題名のない魔王

Ss侍

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魔王の世界 と 記録の世界

17話

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「うぉ……」


 目を覚ましたが背伸びができない。案外、こんな狭くて窮屈な場所でなおかつ子供達がやかましくても眠れるものなのだな。……そしてどうやら魔力は残り六割まで回復したようだ。何時間寝ていたかは知らないが、転移は一回できそうである。ではそろそろ移動してしまおうか。
 

「……あれ、こんなぽっこりしたの、きのうあったっけ?」


 間近で少女の声がした。見つかったか。急がなければ。


「おーい、みんなー! ここにオトナいるかも! へんなぽっこりしたのあるのー!」
「なんだってー!」
「よくみつけたねっ!」


 子供達が大勢寄ってくる音が聞こえる。俺の能力は……使えた。よし、場所はひとまず俺の小屋の前だ。二ヶ月住んでいるあの風景を強く強く頭の中で思い描いてみよう。


「こんこん、はいってますかー?」
「はいってるかどうかじゃなくて、カベをがっしゃーんってすればいいとおもうよ」
「なかにオトナがいたらケガしちゃうよ?」
「オトナはコドモよりジョーブじゃない?」
「そっか!」
「じゃあパンさまよんでくる!」


 俺の身体は今まで二度あった通りに黒いものに体が包まれた。いや、暗くて全く見えないのだが、なんとなく包まれているのはわかるのだ。パン様とやらがくる前に逃げられるといいが。
 

「パンさままだー?」
「……おっ、きたみたい!」


 さっき呼びに行ったばかりだろ、早くないか来るのが。パン様とやらの居場所までこの場所は近かったのだろうか。それとも高速移動ができる何かか。


「パンさま、こっちこっち!」
「もしかしたらここにオトナいるかもなの!」


 ……足音が土壁に気がついた子供達のもの以外聞こえない。子供達の話では確実にその者は近づいてきているはずなのだがな。得体の知れなさに寒気を感じるが……ふははは、もう関係ない。なぜなら俺の見えている景色が変わったからだ。光がない暗さとはまた別のものだとはっきりわかる。
 さぁ、俺が願った通り、俺の小屋の前まで来ていると良いのだが_________


◆◆◆


 ……外だ。この肌の感じはそうだ。俺はぼやけている視界を明瞭にするため目をこすった。目の前にあったのは見覚えのある畑。そして俺が尻に敷いているこの場所も畑のようだ。甘芋の上だろうか、ここら辺だと。
 ちゃんと小屋も立っている。いつ見ても丁度いい小屋だ。ふははは、いいぞ、俺は戻ってこれたのだ! そして、俺の魔王としての力はきちんと移動する先を選択することができる! それが判明した! いいぞ、いいぞ! 

 俺は興奮が冷めぬまま土や埃を払って小屋の中に入った。一日ほど俺が不在だったわけだが、特に何も変わったことはなかったようだ。爆撃されたり、子供達に追われたりしたが、結果的には全てが大きな収穫。
 こうなったらさっそくヨーム達の元へ向かいたい。ただ、再び魔力が残り二割まで減ってしまっている。まだ魔王としての己の力を完全に把握しきれていないため、移動する前に魔力を満タンまで戻しておきたいところだ。

 さっそく畑に戻り、収穫できるものを根こそぎ収穫する。そして食べられるだけ片っ端から食べた。食べて寝ることこそが回復への一番の近道だ。魔王でも満腹になるほどたらふく食べたら、海の水に濡れて変な臭いになった服を洗って干し、自分の身も風呂に魔法で湯をためて清め、それらが済み次第すぐにベッドに横になった。布団も何もないが、土と木の根の中よりは寝心地がいい。

 ……そして翌朝。皆がすぐに俺だとわかるように生まれた時に着ていた魔王としての服を身につけ、勇者の剣を腰に携え、ヨームからもらった手紙を懐にしまった。魔王の服は普通の服よりかなり露出が高くフトコロくらいしか物をしまえる箇所がないのだ。

 これで準備は万端である。俺はドーハ城を強く思い浮かべながら魔王としての力を使った。すぐに黒いものが身の回りを覆う。この待ち時間も使ってるうちに短縮したりできないだろうか、などと考えてるうちに視界が暗転していった。


