ』の対象にする。
 もちろん、回転しながら《竜星》を襲っている、分身体の三本は、その状態をキープだ。

 《竜星》がこちらにジワジワと近づいてきているが、気にするな。
 集中だ、とにかく脳みそをこねくり回してでも集中を……お、おお!


「ふん、甘いなッ」


 地面に伏せていた『フォルテット』が、俺の考えた通りに動き、《竜星》に向かってまっすぐ飛んでいった。

 それを彼は首を少し曲げるだけで回避……した、したけどそんなことはどうでもいい。

 は、はは、すんなりと上手く行ったぞ……! やっぱり俺は天才なんじゃなかろうか!
 そして、コツをしっかりと掴めた。
 
 それもただ操作で四つ動かすためのコツだけじゃない、「『ソーサ』で動かさせる数の増やし方のコツ」を掴んだんだ!

 慣れもあるが、どうやら意識の分散のさせ方が重要だったようで……。

 ああ、とにかくだ。
 これからちゃんと練習していけば、どんどん同時に扱える数を増やしていくことができるかもしれない。

 まあでも、とりあえず、今この場では四つまでだろうな。だが、それで十分だ。

 四つ操れるようになったなら、前々から試してみたかった新たな戦い方ができる。
 ぶっつけ本番でできるか分からないが、もし上手く行ったのなら、《竜星》に勝ててしまう可能性があるだろう!

 というわけで下準備としてまず、『フォルテット』を一本に戻し、『バイルド』を少し縮め、操作して二つとも俺のもとへ戻ってこさせた。


「……何を考えている?」
「なに、ちょっと面白いことさ」
「ハハハハッ、それはいいッ! ならばオレ様にやられる前に見せてみろッ!」


 邪魔するものがなくなったザスターは、ものすごい勢いでこちらに駆けてくる。
 あんな厚そうな鎧を着込んでいて何でこんなに速く走れるんだ? それも、俺はできないぞ?

 と……とにかく、だ。
 迫ってくるおっさんはこわいけど、クールになれ、紳士よ。そして華麗に新たな戦法を披露するんだ。

 まず、『バイルド』を持ち手側を上にして、大きさを俺の身長の半分ほどにする。この大きさは重要だ。

 そして、その上に飛び乗る。
 そうだ、これで空を自由に飛ぶってわけだな。

 『バイルド』を空飛ぶ土台代わりにするのは、《大物狩り》の卑劣な被害にあった少女を助けた時にもやったか。
 つまりはそれと同じことだ。自分で乗るのはこれが初めてだがな。

 次に、立ち膝のような体勢になってから両方の靴を操作し『バイルド』に押し付けるよう、しっかりと固定する。
 固定されてるのを確認したら……ついに運転開始だ。


「ほう、飛行専用のアイテムでもないだろうに。器用なもんだな」


 ふぅ。
 なんとか近づかれる前に浮けたぜ。

 こうして無事に浮けたのなら、この戦法の攻撃のかなめである『ハムン』を、空中でも狙いを定めやすいよう、そして落とさぬように、両手でしっかりと構えてその発射口を下方へ向ける。

 つまり、『バイルド』のこの大きさは、『ハムン』で下を狙い撃ちしやすいように調整しているというわけだ。
 大きすぎたらフチが邪魔になるし、小さすぎると乗れないのさ。

 ……けっこう楽しいなこれ。
 今度、安全なサイズにした上でロナも乗せてみよう。

 で、だ。
 ここまでで操作して扱っているモノは計三つ……そして肝心な最後の四つ目は、俺の愛帽に使うと決めている。

 なぜなら、もし飛んでる最中に風とか、何かしらの要因でコレを落としでもしたら悲惨なことになるからだ。
 魔力が使えなくなって、俺も真っ逆さまに落っこちる。

 高さによっては即死だろう。
 うん、それだけは避けなきゃいけない。絶対に。

 とにかくこれで、俺の新しい戦法の完成だ。


「ふむ、つまりだッ。オレ様は今から、弱体化させられた上で、空から一方的に撃たれるのだな?」


 《竜星》は俺を見上げながらそう言った。
 ああ、その通りだ。『シューノ』が使えず、投げられるモノも近くにない今、彼が俺に対抗するすべは無いだろう。


「そうだ。悪いな、ちょっと卑怯かもしれないが……」
「ハハハハハッ! 構わん構わん、このオレ様と戦ってるんだ。使えるものは全部使え!」

 
 ……なぜだ? 
 《竜星》は、まだまだ余裕たっぷりみたいだ。

 まさか、既に何か対処法が考えついているとでも言うのか?

 いや。そうだったとしても。
 こちらからは攻撃できるが、向こうは攻撃できないのが今の状況だ。この差は大きいはずだ。

 スマートでも、ジェントルでもないが、粘り続ければ勝てる……だよな? 

 とにかく空中を旋回しながら、矢を撃って撃って、撃ちまくれば……。


「ただな、それではやってることがEランク程度の鳥の魔物と変わらぬぞ? それに、やはり矢の扱いがなっていないッ」


 攻撃を初めてしばらく経ってから、そう言われてしまった。

 そして実際、光の矢は思った以上に上手く飛ばず、既に三十発は撃ったそのほぼ全弾が、半歩ずつ進退する程度の少ない動作で簡単に回避されてしまっていた。
 
 なるほど。こうなることがわかっていたから、一見不利な状況にもかかわらず余裕そうだったのか。

 これは上手く行くと思っていた、自信があったんだが、仕方ない。
 ま、想定と現実は違うもんだよな。

 めげずに次だ。まだ手はあるさ。
 もう考えついている。




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