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こうくん
33:気づき
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良かった。目が覚めて昨夜のことを思い出したら、まずそう思った。抱かれること自体が久しぶりだったからか、相手がマキだったからかは分からない。寝たまま天井を見ていると、マキ越しに見つめた景色が思い出された。燃えるような情欲を抱えた瞳に捉えられ、薄い唇がこっぱずかしい語感で俺を呼んでいた。……あの呼び方はどうにかならないのか。俺のどこを見てあんな呼び名を思いつく。セックスとは違う恥ずかしさで居た堪れない。俺を呼ぶ掠れた声は年より大人びて色っぽく、ぴったりと当てられた体は肉厚で筋肉質で、相も変わらず男前だった。
寝返りを打とうとして感じる腰の痛みに好き勝手やりやがってと思わないでもないが、そもそも無理があった。持ってるもののでかさが反則だ。入る入らないの前に見た目で興奮する。思い出すだけで腹の奥がうずいてしまう。いかん、起きよう。
ずくずく痛む腰にシーツの感触を惜しまれながら、体を起こした。状況を確認しようと視線を回すと、すぐ隣でマキが横になっていた。俺に背を向け、壁の方を向いて、ぐうぐうと肩を上下させている。帰らなかったのか。終電はまだあったはずだ。一晩の相手でも一緒に朝を迎えるくらいの情はあるらしい。他はどうなってると見れば、昨日の食い散らかした空容器と、飲み散らかした空き缶と、濡れたシーツ……ベッド上の惨状は今は見たくない。ぐりぐりと目を両手の平で擦り付けて、ベッドから抜け出した。
シャワーを浴びる前に床に散らかったものを何とかしないと視界に入って落ち着かない。ゴミを袋にまとめて、キッチンカウンターの脇に置いた。掃除はマキが帰ったあとにロボットに任せる。片付け終わったら洗面所に向かい、浴室に入る前に鏡を見た。疲れた顔したアラサーの男が映っている。よくこんな男とセックスしようと思ったものだ。
まだ宵の口にエロいと言われてじゃあやるかと流れでやるくらいには俺もマキも酔ってた。俺がキスして「配信に呼ぶな」と言った後もマキがやたらと構ってきたから、もしかしたらとは思っていた。マキは男と寝る素質が元々あったんだろう。じゃないと二十歳のノンケが俺と寝るわけがない。俺は平均身長を越えたドスのきいた声したアラサーで、見た目だって完全に男だ。それもわりとタフな方の。でも俺がマキの顔が好きだと言ってキスしたから単純にヤれると思ってマキは据え膳を食ったんだろう。
くそ、結構声出しちまったな。女役がこんな声じゃ嫌だったんじゃないか。……どうにもならないことを後悔しても仕方ない。浴室に入った。
シャワーを浴びてさっぱりし、ちょうどお湯を止めたとき、玄関が開く音がした。何だ、もう行くのか。見送りくらいさせろと外に出たら、マキが驚いた顔で振り返った。
外から差し込んだ光に照らされた白シャツが眩しくて目を細める。いつも身に着けているキャップは深く被っても身長が高いせいでその顔が下から覗き込めた。シャツを反射板にしてキラキラと顔を光らせたマキが「どした?」と砕けた調子で俺を伺った。慈しみの目をしていた。いつもより更に柔らかく、気遣う声が優しい。情事の最中に散々聞いた声と同じだ。どうしてか扉が閉まっても眩しい。
好きだ。
たった一回体を繋げただけで脳が錯覚する。昨晩、真正面で顔を向き合わせて突き上げられてるとき、俺の髪をかき上げながらマキも同じことを言っていた。そのときは「俺も」と言いそうになって我慢した。ケツが良過ぎると相手がどんなでも好きだと思ってしまうのを俺は知ってる。セックスの最中の告白なんて大抵がその場の勢いだ。本気じゃない。
でも今、帰って欲しくないと思ったのは本当だった。
