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魔王の世界 と 記録の世界
後日談
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「最後にもう一度訊くが、本当に行くんだな?」
「うん!」
ヨームは少し興奮した様子で頷いた。
俺とヨームが決闘し、俺がボロ負けしてから三日が経った。そうして俺は、俺の能力で別世界を見てみたいという彼女達の欲求に付き合う羽目になったのだ。
魔族らは大盛り上がりで準備を進めてきた。別世界でどう動くべきかを書き綴った予定表や、持ち帰りたいもののリストを作ったり、どういう人物が別世界への移動に参加できるかなどの規則を決めた。
今回はヨームとエッツラ王の二人だけを連れて別世界へ移動してみる。様子見のための移動というやつだ。
本来ならばこういう役は王族にやらせるべきではないのだが、魔族達にとって長年念願だった別世界の地へ降り立つという行為。その行為を一番最初に体験するのはやはり王や姫であるべきだと満場一致で決まったらしい。
もし、俺以外が別世界の移動に耐えられないようにできていたりしたら完全に王族の血が途絶えることになる。……だがその心配はいらない。
流石に魔族らもそれは気にしていたようで、一昨日、ネズミの魔獣を持たされ、俺の世界へ帰還させられた。
そしてその魔獣は移動による影響もなく、また、俺の世界の地へ足をつけても生命活動を維持していた。まだ俺の小屋の周辺に居るはずだが、おそらくピンピンしているだろう。いや、むしろマナが豊富にあるためかこのヨーム達の世界にいる時より元気になったような気さえしている。
「ではネームレス様、よろしくお願いします」
「ああ……」
「楽しみで仕方ないよ、おじいちゃん!」
「ワシもじゃよ、ヨーム」
大きな馬車に乗り込んだ二人は、心の高揚を隠せていない。
この馬車は人や物を一度にたくさん運ぶために魔族が用意した容れ物だ。俺が意識的に触れている物体とその中に入っている物は別世界へ運ぶことができる。これもネズミの魔獣での実験と同時に試し、判明した俺の能力の一端である。
俺は馬車の一部に触れ、能力を発動させた。
「おお、この黒い閃光が移動する時に発するという光ですな、ネームレス様」
「本当にソードダークネスを放つ直前みたいな感じだね」
「そうだろう? そんなことより、ちゃんと何かにつかまっていろよ。俺も人を運ぶのは初めてなんだからな。……そろそろなはずだ」
黒い光は俺と、俺が触れていた馬車全体を包み込みこんだ。歴史的瞬間をひと目見ようとこの場に多くの魔族が集まっているが、奴らからはどう見えているのだろうか。
目の前がいつものように暗転し、その後、だんだんと晴れてゆく。視界が明瞭になる頃にはすでに俺の世界へ移動していた。馬車もきちんとついてきている。
「ヨームと王よ、無事か?」
「ん……眩し……。うん、大丈夫だよネームレスくん」
「何故だか身体が軽い。むしろ好調なほどじゃ!」
「……ふぅ、それならよかった」
もうこれで心配はいらないな。ヨームとエッツラ王に馬車から降りるように言うと、二人とも出てきてこの地面へ降り立った。魔族にとってはこの一歩が大きく意味のある物なのだろう。魔王城跡地であるこの土地を踏みしめ、目を輝かせている。
「わぁ……わぁ! 別世界ってこんな感じなんだね!」
「ワシら魔族は、これを夢見てどれほどの年月を過ごしてきたかっ! 感謝しますぞ、ネームレス様」
「本当にありがとう、ネームレスくん!」
「まあ……好きなだけ付き合うという約束だからな」
しかし、この魔王城跡地だけではあの世界と大差ないだろう。本人達はものすごい喜びようだが、別世界へ移動してきたとはっきり感じるにはやはり、人間共の文化に触れる必要がある。
