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マキちゃん
3:固定配信
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そもそもzh@って奴は俺と真反対の人間なのだ。高卒でゲームばっかしてて、バイトすんのも面倒くせぇと思って自分の顔の良さにあぐらかいて顔出しで配信業始めたらバイト代くらいはすぐ稼げた。調子に乗って他の配信者にも絡んでいたら、まともに就業経験もない俺は厄介者としてウザがられて、一緒にやってくれる仲間はヤカモレさんだけが残った。
「俺も別に元プロとかじゃねーし、ゲーム好きなだけだからさ」
と、俺と同類フォローしてくれたんだが、今となっては優しさだと分かっている。
それからヤカモレさんにならって色々マナーを身に着けて他の配信者とも関係を修復していって、やっとそれなりに生活出来るくらいになった。野良のzh@とたまたまマッチングしたのはそんなときだった。本気でプロ配信者として頑張り始めた頃。リスナーとマッチングしたのも初めてだったし、俺と一緒にゲームすることを「光栄です」と言ってもらえてまじで涙出るほど嬉しかった。めちゃくちゃ配信見てくれてることもすぐ分かった。絶対仲良くなれると思った。でもいざ一緒にやり始めて話してみるとびっくり。
仲良くなるための軽いジャブのつもりで「zh@って名前、どういう意味?」って聞いたら「中国の言語コード」と言われてヤカモレさんと二人で「「は?」」となった。聞けば仕事で台湾に住んでいた時期があり、英語と中国語が話せるのだと言う。ガチで話せるらしくて外国人とマッチングしてオープンチャットで会話してるのを何回か聞いたことがある。何言ってるのか全然分からなかった。俺に分かるのは、相変わらず声が良いな、ってくらい。そしたらもう何で中国語が話せるのか、何の仕事してるのか、学校どこ行ってたのかとか気になること全部聞いちゃってた。返ってきた答えは馬鹿な俺じゃよく分かんない外資系の社員で、馬鹿な俺でも知ってる有名な大学を卒業していた。いわゆるエリートってやつだ。
「何でぜっとさんみたいな人がゲームしてんの!?」
「他にやることなくて」
いやいやいやいや、仕事してらっしゃいますよね?
「ちなみにzhってどう発音すんの?」
「ヂー」
「じー? じいさん?」
「じいちゃんだ」
「おじいちゃんだ」
「その呼び方はやめろ」
やたら年寄り扱いしていじりまくってたらだんだん打ち解けてきて、本性が出始めたから、このタイミングでと3人で飲みに行った。
現れたのは本当に仕事帰りのサラリーマンだった。ドラマに出てくる出来るリーマンそのままって感じの。短い髪を後ろに撫でつけてネイビーのスーツを着てる。
「……どうも」
挨拶するなり俺を上から下まで見てきた。俺は見るからにフリーターって感じのTシャツジーパン。視線を外す。このときから何かやな感じした。
乾杯後、一番年上のヤカモレさんが何だかんだとzh@の仕事内容について聞き出していた。ヤカモレさんは今は辞めてるけど、元会社員だ。俺と違って社会経験がある。俺は二人の会話に入れず「へ~」「ほ~」とか適当に相槌を打っていた。
「マキちゃん話分かってる?」
「んー……分かってない!」
「わはははは」
ヤカモレさんが俺の馬鹿さ加減をネタにしてくれる。
「ぜっとさんみたいな人が何でゲームしてんの?」
前にしたな、この質問。そう思いつつ打ち解けた今、もう一回聞いた。
「ゲームくらい誰でもしてる」
zh@は答えながら焼き鳥を食べる。俺の顔は見ない。
「昔からゲームするのが好きだった」
「俺もだけどぉ? 何で俺みたいな仕上がりになってないの!?」
「頭の出来よ、出来」
ケラケラ笑ってヤカモレさんが俺を揶揄る。一緒になって俺も笑って「ゲームしかしてなかったからか」と自虐した。
この3人の共通の話題って言ったらゲームくらいしかない。どんなゲームしてたのか、自分史上最大のトロールとか話してたらzh@がやっと笑い始めた。酒の力もある。
「まじでさー、俺いつも御三家にひでん技覚えさせてて」
「何でだよ」
「だっていつも一緒だし便利じゃん? でもこれすげぇトロールだったってこの間気付いた」
「おせぇ!」
「使えねぇ」
「言うてぜっとさんだって子供んときは伝説しか使わなかったでしょお!?」
「はは、そりゃそうだ」
お猪口を口元に持っていったままzh@が笑う。くいっと一気に飲み干す様を見てたら俺もそうすべきと思って真似した。まともに日本酒飲んだことないのに。
「俺あんま頭考えてゲーム出来ないんだよね」
「見てれば分かる」
「マキちゃん脳筋だもんねぇ」
ヤカモレさんが隣から俺の体脂肪率15%の筋肉を揉む。引きこもりあるあるだ、突然みんな筋トレに目覚める。でもここまで続いてるやつはあんまり居ないし、脳筋と言われても俺にとってはまあまあ褒め言葉だ。褒められてふわふわする頭で「ぜっとさん、頭いいなら教えてよお」と言ったこれがことの始まりで間違いだった。
zh@はじとっと俺を見て、
「お前のことはいつもbotだと思ってる」
なんて?
