異端の末裔

はぎわら歓

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 前世紀の金貨を骨董屋に売り渡し、その資金で家を借りた。古い石造りのアパートは角部屋でひんやりとしている。この部屋だけ窓が小さいので安く借りることが出来た。口には出さなかったが、日の光があまり得意ではないので採光が少ないことをアンドレイは気に入っている。荷物は衣服と文房具、多少の骨とう品くらいだった。部屋を出て町を散策してみる。以前の町よりは少し都会で街灯も多く、行き交う馬車も多い。大通りも裏通りも石畳で舗装されむき出しの地面がほぼなかった。風が強い地域のようだが砂ぼこりに悩まされることはなさそうだ。

 裏通りを歩いてみると町の治安がよくわかる。ごろつきもあまりうろついておらず、汚物や汚臭にまみれていることもない。警察官もちらちら歩いている。

「味気ないが住みやすそうだ」

 前の田舎と違って他人に関心が薄そうなこの町は、少し長めに暮らせるかもしれない。町を散策しながらアンドレイは食料品を調達する店を見つけた。入ってみると食料以外にも酒もあり、生活用品などもある便利な店だった。パンとワインと新鮮な肉を購入して、薄暗い路地に入る。人が一人通れるくらいの細い道を向こう側から誰かが駆けてきた。

「きゃっ」
「おっと」

 アンドレイにぶつかってあげた顔には見覚えがあった。

「エレーナ?」
「あ、あなたは!」
「どうかしたのか?」

 エレーナは後ろを振り返り青ざめた顔を見せている。通りのほうで「どこに行きやがった!」と男の声が聞こえる。

「あ、ああ……」

 追われていることが分かったアンドレイは「静かに。大丈夫だから声をあげないように」と男がこの路地を覗き込む瞬間にエレーナの片足をぐっと持ち上げ、身体を密着させる。

「っ!」

 息をのんでるエレーナにアンドレイは笑む。ちらっと覗き込んだ男が「なんだ、お楽しみか」と唾を吐きバタバタと走り去った。

「もう、行ったよ」

 すっと足を降ろしたアンドレイにエレーナは安堵した顔を見せた。

「じゃ」

 下に置いた食料を持ち何事もなかったかのようにアンドレイは立ち去ろうとした。

「待って、お願いです。少しの時間でいいので、匿ってもらえないですか?」
「一度しか会ったことのない男を信用できるのか?」
「それは、その。二回も助けてくれたし、あなたは他の男となんだかとても違う気がします」
「他の男とか」

 他の人間ではなくて?と言いかけて「いいだろう。ついておいで」と、エレーナを人目がつかないようにアパートに連れ帰ることにした。
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