やはりヨーム達はこの視察が終わったら、この世界の俺以外の住民と触れていくつもりらしい。
とは言っても目当ては交流ではなく物や文化であるため、基本的には少人数で行動し、物品を買い付けたり、観光する程度で留めるそうだ。自分達が別世界から来た存在ということも明かすつもりはないようだ。
「……なるほど、ネームレス様のおっしゃっていた通りのようじゃ。この世界は莫大なマナで溢れておる。妙に体調が良いのもそのためじゃろう」
「今まで使う人がいなかったから豊富ってことかな?」
「おそらくそうじゃろう。ホッホッホ、マナがありすぎて視認できるようにすると霧がかかっているように見えますのぉ!」
「さっそく調べたのか」
ネズミの魔獣と同じだ。二人とも元気が溢れ出てきている。特にエッツラ王なんて曲がっていた腰が徐々に上がって行き、ついにはヨームと同じくらいの背筋の良さになってしまった。
「あれ、おじいちゃんの腰が!?」
「お、おお、足腰もしっかりしておるわい! 若い頃に戻ったかのようじゃあああ!」
「す、すごい、スキップまでできてるなんて……」
「もう付き杖はいらんのう! この膨大なマナを痛む節々に集中すればワシらの世界に戻ってもこの姿勢のままでいられそうじゃ!」
「若々しく見えるよ、おじいちゃん!」
「そうかのう、そうかのう!」
うーむ、機嫌がいいのは良いことだが、ヨームとエッツラ王、二人揃って俺の周りでぴょんぴょん飛び跳ねられるのは鬱陶しいな。二人ともこんな性格だったか?
「はしゃぐのは構わないが、これでもう俺の移動に魔族がついてきても問題ないことはわかっただろう? 今日は帰って、次の段階の準備をする必要があるんじゃないか?」
「まだ数分しか経ってないよ、ネームレスくん。私、まだあと一時間は居たいな」
「そうか、じゃあそうしよう」
「ところでネームレス様、あれが建てたという小屋と畑じゃろうか?」
エッツラ王が顔を向けた先には、俺の暮らしている拠点がある。
俺は能力に気がつくまでの二ヶ月間、森の中を探索し、何かあったときのために茶葉になりそうな植物なども調達してきた。いまなら客人に茶を出すという行為もできるだろう。友人とその保護者を自分の家に招く……悪くないじゃないか。
「入ってみるか?」
「いいの?」
「いいも何も、俺は友人達を家へ招待しただけのことだ。お前達だって俺を城の中に入れてくれているだろう」
「なるほど。では、お言葉に甘えますかのぉ」
俺たちは俺の畑を通り、小屋の中へと移動した。二人ともキョロキョロと物珍しそうに眺めている。俺はヨーム達の世界の建築方法でこの小屋を建てたのだ。二人にとって珍しい構造など全くしていないはずだが。
「これ、ネームレスくんが一人で建てたの? 山の中の小屋としてかなりしっかりしてるよ」
「ああ、結構苦労したが貰った本と道具のおかげでなんとか作ることができた」
「畑も良い塩梅じゃった。ネームレス様は手先がすこぶる器用なんじゃのう」
「おそらくそうなのだろう。今、茶をいれる」
湯を沸かし、木で作ったカップの中に茶を注ぐ。いつか客人が来た時のためにと二つカップを作っておいて正解だったな。あとは畑になっていたメロンを採り、二人が食べやすいように切り分ける。
お茶と水菓子、立派ではないか。もてなす側なのに心が躍る。
「できたぞ。まあ、くつろいでくれ」
「わぁ! ありがとう!」
「おお、エネルギメロン。美味そうにできておりますのぉ」
「さすがはネームレスくん!」
俺が作った机と椅子に座って、俺が作った茶と果物を食べる、俺の友人達。なんかよくわからんが素晴らしい。移動も、移動先であるこの世界も結果的に悪影響がなかったから言えることだが、ヨーム達の娯楽に付き合って正解だったな。
「うん、おいしい! ……ところでネームレスくん、この家にお邪魔した時からひとつ気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