全裸で追い縋るなんてみっともないことは何とか止めて、その場にしゃがみ込んだ。
「俺、勝手に帰ったりしないよ」
マキは朝飯を買いに行くと言っていた。確かに、俺の家には何もない。
「立ってよ」
「腰と尻がいてぇ」
「あっ、ゴメンナサイ」
しゃがんだ理由を一点に誇張すると、マキが頬を染めて謝る。照れるな。俺まで恥ずかしい。「何買ってくる?」と他にも何か言いたげにして聞くから、適当に答えて洗面所に戻った。
寝返りを打とうとして感じる腰の痛みに好き勝手やりやがってと思わないでもないが、そもそも無理があった。持ってるもののでかさが反則だ。入る入らないの前に見た目で興奮する。思い出すだけで腹の奥がうずいてしまう。いかん、起きよう。
ずくずく痛む腰にシーツの感触を惜しまれながら、体を起こした。状況を確認しようと視線を回すと、すぐ隣でマキが横になっていた。俺に背を向け、壁の方を向いて、ぐうぐうと肩を上下させている。帰らなかったのか。終電はまだあったはずだ。一晩の相手でも一緒に朝を迎えるくらいの情はあるらしい。他はどうなってると見れば、昨日の食い散らかした空容器と、飲み散らかした空き缶と、濡れたシーツ……ベッド上の惨状は今は見たくない。ぐりぐりと目を両手の平で擦り付けて、ベッドから抜け出した。
シャワーを浴びる前に床に散らかったものを何とかしないと視界に入って落ち着かない。ゴミを袋にまとめて、キッチンカウンターの脇に置いた。掃除はマキが帰ったあとにロボットに任せる。片付け終わったら洗面所に向かい、浴室に入る前に鏡を見た。疲れた顔したアラサーの男が映っている。よくこんな男とセックスしようと思ったものだ。
まだ宵の口にエロいと言われてじゃあやるかと流れでやるくらいには俺もマキも酔ってた。俺がキスして「配信に呼ぶな」と言った後もマキがやたらと構ってきたから、もしかしたらとは思っていた。マキは男と寝る素質が元々あったんだろう。じゃないと二十歳のノンケが俺と寝るわけがない。俺は平均身長を越えたドスのきいた声したアラサーで、見た目だって完全に男だ。それもわりとタフな方の。でも俺がマキの顔が好きだと言ってキスしたから単純にヤれると思ってマキは据え膳を食ったんだろう。
くそ、結構声出しちまったな。女役がこんな声じゃ嫌だったんじゃないか。……どうにもならないことを後悔しても仕方ない。浴室に入った。
シャワーを浴びてさっぱりし、ちょうどお湯を止めたとき、玄関が開く音がした。何だ、もう行くのか。見送りくらいさせろと外に出たら、マキが驚いた顔で振り返った。
外から差し込んだ光に照らされた白シャツが眩しくて目を細める。いつも身に着けているキャップは深く被っても身長が高いせいでその顔が下から覗き込めた。シャツを反射板にしてキラキラと顔を光らせたマキが「どした?」と砕けた調子で俺を伺った。慈しみの目をしていた。いつもより更に柔らかく、気遣う声が優しい。情事の最中に散々聞いた声と同じだ。どうしてか扉が閉まっても眩しい。
好きだ。
たった一回体を繋げただけで脳が錯覚する。昨晩、真正面で顔を向き合わせて突き上げられてるとき、俺の髪をかき上げながらマキも同じことを言っていた。そのときは「俺も」と言いそうになって我慢した。ケツが良過ぎると相手がどんなでも好きだと思ってしまうのを俺は知ってる。セックスの最中の告白なんて大抵がその場の勢いだ。本気じゃない。
でも今、帰って欲しくないと思ったのは本当だった。
全裸で追い縋るなんてみっともないことは何とか止めて、その場にしゃがみ込んだ。
「俺、勝手に帰ったりしないよ」
マキは朝飯を買いに行くと言っていた。確かに、俺の家には何もない。
「立ってよ」
「腰と尻がいてぇ」
「あっ、ゴメンナサイ」
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