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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
いっぽう そのころ
しおりを挟むそんなアルカ達の様子を、エルアルトとサマンサが眺めていた。
彼らから少し離れた民家の角から覗いている。
ファルメールが送り込んできた傭兵軍団は楽勝で片付けていた。
村のあちこちに、動けなくなった戦士や魔法使いが転がっている。
中には泡を吹いて、
「サーモンピンクのミノタウロスが、ちゅーを、ちゅーを……やややややめてくれぇぇぇえ! いやだーっ!」
精神的ショックを受けている者も何名か。
彼らの身に一体なにが起こったのか、それは本人のみぞ知る。
「あの子、やっと教えて貰えたのねぇ」
サマンサが呆れた様子で肩を竦めた。
「自分がどうして『無色』の称号を得たのかは今度、教えなきゃね」
「そこは国の最重要機密事項だからな。頃合いを見計らって伝えよう」
横で眺めていたエルアルトが小さく頷く。
幼い頃に何度かアルカと一緒に遊んでいた大人達が精霊王だと知ったのは、魔王との戦いの最中だった。
魔王を封じるために必要な宝剣の、真の力を目覚めさせるには精霊王達の力が必要だったのである。
世界各国を巡り、過酷な旅を続けて、やっとの思いで精霊王の棲むと言われる祠へ辿り着いた。
その祠で見知った相手と再会したとき、どれほど驚かされただろうか。
探し求めていた精霊王達は、自分の近しい人物の傍らにいて、魔王軍から国ごと守っていたのである。
アルカが魔王軍の侵攻により、勉学に励めなくならないように、と。
祖国グレンギヌスに進軍するモンスターの数が少なく、戦が他国よりも比較的に穏やかだったのはこのためだったのだ。
その事実を知ると同時に、今までの自分の苦労はなんだったのかと、馬鹿らしくて怒りすら込み上げたほどだ。
そのときにエルアルトは精霊王達に問い掛けた。
「どうしてアルカを守るのか」
このとき、バルトが神妙な顔でこう答えたのだ。
「あの方は我らが主」
彼の口から続いたのは、到底信じられないような内容だった。
世界の均衡を保つための存在であると。
国を守っていたのではなく、アルカを守っていた。
よくよく考えてみれば、この事実が恐ろしいとエルアルトは感じていた。
精霊王達にとって人間はどうでも良い存在で、アルカに興味があるだけではないだろうか。
幼い頃に一緒に遊んでいたバルトが淡々と語るのが、まるきりの別人になってしまったかのように思えた。
そして、自分が可愛がっていた弟分であるアルカが、急に遠くへ行ってしまったような錯覚に陥ったことを今でも覚えている。
「ゲオルグは火の魔法をマスターしているから赤系統の称号を受けた。だが、アイツは違う。魔法を唱えずとも、命ずれば精霊王が喜んで力を奮う」
つまり、すべての魔法をマスターしているも同然。
「何色にも当てはまらない。いや、当てはめることができない。だからこそ、アルカは『 無色』なんだ」
この事情を知っている人間は、エルアルトを始めとして、サマンサ、ゲオルグ、ザットといった勇者一行のメンバーと、グレンギヌスでも国王と一部の幹部、それから国際魔法ギルドの長のみ。
国の最重要機密事項となっているのは、他からの悪用を防ぐ為である。
もし、犯罪組織の手に渡れば大変なことになるだろう。
洗脳し、操り人形となったアルカを利用すれば世界征服も夢ではない。
「あんな未熟な子、危なっかしいったらありゃしない」
命が幾つあっても足りないわね、サマンサが大きく溜め息を吐いた。
「だからこそ、その未熟な子を『正しい道』へと導き、護衛するのが俺達の役目だろう?」
莫大な資金を掛けて手厚く保護をした下で、最強の魔法使いに教育しようと提言したのは国の幹部連中だ。
人間性が未熟なまま魔法だけを教育すれば、国にとって都合の良い、最強の人間兵器となるだろう。
しかし、今の環境のまま、人生の酸いも甘いも味わうことで人間的に強く成長をすることを国王と魔法ギルドの長は望んでいた。
グレンギヌスという一つの国単位ではなく、世界全体の平和を守る存在となって欲しい、と。
それに、精神的に未熟なままでは簡単なことで感情を爆発させ、力を暴走させるとも考えられない。
それは世界にとっても危険なのである。
こうして、アルカは今の貧乏暮らしのままで、エルアルトがお目付役としてさり気なくサポートをすることとなった。
「ついに自分が何者か、知ってしまったんだな……」
魔法で呼び出されていた雨雲が徐々に消え、太陽の光が大地を照らす。
雨で濡れた大地は光を反射し、エルアルトは目を細める。
視線の先にいるアルカ自身が光を放っているかのように眩しかった。
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