卯月堂の空にクジラが歌う

ねじまる

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カフェ 卯月(うげつ)堂

第二話

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 オレンジ、黄色、緑に青。
 カラフルな色をした家や店が並んでいる。

 街の中には川も流れ、赤レンガで造られた古い眼鏡橋を少女は渡る。
 彼女は周囲の人間が振り向くくらい、大きな仕草でしきりに辺りを見回していた。

「おじょうちゃん、何か落とし物かい?」

 見かねたのか、青果店の老婆が声を掛ける。
 うめぼしのような顔は優しい。

「いいえ」

 彼女ははっきりとした口調で答えた。太陽の下できらめく瞳を向け、

「花を探しているの」

「おや、花かい」

「えぇ、そう」

「それは、花屋さんに置いてあるものかい?」

「あると言えばあるわ。でも、あれは滅多に花屋さんには並ばないって。この町なら見られる確率が高いと言われたわ」

 老婆は片眉を上げた。

「あぁ、あの花を探しているんだね。私もあれは、生まれてこの方、十数回しか見たことがないけど」

 すると、少女が老婆に詰め寄り、興奮した様子で声を上げた。

「見たことあるの!? それはどこで!?」

 少女の気迫に押されたのか、老婆は穏やかな顔ながらも一歩下がると、

「星の丘……」

「星の、丘?」

「町名よ、わかる? ここは月見(つきみ)町・中央区で、月見町・星の丘……あそこなら、ここからも近いし」

 そう言って、皺の深い枝のような指で彼女が行くべき道を示す。

「あそこ、あそこの道を真っ直ぐに行けば分るだろうけれど、迷いそうになったら、星の丘はどこか、それを聞くと良いわ」

 それから、老婆は店先から大きな伊予柑を一つ持ってくると、少女に手渡した。

「はい、これあげる。気を付けてお行きなさいな」

「ありがとう!」

 短くお礼の言葉を発すると、彼女は走り始める。

「おやおや、焦って転ぶんじゃないよー!」

 老婆の言葉を背中に受けて。


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