【完結】ゲーム配信してる俺のリスナーが俺よりゲームが上手くて毎回駄目だししてきます

及川奈津生

文字の大きさ
33 / 45
こうくん

33:気づき

しおりを挟む
 良かった。目が覚めて昨夜のことを思い出したら、まずそう思った。抱かれること自体が久しぶりだったからか、相手がマキだったからかは分からない。寝たまま天井を見ていると、マキ越しに見つめた景色が思い出された。燃えるような情欲を抱えた瞳に捉えられ、薄い唇がこっぱずかしい語感で俺を呼んでいた。……あの呼び方はどうにかならないのか。俺のどこを見てあんな呼び名を思いつく。セックスとは違う恥ずかしさで居た堪れない。俺を呼ぶ掠れた声は年より大人びて色っぽく、ぴったりと当てられた体は肉厚で筋肉質で、相も変わらず男前だった。
 寝返りを打とうとして感じる腰の痛みに好き勝手やりやがってと思わないでもないが、そもそも無理があった。持ってるもののでかさが反則だ。入る入らないの前に見た目で興奮する。思い出すだけで腹の奥がうずいてしまう。いかん、起きよう。
 
 ずくずく痛む腰にシーツの感触を惜しまれながら、体を起こした。状況を確認しようと視線を回すと、すぐ隣でマキが横になっていた。俺に背を向け、壁の方を向いて、ぐうぐうと肩を上下させている。帰らなかったのか。終電はまだあったはずだ。一晩の相手でも一緒に朝を迎えるくらいの情はあるらしい。他はどうなってると見れば、昨日の食い散らかした空容器と、飲み散らかした空き缶と、濡れたシーツ……ベッド上の惨状は今は見たくない。ぐりぐりと目を両手の平で擦り付けて、ベッドから抜け出した。
 シャワーを浴びる前に床に散らかったものを何とかしないと視界に入って落ち着かない。ゴミを袋にまとめて、キッチンカウンターの脇に置いた。掃除はマキが帰ったあとにロボットに任せる。片付け終わったら洗面所に向かい、浴室に入る前に鏡を見た。疲れた顔したアラサーの男が映っている。よくこんな男とセックスしようと思ったものだ。
 
 まだ宵の口にエロいと言われてじゃあやるかと流れでやるくらいには俺もマキも酔ってた。俺がキスして「配信に呼ぶな」と言った後もマキがやたらと構ってきたから、もしかしたらとは思っていた。マキは男と寝る素質が元々あったんだろう。じゃないと二十歳のノンケが俺と寝るわけがない。俺は平均身長を越えたドスのきいた声したアラサーで、見た目だって完全に男だ。それもわりとタフな方の。でも俺がマキの顔が好きだと言ってキスしたから単純にヤれると思ってマキは据え膳を食ったんだろう。
 くそ、結構声出しちまったな。女役がこんな声じゃ嫌だったんじゃないか。……どうにもならないことを後悔しても仕方ない。浴室に入った。

 シャワーを浴びてさっぱりし、ちょうどお湯を止めたとき、玄関が開く音がした。何だ、もう行くのか。見送りくらいさせろと外に出たら、マキが驚いた顔で振り返った。
 外から差し込んだ光に照らされた白シャツが眩しくて目を細める。いつも身に着けているキャップは深く被っても身長が高いせいでその顔が下から覗き込めた。シャツを反射板にしてキラキラと顔を光らせたマキが「どした?」と砕けた調子で俺を伺った。慈しみの目をしていた。いつもより更に柔らかく、気遣う声が優しい。情事の最中に散々聞いた声と同じだ。どうしてか扉が閉まっても眩しい。
 
 好きだ。
 
 たった一回体を繋げただけで脳が錯覚する。昨晩、真正面で顔を向き合わせて突き上げられてるとき、俺の髪をかき上げながらマキも同じことを言っていた。そのときは「俺も」と言いそうになって我慢した。ケツが良過ぎると相手がどんなでも好きだと思ってしまうのを俺は知ってる。セックスの最中の告白なんて大抵がその場の勢いだ。本気じゃない。
 でも今、帰って欲しくないと思ったのは本当だった。
 全裸で追い縋るなんてみっともないことは何とか止めて、その場にしゃがみ込んだ。

「俺、勝手に帰ったりしないよ」

 マキは朝飯を買いに行くと言っていた。確かに、俺の家には何もない。

「立ってよ」
「腰と尻がいてぇ」
「あっ、ゴメンナサイ」

 しゃがんだ理由を一点に誇張すると、マキが頬を染めて謝る。照れるな。俺まで恥ずかしい。「何買ってくる?」と他にも何か言いたげにして聞くから、適当に答えて洗面所に戻った。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...