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風の住処(番外編)
13 ファーストキス
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気が付くと紅葉が始まっていて、温暖な静岡にも涼しい風が吹き始めた。
早苗のアパートの前で颯介は待ちながら考える。
(今日こそキスくらいできるかなあ)
息を弾ませて早苗がやってきた。
「颯介、おまたせ」
「今来たとこだよ」
早苗は嬉しそうな顔で颯介をみる。
(可愛くなってきたなあ)
「今日、久しぶりに海辺の公園に行かないか?」
「うん」
車を走らせて初めて二人で出かけた海辺の公園にやってきた。
またウッドデッキに座って海と富士山を交互に観る。
「ちょっと、寒いか?」
颯介はジャケットを脱いで早苗の肩にかけた。
「あ、ありがとう」
颯介は少し景色を眺めてから早苗に訊ねた。
「早苗。あのさ。そろそろ返事もらえないかな」
「え」
「まだだめか?」
「ううん。ダメじゃない。私、颯介が好きだよ」
「そうか。じゃ付き合ってくれる?」
「うん。返事が遅くなってごめんね」
颯介は早苗の肩を抱いてキスしようとした。
「え。待って」
「やだ。待たない。もういっぱい待った」
いつも優しい颯介が、今日は強引に出てきたので早苗は身体をこわばらせる。
公園には誰もいない。
颯介は力を込めて早苗を抱き寄せた。
「キスさせて」
哀願する颯介に、早苗は抵抗をやめ目を閉じた。
颯介はできるだけゆっくり優しく唇を重ねる。
早苗はなんだか震えているようだ。
頑なな唇が柔らかくなってきたので舌をそっと差し入れてみる。
(甘い……)
早苗はされるがままに受け入れているが、眉間にしわを寄せ耐えているようでもある。
もう少し甘いキスを愉しみたかったが、颯介はなんとなく罪悪感を感じてやめた。
「ごめん。嫌だったか」
早苗は慌てて、
「ちがうの。ごめん」
と、言い、そしてまた一息ついて、
「私。キスしたことなかったの……」
と申し訳なさそうに言った。
「え」
男性経験が少ないだろうとは予想していたが、ここまで経験がないとは颯介にも予想外だった。
「言ってくれたらよかったのに」
颯介は早苗を抱き寄せて、顔を見つめた。
「なんか歳が歳だし。重く思われるのもやだったから」
「最初から軽い相手だとは思ってないって……」
そう言いながら颯介はなんだか責任を感じてしまっていた。
このまま関係を深めるとどこまで行くんだろうか。
自分でもこんなに焦らず時間をかけて待つことも珍しく、そして本気になっていることが不思議だったが、
それでも『形』までは思いを馳せることはできなかった。
そんな颯介の複雑な気持ちを察したのか、早苗は
「あの。颯介。あんまり考えないで。今すごくうれしいから」
まっすぐ颯介を見て言った。
(ああ。好きだ)
颯介は堪らなくなって、
「お願い。もう一回だけキスさせて」
と、頼んだ。
早苗は返事をせずに目を閉じた。
颯介はぼんやりしながら帰宅した。
部屋に戻って椅子に座ってさっきのことをリピートさせる。
(はあ……)
初めて抱きしめてキスをした。
しっかりしたボリュームの身体が小刻みに震えていて、柔らかい唇は甘い蜜のような味がした。
ぼんやりしているとノック音が聞こえて、後ろに直樹が立っている。
「聞こえなかったのかよ。飯」
「ああ。今日はもういいや」
「そか。じゃ」
「俺さあ」
「ん?」
「恋をしてるんだ」
「……」
(思春期かよ……)
直樹は黙って部屋を出た。
早苗は湯船で自分の身体を抱きしめて、やはりさっきのキスを思い出していた。
(キスってあんなに気持ちがいいものなんだ)
ため息がこぼれた。
恋人同士がキスだけで終わることがないのは重々承知だった。
しかし経験のない早苗にとってキスだけでも衝撃だった。
(これ以上進んだら私、どうなってしまうんだろう)
