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第1章
監視対象2
しおりを挟む次はこの部屋か。
ナカモトがいたA15の隣である、C07,C08と書かれている部屋の前に立つ。先ほどと同じくインターホンを鳴らし挨拶するが、返答はない。
「……またあとで挨拶しにきますね」
念の為に声掛けをしてから次の部屋へと足を向ける。
ナカモトもだが、ここの住民はなんでこうも挨拶するだけなのに顔を出してくれないのだ。ナカモトに至っては部屋に引きづり込むし。………まぁまさかとは思うが、先ほどみたく部屋に引きづり込まれりゃたまらないから、扉は見ておこうかな。
そう思いC07,C08の部屋を警戒しているとキィッと音を立てて扉が開かれた。
ビクッと身体を強張らせて反射的に身構えたが、誰かが部屋から出てくる様子はなかった。俺は開かれた扉の先へ目を向ける。
扉の先は真っ暗だった。
そんな何も見えないところへ好んで入りたくはないのだが、このタイミングで扉が開かれたということは、この部屋の住民が入れと言っているのだろう。
「失礼します…」
持っていた端末で室内を照らしながら、恐る恐る部屋の中へと足を進めていく。
部屋はごちゃごちゃと色々な物が落ちており、はっきりと言ってとても汚い。足元に落ちている物を踏まないようにしていると、奥でガサッと何かが動いた音がした。
「C07,08の能力者ですか?勝手に入ってすみ…」
すみませんと言い終わる前に視界が明るくなり、言いかけていた事を忘れて眩しさから目を細める。
その瞬間、耳元でパンッと何かの破裂音と共に大成功!と二つの声が楽しげに響いた。
「あれ!ボクらのこと見てなくない?」
「ほんとだ!サプライズ失敗~?」
部屋の明るさにゆっくりと目を慣らしていき、俺は声のする方へ視線を向けた。真っ白な髪にピンクの瞳をした2人の少年が目に入る。少年2人は鏡にでも映っているのかと思うぐらいそっくりであった。……つまり双子ということか。
「あ、こっち見た」
「ほんとだ」
「じゃあもう一回びっくりさせる?」
「でもクラッカー使い切っちゃったよ」
「えーつまんない!」
少年たちは互いに顔を見合わせ不満そうに頬を膨らませている。俺はその光景を微笑ましいと思いたかったが、少年2人の異様さに違和感を隠しきれなかった。
本来の能力者は皆同じ年齢の20歳であるはずだ。なのに今俺の視界に映る少年たちはどうみても成長期前の小学校高学年ぐらいにしか見えない。
困惑している俺を他所に、目の前の少年たちが「ボクらの名前を教えてあげる!」と声を合わせる。そして俺の目の前へと走り寄ってきた。
「ヤグチ望でーす!」
「ヤグチ叶でーす!」
「「ねぇねぇお兄さんの名前は?」」
「あ、俺は宮迫夏彦だ」
ヤグチ望と叶が空になったクラッカーをマイクのよう俺へ向けてくるので、咄嗟に自分の名を名乗った。
「「宮迫ね~」」とヤグチたちはつまらなそうに呟く。
そちらから名前を聞いてきたくせに…俺は怒りが込み上げてきたが、少年相手だからと我慢する。
「ヤグチ君たちは超能力を使えるのか?」
「使えるよー!」
「てかもう使ってるし!」
「「おっかしいやつ~!」」
馬鹿にしたような顔でこちらを笑ってくるヤグチたちにイライラが募っていく。
落ち着け俺。普通の監視班なら事前に能力を知っているものだよな、俺がイレギュラーなだけなんだ…。
「すまないが、どんな能力か教えて欲しい」
「「は~?何で答えてやんないといけないの?」」
「自分で調べなよ~」「そんなこともできないの~?」
先ほどから何なんだこの能力者の子供は。わざと棘のある言葉を使って俺を苛立たせているのか?
