魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

おしはらいは やっぱりからだで

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「お、おい、マスター……いや、エルアルト」

 俺は牽制する意味も込めて、マスターを名前で呼んでいた。

 いつの間に部屋から出て来たんだ、コイツは。

 嫌な予感がしてならない。
 嫌な予感とは、残念ながら高確率で当たるものだ。

 じんわりと額に汗が浮かんできたのを感じた。

「おおお、俺とアンタの古い仲だろ? それに、俺が手を貸したからこそ、アンタは英雄になれた」

 だが、ヤツの手から力は抜けない。

「あぁ、それに関してはとーっても感謝している。だが、その借りは多額のツケで返したと思うが?」

 振り返ってみれば、案の定、エルアルトは笑顔だった。
 穏やかなのがむしろ怖い。

 それにしても、俺に対するツケで、あのときの借りを返したと思っているとは呆れる。

「おい、そんなに世界平和は安くないぞ」

「価値観なんて人それぞれだろう? それじゃあ、若い肉体で払ってもらおうかな」

 俺の意見をあっさり流し、しっかり腕までつかんで鼻歌交じりに引っ張り始めた。

 い、行かせてなるものかあぁぁぁあ!

 俺はその場に踏ん張ろうとした。
 踏ん張ろうとして、頭の片隅では分かっていた。
 力の差が歴然すぎて、まったく相手にもならないということを……。

「あははは、抵抗されるとお兄さん、余計に燃えちゃうなあ!」

「ぎゃー! た、助けてっ! ママ!」

 エルアルトの肩に軽々と担ぎ上げられてしまった俺はママに助けを求めた。
 俺とヤツが同じ村の出身で、幼な友達で、更には先輩後輩という仲に激しく嫉妬しているママのことだ。
 止めてくれるに違いない。
 ところが、

「働かざる者食うべからずって言うものね、ミャハ!」

「何ですと!」

 語尾に星マークがつきそうな、予測を裏切るママの発言に俺は目を見開いた。

「おい、ママ、ちょ、まっ……えぇっ?」

「じゃあ、サマンサもそう言っているし、行こうか」

「ちょ、ちょー、待てって!」

「金が欲しいんだろ?」

 欲しいですけど、アナタが言うと何だか卑猥でいかがわしく感じるのですが!

 エルアルトがゆっくりとカウンターの奥にある、バックヤードに向けて歩き出す。
 それが地獄の入り口に見えた。
 じたばたと暴れたところでそれが何の意味もなさないことを、嫌でも思い知らされる。

「まっ、アーッ!」

 俺の悲鳴を月が静かに耳を澄ましていた。

 あぁ、今すぐ魔王が復活して、世界を滅ぼしてくれないだろうか。

 猿ぐつわを噛まされ、目隠しもされ、縄でぐるぐる巻きにされた俺は、店の裏口から荷馬車へと放り込まれた。まだ寒い季節だからと考慮されたのか、毛布で更に包まれる。

 頭の中に流れるのは、もの悲しい、あの有名な曲だ。
 ある晴れた昼下がり……いや、今は夜ですが。

 俺は売られていくのか。
 ツケが溜まったからと、うら若きピチピチの男子が売られてしまうのか。
 こうして犯罪はいつも人知れずに行われているものなのだ。

 店は早々に閉めたらしく、表の方から男達の不満げな声が聞こえてきた。
 それもしばらくすれば聞こえなくなってしまう。

 やがて、荷馬車が緩やかに発車した。

 魔法使いなのだから魔法で脱出、九死に一生スペシャル的なことが行えるかというと、そうでもない。

 魔法には呪文の詠唱が必要であって、それには言葉を口にする必要がある。
 頭の中でイメージをすればできるという人もいるが、熟練者ではない俺には無理な芸当だ。

 それにしても、舗装された道の上を行くからか、揺れが緩やかだ。
 こういう揺れは眠りを誘うから危険だ。
 バイト先から帰る馬車の中で、働き疲れたオヤジ達の酒臭さに挟まれつつ眠ったことが何度もある。
 なぜ、この揺れで人は眠くなってしまうのだろうか。

 そうやって現実逃避を始めた頃に意識を手放した。
 言わずもがな、馬車の揺れという強力な魔力の前に屈したのだ。


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