華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~

はぎわら歓

文字の大きさ
7 / 127

7 立太子

しおりを挟む
 王である曹孔景は、長子である隆明を太子に立てることを決め、その儀式を執り行う日を定めるべく陳賢路を呼びつける。陳賢路はすでに吉日を用意して王に謁見する。王に三回拝礼すると「面を上げよ」と声がかかった。

「どうだ。よい日は」
「大王、こちらをご覧ください」

 恭しく書状を差し出すと、側仕えの文官が受け取り、孔景に献上した。孔景は巻かれた紙をさっと広げ右から左へ目を通す。

「実はこの日は王后の誕生日なのだ」

 どうにかならないものかと、孔景は目で陳賢路に合図をおくる。現在の王后は気が強く、長子の隆明の立太子に反対することはもちろんないが、自分がないがしろにされたと思えば、機嫌は悪くなるだろう。孔景は先祖代々の教えを受け継ぎ、安定した治世を行っている。王后の機嫌や気分などで、朝廷が不安定になることは避けねばならない。
実際にどんなに良い治世であっても、王の死後、王后とその親戚などによって王朝が傾くことが多々ある。現在のこの王朝はその歴史から学び、後宮における王の妃は多くても5名までである。それ以上の数を置いても、維持費や後継ぎ、寵愛の有無など、問題が増えるばかりになる。先の王后が亡くなったので、年功序列で今の王后が繰り上がったのだ。
 
 袖の中から別の書状をとりだし「では、こちらを」と陳賢路は差し出す。このようなこともあろうかと、吉日は複数選んであった。

「好い! この日に儀式を行う」
「ははぁ」

 孔景は満足し、ほっとした表情を見せていた。

「では、下がってよい。次の手筈も頼むぞ」
「御意にございます」

 陳賢路は丁重に拝礼をして朝廷を後にした。石の階段を、足を踏み外さないようにゆっくり降りていると、太子となる王子の隆明が目に入る。立派な青年となり、王はもとより臣下からの太子への呼び声は高かった。

 「博行さまも立派ではあるが、隆明さましかおるまい」

 博行も隆明に劣らず、文武両道で美丈夫であるが、身弱であった。剣の腕に優れているが、長く鍛錬すると微熱を伴い床に臥すことも多かった。最近は、医局のホープ、慶明が献上している、強心剤のおかげで安定した健康を保っている。
 先の王后と、現在の王后は2つしか年は離れておらず、王子たちも同じ年の差だった。このわずか2年の差に、現王后が歯がゆい思いをしているのは誰の目でも明らかだった。しかし占術の結果でも、隆明が太子となり、王となることは王朝の安定に必須だった。隆明の星は王の星であり、人を統べる星なのだ。その王の星を持つ王子を生むべく選ばれたのが、もちろん先の王后だ。残念なのは、彼女が早世してしまったことだ。
 陳賢路はより白くなった長いひげを撫で、青い空を見上げ夜空の星を思い起こす。

「昼間は星が見えん。見えないものがあるのは仕方がない」

 常々占術によって最善の選択をしてきた王朝だが、やはり予想外のことも起きてしまう。人々や物事が、宿命によって決まった末路をたどることはないが、星読みの陳賢路にとってのジレンマでもあった。また老いてきた自分の残された時間も気になっている。医局には慶明のような次世代を担う人物がいるが、太極府ではとびぬけたものが出ていない。的中率の高さでは、晶鈴が群を抜いているが彼女は短期間のことしか観れない卜術使いだ。できれば長期間観ることができる、星読みを後継者にしたかった。

「これも天意だろうか」

 10年に一度は出ていた突出した存在が今は現れぬ。今夜も夜空を見ながら、星の瞬きに尋ねるしかないと陳賢路は太極府へと向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...