魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

すりっぱって いいおと するよね

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 俺は迷うことなくお願いしていた。

「頼む、あいつ等を捕まえてくれ!」

 自分が魔法や剣が使えないことを嘆くのは、今は必要ない。
 まずはノエルや村の人達を守ることが先決だ。

「了っ解っ!」

 カリエドの握った両の拳から炎が巻き起こる。
 全開の笑みだ。

「ふん、頼み方がなっちゃいねえが、今回は許してやる」

 憎まれ口を叩きながらレオンが戦士達に向かって左手をかざす。
 そこで宙を握ると、戦士二人の動きが止まった。
 空気で圧迫し、相手の動きを封じる魔法だろうか。

 二人から短いうめき声が漏れる。
 顔は必死の形相なのに身動き一つできない様は、まるでパントマイムのようだ。
 このまま路上パフォーマンスをすれば拍手は貰えるだろう。

「簡単すぎてあくびが出らァ」

 いつもながら、この強大な魔力には圧倒される。

「あー! 俺のやること無くなったじゃん!」

 出遅れたカリエドが炎を手にしたまま残念そうに肩を落した。
 だが、復活は早い。

「まあ、とりあえず、派手にそいつら燃やしとく? レア? ミディアム? ウェルダン?」

 爽やかな笑顔で恐ろしいことをぺろっと口にするものだ。

「ちょっと待てぇい! そんな簡単に人を燃やしちゃ駄目だろ!」

 余りにも自然だったので、聞き流すところだった。

「えー」

「残念そうな顔しても、駄目なことは駄目だから!」

 ほら、屈強な戦士二人ですら燃やされると聞いて泣きそうになっているじゃないか。
 やはり、バルトと同様にエルフは意外と好戦的なのかもしれない。

「あ! ファルメールがにげたぞ!」

 ノエルの声に俺達は振り向いた。
 戦士二人を相手にしている間に、おっさんが逃げていた。

「逃がすかぁ!」

 魔法が使えなくても追うことはできる。
 俺は純白スリッパを片手におっさんを追った。

 自慢になってしまうが、魔法学校時代では短距離走で人に負けたことは一度もない。
 魔法大学に入学してからは体育の授業自体がないので極端に減ってしまったが、意外と衰えていないものだ。

 おっさんとの距離がみるみるうちに縮まっていく。
 大きな体を揺らして、おっさんが前を走っている。
 実に苦しそうだ。良いものを食べて肥えた結果がこれだと体現している。

 そのおっさんの後頭部へ、俺はスリッパを力一杯に振り下ろした。
 スッパーンと実に小気味良い音が響く。

 なんと気持ちの良い音だろうか。
 投げても良いが、やはりスリッパは叩いてこそ気分がスッキリするものである。

 俺に叩かれ、おっさんが前のめりに傾いて速度を落とした。
 そこをすかさず手を伸ばして、服の裾を指で引っかけて掴まえる。

「お、おう、往生際が、はぁ、悪いっ」

 久々に走ったからか、息が切れてしまった。
 おっさんを掴まえたことで、少しは名誉挽回になっただろうか。

「離せ!」

 おっさんが見苦しくも暴れる。
 意外と力があり、うっかりすると振り解かれそうだ。

「そこは断固として断る!」

 裾をしっかり掴んで引っ張る。
 ここで逃がすワケにはいかない。

「ぐっ!」

 突然、衝撃に襲われた。

 視界が揺れる。
 頭や背中に次々と痛みが走る。

「離せ、離せ!」

 暴れたおっさんが、俺を何とか振り解こうと拳をふるってきたのだ。

 一言ごとに拳のオマケがもれなく降ってくる。

 取り押さえようと体勢を取り直したそのとき、視界の端で何かが太陽の光を受けて反射した。

 それがおっさんの懐に忍ばせていたナイフだと気付いたときには遅かった。

「あおジャージ!」

 ノエルの悲鳴にも似た声を近くに聞く。

 そのとき、世界が止まった。

「う、わ……」

 切っ先は前髪をかすっただけで制止している。

 いや、よく見ると素手で刃の部分を誰かが掴んでいた。
 世界が止まったワケではなかったらしい。

「まったく、ムチャをする!」

 眉間にしわを寄せて鼻息荒くこちらを見ているのは、幼女ノエルだ。
 おっさんの背中に飛び乗った彼女が素手で刃を掴み、歯を食いしばって止めている。

「素手で刃の部分を持ったら危ないだろ!」

 いやいやいや、何をのんきに俺は注意をしているのだ。
 素手で掴んでいる時点でアウトであり、血は見えないが大怪我をしている可能性は高い。

 慌てて彼女の手を掴もうとしたとき、

「同族を傷付けようとするとは……人間とは何と愚かな生物か……」

 ノエルの口調が再び、大人っぽく変化した。


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