「その……すごく禍々しい雰囲気のするそのスペースは何?」
「それは前々から話していた、あの魔王専用の地下室だ。そこに階段があるだろう?」
「ううん、ないよ?」
「なに? やはりヨーム達にも見えないのか……名目上は俺と同じ魔王であるエッツラ王はどうだ?」
「ワシにも見えませんのう」
となると、やはりこの世界の魔王にしか見えぬのかもしれんな。二人曰く、禍々しい雰囲気のするなにもない空間にしか見えないそうだ。実際に俺が地下への階段を上り下りしてみると、ヨーム達にとっては床の中へ段々と消えていっているように見えることがわかった。
「誰かにあの地下室を見せてみたかったが、まあ、防衛がしっかりしているのも悪い話ではないか」
「そっか、ちょっと残念かも。ネームレスくんの世界の魔王達のお話、読んでみたかったんだけど」
「うむ、あの部屋からあの記録達を持ち出すわけにはいかないからな。……俺もそのうち記録魔法を上達させ、内容を写しとってきてやろう」
「いいの? じゃあ私もしっかり教えなくっちゃね!」
俺の特訓には、モクドとオンド、ゴージィとダージィ達に加えヨームも付き合ってくれることになった。時間があればエッツラ王も手伝ってくれるらしい。まあ、実質、俺が要求した通り魔族全体で俺が強くなるのに協力してくれるというわけだ。
記録魔法を大の得意としているらしいヨームに直接教えてもらえるのだから上達も早くできそうだ。
「ところでネームレス様、ひとつ提案があるのじゃが」
「なんだ?」
「この土地は魔王城跡地……じゃったか。先程少し観察してみたがかなり広い土地である様子。そこでワシはこの世界で活動しやすいような拠点をつくりたいと考えておるのです。どうじゃろう、この場所に城を、魔王城を再建したりなんかは……」
「なに、俺の城を建ててくれるのか!?」
「ええ、ネームレス様が放棄した報酬金を使えば、魔族の城と同じくらいなら2つは建てられるでしょうな」
それは願っていもいない提案だ。そこを拠点に魔族達も使うというのだから拒む理由もない。この小屋や畑は邪魔だから取り壊しになるだろうが、その程度構わない。
俺はうんと頷こうとしてが、その前にヨームが声を上げた。
「でもネームレスくんって、この世界の勇者に見つかりたくないんだよね? 魔王城があった場所に同じものを建てちゃったらまた狙われるんじゃない?」
「……あーーー、たしかにな」
「そうじゃのう。ネームレス様の安全第一。城のような派手なものはやめて、高さが低く面積が広い屋敷にでもしますかな」
「うむ、仕方ないがそうするしかないだろう」
実にヨームの言う通りだ。目立ったものを建ててはまた殺されるかもしれん。残念だが城は諦めるしかない。これがドンヨリという気分か……。
そんな俺をみてエッツラ王はなぜかニコッと笑った。なにか妙案があるようだが。
「そうじゃな、しかしネームレス様が力つけ、この世界の勇者にも絶対負けないという自信を得た時のためにいつでも城へ改築できるような作りにするのは悪くないじゃろうて」
「お、おお、いいなそれは!」
「お城のことになると食いつきがいいね、ネームレスくん」
「そりゃあ、魔"王"だからな!」
「気持ちはよーくわかります」
これで魔王城跡地に魔族の拠点が置かれることが決まった。ヨームとエッツラ王という王族がここで寝泊りするのに相応しいものが作られるだろうか。楽しみだ。
お茶と水菓子を食べ終えた二人と俺は、小屋から外に出る。これで今回の視察を終いにするようだ。つい数十分前まで一日過ごしそうな勢いだったのに、お茶を飲んで気持ちが落ち着いたのだろうか。
ヨームとエッツラ王は馬車へ乗り込み、俺が能力を使う。しっかりとヨーム達の世界を思い浮かべて。
__________
閲覧ありがとうございました!
