スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

41 ネットゲーム2

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 次の週も直樹はネットゲームにログインした。
ここ何年かは習慣と惰性のようなログインだったが、緋紗がいると思うと億劫さがなくなる。
 先週の戦闘もなかなか楽しかった。
ゲーム内であんなに多くの人がいるのに、現実の知り合いは誰もプレイしていないことが当たり前だったので、緋紗の存在は新鮮だ。――盗賊か。

 『スカーレット』の機敏な動きや接近戦に対する能動的な態度はリアルの緋紗そのもので、キャラクターの華奢なスタイルも彼女にマッチしていた。
ゲームのキャラクターを作るときは自分にそっくりになるか、全く逆になるパターンが多いが緋紗は前者らしい。
 今となっては直樹自身、獣人の『ミスト』が自分が投影された分身として馴染んでいるが、当時は会社勤めに嫌気がさしストレスも感じていたので、本来の自分ではないキャラクターを選択したように思う。

  戦争ゾーンは広く、会えるとは限らないし参加してないかもしれない。
 前回は三回目のログインでやっと会えたのだった。――友録したから大丈夫か。
  ペンションから別れて緋紗を常に気にはしていたが、なんとなく電話を掛ける気にはならずそのままにしてしまっていた。
 直樹も緋紗同様、音声と言葉の羅列には意味をなさないような気がしていたからだ。

  ローディング画面が流れ、やがて『ミスト』が登場する。

ミスト:hi
 ☆乙女☆:はーい
月姫:こん♪
1598:おっす
taka:こん
rose@@:こんこん
∀:(・∀・)ノ
 大手ギルドなので人数は結構多い。
もうすでに戦争は始まっていてほとんど参加して戦っているようだ。
ミストも少し遅れたが月姫パーティに入って戦闘に参加した。

 月姫:今日も勝ち戦っぽいね
 ミスト:もう決まりそう?
☆乙女☆:ミストさんくるの遅いよ~
ミスト:ごめんごめん
1598:侵略いく?
∀:もちろんいくっしょ
 ミスト:俺パス
月姫:えー
 ミスト:ちょいすることある。
 月姫:イン率上がったと思ったらこれだw
ミスト:スマソw
☆乙女☆:あそこヒューマンの群れ居るよ。突っ込むか
1598:kk
ミスト:おこk
  敵種族のパーティが二つほど群れている。
こっちのパーティと二倍ほど数が違うが戦力に差はあまりなかった。
ミストの所属するギルド『アンダーフロンティア』は、ほぼ社会人と大学生で構成されていた。
 時間を費やせる学生と課金が容易な社会人ギルドは今や最大手になっている。
ミストが所属してから今までで半分くらいの人間が入れ代わり立ち代わりしたが、月姫や☆乙女☆は所属当初からの付き合いで最古参だ。

 月姫:猫衆とパイレーツか
☆乙女☆:パイレーツのヒーラーから落とそうか
 ミスト:kk
 1598:k
  (猫衆か)スカーレットは見当たらない。(今日はいないのか)
  ☆乙女☆のスキルを合図に戦闘が開始された。
 五対八の戦闘だ。
それぞれのギルドのヒーラーを落としたのであとは全滅まで時間の問題だった。
 1598:みすった
 それでも1598がパイレーツの魔法剣士に落とされる。
☆乙女☆:@三人
 月姫:大河痛いから落として
 ミスト:k
  (前回も痛かったな)聖戦士の大河に戦いを挑む。
 職業的にタイマンのようだが相手にはヒーラーがおらず回復薬で粘っていたがやがて力尽きた。
  (こっちもずいぶん削られたな)
あらかた戦闘が終わりぼんやりした瞬間、目の前に赤い光のエフェクトのダガーがXYZの文字を刻んだ。
そしてミストの残り半分のヒットポイントゲージが一瞬で0になった。

