スカーレットオーク

はぎわら歓

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風の住処(番外編)

7 図書館

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 図書館の地下の駐車場に、ロードスターを止めて幌を閉めた。
 日曜日の図書館は混雑していて子供から高齢者までごった返していた。

  颯介はとりあえず新書コーナーに行き、一応本を物色してみた。(釣り関係の本なんかあるかな)
 特にめぼしい本もなく備え付けのソファーに腰を掛ける。

 (はあ。なんとなくのせられて来たけど、そんなに上手くいくわけないよな)
なんとなく顔を上げてもう一度新書コーナーに目をやった。

 (あ……)
 Tシャツにジーンズ姿の早苗がいた。
 真剣に本を物色している。
 (あいつ時たまスゲー勘を発揮するよな)
 直樹に感心しながら、早苗への作戦を少し考えた。
 (よし。これで行こう)

  早苗の左背後から声をそっとかける。
 「こんにちは。先生」
  ハッとして早苗は振り返った。

 「あ。こ、こんにちは。えっと大友さんでしたっけ」
 「そうです。そうです。覚えててもらって嬉しいです」
  一度最初に名乗っただけなのに覚えられていたようで颯介は嬉しかった。

  早苗はやはり背が高く、身長百七十三センチの颯介とほとんど目線が一緒だった。
 (大柄っていいねえ)

  できるだけ真面目な顔をして、
 「あれから葵の様子が少し変で悩んでたところなんです」
  ため息交じりに言った。
 「え」
  少し大きな声を出した早苗に図書館の職員がちらっと見た。
  早苗は慌てて頭を下げた。
 (チャンス)

 颯介はすかさず、
 「今忙しいですか?少しだけ聞いてもらえませんか?そこで」
  と、休憩コーナーに目をやった。
 「え、ええ」
  やはり早苗は子供のことが気になるらしい。
 颯介について休憩コーナーのソファーに座った。

 「葵ちゃん園では特に変わりないんですが、どんな様子ですか?」
  颯介は真面目腐って話し始めた。
 「空を眺めてぼんやりしながら鳥って遠くまで行けていいなって言うんですよ。母親の前だとそんなことは言わないらしいんですが」

 「うーん。現実逃避のような雰囲気ありますか?」
 「そこまで深く立ち入ったわけじゃないですけど、ちょうど離婚して一年くらいですし母親とあまり会話がないんじゃないかと……」
 (絵里奈スマン)
 適当なことをつらつら並べてみた。

 「そうですか。ご家庭の事情は私も詳しくはありませんので、
しばらく葵ちゃんのこともう少し注意してみますね」
 「ありがとうございます」

 「大友さんは優しいんですね。なかなかご自分の子供以外に心配ってできないものですよ」
 「いやー。友人の子供なんで。でも僕が相談したことは内緒にしておいてください。
 変に心配させてもいけないんで」
 「わかりました」
  早苗はにっこりして颯介をみた。

 (このままいい人でやめとくかな。次の予定だけたてとくか)
 「ここで会えて相談までできて、ほんとよかったです。よく来るんですか?」
 「そうですね。休みの日は図書館に来ることが多いですね」
 「僕も本が好きでよく来てます」
  (よし。このへんにしとくか)

 「お忙しいとこお時間を取らせてすみません」
  颯介は立ち上がって頭を下げた。
  早苗も慌てて立ち上がって、
 「あ、いえいえ。お知らせくださってありがとうございます」
  頭を下げながら言った。
 「では。これで失礼します」
 「はい」
  颯介はさっと踵を返して立ち去った。

  早苗は後姿を見送りながら(本は借りなくてよかったのかしら?)と思った。


  颯介は上機嫌で食卓に着いた。
 直樹が慶子を手伝って皿を運んでいる。
 「おい。お前、冴えてんな」
  ニヤニヤしながら颯介は言った。

 「え。まさか」
  驚いて直樹は颯介をみた。
 「しばらく退屈しなくて済みそうだ」
  直樹はあきれ顔だ。
 「ほどほどにね」
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