もし良いなと思っていただけたなら、感想やお気に入り登録などをよろしくお願いします!
よろしければ私、Ss侍の別の作品も是非お楽しみください。
「うん!」
ヨームは少し興奮した様子で頷いた。
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魔族らは大盛り上がりで準備を進めてきた。別世界でどう動くべきかを書き綴った予定表や、持ち帰りたいもののリストを作ったり、どういう人物が別世界への移動に参加できるかなどの規則を決めた。
今回はヨームとエッツラ王の二人だけを連れて別世界へ移動してみる。様子見のための移動というやつだ。
本来ならばこういう役は王族にやらせるべきではないのだが、魔族達にとって長年念願だった別世界の地へ降り立つという行為。その行為を一番最初に体験するのはやはり王や姫であるべきだと満場一致で決まったらしい。
もし、俺以外が別世界の移動に耐えられないようにできていたりしたら完全に王族の血が途絶えることになる。……だがその心配はいらない。
流石に魔族らもそれは気にしていたようで、一昨日、ネズミの魔獣を持たされ、俺の世界へ帰還させられた。
そしてその魔獣は移動による影響もなく、また、俺の世界の地へ足をつけても生命活動を維持していた。まだ俺の小屋の周辺に居るはずだが、おそらくピンピンしているだろう。いや、むしろマナが豊富にあるためかこのヨーム達の世界にいる時より元気になったような気さえしている。
「ではネームレス様、よろしくお願いします」
「ああ……」
「楽しみで仕方ないよ、おじいちゃん!」
「ワシもじゃよ、ヨーム」
大きな馬車に乗り込んだ二人は、心の高揚を隠せていない。
この馬車は人や物を一度にたくさん運ぶために魔族が用意した容れ物だ。俺が意識的に触れている物体とその中に入っている物は別世界へ運ぶことができる。これもネズミの魔獣での実験と同時に試し、判明した俺の能力の一端である。
俺は馬車の一部に触れ、能力を発動させた。
「おお、この黒い閃光が移動する時に発するという光ですな、ネームレス様」
「本当にソードダークネスを放つ直前みたいな感じだね」
「そうだろう? そんなことより、ちゃんと何かにつかまっていろよ。俺も人を運ぶのは初めてなんだからな。……そろそろなはずだ」
黒い光は俺と、俺が触れていた馬車全体を包み込みこんだ。歴史的瞬間をひと目見ようとこの場に多くの魔族が集まっているが、奴らからはどう見えているのだろうか。
目の前がいつものように暗転し、その後、だんだんと晴れてゆく。視界が明瞭になる頃にはすでに俺の世界へ移動していた。馬車もきちんとついてきている。
「ヨームと王よ、無事か?」
「ん……眩し……。うん、大丈夫だよネームレスくん」
「何故だか身体が軽い。むしろ好調なほどじゃ!」
「……ふぅ、それならよかった」
もうこれで心配はいらないな。ヨームとエッツラ王に馬車から降りるように言うと、二人とも出てきてこの地面へ降り立った。魔族にとってはこの一歩が大きく意味のある物なのだろう。魔王城跡地であるこの土地を踏みしめ、目を輝かせている。
「わぁ……わぁ! 別世界ってこんな感じなんだね!」
「ワシら魔族は、これを夢見てどれほどの年月を過ごしてきたかっ! 感謝しますぞ、ネームレス様」
「本当にありがとう、ネームレスくん!」
「まあ……好きなだけ付き合うという約束だからな」
しかし、この魔王城跡地だけではあの世界と大差ないだろう。本人達はものすごい喜びようだが、別世界へ移動してきたとはっきり感じるにはやはり、人間共の文化に触れる必要がある。
やはりヨーム達はこの視察が終わったら、この世界の俺以外の住民と触れていくつもりらしい。