zh@は今までの共闘を振り返りながら「敵チームがいたら殴るだけのbot」「AI搭載してるNPCの方がまだマシな動きする」「さっさと死んだ方が効率良いまである」と次々に俺のプレイを評した。言い返す隙間もなく完璧な武装で、俺の装甲をズタズタにする。
「マキちゃんマキちゃん!」
ヤカモレさんが半笑いで俺の肩を揺する。
「生きてる!?」
「……死んでる」
死んだ。酔いと心が死んだ。だって全部その通りだった。合間合間の言葉使いが最悪だっただけで、zh@の言う通り。ヤカモレさんが耐えきれずに横で爆笑したから更に確信した。的を得たことを言ってるのだ。
「えっ、ずっとそれ溜め込んでた?」
「まだある」
「まだあんの!?」
手酌でかぱかぱ日本酒を空けながらzh@は俺の悪口を続けた。耐えきれなくて「もう終わり!」とzh@の日本酒を奪った。目の前を掠めていった俺の手を追いかけてようやくzh@と目が合う。この男はろくに俺と目も合わせずに口だけ動かして批評と飲酒を繰り返していた。正直かなりムカついている。
「もう終わりだ」
酒を奪うために立ったままzh@を見下ろしてもう一度低く言うと、空気を読んだヤカモレさんも黙った。だが、zh@は頬杖をついて薄く笑って俺を見上げる。
「……お前、俺とやってると上手くなれるぜ」
くやしいけど俺もそう思った。
「でも全部デバフなんだよな~」
配信前に練習フィールドでヤカモレさんとだらだら雑談しながら呟いた。ヤカモレさんはカップ麺をすする音をたてながら「んえ? 何が?」と聞き返してきた。
「ぜっとさんの説教。俺のやる気が下がるという効果がある」
「あはは、でもマキちゃん上手くなってるよ」
「え~? ほんと~?」
ヤカモレさんのフォローにすぐ調子に乗る。
確かに俺も自分で上手くなってると感じる瞬間はある。でもzh@が俺を貶す内容も頻度もそう変わらないから、進歩が無いように思えてしまう。実際この間「進歩0だぞ」って言われたし。
「いやマジで。今期ガチでランク回す?」
「えっ」
「ダイヤ……はいけそうだから、マスターかな」
「え、まじ?」
ヤカモレさんの提案にちょっとビビる。
ランク、ランクマッチは俺たちがやってるFPSゲームの対人モードの1つだ。実力毎にランクを分けられ、同ランク帯と優先的にマッチするからこのモードでは実力が拮抗した試合が出来る。そしてどのランクに所属しているかで自分の実力を簡単に表すことが出来るから、上位ランクを目指すことがこのゲームの達成目標ややりこみ要素の一つになっていた。シーズン毎にリセットされるから、毎回毎回目標が出来る。
zh@に散々説教されている俺がいつも居るランクはプラチナ。中級者レベルだ。この上にダイヤ、マスターと並ぶ。マスターランクは全プレイヤー上位5%の難関だ。元プロゲーマーや一日中ゲームやってるストリーマーは、マスターランクに居る人が多い。多いけども。
「え~!? いける~!?」
「いけるいける! マキちゃん元々撃ち合いは強いし!」
「確かに! それで怒られることも多いんだけど!」
俺はすぐ一人で敵陣突っ込んで殲滅させようとするから、基礎対面力には結構自信がある。相手が二人とかでもわりと勝てる。でもその後に漁夫にやられたりするから立ち回りが下手でzh@に怒られる。しかもこれもプラチナランクだからで、一番実力差が激しいと言われているダイヤ帯に上ったら、撃ち合いすら出来なくなるかもしれない。
俺を励ますヤカモレさんはいつもするするっとダイヤ帯に上って行ってる。zh@もシーズン終盤はダイヤに居る。ダイヤに上るまでにも結構な試合数をこなさなきゃいけなくて真っ当な社会人だと無理だと思うんだが、zh@の場合はまじで土日はずっとゲームしてるから何とかダイヤ帯に居るって感じだ。あんなシュッとした経歴と見た目してて、意外とガチゲーマーなんだよなあ。仕事も出来て、ゲームも出来て、俺に勝ち目なくない?
