華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~

はぎわら歓

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29 町と家と

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 久しぶりの町は相変わらず雑多で賑やかで埃っぽかった。3人の占い師たちに会いに行くと、晶鈴の元気な様子にみんな安堵し、また仲間として歓迎させる。しばらく赤ん坊の様子やら雑談をしてから、晶鈴は自分の商売の場所へと向かった。
 ロバの明々は晶鈴のとなりで大人しく草を食んでいる。椅子に腰かけ、ぼんやりと行きかう人たちを眺める。目の前を様々な人種、色、香りがうつろっていく感じが好ましかった。久しぶりに一人になったと気が緩みかけた時「おや。久しぶりだな。ちょっと観てもらおうか」とふっくっらした中年の男が腰掛けた。

「お久しぶりね。今日は何を?」
「あんたの言う通り、麦の収穫が良かったもんだから貯えが増えたよ。そうだなあ。今特にこれってのはないが……」
「無いならいいじゃない」
「そうだが。ついついなあ」

 男は愛想よく照れ笑いをする。気取らず、率直で媚のない晶鈴は商売っ気のなさが逆に好感度を上げているようで、こうして悩みがなくても何か占ってもらおうとする者がいる。座っただけで、料金が発生する占い師もいるなかで、このように占わない晶鈴は珍しい存在だった。

「せっかくだし、健康でもみておくれ」
「わかったわ」

 こうして、3人ほど鑑定して、昼になったので町の食堂で食べて帰ることにした。

 食堂に訪れるのも久しぶりで、子供のことを気にせず食事をするのはどれくらいぶりだろうと人心地着く。この店の名物の平たく長い辛味噌味の麺を啜る。ふと気づくと器は白い陶器で青い小花模様が描かれている。

「あら、彰浩の器なのね」

 食堂なのに、家にいるような不思議な感覚もあった。改めてこの町に来てから、色々な出会いがあったなあと感慨深いものがある。占い師仲間に、生活を共にする仲間。

「いつまでもこのまま過ごせるといいわねえ」

 そうだと思いつき、みんなへのお土産にふかし饅頭を持って帰ることにした。

 ロバの明々が引っ張る荷台に横たわっていたが、揺れが止まったので晶鈴は身体を起こした。

「ありがとう。もう着いたのね」

 道を覚えている明々は「ホヒィ」と誇らしげに啼いた。形ばかりの木の柵のような門を開き、庭を通って馬小屋に明々をつなぐ。草をたらふく食べたようで、水を少し飲むと足を折って座りくつろぎ始めた。

「ごめんね。遅くなって」

 家の扉を開けると、ちょうど子供たちが寝付くところだったようで、京湖が「しっ」と人差し指を唇に当ててみせた。息をのんでそっと中に入り、2つの籠を交互に覗く。赤い頬の丸々とした子供たちが穏やかに寝息を立てている。
 晶鈴は隣の部屋に行こうと、京湖に指で指示した。食卓に饅頭を置くと、京湖が水を持ってくる。

「お土産。食べて」
「おいしそうね。疲れた?」
「お客はいたけどこっちは全然疲れてないわ。京湖こそ二人も面倒を見て疲れたでしょう」
「二人とも大人しいから平気。星羅にも私の乳を飲ませてやれるようになったから良かったわ」
「じゃあいっぱい食べて」

 ふっくらしてきた京湖は嬉しそうに饅頭を頬張った。水を飲みながらふっと思わず晶鈴がため息をつくと「やっぱり疲れたんじゃないの?」と京湖は心配そうな顔をした。

「そうじゃないの。なんだか暑いのよねえ」
「ああ、そうなのね」

 この地方で迎える初めての夏は、晶鈴にとって初めての暑さだった。都も、出身の北西の村も雪こそ降らないが、夏でも涼しい日が多く乾いていた。この町の初夏は蒸して暑い。

「私の着物を貸すわ。その着物は確かに暑苦しいでしょう」
「ああ、そういわれてみればそうねえ」

 冬の間には大して気にならなかった服装の違いに改めて気づく。晶鈴は、都の太極府で支給された、厚手の濃紺の絹織物の着物を着こんでいる。保温保湿には優れているが、風通しは悪く汗をかくとじっとり不快な気がした。
 京湖は織り目が粗く、風通しが良い着物を着ている。寒いときは枚数を重ねてきているようだが、風通しの良さと軽くざっくりとした生地は蒸し暑い夏に適しているようだ。

「服装は民族の個性というか、地方の気候にあっているものなのね」
「そのようね。都にいくとそんな着物が合うのね」

 ファッションではなく便利性なのだと二人で再認識しながら頷いて笑いあった。京湖は寝室の衣装籠から、数点着物を持ってきた。

「遠慮しないで着たらいいわ」
「ええ、でも」
「着物を今から仕立てるのも時間がかかるから」
「そう、じゃあ、借りようかな」
「ちょっと着てみたら?」

 勧められ、晶鈴は寝室で着替えて戻ってきた。ふわっとした生地の着物は薄い青色で、重厚な印象から軽やかな印象に変える。袖は晶鈴のものよりも長くひらひらと風に舞う軽さを持っている。丈もひざ下あたりまでしかないので、やはり薄手のひらひらしたズボンをはく。歩くと足の運びがするするといい。

「どうかしら? ちょっと透けてない?」
「透けてないわ。よく似合ってる」
「そう?」
「そうだ。これもよかったら」

 京湖はまた奥から持ってきた玉の腕輪を、晶鈴にはめる。

「まあ、素敵な玉ねえ」

 真っ白い玉は、濁ったところも、傷もない完璧な円形だった。

「これはちょっと高価すぎないかしら? 壊したら大変」
「いいのいいの。よく採れる玉なの。あなたに持っていてもらいたいの」

 どうやら感謝のしるしとして、玉を贈りたいようだった。元々、素直に受け取る晶鈴は彼女の厚意と一緒に受け取ることにした。

「ありがとう。これで過ごしやすくなるわ」

 しばらく自分の着物は着ることがないだろうと、綺麗に洗濯をして仕舞うことにした。新しい民族に生まれ変わったような気持ちで晶鈴は占いの仕事に取り掛かるのだった。
 
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