◆◆◆


「……っと」

 
 着いた。ここは……ああ、見覚えがある。おそらくドーハ城の廊下だ。地下室へ向かうためのものだったか。間違いない。本を読むために何度も何度も通ったのだ。忘れるはずがないだろう。いいぞ、今生の別れだと思っていたヨームと再び会える。その願いが早くも現実となったのだ。なんと素晴らしいことだろう。

 これで、アルゥ姉妹に中級以上の魔力魔法を見せてやれる。
 一人での鍛錬には限界があった。故にモクドとオンドに練習に付き合ってもらえるようお願いもしたいところだ。
 そして何よりこの地下にある本をできるだけたくさん読み込み、ヨームとそのことについてじっくり話し合いたい。一人ではできなかったことが、なんでもできるようになる。何より寂しくない。

 しかしこう、いきなり訪ねてきて挨拶なしに城を歩き回るというのも礼儀正しくないだろう。この先の宝物庫の前では必ず兵士が番をしていたはずだ。彼らに俺を発見してもらい、ヨームなり王なりを呼んできてもらうとしよう。

 二ヶ月ぶりのドーハ城を堪能するため、きょろきょろと辺りを見回しながら宝物庫へ向かっていく。だが……なんか今日はやけに静かというか、人気がないというか。何か行事があり人が出払っているのだろうか? それとも久々であるが故に当時の賑わいの程度を俺が忘れてしまっているのか? どちらにせよ宝物庫の前に番がいないということは流石にないだろう。

 すぐに宝物庫目前にはたどり着いた。しかし、予想に反して人が立っている様子がなかった。がら空きである。こんな大切な場所を放置するなど一体どういうことだろうか。
 もう少し注意を向けて様子を見てみると、壁に大量の赤い液体が付着していることに気がついた。明らかに血液である。……宝物庫の前で血液が飛び散っている状況に、良い予感がする者など居ないはずだ。

 俺は門番達が居るであろう場所まで駆け寄った。先程は影になって気がつかなかったが、そこには二人の番兵が血を流して倒れ込んでいた。何かに襲われたのは明確。様子を見るに、二人とも武器を手に取ったまでで、襲撃者への対応自体はできなかったようだ。

 しかし斬られてからあまり時間は経っていないのだろうか。呼吸する音が微かに聞こえる。壁についている血も新しい。ふむ、回復魔法をかけてやれば話が聞けるようになるだろうか。何があったか訊かなければな。


「ギガンエイド!」


 黄緑色をした魔法陣がそれぞれ五つほど一気に番兵の体を通り抜ける。これは回復の魔力魔法、上級だ。ちなみになぜか魔王は魔力魔法による回復を自分自身にかけたら著しくその効果が下がる。どういう原理かしらないがこれはほぼ全員共通だ。そのかわりマナ魔法による回復が通ることは確認済みだ。

 まあ、そんなことは今は関係ないか。人にかけるならば魔法陣を一気に作れる魔力魔法の方が適しているだろう。重ねがけが容易にできるからな。
 十分だと思えるほど回復してやってから二人の体を起こす。どちらも身体の傷はふさがっているが、鎧の傷跡から一方が肩から斜め、もう一方が胴体を横に斬り裂かれたのがよくわかった。
 斜めに斬られていた番兵の方がもう一方より比較的容態がいい。眠っているところ悪いが水をかけて起こすことにした。


「ぶわ……あっ……うぁ……」
「どうだ、起きたか?」
「はっ……! 勇者ッ! あれ、俺は斬られたはず……」
「俺が回復してやったのだ、感謝しろ」
「そ、そうでしたか! ありがとうございます! えっと……ん……? な、何者だ! お前は何者だ!」
「馬鹿な。この俺を忘れたのか? その寝ぼけた頭を回転させてよくこの顔を見てみるのだな」


 番兵は俺の顔をよく見つめた。十秒後、彼は飛び上がったように起きつつ大きく後ずさりをした。まるで本来ここにいてはいけないものを見てしまったかのようだ。……ああ、まるで、ではなかったな。その通りだった。