……マスターになればzh@に勝てる?
邪な考えが浮かんで、ヤカモレさんの無茶振りに乗る。
「俺、ランク回すならヤカモレさんとは一緒がいい」
「そりゃ、俺もそのつもりだけど。……えっ、ぜっとさんは?」
「無理じゃない?」
zh@は仕事が繁忙期に入ると通常の配信すら来ない。チャットアプリにもログインしてないから、多分家のパソコンの電源すら入れていない。ランクマッチでマスターを目指すとなると、圧倒的にプレイ時間が足りないだろう。
「ぜっとさん、マスター上がれないのに付き合わせるの悪いじゃん」
「そういうこと気にする人かなあ」
「あと俺が普通に嫌だ」
「えっ」
「結構ガチでやらなきゃいけないのに、怒られて気分萎えると困る」
zh@が居た方が勝率は上がるだろう。固定パーティで役割分担出来るし、何より上手い。でもそもそものゲームに対する俺のやる気が無くなったらどうする。馬鹿で下手くそでプライド高くて悪いけど、エリート様に毎日毎日怒られると多分俺キレる。口じゃ絶対勝てないし、ゲームでも勝てないし。
そう俺がzh@不要論を語るとヤカモレさんは「う~~~~~~ん」と長考した後に「分かった」と返事を絞り出した。
zh@は俺やヤカモレさんから誘わない限り、俺たちの配信に入って来ない。zh@には何も告げずに配信でマスターを目指すことを宣言し、ランクマを始めた。たまに「今日ぜっとさん居るみたいよ」ってヤカモレさんがチャットでログインを教えてくれたりするけど、配信には呼ばなかった。突然仲間はずれにしてゲームしても、zh@からは特に何の連絡も来なかった。
……でも俺がzh@のおかげでゲームが上手くなったのは本当のようだ。ダイヤ帯にはヤカモレさんと二人ですぐ上った。
「俺も別に元プロとかじゃねーし、ゲーム好きなだけだからさ」
と、俺と同類フォローしてくれたんだが、今となっては優しさだと分かっている。
それからヤカモレさんにならって色々マナーを身に着けて他の配信者とも関係を修復していって、やっとそれなりに生活出来るくらいになった。野良のzh@とたまたまマッチングしたのはそんなときだった。本気でプロ配信者として頑張り始めた頃。リスナーとマッチングしたのも初めてだったし、俺と一緒にゲームすることを「光栄です」と言ってもらえてまじで涙出るほど嬉しかった。めちゃくちゃ配信見てくれてることもすぐ分かった。絶対仲良くなれると思った。でもいざ一緒にやり始めて話してみるとびっくり。
仲良くなるための軽いジャブのつもりで「zh@って名前、どういう意味?」って聞いたら「中国の言語コード」と言われてヤカモレさんと二人で「「は?」」となった。聞けば仕事で台湾に住んでいた時期があり、英語と中国語が話せるのだと言う。ガチで話せるらしくて外国人とマッチングしてオープンチャットで会話してるのを何回か聞いたことがある。何言ってるのか全然分からなかった。俺に分かるのは、相変わらず声が良いな、ってくらい。そしたらもう何で中国語が話せるのか、何の仕事してるのか、学校どこ行ってたのかとか気になること全部聞いちゃってた。返ってきた答えは馬鹿な俺じゃよく分かんない外資系の社員で、馬鹿な俺でも知ってる有名な大学を卒業していた。いわゆるエリートってやつだ。
「何でぜっとさんみたいな人がゲームしてんの!?」
「他にやることなくて」
いやいやいやいや、仕事してらっしゃいますよね?
