【完結】ゲーム配信してる俺のリスナーが俺よりゲームが上手くて毎回駄目だししてきます

及川奈津生

文字の大きさ
5 / 45
マキちゃん

5:ランクマッチ

しおりを挟む
「えっ、ぜっとさん、もうダイヤになってる!」

 久しぶりの3人配信だ。zh@のここ最近の戦績を開いてヤカモレさんがびっくりしている。シーズン中盤、もうダイヤだ。早い。

「ひたすらランク回してた」
「なんだよ~! 配信来てよ~!」
「いやマスターは無理だ。時間が無い」

 zh@のその一言で俺との不仲説が無くなった。本業で忙しくしているzh@に俺とヤカモレさんが遠慮して配信に誘わなかったという体になる。
 ……まあそれも本当なんだけど。zh@もそうだと思って今まで何も言わなかったのかな。ロビーでキャラ選択や衣装チェンジしつつ雑談してると「キャラ変えしたんだろ。俺がホークショーやる」とzh@が索敵キャラに立候補した。zh@のキャラの立ち絵がいつものメカの腕や足をつけた不気味な男から、スラッと紳士風のスーツの男に変わる。

「まじで!? 出来んの!?」

 びっくりして聞くと「やったことはある」と返ってきた。いやそれ大丈夫なのか。
 確かにキャラの構成的にはこれが最適解だが、元々スナイパーで遠距離が得意なzh@の好きな戦術じゃ無いはずだ。いつもzh@が使ってるメカキャラは肩からケーブルが出て障害物に引っ掛けて移動する能力があり、移動性能が抜群に良い。これは高所を取って遠距離で狙撃後、すぐさま仲間と合流する際に便利で、スナイパーがよく使うキャラだ。
 対してキャラ変えしたホークショーってキャラ。索敵キャラで、能力を発動すると敵チームの動向が味方に共有される。ただし発動範囲に制限があり、敵が遠過ぎると何も分からず、更にその能力の性質上、味方の誰よりも先に敵チームに近づく必要がある。近~中距離が得意なキャラだ。スナイパーが好きなら使わない。俺とヤカモレさんで本当にいいのか聞いたら「せっかくここまで勝ち上がってきたのに今更変えるな」と諭された。
「それに俺、上手いしな」
「言い切ったね!?」

 いやでも確かに。それはそう。
 元々スナイパーのzh@はフィールド把握が上手い。どこに敵が居てどこで戦ってるのかすぐ分かるから、指示が早い。敵チームのログを確認して漁夫も積極的に取りに行く。1試合に20チーム居るんだが、全部の動向を把握してんじゃないかと思うときがある。頭の良さってこういうとこに出てんのか。zh@に遠距離からキルパクされるの、まじでムカつくんだよなあ。
 その長所を活かせるのは、索敵キャラでも同じだった。建物内をスキャンして敵の位置、罠や遮蔽物の場所を把握するとすぐに安置がどこなのか、どこから突入すべきか指示が飛んできた。スキャンすると電磁波みたいなものが誰にでも見えるエフェクトで飛んでいくから、敵側もスキャンされてることは分かる。だから、敵に位置を変えられないようにスピード勝負なのだ。

「マキ、何で罠狙わない!? まず罠壊せっつってんだろうが!」
「狙ってますぅ! 狙ってましたあ! 今のはガス罠ですぅ!」
「今撃ったのバリケードだろ!」
「撃ってねーよ! ぜっとさん、俺が下手くそ過ぎて幻覚見えてんだって! 俺とぜっとさん、見えてるもんちげーんだよ!」
「お前それ認めてねーか!?」
「ちょ、笑わせないで、笑わせないで」

 ヤカモレさんが罠から発生したガスにまみれながら俺とzh@のやりとりの笑いをこらえている。ガスのせいで視覚不良になった画面にまたzh@のスキャンの電磁波が飛ぶ。スキャン結果の位置がマップに共有された。

「居た、左窓位置。飛ばれるぞ」
「寄せる!」

 俺のキャラの能力を使って建物から脱出しようとした敵チームを引き寄せた。俺のキャラの能力はブラックホール。敵を強制的に引き寄せてファイトに持ち込む。正面からの撃ち合いに持ち込んだら俺は勝てる。流石にガスの中二人は厳しいけど!当たんねぇ!
 zh@が後ろから俺が居るにも関わらずガンガン撃ってきた。

