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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
くる きっとくる
しおりを挟むノエルやおっさん、屈強な戦士達も口々に悲鳴を上げたが、中でも一番驚いたのは魔法使いだろう。
「あうわわわわわわ……」
魔法を放った格好のまま、真っ青な顔でおののいている。
来る! きっと来る!
じゃなくて、何か来ちゃった!
ウィンドストームは暴風を生み出す魔法であって、人を生む魔法ではない。
人が手から出てくる感覚とは、どういう感じなのだろうか。
魔法使いの様子からして、気持ちの良い物ではないのは確実だ。
と、いうか、
「レオン?」
よくよく見れば俺がもっとも苦手とする、鬼畜エルフのレオンではないか?
いや、他人のそら似ということもあり得る。
「や、アルカちゃあん。お元気ィ?」
地面を這っていた男が、のっそりと起き上がる。
間違いない。本人でした!
俺は悪夢を見ているのだろうか?
何で魔法使いの手からレオンが出てくるんだ。
カリエドといい、エルフはいつから召喚されるようになったのですか。
「にゅるんって、にゅるんってでた……」
可哀想に、幼いノエルには衝撃的だったようで、腰を抜かしたように尻餅をついている。
レオンはジャケットについた砂を払いながら、凶悪な笑みを浮かべていた。
嫌な予感がする。
こんなところでコイツが俺への嫌がらせに、おっさん側についたら最悪だ。
「相変わらずオマエはバカだねェ。自分の身を守ってりゃ良いのに、そんなおチビの為に魔法を使うたァ。まったくの甘ちゃんだな」
妙な緊張感が漂い、冷や汗が俺の顎を伝う。
「魔法を封じられたら、オマエが一番足手まといだってェの。今まさにピンチだしよォ」
「足手まといじゃねーよ。アルカは一生懸命に頑張ってんじゃん!」
見てくれている人は、ちゃんと頑張りを見ているのだ。
カリエドが横から口を挟み、俺にフォローを入れてくれた。
「今はただの青ジャージを着た小動物だけどさぁ」
最後の一言は余計である。
俺が小動物ならば、ノエルはミジンコだろうか。
「とりあえず、魔法が使えねーだろォ? 剣を使ったところで、そこの筋肉ダルマ達には負けるだろォ?」
レオンが指折り数えて痛いところを突いてくる。
悔しいが反論できない。
バルトやカリエド、レオン達のように自由自在に魔法が使えるワケでもなければ、ノエルよりも回避率の低いノロマな亀なのだ。
自分の不甲斐なさに思わず唇を噛む。
ハンカチがあれば口にくわえ、引きちぎっていただろう。
悔しさのあまりに肩を震わせていると、
「助けて下さいって、地に額を擦りつけて言えよ」
形の良い唇を歪めてレオンは笑った。
ほらな、こちらが不利なのを楽しむかのように上から目線で言ってきた。
「俺ならそこの魔法使いも、筋肉ダルマ達も敵じゃねェ。オマエと違って、俺様は強ェからな」
「とかなんとか言っちゃってえ!」
横からカリエドの陽気な声が挟んできたのを、
「カリエド!」
途端に不機嫌そうなレオンの声が上がった。
その声を無視するように明るい声が続く。
「レオンはアルカに頼られたいんだよな!」
たっぷり五秒待ったが、反論はなかった。
返事の代わりに顔を赤らめながらのわざとらしい咳払いが二つ。
ちょ、ちょっと待ってくれ。
それは肯定か?
否定しないの?
俺が苦しみ、悶える様を見て笑うのが鬼畜エルフであるレオンではないのか。
熱でも出したとか?
ハッ、もしや巷では流行しているという ツンデレか?
いや、ツンデレブームは落ち着いてきているぞ?
だからといって、ツンデレと見せかけたヤンデレは困るのだが。
「うおぉおっ!」
存在を忘れかけていたが、戦士達二人がこちらに向かって襲い掛かってくるのが見えた。
魔法使いに至ってはショックで放心している。
手から人が出て来るという予想外の事態が起こったのだ。
あれで驚かなかったら、敵ながら天晴れな肝っ玉だと褒めてやりたい。
「さあ、魔法が使えないなら俺達に命令を下すんだ。喜んで力になるゼ!」
喜々としてカリエドが声を張り上げた。
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