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7 接近
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アンドレイのアパートがすぐ見えるところにエレーナは宿をとる。初日は彼の行動を見張るためにずっと窓に張り付いていた。
「ちっとも出てこないわ」
パンをかじりながらエレーナは半日近く見張ったが彼はなかなか出てこない。
「まさか……。居ないってことないわよね」
心配になりつつもアパートを見張り続ける。何人か入れ代わり立ち代わり出入りがあったがアンドレイは出てこない。日が暮れ始めた時にようやく彼はアパートから出てきた。
「やっとだわ」
すぐにコートを羽織り後をつけることにした。石畳を静かに滑るように歩く彼に、足音を立てないで付いて行く。入り組んでいない整然とされたこの町では彼を見失うことはなかった。大通りに入ると人も多いので一定の距離を保って付いて行けば見つかることはなかった。見つかってもただ挨拶をすればよいのだ。
彼は骨とう品店に入っていった。大きなガラス張りの店は外からでもアンドレイの様子がよくわかる。彼は家具や絵画、彫刻などには目を向けず、アクセサリーを見ているようだった。ガラスケースの中に気にあるものがあったようで、店主を呼びつけている。少し話し合った後、アンドレイは商品を購入したようで店主が笑顔を見せ見送った。そのあと食料品店によってまたアパートに帰っていった。
「明日もこんな調子なのかしら?」
勤めに外に出るわけではないのでアンドレイの外出は食料品の調達くらいかもしれない。物静かな雰囲気から彼が賑やかなこの町で外食に出るイメージがわかなかった。エレーナはほかの男のように遊び歩いたりはしないだろうと思っている。
「となると、どうやって接近すればいいのかしら?」
偶然を装い食料品店で声を掛けて、この町で療養しているのだと自分からきっかけを作るしかない。
「住まいを知っているからって尋ねるわけにはいかないわ」
エレーナはアンドレイがアパートに入っていったところを見届けてから、彼が入った食料品店に行った。ドアを開けようとすると鍵がかかっていた。目の前のガラス戸には内側からクローズドのプレートがかかっていた。
「あら、15分前に閉店なのね」
アンドレイが店に入ったのは閉店間際だったようだ。収穫があったような、なかったような日でエレーナは逆に疲労を感じて休むことにした。
次の日、エレーナは先に食料品店で買い物をしながらアンドレイを待った。一回の買い物量が少ない彼はきっと毎日食料の調達をするはずだ。さほど広くない店内でエレーナは物色する振りをしながら歩き回る。カランとドアの空いたベルの音が鳴ったので振り返ると、予想通りアンドレイが入ってきた。
彼は買うものが決まっているようで、迷いなくワインを選び、パンを買って店員に肉はあるかと尋ねた。エレーナは慌ててレジに向かった。手にしていた缶詰を出しながら「あら、こんばんは」と自然に声を掛ける。
「おや、君は。まだこの町にいたのか」
「ええ、ちょっと体調を壊してしまって」
話していると店員が咳払いをして代金を告げる。
「あっ。ごめんなさい。やっぱりいいわ」
エレーナは缶詰を購入するのをやめた。思わず持っていた缶詰はキャビアの缶詰で高額だった。エレーナはそこまで持ち合わせがなかった。恥ずかしいと思いエレーナはすっと店を出て、外でアンドレイを待つ。アンドレイもすぐに支払いを終えて出てきた。
「ほら」
紙袋からアンドレイは小さなキャビアの缶詰をとりだし渡す。
「あ、あの、そんなつもりじゃないの。懐かしくてつい……」
「北国の食べ物が懐かしいのかい? まあ缶詰だとそれほどでもないと思うが」
「その、お花をありがとう」
「こちらこそ。素晴らしい舞台だったよ」
エレーナは嬉しくて思わずくるりと回る。
「缶詰のお礼がしたいんだけど、あの、今は何も持ってないわ」
「いいんだ」
立ち去ろうとするアンドレイをどうやって引き留めようかとエレーナは画策するが、いい考えが浮かばない。
「ねえ、一緒に食べない? キャビア」
「いや、そんなに好物でもないし」
「そう……」
「体調を崩してるそうだがどんな様子なんだ?」
「大したことないの。ちょっと疲労がたまってて貧血気味だからしばらく休んでいいって。ある意味休暇をもらったのと同じなの」
「なるほど」
「でも暇だわ」
「確か明日から三日間、広場で蚤の市が開かれるようだよ。見に行くといい」
「アンドレイも行くの?」
「古美術を扱っているから一応ね」
「あの、一緒に行ってもいいかしら? いいものかどうかなんて分からないし。商談の邪魔なんかしないから」
「はははっ。商談なんておおげさなものじゃない。まあいいよ」
二人は広場の噴水の前で待ち合わせをすることにした。