「ななななな、なぜ、なぜネームレス様が!? なんで!? 元の世界へお帰りになられたはずでは……!?」
「まあ、そうなんだがな。説明すると長くなるから今は話さないでおく。先にそちらが何があったか言え」
「は、はいっ! じ、実は俺もよくわからないのですが、なぜか勇者の姿をした何者かが突然現れ、勇者の剣で我々を……」
「は? 勇者は拘束しているし、みろ、勇者の剣はちゃんと俺の腰にある」
「ほ、本当だ……えっ、じゃああれは一体……?」


 しかしどうにもこいつの見間違いとは思えないな。この世界の魔法には変装魔法なるものがある。それを利用したのだろう。俺もそのうちどうしても人里に降りて手に入れなければならないものができたら、かなりリスクが高いが、人間共に変装して買い物に出かけてみようかなどと薄っすらとだけ考えていたものだ。

 だが、その者の目的はなんだ? 宝物庫の前だしな。いくらでもそれらしい理由など存在するだろうが。二人の容態からしてまだその勇者もどきが徘徊している可能性が高い。宝物庫の様子を先に見た方がいいか、それともその者の跡を追った方がいいのか迷うな。
 
 いや、追う方がいいかもしれないな。ヨームが心配だ。そもそも俺はその勇者を偽物と仮定してしまってるが、もしかしたら本物という可能性もないわけではないしな?
 よし。もう一人の番兵を起こして、二人のうち一方を俺と一緒について来させ、もう一方を宝物庫と牢屋の様子を見させてくるか。


「仕方ない、もう一人も起こすぞ」
「あ、あいつは大丈夫なんですか!?」
「あの者も回復させておいた。水をかければ起きるだろ。ほら、起きろ番兵」
「あっ……そんな乱暴に……」
「うっ……なん……」
「起きたか?」
「う、うわぁ!? 一体何が!?」


 もう一人の番兵にも現状の確認と把握をさせた。そして最初に起こした方には俺について来るようにいい、後に起こした方は諸々の確認を指示する。二人とも内心慌ててはいるようだがきちんと仕事はこなしてくれそうだ。


「俺としては王や姫様のご様子が気になるところです!」
「ああ、俺もちょうどヨームの様子を見に行こうと思っていたところだ。友人としてな」
「しかし……これは本当に俺の夢ではありませんか。勇者が出てくるやらネームレス様が何故かいるやらでなにがなにやら……」
「夢だとしたらあまりいい夢ではないな」
 
 
 そんなことを言いつつ走ってるうちに、図書館付近までたどり着いた。市民に開放しているため比較的人通りが多いらしいこの道には、赤い池が出来上がっていた。
 

「うわっ……!?」
「惨状というやつだな」


 今度は二人なんてものじゃない。メイドなどの給仕の者や一般人とみられる者までやられている。だが幸いと言うべきなのだろう、誰一人殺しきれておらず、全員まだ息があるようだ。
 相手は急いでいたのだろうか。とはいえ、数分放置したら流石に死ぬだろうが。今のうちに回復したら間に合うか?


「どうする、このまま先をゆくか?」
「なっ、何を仰いますか! お願いしますネームレス様、何卒、皆をお助けください……!」
「まあ、何があったか聞きたいしな」


 その場にい六名を俺は回復してやった。そのうち一人が意識が残っていたようで、すぐに俺が誰か気がつき、この俺がいることに対して驚きの声をあげた。とりあえずそれは適当にあしらい、何があったか質問をする。


「は、はい。実は勇者が……」
「やはり勇者なのか」
「間違いありません。実は私の隣にいたこの方が、逃げるために瞬間移動の魔法を使おうとしていたのですが、全く使うことができずそのまま……」
「なに、魔族として魔法が使えなくなるのか」
「つまり、人族の何者かが変装したか、やっぱり勇者そのもの……?」
「厄介だな……」


 しかも戦闘をする職業ではない者にまでわざわざ手をかけていくのだ。こうして逃げようとした者も斬り伏せて。魔族に対して明確な殺意があるのだろう。ヨームのような少女や、エッツラ王のような老人ですら手加減をするとは考えられない。