「今俺に一発当たったよね!?」
「当てたんだよ」
「何で!?」

 そのうちガスが晴れていく。マップだけじゃなく通常画面でも敵が視認出来るようになってヤカモレさんが止めを刺した。VICTORYの文字が浮かび上がる。勝った。勝ったけども。

「……マキぃ」
「はいはい、も~~~……ごめんって!!」

 恒例の説教タイムに入ってコメント欄が湧いた。『待ってた』『懐かしい』『ダイヤになっても変わらなくて嬉しい』そうかそうか。俺は全く嬉しくねぇよ。

「お前が撃ち合いで勝てなくてどうすんだよ、そのためにまず罠壊せつってんだろ、そもそものエイムが」

 うんたらかんたらうんたらかんたら。全く変わらないお説教は仰る通りだ。罠壊してないのに壊したって報告したのは確かに俺が悪いね。俺も罠張ったみたいな感じになっちゃったね。一通りお説教を受けたあとに俺は「ぜっとさんの言うことは~~~」と言葉を溜めた。

「「ぜぇったーい!」」

 ヤカモレさんが言葉を合わせてくれた。コメント欄に草が生える。それを見ながら俺も笑って切り替える。

「頑張るよ。マスターまで連れてってね、教官」

 zh@にもプレッシャーをかけた。こんなことじゃへこたれねぇぞ。なんて言ってもzh@が合流してからめちゃくちゃ勝ってる。マスター昇格が見えてきたのだ。後少し。zh@は少し間を開けてから一言、「分かった」とだけ返事した。ヤカモレさんがわざとらしく笑って「かっけぇ」と言って、コメント欄がzh@を称賛した。

 そこから先がまた地獄だった。あと少しと思った道のりが長い。

「……チーターだ」
「またかよ!」

 これだ。とにかくこれだ。チーター。ずるして強くなった連中に好き勝手やられて少し降格した。気づけばシーズン終盤に入っている。

「何でシーズン終わりにまだチーターいるんだよ!?」
「業者だろ、マスター昇格したアカウント売るんじゃねぇの」
「何で買うんだよ~~~自分でマスターまで行った方が絶対に楽しいよお!? いや、楽しいなあ! ねえ、ヤカモレさん!」
「ほんとほんと、楽しい楽しい!」

 まるで既にマスター昇格してるようにヤカモレさんとわざとらしく業者とその購入者を煽った。実際は昇格はまだ遠い。チーターのせい。全部チーターのせい。
 本業があるzh@は毎回配信に来てくれるわけじゃない。今シーズン、あと3人でやれるのは今日と明後日の2回だけだ。出来れば今日中に昇格圏内まで行きたかったのに。

「マキ、お前あとスコアどのくらい?」
「えーと……」

 キルした人数、キルアシストした回数でランクポイントは貯まっていく。今のスコアをzh@に言うと「まだまだだな」とため息混じりに言われた。ヤカモレさんは俺よりまだ低い。最前線で撃ち合う俺の方がどうしてもスコアが高くなる。

「明日少しでも上げとくから」
「ん。頼んだ」

 頼んでるのは俺らの方だが、zh@はまるで自分のことのように言ってサーバーから落ちていった。
 次の日もヤカモレさんと2人でやっていたら、仕事で遅くなったのか、深夜にzh@がログインしていた。俺らの配信には入ってこず、話しかけもしてこなかったが、ゲームをプレイ中の表示が見えた。ヤカモレさんも多分気づいていた。でも何も言わない。こういうことがよくある。二人配信してる裏でzh@が一人でやってたり、配信前にPCつけたら既にzh@がプレイしていたり。とにかく時間を見つけてはプレイしているようだ。そしてその後は決まってzh@の動きが良くなる。
 ――練習してるんだ。俺とヤカモレさんのために、慣れないキャラを使ってるから。プロと違ってコーチがいるわけじゃない。一人で地道にコーチング動画を参考にしたり、試行錯誤してる。俺なんて配信直前まで寝てることあるのに。本業ある人が何やってんだ。

「……マスター上がりたい」

 今日のプレイで多少は積まれたスコアを確認しながら呟いた。明日も平日だ、マスターにいけるかどうかはギリギリだ。

「俺も」

 ヤカモレさんが俺に続く。

 3人配信の最終日。
 zh@は急な残業で遅くなって、入ってきたのは23時近くになってからだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...