「じゃ早朝に」
「ええ、また明日」
エレーナは自分の宿を知られないように別の方向に歩き出した。今度は早起きをしないといけないと思い宿に帰ったらすぐにベッドに横たわることにした。
「ちっとも出てこないわ」
パンをかじりながらエレーナは半日近く見張ったが彼はなかなか出てこない。
「まさか……。居ないってことないわよね」
心配になりつつもアパートを見張り続ける。何人か入れ代わり立ち代わり出入りがあったがアンドレイは出てこない。日が暮れ始めた時にようやく彼はアパートから出てきた。
「やっとだわ」
すぐにコートを羽織り後をつけることにした。石畳を静かに滑るように歩く彼に、足音を立てないで付いて行く。入り組んでいない整然とされたこの町では彼を見失うことはなかった。大通りに入ると人も多いので一定の距離を保って付いて行けば見つかることはなかった。見つかってもただ挨拶をすればよいのだ。
彼は骨とう品店に入っていった。大きなガラス張りの店は外からでもアンドレイの様子がよくわかる。彼は家具や絵画、彫刻などには目を向けず、アクセサリーを見ているようだった。ガラスケースの中に気にあるものがあったようで、店主を呼びつけている。少し話し合った後、アンドレイは商品を購入したようで店主が笑顔を見せ見送った。そのあと食料品店によってまたアパートに帰っていった。
「明日もこんな調子なのかしら?」
勤めに外に出るわけではないのでアンドレイの外出は食料品の調達くらいかもしれない。物静かな雰囲気から彼が賑やかなこの町で外食に出るイメージがわかなかった。エレーナはほかの男のように遊び歩いたりはしないだろうと思っている。
「となると、どうやって接近すればいいのかしら?」
偶然を装い食料品店で声を掛けて、この町で療養しているのだと自分からきっかけを作るしかない。
「住まいを知っているからって尋ねるわけにはいかないわ」
エレーナはアンドレイがアパートに入っていったところを見届けてから、彼が入った食料品店に行った。ドアを開けようとすると鍵がかかっていた。目の前のガラス戸には内側からクローズドのプレートがかかっていた。
「あら、15分前に閉店なのね」
アンドレイが店に入ったのは閉店間際だったようだ。収穫があったような、なかったような日でエレーナは逆に疲労を感じて休むことにした。
次の日、エレーナは先に食料品店で買い物をしながらアンドレイを待った。一回の買い物量が少ない彼はきっと毎日食料の調達をするはずだ。さほど広くない店内でエレーナは物色する振りをしながら歩き回る。カランとドアの空いたベルの音が鳴ったので振り返ると、予想通りアンドレイが入ってきた。
彼は買うものが決まっているようで、迷いなくワインを選び、パンを買って店員に肉はあるかと尋ねた。エレーナは慌ててレジに向かった。手にしていた缶詰を出しながら「あら、こんばんは」と自然に声を掛ける。
「おや、君は。まだこの町にいたのか」
「ええ、ちょっと体調を壊してしまって」
話していると店員が咳払いをして代金を告げる。
「あっ。ごめんなさい。やっぱりいいわ」
エレーナは缶詰を購入するのをやめた。思わず持っていた缶詰はキャビアの缶詰で高額だった。エレーナはそこまで持ち合わせがなかった。恥ずかしいと思いエレーナはすっと店を出て、外でアンドレイを待つ。アンドレイもすぐに支払いを終えて出てきた。
「ほら」
紙袋からアンドレイは小さなキャビアの缶詰をとりだし渡す。
「あ、あの、そんなつもりじゃないの。懐かしくてつい……」
「北国の食べ物が懐かしいのかい? まあ缶詰だとそれほどでもないと思うが」
「その、お花をありがとう」
「こちらこそ。素晴らしい舞台だったよ」
エレーナは嬉しくて思わずくるりと回る。
「缶詰のお礼がしたいんだけど、あの、今は何も持ってないわ」
「いいんだ」
立ち去ろうとするアンドレイをどうやって引き留めようかとエレーナは画策するが、いい考えが浮かばない。
「ねえ、一緒に食べない? キャビア」
「いや、そんなに好物でもないし」
「そう……」
「体調を崩してるそうだがどんな様子なんだ?」
「大したことないの。ちょっと疲労がたまってて貧血気味だからしばらく休んでいいって。ある意味休暇をもらったのと同じなの」
「なるほど」
「でも暇だわ」
「確か明日から三日間、広場で蚤の市が開かれるようだよ。見に行くといい」
「アンドレイも行くの?」
「古美術を扱っているから一応ね」
「あの、一緒に行ってもいいかしら? いいものかどうかなんて分からないし。商談の邪魔なんかしないから」
「はははっ。商談なんておおげさなものじゃない。まあいいよ」
二人は広場の噴水の前で待ち合わせをすることにした。
「じゃ早朝に」
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