顔が慣れない笑顔を作っているが気を抜いたら真顔になりそうだ。
「てかさ」「ね」
俺の方をチラリと見たヤグチたちは目配せし頷き合う。
そして俺の方へ身を寄せて、俺の右腕をヤグチ望、左腕をヤグチ叶が強く握り締めた。
「何ボクらに指図してんの」「身の程を弁えなよ凡人」
ギロリと下から睨み上がるようにヤグチたちは俺を見てくる。あまりの迫力に俺は後ろへ下がろうとするが、ヤグチたちに腕を掴まれているためできない。
くそっ、子供のくせに俺より力が強いっ。
「ッ離せよ」
「離せだって」「どうする?」
「懲らしめる?」「生意気だよね」
ヤグチ望と叶は目の前でヒソヒソと内緒話を始める。
その間も俺は掴まれた腕をなんとかして解こうとするが、全くビクともしない。
「まぁ飽きたしいっか」「それねー」と言う声が聞こえ、ヤグチたちへ視線を向けると、2人は俺の方を見て微笑んだ。
「分かったいいよ」「離してあげる」
「「いっせーの!」」
ヤグチたちは掴んでいた俺の腕を自らへ引き寄せ、そのままボールを振りかぶるように俺の腕は投げられる。勢いよく腕から手を離されたことにより、俺の体は部屋の外へと追い出された。
「……い゛ッてェ」
廊下で尻餅をつき、痛む腰を抑える。
追い出した本人たちの方を睨むとすでに扉は閉まりかけていた。
「今日のところは許してあげる」「ボクらに楯突かないことだね」
「「じゃあね~」」
「あ!おい待て」
扉の隙間からヤグチたちはひらりと手を振り、ゆっくりと扉が閉まっていく。
ガチャリと無慈悲に扉の閉まる音が響いた。
「クソ!!開けろ!!!」
俺は怒りのままに、扉を引っ張ったが中で抑えられているのかうんともすんともしない。
「………馬鹿らしいな」
冷静に考えれば、扉が開いたとしてもあの双子に言うことなんてないだろ。
はぁ…と一つため息をついて、俺は気を取り直すようにD01と書かれた隣の部屋へと向かった。
***
D01の部屋前、再び俺はインターホンを押す。
ピンポーンと音がした後、名乗る前にガチャリとドアノブが下がる。そして普通に扉が開かれた。
今までの能力者が可笑しかったこともあり、俺は拍子抜けで肩に入っていた力が抜けた。
「俺に何のようだ」
赤毛の片目を隠した青年が扉から顔を出す。
恐ろしいほど吊り目で強面だ、…正直めちゃくちゃ恐い。
「本日から新しく担当となった宮迫夏彦だ、挨拶に来た」
「………アヤザキ」
「え?」
「俺はアヤザキだ」
「あ、あぁ…よろしく」
アヤザキにぺこりと頭を下げると、アヤザキも俺と同じようにお辞儀をする。
「……」
「…」
俺とアヤザキの間で無言の時間が続く。
挨拶だけの予定だったのでこれ以上話す事を考えてなかった。…き、気まずい。
アヤザキの顔をチラリと見る。するとアヤザキも俺を見ていたのか目と目がカチリと合う。俺は即座に目を逸らしたが、アヤザキは俺の顔をじっと見ていた。
なんだ、俺の顔に何かついているのか?そう考えていると、アヤザキが「お前……」と何か言いかけたので、俺はまたアヤザキと目を合わせた。
「もしかして春希の兄貴か」
「そうだけど、春希を知っているのか」
「知ってるも何も同室だったことがある」
「なるほどな」
「春希は元気か?部屋が変わってから会ってないんだ」
「あ、いやそれは…」
春樹の現状を知らなかったアヤザキに掻い摘んで今の状況を説明する。「そうか…」と寂しそうに呟くアヤザキを見て、俺が悪いわけでもないのに申し訳なくなった。
重い空気を変えようと何か話題はないかと考える。
話題…話題かぁ…。俺はそこでパッと思いついた事を「そういえば」と口に出してアヤザキへ話を振ることにした。
「よく俺が春希の兄だってわかったな、実は結構似てたりするのか?」
「似てない。俺は春希が持っていた写真で何となくお前の顔を知っていただけ」
「お、おう」
「…」
「…」
またもや俺とアヤザキの間に気まずい沈黙が支配する。
もう挨拶の方は済ませたし、ここで切り上げよう。
沈黙に耐えられなくなった俺はアヤザキに「他の部屋の能力者にも挨拶しに行ってくる」と言い、その場を離れることにした。
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