異端の末裔

はぎわら歓

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13 越境

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 馬を買い、国境に向かうと西国の兵士が銃を構えて立っている。アンドレイは馬を降りて手をあげながら兵士に近づいた。モスグリーンの軍服を着た若い兵士は緊張感も特になく、近づくアンドレイに警戒する様子もなかった。

「北国には入れないか?」
「いや、こっちからは入れるよ。もう内部の暴動は治まっているしね。一応、北国からこっちへ来る人間を警戒してるだけさ」
「一体何があったんだ?」
「北で新皇帝が立ったのは知ってるかい?」 
「ああ、去年だったと思うが」
「いい皇帝になると思われてたみたいだが、ひどい暴君だったらしい。重税と重労働で先日、市民がとうとう暴動を起こしたってわけさ」
「なるほど」
「だけど市民の暴動なんてすぐ鎮圧されたのさ」

 誰もが新しいいい時代になると思っただろうに変わらなかったようだ。悪くはなっていないが、もう心の限界もあったのだろう。

「北に行っても何にもないぜ? あんな貧しい国によく住めるよな。まあそこで生れたんじゃしょうがないか」

 若い兵士たちは西国に生まれてよかったとしみじみ語りあっている。国境には大陸の端から端まで
、ところどころ低かったり崩れているが長城が張り巡らされている。この長城ができてから長らく国境に変化がない。たくさんの石とレンガと土で築かれた長城をアンドレはそっと撫でてみる。アンドレイが以前、北に居たころにはまだ築かれていなかった。

「たくさんの血を吸っているのだろうな」

 容易に築かれたものではない長城に哀愁を感じる。狭く暗い長い通路を抜けると鉛色の北国が目に入った。国境を守っている北国側の兵士は老兵でアンドレイをちらっと見たが何も言わずに通してくれた。他所から入るのは容易いが、この北から亡命する人物に関しては容赦はない。北国民は色素が薄く、白い肌に薄い青い目、金や銀の細い髪を持つ。混血があまりいないせいで容姿が北の人間だとすぐにわかる。

 国土は広いが貧しいため人口密度は低く、小さな家がまばらに建っている。寒冷地域のためか壁は厚く、部屋は小さい。アンドレイはこの薄暗く冷え冷えとしたこの国が嫌いではなかったが、血となる食物が少なすぎるので長く暮らすと目を引いてしまう。景気も悪いので美術品の売買が不向きだ。そのため北国で暮らしたのは一度きりで、あとは東と西を主に行ったり来たりしている。

 うつむきやつれた老女に声を掛ける。エレーナの町の名を言うと少し目線をあげ、顎であっちの方向だと示した。礼を言うと老女はボロのショールを頭からかけ直しノロノロと歩いて行った。

 とりあえず両替屋で西国の金を北国の金に換える。金貨一枚が結構な札束になってしまった。

「景気はどうなってる?」

 顔色の悪い両替商の男は顔を左右に振ってため息交じりに答える。

「生きてきた中で最悪だね。金があっても買うものがない。兄さん、何しに来たのか知らんがこの国はもうだめだよ」

 かける言葉もなく、礼を言って店を出た。土地に縛り付けられた国民はみんなうつむいて、精気なく過ごしているようだった。連れていた馬に飼い葉を与え水を飲ませてから出発する。アンドレイ自身は何も口にしなくても一ヵ月くらい平気だった。それ以上に何も摂取しなかったとしても眠りにつくだけだ。

「君の食べるものと飲み物はあるようだ」

 馬の首をなでると馬はブルルと喜んだ。あまりいい状態を期待することはできないだろうとアンドレイはエレーナがいるだろう町に向かった。
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