 月姫:ちょww
☆乙女☆:まじw
ミスト:油断したw
  潜んでいたスカーレットの一撃だ。
しかもミストを倒すと同時にすぐにホームされて追撃できなかった。
 月姫:やられたなあw
☆乙女☆:こっち盗賊いなかったからなw
  ちょうど戦争終了だ。
ミスト:じゃおつでした
月姫:おつー
☆乙女☆:またね
1598:おつです。
 taka:ノ

 ミストは港町にきてスカーレットにメッセージを送った。
ミスト:いる?
スカーレット:前と同じとこにいます
 前回と同じ場所にスカーレットは座っていた。パーティを組んでチャットをする。
ミスト:こん
 スカーレット:こんです
 ミスト:さっきは痛かったよw
スカーレット:先週のリベンジですw
ミスト:あの技かっこいいよね
 スカーレット:はい。あの技が決めたくて盗賊やってるようなものですw
  ミストはスカーレットの横に座った。
するとそこへ月姫がミストめがけて飛んでき、全体チャットで話しかけてくる。
   月姫:やっほー何してるの?
   ミスト:何って野暮なこと聞かないでくれる?
   月姫:敵種族とロミジュリごっことかw
   月姫:スカーレットさんこん
  スカーレット:こんです
  月姫:ミストは女ったらしだからねえwスカーレットさん気をつけてね♪
  ミスト:ネカマの言うことは気にしないでいいよw
   月姫:ちょw全チャで言うなおww
   ミスト:姫こそw
  月姫は白い兎で銀色のドレスに身を包み、手にはやはり銀製で月のモチーフで飾られたスタッフを持っている。
ゲーム内で『○○姫』という名前のキャラクターは多いが、通称『姫』とはこの月姫をさす。
  ただし中身は男だ。

スカーレット:男の人なんですか?
ミスト:うんw
   月姫:もー!こそこそとw
   月姫:イン率あがったらデートかおw
   ミスト:いいじゃんw
   月姫:いいけどねwまた侵略もいくわよw
   ミスト:わかったよw
  月姫は去って行った。

スカーレット:なんか月姫さんのイメージ変わりますね
 ミスト:そう?最初っからあんなだよw
スカーレット:ヒューマン側からだとすっごい神秘的な女の人のイメージですからね
 ミスト:一応内緒にしてやってwネカマw
スカーレット:はいw
スカーレット:ミストさんはモテそうですね
 ミスト:戦士はレベル高くなるとモテるよw
ミスト:また心配になってる?w
スカーレット:あい
 ミスト:そういう意味ではモテてないよw心配しないで
 スカーレット:ん
 ミスト:レッドのほうがリアル女なんだからモテるでしょw
スカーレット:いえ私こそネカマだと思われてます^^;
ミスト:ww
ミスト:ここでしか会ってないとそうかもねww
スカーレット:笑わないでください;;
ミスト:ごめんごめんww

ミスト:もう二月半ばだね
 スカーレット:ですね
 ミスト:そろそろ会いたいな
 スカーレット:私もです
 ミスト:休みは日曜日だけだっけ
 スカーレット:そうです。今度四月頭に窯焚きがあって終わると三連休ですかね
 ミスト:弟子って大変だねw
スカーレット:好きなことなのでそうでもないですw
ミスト:窯焚き見に行ってもいい?
スカーレット:えwくるんですかw全然大丈夫ですけど
 ミスト:よく燃えてるところみたいな
 スカーレット:それなら最終日に来るといいですよ。それまではチョロチョロたらたらやってるだけなので
 ミスト:そうなんだ。じゃ休みが合えばいくよ
 スカーレット:先生に言っときます
 ミスト:うん
 スカーレット:そろそろ落ちます
 スカーレットが立ち上がってまたミストの上に座って重なってすぐ立った
 スカーレット:スクリーンショット撮っときましたw
ミスト:w
ミスト:三月はここ来れないかも
 スカーレット:私もたぶん休みほどんどなしなので来ないと思います
 ミスト:そっか窯焚き予定日決まったら電話して夜九時以降は出られると思うから
 スカーレット:あい
 ミスト:じゃまた頑張ってね
 スカーレット:あい^^ノシ
 スカーレットはログアウトし、ミストも武器と装備を修理してから落ちた。
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