スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

59 誕生日

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 今朝は隣に直樹がいる。
 緋紗は眼鏡をはずした彼の睫毛を見ながら、「ダーリン。おはよう」と、小さく言った。――言っちゃった。
  一人でにやけていると、「おはよう。ハニー」と、直樹が目を閉じたまま言う。
 「やだっ。もうっ。直樹さん」
  緋紗は中に潜った。
 直樹も潜ってきて緋紗を抱きしめる。
 緋紗は嬉しくて照れくさくてたまらなかった。
こんなに甘ったるく幸せな朝は初めてだった。

  ゆっくりと二人で甘い時間を過ごす。
 何をしていても楽しかったし何もしなくても楽しかった。
ペンションへ行く時間になり緋紗は最後の日に着ようと思っていた赤いノースリーブスのワンピースに着替えて腕をみた。――Tシャツの跡がついてなくてよかった。

  このワンピースが着たくて、夏は日焼けに気を使った。
 夏の陶芸の仕事は主に粘土づくりだ。
 粘土は最初から滑らかではなく砂や石、ゴミが混じり、すぐ使える状態ではない。
水簸すいひと言って石やら砂やら粘土やらが混じっている状態から粘土質だけを取り出していく。
 水をふんだんに使い泥をかぶるようなことも多々あるので、屋外でやる夏の作業にぴったりなのだ。
 毎年、緋紗はTシャツの形そのままに日焼けをしていて、いつもはそれを気にすることもなかったが、今年の夏は直樹と過ごすことになったので、初めて日焼け止めを使って仕事をしたのだった。
 少し化粧もしてみる。――眼鏡どうしようかな。
  外してみたほうが良さそうなのではずしておいた。
 多少、視界はぼやけるが何とかなるだろう。
  支度が出来たころ直樹がやってきて「赤がよく似合うね」と、言ってくれたので嬉しかった。

 「ちょっと座って」
  ベッドに腰掛けると緋紗の後ろに直樹が座って何か首につける。
 「プレゼント」
 「えっ、洗面所に行ってきていいですか?」
 「どうぞ」
  鏡の前に立ってみる。
 小さいリンゴ形の台にルビーが散りばめられたペンダントだ。――なんて可愛い。
 「気に入ってくれたかな」
 直樹は照れ臭そうだ。
 「本当はプロポーズするときに渡したかったんだけど……」
 「嬉しいです。私の誕生石知ってたんですか?」
 「えっ。ルビーって7月だよね?先月、誕生日だったの?」
 「はい」
 「ごめん。知らなかった」
 「いえ。言ってなかったですよね」
 年齢は教えあっていたが誕生日には触れてなかったし必要だとも思っていなかった。

 「石の色で選んだんだ。似合うと思ったし。指輪も考えたけど陶芸の邪魔になるといけないから」
 緋紗は単に誕生石で選ばれるより嬉しく思ったし、陶芸のことまで気にしてくれている直樹に自分への愛情を感じた。
 「すごく嬉しいです。いいんですか?」
 「ずっとつけてくれるかな」
 「もちろんです」
  指先でそっとなぞりながらここに直樹の気持ちが結晶化してることを想像する。

 「直樹さんはいつなんですか?お誕生日」
 「――実は緋紗と初めて会った日が誕生日だったんだ」
 「ウソ!言ってくれたらよかったのに」
 「いやあ。誕生日を気にする歳でもないし。初対面の男に『僕の誕生日なんだ』って言われても困るだろ」
  直樹は笑った。
 「それはそうですけど」
  せっかくの誕生日を祝えなかったことが今更ながらに残念な気がする。
 「でも緋紗がプレゼントのようなものだったからね」
  ニヤリとして言う直樹に緋紗は二の句が告げられず口をパクパクさせた。

 「最初は黒のワンピースだったね」
  真顔で直樹が緋紗の肩から乳房にかけて指先でなぞる。
 「あっ」
  思わず声を出してしまう。
 「抱きたくなったけど帰ってくるまで我慢しようかな」
  直樹のキスに緋紗はとろけそうになっていたが呼吸を整えて気持ちを切り替え、「ありがとうございます。一生大事にします」 と、改めて直樹にお礼を言った。
そして腕を初めて組んで二人は出かけることにした。
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