「俺は先に進む。給仕役、お前はとりあえずその者たちの目を覚まさせ、他のものに連絡などをして状況の把握をしておけ」
「はっ、はい!」
「お前はこの先もこのような被害者がいるかも知れん。助けるたびに俺が説明していては面倒だ。多少の時間を省くためこのままついてこい」
「了解しました!」


 俺と番兵は駆け足でそのまま進んでいく。地下から一階へ上がると斬られたものの数はかなり増えていた。番兵がうるさいから全員助けてやることにした。斬撃をなんとか逃れたのか無傷で生きていた者がいれば、臓物が飛び出しそうになっている者もいた。

 ……しかし、魔族は誰もが皆、それでもギリギリ生きている。となると、やはりマナを身体の維持に使っているためか? 人族の二倍は寿命があるというのはダテではないようだ。俺の世界でも魔力が高い人間は肉体も割と丈夫な傾向にあったような気がするしな。

 途中からあまりの被害者の数に説明も追いつかなくなったので、治療してやったら放置してまわった。そんな最中で、俺がとても見覚えのある人物が両腕を捥がれ悶えているのが目に入った。……モクドだ。


「モクド様ァ!」
「大丈夫、ではないな。これはまたやられたな」
「ぐ……ぁ……」


 ふむ、両腕から血を流しすぎて他の者と同様に意識を失いかけているようだ。番兵に近くに転がっていたオンドの両腕を元の位置で支えさせ、確実に回復させるため、魔力とマナ、二種類の回復魔法を同時に唱えてやった。
 

「ギガンエイド! 第八項目魔法ヒール・エイス……!」
「お、おお……くっついていく……!」


 併用すればこのくらいできるのか。今まで試す相手がいなかったためわからなかったが。まあ、魔王である時点で本気を出せば上級魔法を超上級魔法と同程度の威力として発動させられる。
 本来、超上級の回復魔法は切り離された身体を、モノが残ってるおり、かつ元の持ち主も生きているならくっつけることができるのだ。しかも今回はマナ魔法まで使っているんだ。むしろ過剰だったかもしれんな。


「ほら、目を覚ませモクド」
「あ、またそんな乱暴に水を!」
「……ね、ネームレス……様……?」
「そうだ、俺だ」
「ネームレス様……あぁ。……え?」
「様子を見るに斬られてすぐだろ? 勇者の格好をしたやつが現れたはずだ。どこへ行った?」
「そ、そうだ! 奴は我々を滅ぼすと言っていた! こうしてはいられない……!」


 モクドが勢いよく立ち上がる。問題なく腕も動くようだ。だが、一つの種族を滅ぼすなどまるで我ら魔王のようなことを言うな。勇者の姿をした者よ。魔王である俺はこうして被害者らを回復して回っているというのに……。
 これではどちらが魔王かわからぬではないか。とりあえず種族を滅ぼすならヨーム達の元へ向かうのはほぼ確実だろう。


「王とヨームは今どこにいる?」
「おそらくエッツラ様は自室、姫様もこの時間帯ならば赤ずきんと共に自室かと!」
「とりあえずそこへ向かうか」
「しかし、あの……やはりなぜ、ネームレス様が再びこの世界に?」
「皆に言っているが、その説明はこの事態が済んだらだ。いいな?」
「ええ、もちろんであります」


 モクドを加え、俺達はさらに移動した。大広間へ近づくほどに負傷者の数が増えていく。俺が多重に魔法を出すことができなければかなりの時間を治療のみでとられていたことだろう。

 そうこうしてようやく大広間へたどり着いた。多くの人間が倒れている。誰もが虫の息だ。ただ、やはり死んでいる者はいない。それだけまだマシと言えるのだろうか。
 とりあえず目に見える範囲の奴は回復してやろうとしたその時、モクドが一点を見つめていることに気がついた。


「……オンド」
「む、そっちにオンドがいたか? ……なんと」


 モクドの目線の先には血だらけで床に倒れているダージィ。いや、あれはゴージィか? そのすぐそばには腹を剣で貫かれ、その剣ごと壁に突き刺されているオンドが居る。
 二人とも動く気配がない。少し目線を移すと、柱の物陰に双子のもう一方も居た。そちらは血の吹き出し方から見るに頭上から一直線に斬られたようだ。
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