16 / 59
第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
いっこしょうたい って なんにん?
しおりを挟む「引き受けて下さいますか! いやぁ、助かりました!」
膝を打って、おっさんが身を乗り出した。
「それにしても」
喜ぶおっさんに目を細めながらママはぽつりと言葉をもらす。
「今まで大人しく姿を隠していたホワイトドラゴンと、こんなところで会うとはねえ」
魔王軍との戦いで、エルアルトとママはホワイトドラゴンと対峙していた。
その戦いは長く厳しかったと聞いたことがある。
「私も驚きましたよ。あれは約一ヶ月前かと……。気晴らしに遠乗りしようと森に入ったら、突如として姿を現わしまして……あのときは逃げるのに精一杯でしたよ。まったく、生きた心地がしなかった」
「それはそれは……大変でしたね」
エルアルトが気遣うように声を掛ける横で俺は出された紅茶を一口含む。
ふわっと口の中で花の香りが広がる。
一般市民の俺でも明らかに違いが分かってしまった。
これは、恐ろしく高い紅茶に違いない。
無言でおののく俺に気付く様子もなく、おっさんは紅茶で軽く喉を潤すと話を続けた。
「一体ならまだしも複数ですからなあ。あんなに集まっているとなると……魔王を復活させんと暗躍しているのかも知れません」
ホワイトドラゴンが群れているのは魔王を復活させようと企んでいるから、ねぇ……。
「奴らの企みを阻止すべく傭兵を一個小隊、一週間前に送り出したのですが、寄せ集めはやはり駄目ですなあ。相手にならず、すぐに逃げ帰ってきましたよ」
苦笑いを浮かべるおっさんに俺は曖昧な笑みを返す。
そのまま俺はママに、
「一個小隊って?」
「約三十人から四十人ってところね」
さすがは元・戦士団長。終戦と共に引退したけれどもまだ覚えてはいるようだ。
と、いうことは、多くて四十人で立ち向かっても、ホワイトドラゴンの前には相手にもならないということか。
そんなヤツを相手に俺達は三人で挑めと?
じわじわと背筋から冷たい恐怖という名の感情が這い上がってくる。
だが、落ち着け、俺。
俺はどうせサポートなのだ。
危険だと判断したら、コイツ等を置いてさっさと逃げれば良いじゃないか。
よし、この作戦でいこう。
「さて、長旅で疲れたことでしょう」
一段落ついたとばかりにおっさんが一つ手を打って、腰を上げた。
「お部屋へ案内致します。本日はゆっくりお休みになられてはいかがでしょうか」
「そう言って頂けるとありがたいです。夜通しで馬車を走らせたもので、正直、体力を消耗しています」
エルアルトの横顔を見ると確かに疲労の色が見えた。
移動呪文は過去に訪れたことのある地へ一瞬にして移動できる便利な魔法である。
それを使わなかったということは、魔王討伐の際にこの土地を訪れていなかったようだ。
おっさんは頷くと、
「夕食の時間になりましたら、こちらからお呼び致しますよ。勇者一行の華麗なる戦歴をお聞かせ頂けると嬉しいのですが」
暖炉の上にある派手な金の置き時計に目をやると、三時のおやつを少し過ぎた頃だった。
床に落とされるまで寝ていたので体力は有り余っている。
俺は一息吸うと、
「あ、あの」
思い切っておっさんに声を掛けた。
「夕食の時間までお庭を拝見しても良いですか?」
部屋で大人しく何時間もぼんやりしているのは少々キツイ。
本当は図書室があれば見学したいのだが、屋敷の中をうろうろするのは失礼だろう。
ここは散歩が上策かと。
「えっ?」
発言が唐突だったのか、妙な間が空く。
おっさんが目を丸くして振り向いた。
俺、一応、空気を読んで発言したと思ったんですけれども。
顔に熱が集まり、胸の鼓動が徐々に早まってくるのを感じた。
やっぱり庭を歩くことすら失礼なのか。
そうだよな、俺はただの庶民なワケだし、庭を歩こうなんておこがましいにも程がある。
「あ、いえ、やっぱ止めときます」
気まずく感じて目をそらした。
「いいえ、別に構いませんよ。お若いとあって、元気があるなぁと感心していました」
「アンタ、依頼人に気を遣わせてるんじゃないよ!」
後頭部をママに叩かれる。
おっさんは小さく笑い、
「庭の一部が迷路になっていますから、そちらには近付かないようお願いしますよ。以前に客人が遭難して、家人総出で捜索をしたものですから」
そういう理由ならば許可を下ろすかどうか一瞬迷うだろう。
俺は「大丈夫」の意味を込めて一つ頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる