魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

いっこしょうたい って なんにん?

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 「引き受けて下さいますか! いやぁ、助かりました!」

 膝を打って、おっさんが身を乗り出した。

「それにしても」

 喜ぶおっさんに目を細めながらママはぽつりと言葉をもらす。

「今まで大人しく姿を隠していたホワイトドラゴンと、こんなところで会うとはねえ」

 魔王軍との戦いで、エルアルトとママはホワイトドラゴンと対峙していた。
 その戦いは長く厳しかったと聞いたことがある。

「私も驚きましたよ。あれは約一ヶ月前かと……。気晴らしに遠乗りしようと森に入ったら、突如として姿を現わしまして……あのときは逃げるのに精一杯でしたよ。まったく、生きた心地がしなかった」

「それはそれは……大変でしたね」

 エルアルトが気遣うように声を掛ける横で俺は出された紅茶を一口含む。
 ふわっと口の中で花の香りが広がる。
 一般市民の俺でも明らかに違いが分かってしまった。

 これは、恐ろしく高い紅茶に違いない。

 無言でおののく俺に気付く様子もなく、おっさんは紅茶で軽く喉を潤すと話を続けた。

「一体ならまだしも複数ですからなあ。あんなに集まっているとなると……魔王を復活させんと暗躍しているのかも知れません」

 ホワイトドラゴンが群れているのは魔王を復活させようと企んでいるから、ねぇ……。

「奴らの企みを阻止すべく傭兵を一個小隊、一週間前に送り出したのですが、寄せ集めはやはり駄目ですなあ。相手にならず、すぐに逃げ帰ってきましたよ」

 苦笑いを浮かべるおっさんに俺は曖昧な笑みを返す。
 そのまま俺はママに、

「一個小隊って?」

「約三十人から四十人ってところね」

 さすがは元・戦士団長。終戦と共に引退したけれどもまだ覚えてはいるようだ。

 と、いうことは、多くて四十人で立ち向かっても、ホワイトドラゴンの前には相手にもならないということか。
 そんなヤツを相手に俺達は三人で挑めと?

 じわじわと背筋から冷たい恐怖という名の感情が這い上がってくる。

 だが、落ち着け、俺。
 俺はどうせサポートなのだ。
 危険だと判断したら、コイツ等を置いてさっさと逃げれば良いじゃないか。

 よし、この作戦でいこう。

「さて、長旅で疲れたことでしょう」

 一段落ついたとばかりにおっさんが一つ手を打って、腰を上げた。

「お部屋へ案内致します。本日はゆっくりお休みになられてはいかがでしょうか」

「そう言って頂けるとありがたいです。夜通しで馬車を走らせたもので、正直、体力を消耗しています」

 エルアルトの横顔を見ると確かに疲労の色が見えた。

 移動呪文は過去に訪れたことのある地へ一瞬にして移動できる便利な魔法である。
 それを使わなかったということは、魔王討伐の際にこの土地を訪れていなかったようだ。

 おっさんは頷くと、

「夕食の時間になりましたら、こちらからお呼び致しますよ。勇者一行の華麗なる戦歴をお聞かせ頂けると嬉しいのですが」

 暖炉の上にある派手な金の置き時計に目をやると、三時のおやつを少し過ぎた頃だった。
 床に落とされるまで寝ていたので体力は有り余っている。

 俺は一息吸うと、

「あ、あの」

 思い切っておっさんに声を掛けた。

「夕食の時間までお庭を拝見しても良いですか?」

 部屋で大人しく何時間もぼんやりしているのは少々キツイ。
 本当は図書室があれば見学したいのだが、屋敷の中をうろうろするのは失礼だろう。
 ここは散歩が上策かと。

「えっ?」

 発言が唐突だったのか、妙な間が空く。
 おっさんが目を丸くして振り向いた。

 俺、一応、空気を読んで発言したと思ったんですけれども。

 顔に熱が集まり、胸の鼓動が徐々に早まってくるのを感じた。

 やっぱり庭を歩くことすら失礼なのか。
 そうだよな、俺はただの庶民なワケだし、庭を歩こうなんておこがましいにも程がある。

「あ、いえ、やっぱ止めときます」

 気まずく感じて目をそらした。

「いいえ、別に構いませんよ。お若いとあって、元気があるなぁと感心していました」

「アンタ、依頼人に気を遣わせてるんじゃないよ!」

 後頭部をママに叩かれる。
 おっさんは小さく笑い、

「庭の一部が迷路になっていますから、そちらには近付かないようお願いしますよ。以前に客人が遭難して、家人総出で捜索をしたものですから」

 そういう理由ならば許可を下ろすかどうか一瞬迷うだろう。

 俺は「大丈夫」の意味を込めて一つ頷いた。


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