銀木犀の香る寝屋であなたと

はぎわら歓

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「私、待ってます。そして兄さまのお話を聞かせて。いいでしょう?」

「……。一人でいる気なのか……」

「いけませんか?私は……藤井家に嫁いでもずっと兄さまのことを想ってきました。他の人と……」

 言いかけて珠子はぎゅっと口をつぐんだが、意を決して告げる。



「私は、私は……清くないですが……兄さまのことを、想うのはいけないでしょうか?汚れている妹の顔など見たくないのでしょうか……」

「珠子っ。もう……言うな。お前は汚れてなんぞいない」

「兄さま……」

 一樹は珠子の細い肩を抱きしめる。

珠子は一樹の逞しい胸に顔をうずめ、温もりを感じる。



「お前がずっと好きだった。幸せになってほしいと心から願ってきた」

「ああ、珠子は、珠子は今が一番幸せです。ずっとこうしたかった。いつも愛する人を愛してると言い、想っていたいのです」

「だめだ。僕には、使命がある。そばには居てやれない。兄として……幸せを祈っている」

「いいえ、いいえ。もう、妹ではありません。私は珠子ではありせん。『キヨ』なのです」

 珠子は一樹にしがみつく。

一樹は抱きしめたい衝動に抗ったこぶしを緩めた。



「キヨか……」

「ええ。もう兄妹ではありません……。お願いです、兄さま。お情けをくださいませんか……」

「珠子……。では、もう兄と呼ぶな……」

「か、一樹さん」



 一樹は両手で珠子の頬を挟み、じっと見つめ吸い込まれるように口づけを交わす。

「ああ……」

 珠子はうっとりとし、頭の芯がしびれてくるのを感じる。



 一樹は珠子のワンピースを脱がし全裸にし、自分のコートを草の上に敷き、寝かせた。

「綺麗だ。見せてくれ。全部」

 白くて滑らかな肌が黒いコートの上で輝いて見える。



「ああ。にい、さ、一樹さんも全部見せてください」

一樹もすべて脱ぎ去り、逞しい浅黒い肌を珠子に見せた。

所々に刀傷や銃創が付いている。

 珠子は傷の一つ一つに動物が傷をいやすように指と唇を這わせた。

「こんなに……傷が……」

 戦争の傷跡は身体にも心にもまだまだ残されている。



「いつか傷つけあうことがない世界が来るだろうか」

 遠い世界を見るように一樹はつぶやく。

彼の中ではまだ戦争は終わっていない。

明日からまた戦うために旅立つのだ。

 珠子は静かに一樹を見つめる。

一樹の全てを見ていたかった。
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