ペット女の愛され方

miyu.

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シロのお迎え

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「はぁ?!ペット?!」

「ちょっ、声おっきっ、!!」


昨日ペットとして夜を過ごして
朝起きてみるともうひろはいなかった。

朝早くからの出社だったらしく
テーブルには、パンと合鍵と置き手紙が置かれていて

”パン食って鍵してけよ~”
って、乱雑に記されていた。


「ペットってなに…、何考えてんの…?」


そして今。
仕事が終わってからまだ開店前の行きつけの居酒屋に来た私は
早速、リコちゃんにご報告した。
どうしても誰かに打ち明けたくてさ。


「いや、ほんとおかしいよね。
自分でもなにやってんだ、って思うの」

「だったらなんで、」

「分っかんないけどぉ……、」


何となく引き寄せられてしまうものがあるんだよ。
あの人は。


「……まぁ、近々連れてきてみてよ?
ちょっと興味あるし」

「あ、面白がってるでしょ」

「そりゃ面白いよ~。
私みたいに普通に生きてたらそんなペットになる、だなんて出来事おこんないもん」


・・・いや、
私だって別に普通に生きてきたつもんなんだけど。


「とりあえずこれからどうするの?」

「八時前くらいに家に来てくれるらしいから
最低限の荷物持って、本格的に同棲はじめる」

「……へぇ、」

「……なにっ?」


開店準備をしながらのその冷ややかな視線と相槌に
もう意地になるしかないし。


「頑張りなよ、ペット」

「頑張るとか別にないもん…、」

「のちのち、辛い思いしなきゃいいね?」

「辛い思い?」

「本当の動物なわけじゃないんだもん。
一緒に過ごしていったら、何らかの感情は出てきちゃうんじゃない?」

「・・・」

「ま、前例がないからなんとも言えないけど」


ふふふー、って笑いながら
厨房の奥へと消えていくリコちゃんを見送りながら
私もそろそろ荷造りに帰らないと、と店をあとした。









チッチッチッ・・・、

───そして20時30分。


「来ないじゃない…っ、」


とりあえず生活に必要な荷物をまとめて
一人家で待ってるのに
全然来ないし、連絡すらもない。

えっ、まさかこの期に及んで冗談だったとか、
───ピンポーン、


「はっ!来たっ!」


良かった。冗談じゃなかった。
と、胸を撫で下ろして玄関へと向かった。


「はーい」

「こんばんわ~」


・・・え?


「もう、この辺めちゃくちゃ道ややこしいんだけど」


目の前には私が待っていたご主人様じゃなく
長身イケメンの出で立ちで
疲れたよーって騒ぎ立てるシロさんの姿があった。


「えっ?あれ?なんでっ?!」

「さて、行きますか。」

「はっ?!」

「荷物は?それ?随分と大荷物だね」

「ちょっと待っ、
「うわ、重ーい!」


・・・話、聞いてます?

困惑してる私のことなんてまるで無視で
玄関先に準備しておいた荷物をひょいっと持ち上げて、


「行こ。おもてに車停めてるから」


荷物片手に、玄関の扉に手をかけて笑顔を見せた。






「あの……、ひろは?」

「ひろ?誰それ?」

「えっ?!」

「あ、ミツのことか。
ひろって言われると誰だか分かんなかった」


ひろって呼んでるんだ~、って
おっきな黒い車に私の荷物を放り込んで
助手席に乗るように促された。


「ミツから連絡いってなかった?
仕事抜けらんなそうだから、俺が代わりに迎えに行くよ~って」

「ぜんっぜん来てないんですけど」

「んはは、そういうとこあるよねミツ」

「…へぇ~」


一緒に会社を立ち上げただけあって
色んな面を知り尽くしてるんだろうな。


出発しまーす、ってハンドルをきって
そのままシロさんとひろが住んでるマンションへと向かった。
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