「ちなみにzhってどう発音すんの?」
「ヂー」
「じー? じいさん?」
「じいちゃんだ」
「おじいちゃんだ」
「その呼び方はやめろ」
やたら年寄り扱いしていじりまくってたらだんだん打ち解けてきて、本性が出始めたから、このタイミングでと3人で飲みに行った。
現れたのは本当に仕事帰りのサラリーマンだった。ドラマに出てくる出来るリーマンそのままって感じの。短い髪を後ろに撫でつけてネイビーのスーツを着てる。
「……どうも」
挨拶するなり俺を上から下まで見てきた。俺は見るからにフリーターって感じのTシャツジーパン。視線を外す。このときから何かやな感じした。
乾杯後、一番年上のヤカモレさんが何だかんだとzh@の仕事内容について聞き出していた。ヤカモレさんは今は辞めてるけど、元会社員だ。俺と違って社会経験がある。俺は二人の会話に入れず「へ~」「ほ~」とか適当に相槌を打っていた。
「マキちゃん話分かってる?」
「んー……分かってない!」
「わはははは」
ヤカモレさんが俺の馬鹿さ加減をネタにしてくれる。
「ぜっとさんみたいな人が何でゲームしてんの?」
前にしたな、この質問。そう思いつつ打ち解けた今、もう一回聞いた。
「ゲームくらい誰でもしてる」
zh@は答えながら焼き鳥を食べる。俺の顔は見ない。
「昔からゲームするのが好きだった」
「俺もだけどぉ? 何で俺みたいな仕上がりになってないの!?」
「頭の出来よ、出来」
ケラケラ笑ってヤカモレさんが俺を揶揄る。一緒になって俺も笑って「ゲームしかしてなかったからか」と自虐した。
この3人の共通の話題って言ったらゲームくらいしかない。どんなゲームしてたのか、自分史上最大のトロールとか話してたらzh@がやっと笑い始めた。酒の力もある。
「まじでさー、俺いつも御三家にひでん技覚えさせてて」
「何でだよ」
「だっていつも一緒だし便利じゃん? でもこれすげぇトロールだったってこの間気付いた」
「おせぇ!」
「使えねぇ」
「言うてぜっとさんだって子供んときは伝説しか使わなかったでしょお!?」
「はは、そりゃそうだ」
お猪口を口元に持っていったままzh@が笑う。くいっと一気に飲み干す様を見てたら俺もそうすべきと思って真似した。まともに日本酒飲んだことないのに。
「俺あんま頭考えてゲーム出来ないんだよね」
「見てれば分かる」
「マキちゃん脳筋だもんねぇ」
ヤカモレさんが隣から俺の体脂肪率15%の筋肉を揉む。引きこもりあるあるだ、突然みんな筋トレに目覚める。でもここまで続いてるやつはあんまり居ないし、脳筋と言われても俺にとってはまあまあ褒め言葉だ。褒められてふわふわする頭で「ぜっとさん、頭いいなら教えてよお」と言ったこれがことの始まりで間違いだった。
zh@はじとっと俺を見て、
「お前のことはいつもbotだと思ってる」
なんて?
zh@は今までの共闘を振り返りながら「敵チームがいたら殴るだけのbot」「AI搭載してるNPCの方がまだマシな動きする」「さっさと死んだ方が効率良いまである」と次々に俺のプレイを評した。言い返す隙間もなく完璧な武装で、俺の装甲をズタズタにする。
「マキちゃんマキちゃん!」
ヤカモレさんが半笑いで俺の肩を揺する。
「生きてる!?」
「……死んでる」
死んだ。酔いと心が死んだ。だって全部その通りだった。合間合間の言葉使いが最悪だっただけで、zh@の言う通り。ヤカモレさんが耐えきれずに横で爆笑したから更に確信した。的を得たことを言ってるのだ。
「えっ、ずっとそれ溜め込んでた?」
「まだある」
「まだあんの!?」
手酌でかぱかぱ日本酒を空けながらzh@は俺の悪口を続けた。耐えきれなくて「もう終わり!」とzh@の日本酒を奪った。目の前を掠めていった俺の手を追いかけてようやくzh@と目が合う。この男はろくに俺と目も合わせずに口だけ動かして批評と飲酒を繰り返していた。正直かなりムカついている。
「もう終わりだ」
酒を奪うために立ったままzh@を見下ろしてもう一度低く言うと、空気を読んだヤカモレさんも黙った。だが、zh@は頬杖をついて薄く笑って俺を見上げる。
「……お前、俺とやってると上手くなれるぜ」
くやしいけど俺もそう思った。
「でも全部デバフなんだよな~」