とは言っても目当ては交流ではなく物や文化であるため、基本的には少人数で行動し、物品を買い付けたり、観光する程度で留めるそうだ。自分達が別世界から来た存在ということも明かすつもりはないようだ。
「……なるほど、ネームレス様のおっしゃっていた通りのようじゃ。この世界は莫大なマナで溢れておる。妙に体調が良いのもそのためじゃろう」
「今まで使う人がいなかったから豊富ってことかな?」
「おそらくそうじゃろう。ホッホッホ、マナがありすぎて視認できるようにすると霧がかかっているように見えますのぉ!」
「さっそく調べたのか」
ネズミの魔獣と同じだ。二人とも元気が溢れ出てきている。特にエッツラ王なんて曲がっていた腰が徐々に上がって行き、ついにはヨームと同じくらいの背筋の良さになってしまった。
「あれ、おじいちゃんの腰が!?」
「お、おお、足腰もしっかりしておるわい! 若い頃に戻ったかのようじゃあああ!」
「す、すごい、スキップまでできてるなんて……」
「もう付き杖はいらんのう! この膨大なマナを痛む節々に集中すればワシらの世界に戻ってもこの姿勢のままでいられそうじゃ!」
「若々しく見えるよ、おじいちゃん!」
「そうかのう、そうかのう!」
うーむ、機嫌がいいのは良いことだが、ヨームとエッツラ王、二人揃って俺の周りでぴょんぴょん飛び跳ねられるのは鬱陶しいな。二人ともこんな性格だったか?
「はしゃぐのは構わないが、これでもう俺の移動に魔族がついてきても問題ないことはわかっただろう? 今日は帰って、次の段階の準備をする必要があるんじゃないか?」
「まだ数分しか経ってないよ、ネームレスくん。私、まだあと一時間は居たいな」
「そうか、じゃあそうしよう」
「ところでネームレス様、あれが建てたという小屋と畑じゃろうか?」
エッツラ王が顔を向けた先には、俺の暮らしている拠点がある。
俺は能力に気がつくまでの二ヶ月間、森の中を探索し、何かあったときのために茶葉になりそうな植物なども調達してきた。いまなら客人に茶を出すという行為もできるだろう。友人とその保護者を自分の家に招く……悪くないじゃないか。
「入ってみるか?」
「いいの?」
「いいも何も、俺は友人達を家へ招待しただけのことだ。お前達だって俺を城の中に入れてくれているだろう」
「なるほど。では、お言葉に甘えますかのぉ」
俺たちは俺の畑を通り、小屋の中へと移動した。二人ともキョロキョロと物珍しそうに眺めている。俺はヨーム達の世界の建築方法でこの小屋を建てたのだ。二人にとって珍しい構造など全くしていないはずだが。
「これ、ネームレスくんが一人で建てたの? 山の中の小屋としてかなりしっかりしてるよ」
「ああ、結構苦労したが貰った本と道具のおかげでなんとか作ることができた」
「畑も良い塩梅じゃった。ネームレス様は手先がすこぶる器用なんじゃのう」
「おそらくそうなのだろう。今、茶をいれる」
湯を沸かし、木で作ったカップの中に茶を注ぐ。いつか客人が来た時のためにと二つカップを作っておいて正解だったな。あとは畑になっていたメロンを採り、二人が食べやすいように切り分ける。
お茶と水菓子、立派ではないか。もてなす側なのに心が躍る。
「できたぞ。まあ、くつろいでくれ」
「わぁ! ありがとう!」
「おお、エネルギメロン。美味そうにできておりますのぉ」
「さすがはネームレスくん!」
俺が作った机と椅子に座って、俺が作った茶と果物を食べる、俺の友人達。なんかよくわからんが素晴らしい。移動も、移動先であるこの世界も結果的に悪影響がなかったから言えることだが、ヨーム達の娯楽に付き合って正解だったな。
「うん、おいしい! ……ところでネームレスくん、この家にお邪魔した時からひとつ気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
「その……すごく禍々しい雰囲気のするそのスペースは何?」