なんだか自分の世界が、颯介一色に染められてしまいそうで怖い。
反面、未知の世界への期待と興奮が、早苗を誘惑してやまないのだった。
早苗のアパートの前で颯介は待ちながら考える。
(今日こそキスくらいできるかなあ)
息を弾ませて早苗がやってきた。
「颯介、おまたせ」
「今来たとこだよ」
早苗は嬉しそうな顔で颯介をみる。
(可愛くなってきたなあ)
「今日、久しぶりに海辺の公園に行かないか?」
「うん」
車を走らせて初めて二人で出かけた海辺の公園にやってきた。
またウッドデッキに座って海と富士山を交互に観る。
「ちょっと、寒いか?」
颯介はジャケットを脱いで早苗の肩にかけた。
「あ、ありがとう」
颯介は少し景色を眺めてから早苗に訊ねた。
「早苗。あのさ。そろそろ返事もらえないかな」
「え」
「まだだめか?」
「ううん。ダメじゃない。私、颯介が好きだよ」
「そうか。じゃ付き合ってくれる?」
「うん。返事が遅くなってごめんね」
颯介は早苗の肩を抱いてキスしようとした。
「え。待って」
「やだ。待たない。もういっぱい待った」
いつも優しい颯介が、今日は強引に出てきたので早苗は身体をこわばらせる。
公園には誰もいない。
颯介は力を込めて早苗を抱き寄せた。
「キスさせて」
哀願する颯介に、早苗は抵抗をやめ目を閉じた。
颯介はできるだけゆっくり優しく唇を重ねる。
早苗はなんだか震えているようだ。
頑なな唇が柔らかくなってきたので舌をそっと差し入れてみる。
(甘い……)
早苗はされるがままに受け入れているが、眉間にしわを寄せ耐えているようでもある。
もう少し甘いキスを愉しみたかったが、颯介はなんとなく罪悪感を感じてやめた。
「ごめん。嫌だったか」
早苗は慌てて、
「ちがうの。ごめん」
と、言い、そしてまた一息ついて、
「私。キスしたことなかったの……」
と申し訳なさそうに言った。
「え」
男性経験が少ないだろうとは予想していたが、ここまで経験がないとは颯介にも予想外だった。
「言ってくれたらよかったのに」
颯介は早苗を抱き寄せて、顔を見つめた。
「なんか歳が歳だし。重く思われるのもやだったから」
「最初から軽い相手だとは思ってないって……」
そう言いながら颯介はなんだか責任を感じてしまっていた。
このまま関係を深めるとどこまで行くんだろうか。
自分でもこんなに焦らず時間をかけて待つことも珍しく、そして本気になっていることが不思議だったが、
それでも『形』までは思いを馳せることはできなかった。
そんな颯介の複雑な気持ちを察したのか、早苗は
「あの。颯介。あんまり考えないで。今すごくうれしいから」
まっすぐ颯介を見て言った。
(ああ。好きだ)
颯介は堪らなくなって、
「お願い。もう一回だけキスさせて」
と、頼んだ。
早苗は返事をせずに目を閉じた。
颯介はぼんやりしながら帰宅した。
部屋に戻って椅子に座ってさっきのことをリピートさせる。
(はあ……)
初めて抱きしめてキスをした。
しっかりしたボリュームの身体が小刻みに震えていて、柔らかい唇は甘い蜜のような味がした。
ぼんやりしているとノック音が聞こえて、後ろに直樹が立っている。
「聞こえなかったのかよ。飯」
「ああ。今日はもういいや」
「そか。じゃ」
「俺さあ」
「ん?」
「恋をしてるんだ」
「……」
(思春期かよ……)
直樹は黙って部屋を出た。
早苗は湯船で自分の身体を抱きしめて、やはりさっきのキスを思い出していた。
(キスってあんなに気持ちがいいものなんだ)
ため息がこぼれた。
恋人同士がキスだけで終わることがないのは重々承知だった。
しかし経験のない早苗にとってキスだけでも衝撃だった。
(これ以上進んだら私、どうなってしまうんだろう)
なんだか自分の世界が、颯介一色に染められてしまいそうで怖い。
反面、未知の世界への期待と興奮が、早苗を誘惑してやまないのだった。
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