配信前に練習フィールドでヤカモレさんとだらだら雑談しながら呟いた。ヤカモレさんはカップ麺をすする音をたてながら「んえ? 何が?」と聞き返してきた。
「ぜっとさんの説教。俺のやる気が下がるという効果がある」
「あはは、でもマキちゃん上手くなってるよ」
「え~? ほんと~?」
ヤカモレさんのフォローにすぐ調子に乗る。
確かに俺も自分で上手くなってると感じる瞬間はある。でもzh@が俺を貶す内容も頻度もそう変わらないから、進歩が無いように思えてしまう。実際この間「進歩0だぞ」って言われたし。
「いやマジで。今期ガチでランク回す?」
「えっ」
「ダイヤ……はいけそうだから、マスターかな」
「え、まじ?」
ヤカモレさんの提案にちょっとビビる。
ランク、ランクマッチは俺たちがやってるFPSゲームの対人モードの1つだ。実力毎にランクを分けられ、同ランク帯と優先的にマッチするからこのモードでは実力が拮抗した試合が出来る。そしてどのランクに所属しているかで自分の実力を簡単に表すことが出来るから、上位ランクを目指すことがこのゲームの達成目標ややりこみ要素の一つになっていた。シーズン毎にリセットされるから、毎回毎回目標が出来る。
zh@に散々説教されている俺がいつも居るランクはプラチナ。中級者レベルだ。この上にダイヤ、マスターと並ぶ。マスターランクは全プレイヤー上位5%の難関だ。元プロゲーマーや一日中ゲームやってるストリーマーは、マスターランクに居る人が多い。多いけども。
「え~!? いける~!?」
「いけるいける! マキちゃん元々撃ち合いは強いし!」
「確かに! それで怒られることも多いんだけど!」
俺はすぐ一人で敵陣突っ込んで殲滅させようとするから、基礎対面力には結構自信がある。相手が二人とかでもわりと勝てる。でもその後に漁夫にやられたりするから立ち回りが下手でzh@に怒られる。しかもこれもプラチナランクだからで、一番実力差が激しいと言われているダイヤ帯に上ったら、撃ち合いすら出来なくなるかもしれない。
俺を励ますヤカモレさんはいつもするするっとダイヤ帯に上って行ってる。zh@もシーズン終盤はダイヤに居る。ダイヤに上るまでにも結構な試合数をこなさなきゃいけなくて真っ当な社会人だと無理だと思うんだが、zh@の場合はまじで土日はずっとゲームしてるから何とかダイヤ帯に居るって感じだ。あんなシュッとした経歴と見た目してて、意外とガチゲーマーなんだよなあ。仕事も出来て、ゲームも出来て、俺に勝ち目なくない?
……マスターになればzh@に勝てる?
邪な考えが浮かんで、ヤカモレさんの無茶振りに乗る。
「俺、ランク回すならヤカモレさんとは一緒がいい」
「そりゃ、俺もそのつもりだけど。……えっ、ぜっとさんは?」
「無理じゃない?」
zh@は仕事が繁忙期に入ると通常の配信すら来ない。チャットアプリにもログインしてないから、多分家のパソコンの電源すら入れていない。ランクマッチでマスターを目指すとなると、圧倒的にプレイ時間が足りないだろう。
「ぜっとさん、マスター上がれないのに付き合わせるの悪いじゃん」
「そういうこと気にする人かなあ」
「あと俺が普通に嫌だ」
「えっ」
「結構ガチでやらなきゃいけないのに、怒られて気分萎えると困る」
zh@が居た方が勝率は上がるだろう。固定パーティで役割分担出来るし、何より上手い。でもそもそものゲームに対する俺のやる気が無くなったらどうする。馬鹿で下手くそでプライド高くて悪いけど、エリート様に毎日毎日怒られると多分俺キレる。口じゃ絶対勝てないし、ゲームでも勝てないし。
そう俺がzh@不要論を語るとヤカモレさんは「う~~~~~~ん」と長考した後に「分かった」と返事を絞り出した。
zh@は俺やヤカモレさんから誘わない限り、俺たちの配信に入って来ない。zh@には何も告げずに配信でマスターを目指すことを宣言し、ランクマを始めた。たまに「今日ぜっとさん居るみたいよ」ってヤカモレさんがチャットでログインを教えてくれたりするけど、配信には呼ばなかった。突然仲間はずれにしてゲームしても、zh@からは特に何の連絡も来なかった。
……でも俺がzh@のおかげでゲームが上手くなったのは本当のようだ。ダイヤ帯にはヤカモレさんと二人ですぐ上った。
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