銀木犀の香る寝屋であなたと

はぎわら歓

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 次の日、キヨはまた珠子の帰宅を待ち、届いていた手紙を渡した。

宛名は『藤井 珠子様』となっており、差出人は『藤井 道弘』となっている。

珠子は糸切狭で端を切り取り便箋を出して読み始めた。

二枚の便箋を読み終えて珠子は一息つく。



「珠子さん。なんて書いているんですか?」

「道弘様が一人でお寂しいらしく吉弘を引き取りたいらしいの。来週日曜日の午後に道弘様のお使いの者が話しに来るそうよ」

「吉弘を……」

「お車がとても立派だと言っていたわよね……」

「ええ。わたしも見かけましたがとてもご立派な新しいものでした……」



 吉弘の将来を考えると、ここで育てるよりも藤井道弘のもとで養育された方がよいかもしれない。

キヨには話さなかったが手紙の内容には吉弘と珠子のみを引き取りたいと書いてある。

キヨを放っては置けない。

しかし彼女は妾であって藤井家とは法的には何も関係ない人間なのだ。

珠子は頭を抱えた。



 キヨはなんとなく察して言葉を発する。

「珠子さん。どんなことになってもわたしは決して反対することはありません。どんな決断でも従います。だから珠子さんの一番いいと思う選択をなさってください」

「キヨさん……」

真剣なキヨの強い眼差しを珠子はまぶしく感じる。



「実は……道弘様は吉弘さんと私だけを引き取りたいとおっしゃってるの……」

「そうですか。珠子さん。わたしは大丈夫です。どうぞ二人で藤井家に」

「いいえいいえ。あなたを置いてはいけません」

「ここまで生きてこれたのは珠子さんのおかげです。どうか構わず行ってください」

「ダメよっ!嫌だわ……」

思わず大きな声を出してしまい、珠子はハッとする。

そこへスッと襖があき吉弘が起き出してきた。



「どうしたの?」

「あ、ご、ごめんなさい。吉弘さん。なんでもないのよ」

「寝なさい」

「僕たちどこかへ行くの?」

「……」

「話した方がいいわね……」

 吉弘を無視して大人二人で決められるほど単純な内容ではなかった。

ともすれば母と子が離れ離れになるのだ。
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