魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

文字の大きさ
13 / 59
第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

そのヅラをとりますか? →はい いいえ

しおりを挟む



「いで!」

 床に落とされた衝撃で目が覚めた。
 磨き抜かれた大理石の床が広がっている。
 すぐ目の前に高そうな赤絨毯が窓から伸びる柔らかな日射しに照らされていた。

 どこぞの金持ちのお宅にお邪魔したらしい。
 どうせ落とすなら、ふわふわ赤絨毯の方に落としてくれ。

 痛む体をさすりながら上体を起こして気が付いた。
 いつの間にか拘束が解かれている。

 自分は一体、どこに売られてしまったのか。
 うら若き未亡人の屋敷なら悩むところだ。

 軽く目を巡らせると、そこは俺の部屋面積いくつ分に換算すれば良いのか分からないぐらいに広い部屋だった。それも、どれも高そうな絵画や石像といった調度品で飾り立てられ、キラキラと輝いている。
 香でも焚いているのか、ほんのりと花のような甘い匂いを感じた。
 こういうとき、貴族やら金持ちは小難しい遠回しな言葉で褒めるのだろうが、

「うーわー、スゲー」

 小市民である俺には、小市民らしくちっぽけな感想しか出せない。

「あの方が、先の大戦を終わらせた……」

 おぉとも、あぁとも判別しにくい男の嘆声が、すぐ近くから聞こえた。

 残念、うら若き未亡人じゃなかった。

「えぇ、魔法使いの中でも上位にあたる『色』の称号を最年少で受けた、あのアルカですよ」

 エルアルトの声を背中で受ける。

「えぇ、ですが……」

 戸惑い気味に話す男の声は、俺の記憶の中で一致する人物はいなかった。
 どうやら、この屋敷の主人だろうか。

「はっはっは、ただの青ジャージの貧乏学生に見えますが、あれでも彼のスペシャル・コスチュームですから」

 嘘こけ!

 振り向くと、少し離れた場所で黒い革張りのソファに座っているエルアルトとママの姿を発見した。
 ママはいつものロリータファッションだが、エルアルトは旅装束だ。

 二人の向かい側には、身なりの良い小太りの中年男が座っている。
 銀の髪は不自然なまでにふさふさとしていた。

 どう見てもヅラだろう。

 脂ぎった丸い顔にはつぶらな瞳。愛嬌があり、典型的な金持ちといった風貌だ。

 良いモノ食ってるんだろうな。

 それにしても……パワーキャラ担当のママがソファに座っているということは、俺をぞんざいに放り投げたのは誰なのか?

 ふと、視界の端に黒のスーツと黒光りする革靴が見えた。
 目線を上げていくと若い男と目が合う。
 細身で背が高く、顎も細くてシャープな顔つきだ。
 白っぽい銀髪はやや前髪が長く、そこから覗く深緑の瞳が印象深い。
 服装からして執事っぽいが、それにしては若いだろう。
 俺と同い年か上ではないだろうか。

「何か?」

 チミィ、人を落としておいて、その台詞はないんじゃないのかね?

 相手を睨んでみたのだが、そいつの目は獲物を狙うハンターと同じで、俺はそっと目をそらした。キレたら何をしでかすか分からない最近の若者は非常に危険だ。

「まさか、来て下さるとは思いませんでしたよ」

 小太りのおっさんが愉快そうに、それでいて満足げに手を叩いた。

 いえ、俺は拉致られてきたのですが。

「レジェンドの称号を持つ勇者、エルアルト様に戦士団長フェルディナンド様……」

 ママが『男』だった頃はフェルディナンドだったが、

「今はサマンサよ。それに戦士団長は引退して、今はダーリン・ラブに生きてるの」

 おっさんの言葉をママが真顔で訂正した。

「サ、サマンサ様ですな。これは失礼。それに無色の魔法使い、アルカ様と……魔王を討伐された精鋭が揃うとは」

 ムショクって言われると、今の俺には『無職』に変換されて聞こえるので、あんまり気分の良い称号ではない。
 このままいくと、大学卒業後は本当にニートへ転落しそうだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...