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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
とくべつな そんざい
しおりを挟むやや興奮しているからか、おっさんの顔は赤らんでいた。
まぁ、先の大戦で魔王を倒した伝説の勇者に会えれば、子どもだけではなく大人も興奮するのも無理はない。
だが、エルアルトだけは止めた方が良い。
歴代の『伝説』の称号を持つ勇者達は立派かも知れないが、こいつは……こいつだけは……!
世界三大信じられないことの一つ。
エルアルトは魔王を倒した伝説の勇者である。
「懐かしい敵の名を耳にして、黙ってはいられませんからね」
エルアルトは爽やかな顔でさらりと言った。
人の趣味嗜好はそいつの自由だろう。それをどうこう言うのは、人権侵害だ、差別だと人権団体から批難されるだろうが、俺は我慢がならない。
伝説の勇者が城下の路地裏でゲイバーを経営しているなんて誰が思うだろうか。
歴代勇者の中でも黒歴史のトップを飾ることは間違いない。
それに、勇者を目指す子ども達の夢をぶち壊すだろう。
ママなんて勇者一行の一人として、気高き戦士として世界に知られているのに、今やオネエ界のカリスマだ。
これも、あのエルアルトが新しい世界を見せたが為とは誰が知っているだろうか。
今も正義の戦士として旅をしているだろうと、城下の子ども達はとても平和な誤解をしていた。
そんな大勢の子ども達に、なぜか俺が申し訳なく思ったのも記憶に新しい。
あの大戦で英雄となった勇者一行は、今でも世界にとっては『特別』な存在である。その特別な『表の顔』に世の中は騙されているのだ。
暴露本でも出してやれば、目を覚ましてくれるのだろうか。
魔王を倒した勇者を前に目を輝かせているおっさんが、少しだけ気の毒に思えた。
「えーっと、あのぉ」
俺は控えめに手を挙げる。
どこか金持ちの家に連れてこられたという状況だけは理解できたのだが、その理由が分からない。
「今、起きたばかりで状況が把握できないんスけど?」
「仕事よ」
俺の問いにママが答える。
「仕事ぉ?」
「たまに、こうして困っている人々を助けるんだ」
今度はエルアルトが笑みを向けながら言う。
この笑顔の下はとてつもなく腹黒いに違いない。
爽やかな笑顔と人は言うだろうがそんなもんじゃない。
黒い爽やかな笑顔、略して黒やか?
いや、もっとこう、悪そうな響きが欲しい。
黒くて、グロ……あ、グロやかというのはどうだろうか。
「さあ、こちらへどうぞ。今、お茶を用意させますから。簡単にご説明しましょう」
おっさんは脂ギッシュな額をハンカチで拭いながら、ファルメール準男爵と名乗った。
「魔王大戦のときに莫大な財を築いた商人の内の一人よ」
俺が座ると、ママが耳打ちしてきた。
どうやら生粋の貴族というわけではないらしい。
「勇者様達には、この近くの森に潜伏しているホワイトドラゴンの群れを討伐して頂きたいのです」
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