「それは前々から話していた、あの魔王専用の地下室だ。そこに階段があるだろう?」
「ううん、ないよ?」
「なに? やはりヨーム達にも見えないのか……名目上は俺と同じ魔王であるエッツラ王はどうだ?」
「ワシにも見えませんのう」
となると、やはりこの世界の魔王にしか見えぬのかもしれんな。二人曰く、禍々しい雰囲気のするなにもない空間にしか見えないそうだ。実際に俺が地下への階段を上り下りしてみると、ヨーム達にとっては床の中へ段々と消えていっているように見えることがわかった。
「誰かにあの地下室を見せてみたかったが、まあ、防衛がしっかりしているのも悪い話ではないか」
「そっか、ちょっと残念かも。ネームレスくんの世界の魔王達のお話、読んでみたかったんだけど」
「うむ、あの部屋からあの記録達を持ち出すわけにはいかないからな。……俺もそのうち記録魔法を上達させ、内容を写しとってきてやろう」
「いいの? じゃあ私もしっかり教えなくっちゃね!」
俺の特訓には、モクドとオンド、ゴージィとダージィ達に加えヨームも付き合ってくれることになった。時間があればエッツラ王も手伝ってくれるらしい。まあ、実質、俺が要求した通り魔族全体で俺が強くなるのに協力してくれるというわけだ。
記録魔法を大の得意としているらしいヨームに直接教えてもらえるのだから上達も早くできそうだ。
「ところでネームレス様、ひとつ提案があるのじゃが」
「なんだ?」
「この土地は魔王城跡地……じゃったか。先程少し観察してみたがかなり広い土地である様子。そこでワシはこの世界で活動しやすいような拠点をつくりたいと考えておるのです。どうじゃろう、この場所に城を、魔王城を再建したりなんかは……」
「なに、俺の城を建ててくれるのか!?」
「ええ、ネームレス様が放棄した報酬金を使えば、魔族の城と同じくらいなら2つは建てられるでしょうな」
それは願っていもいない提案だ。そこを拠点に魔族達も使うというのだから拒む理由もない。この小屋や畑は邪魔だから取り壊しになるだろうが、その程度構わない。
俺はうんと頷こうとしてが、その前にヨームが声を上げた。
「でもネームレスくんって、この世界の勇者に見つかりたくないんだよね? 魔王城があった場所に同じものを建てちゃったらまた狙われるんじゃない?」
「……あーーー、たしかにな」
「そうじゃのう。ネームレス様の安全第一。城のような派手なものはやめて、高さが低く面積が広い屋敷にでもしますかな」
「うむ、仕方ないがそうするしかないだろう」
実にヨームの言う通りだ。目立ったものを建ててはまた殺されるかもしれん。残念だが城は諦めるしかない。これがドンヨリという気分か……。
そんな俺をみてエッツラ王はなぜかニコッと笑った。なにか妙案があるようだが。
「そうじゃな、しかしネームレス様が力つけ、この世界の勇者にも絶対負けないという自信を得た時のためにいつでも城へ改築できるような作りにするのは悪くないじゃろうて」
「お、おお、いいなそれは!」
「お城のことになると食いつきがいいね、ネームレスくん」
「そりゃあ、魔"王"だからな!」
「気持ちはよーくわかります」
これで魔王城跡地に魔族の拠点が置かれることが決まった。ヨームとエッツラ王という王族がここで寝泊りするのに相応しいものが作られるだろうか。楽しみだ。
お茶と水菓子を食べ終えた二人と俺は、小屋から外に出る。これで今回の視察を終いにするようだ。つい数十分前まで一日過ごしそうな勢いだったのに、お茶を飲んで気持ちが落ち着いたのだろうか。
ヨームとエッツラ王は馬車へ乗り込み、俺が能力を使う。しっかりとヨーム達の世界を思い浮かべて。
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